6弾き目.気付き
この空間で一ヶ月ほど過ごす中で、もちろん俺も学びながら日々成長している。
まずは魔力の感知から師匠と俺は始めた。
「魔法はまず、魔力を感じて、認識する所から始まる。くそみたいな職業の我が弟子は、そこから始めないと魔法の魔の字もできない」
「結構言うね師匠。」
「事実だ。ほれ、手を貸せ」
こんなことを言う師匠だが、実際はとんでもなく可愛い。なんなら俺の初恋を奪うぐらいには可愛い。魔物の影響で肉体が成長し、背はかなり開いたが低身長なのも可愛い。
あ、手柔らか。
ほんわか師匠の手の柔らかさに全神経を集中させる俺。だが軽く師匠が行くぞ、と呟いた瞬間身体に何かが駆け巡り、思わず俺は血を吐き出した。
「がはぁっ!......」
見ると身体中が裂けるように傷が入っている。どうやら俺の師匠はとんでもないものを流し込んだようだ。
痛みに慣れる前に体の傷が塞がり、数秒後には何も無かったかのような状態にまで戻る。そんな俺の体を見ると、師匠は短く、さぁ次行くぞなんて軽く言ってくれたりもする。
きっつ、いや死にかけてるんですが、なんて言葉は師匠の顔を見たら自然と引っ込んだ。
いつもとは違う真剣な表情だったからだ。まじまじと見つめているのがバレてしまい、師匠はおどけながら俺の顔を覗き込む。
「なんだい、我が弟子。私に惚れでもしたかい?」
全く俺の気持ちも知らないで、適当に誤魔化しその後は、俺の血液が無くなるまでそれは続いた。
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体の魔力と呼ばれる物を感じるまで、約二日かかった。体の傷が治るといっても、無いものを補充することは出来ない。具体的には血だ。恐らく前の俺よりかは血は増えているが、それでも限度がある。
肉体蘇生の追加技能がなければ、すぐに死んでいただろう。
貧血でぶっ倒れること二日という歳月をかけ、俺は魔力を感知した。
ちなみに赤ん坊でも感覚で魔力を感じられるそうで、その事で師匠にくそほど弄られたのは言うまでもない。
魔力を感知してからは、魔力の体内移動、魔法の勉強、歴史の勉強、実践、休憩、実践、実践の繰り返し。
俺がこの修行期間で一番びっくりしたのは、魔法の発動方法だ。いつもなら意味を唱え、発動する力や何やらを唱え、初めて発動する。師匠に初めて魔法を見せた際、神妙な面持ちで魔法を説明された。
「魔法というのはかなり思い込みの力が必要になる。逆に言えば、思い込みさえ激しければ簡単に魔法は使える、かなりいい加減なものだ。見ていろ」
師匠が軽く空中に円を描くと、そこから俺を貫いた炎の槍が出現する。あれを見るだけで膝が大爆笑するからホントやめて欲しい。アレ痛いんだよ。
「私は円を書くと魔法が出る。それは一番効率のいいだし方のひとつだ。もちろん我が弟子のように意味を唱えても魔法は出るが、こちらの方が早く、集中しやすい。」
ここまで話すと師匠は今度、俺の目の前で大きなハートを描く。あらまぁ可愛いところもあるじゃないか―。
瞬間、透明な刀剣。薄く透き通った業物が、俺の頬を掠め壁に刺さった。
血が流れるのと同じように、俺の血の気も引いていく。
え、この人なにしてんの?てか俺の顔みて大爆笑してるし。一通り笑い終わると俺に話しかけてきた。
「我が弟子、今のは円だったか? 」
「いえ、普通にハートでしたけど」
「ああ、正解だ。だが、私はあれを円だと認識して描いていた。だから剣が発現した。君は楽器をそのままの意味で捉えすぎだ。」
楽器を持たなくても、魔法が使える?というか俺もあいつらみたいに魔法を使える?
物は試しか、えーと音が鳴るって事は。
俺は思いついた拍手を試みた。炎を思い浮かべて、体に魔力を感じながら思いっきり叩いてみた。
手のひらが当たる瞬間、手のひらに魔力が集まるのを俺は感じる。しかも手のひらが合わさった瞬間、本当に、簡単に、炎が俺の掌から現れた。
現れたのだが、思い浮かべたものとは違い目の前で小爆発が起きただけだった。
アフロ髪になる俺、爆笑する師匠。動じないメイドのサリアさん。恥ずかしい。
そこから魔力が続く限り、俺は自分の魔法の練習に勤しんだ。
そして魔力が4回ほど枯渇した後、ようやく俺は効率よく魔法が出せる行動を見つけた。
それが指を擦り合わせて音をだすあれだ。指パッチンだ。
苦し紛れに指パッチンを出したが、魔力が効率よく魔法に変換された感覚が体を走る。本当に体に稲妻が走る経験なんてあるんだなと、思うぐらいの体験だった。
横から見ていた師匠も小さく拍手をしてくれている。可愛い。
俺は感覚を掴むため、文字通りぶっ倒れるまで魔法を指パッチンで出していった。
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指パッチンで魔法を出せるようになると、師匠は座学の時間を少なくし、肉体強化の時間を増やした。
内容は実際の魔物との戦闘。メイドのサリアさんとの鬼ごっこなどなどだ。
師匠のことはあまり知らないし、あまり深く踏み込もうと思ってはいないが、師匠が封印されており、俺もいるこの空間。
ダンジョンで言うところの999階層の位置にあるらしい。あと一層で1000層で切りがいいとか多分考えてはいけない。
そんなもんで師匠お得意の空間魔法で近隣から拉致ってきた魔物をほおり出しては俺の相手をさせている。
俺は死ぬ気で逃げる、逃げる、逃げる。当たり前じゃないか、だって相手基本レベル500オーバーだよ?普通にとんでもくSAN値削るような見た目のヤツらよ?
まぁそのおかげか身体能力とか単純な筋肉量は上がったと思う。走っても疲れなくなったし、軽く身の丈以上には跳べるし、推定数百キロあるであろうメイドのサリアさんも持ち上げられるようになった。
なんでこの人こんな重いんだ?
そんな疑問を呟いた瞬間、サリアさん特性の氷の槍でアイス棒にでもなるだろう。
そしてそんな日常の、いつものようにとんでもない異形から逃げ回っていると、師匠から怒号がとんできた。
「いつまでも逃げていないで戦え! 相手をよく見ろ! 」
基本的に俺の修行中は口を出さない師匠だが、だいたい指摘する時は俺が悪い。そして何かを変えられるチャンスでもある。
俺は逃げる足を止め、眼前の敵を見据えた。
巨大なカエルのような魔物。どっぷりと油の乗っているであろう肉体は緑色の皮に包まれ、そして黄色い体液を常に撒き散らしている。気持ち悪い。
さらに触手のようなくだから伸びる赤い瞳が俺を捉える。本当に気持ち悪い。
とりあえずガマ油には火だろ、と思いカエルに向けて指パッチンをした。
「『フレイム』」
小気味の良い音が空間に弾け、指先から炎が渦巻いて発現される。紅に染まった火の殺意、俺が込めた魔力というより、気持ちを込めて放った分勝手に魔力が抜かれるような感覚。
だが、確実に殺意を込めたその一撃。カエルのでっぷりと太った皮に触れた途端、すぐに消えてしまった。
マッチ棒かよ!
俺が攻撃をしたからか本格的にブチ切れたカエル。先程までは遊ぶ様に伸びていた触手も速さをまし、地面を抉りながら俺を襲う。オマケにカエルの溶解液のようなものも飛んでくる。
身体能力が上がっているおかげか、避けられているが、あれには当たりたくはないな。
肉体蘇生の追加技能を持つ俺にも弱点はある。まず、魔力がほぼ切れた状態での攻撃は回復しない。肉体蘇生は常時発動型のバフで、魔力を消費し肉体の蘇生を始める。なのでその魔力が無けれ
ば蘇生ができない。
そして脳や心臓が破壊された時点でも詰みだ。複雑な器官を蘇生するには難しいみたいで、首を切られても死ぬらしい。
試してみるか?と聞いてきた師匠の顔が活き活きしていたのは言うまでもない。
俺は追加技能の縮地と空中歩行でカエルの攻撃を避けながら、見る世界を変える。
魔力感知。魔力は体に満ちており、行動をする箇所に集まったり、流れがあったりと血液のようなものだ。
これは対象の魔力や構造を把握出来る優れものである。
人間にも魔人にも異人にも、弱点と殺す部位がある。
このカエルは弱点が目で、その下、喉仏の辺りに魔力が集まっている。なるほどね、あそこが心臓部分だということだ。
あまりに弱点を見ていたのか、カエルが咆哮の準備をしていることに気づいた。喉に多くの魔力が集まり、すぐにでも飛び出してきそうだ。
もう一回り小さいカエルに咆哮を食らったことがある。死ぬかと思った。
実際心臓が止まりかけたんだが、ん、ちょっと待てよ。
音でそんだけダメージを与えられるなら俺でも出来るんじゃね?
一旦カエルの咆哮を避ける。俺がいた場所の地面が爆ぜ、その破片すらも砕ける破壊力。
指パッチンだけで外側の攻撃だけ考えてたけど、中身から崩せるのか?やってみるか。
眼前に居座るカエルに向けて言葉を吐く。これは俺の決意だ。初めて命を奪う、その趣旨は間違えてはならない。
「俺は殺しを正当化しない。だが、お前にむざむざ殺される訳には行かない。邪魔をするなら、俺の経験の礎になってくれ」
返答はない。もちろん返答できるほどの知能がないからなのだろうか、もしくは俺に知識がないのだろうか。もうどうだっていい。
そして初めての意味での俺の初戦闘が幕を開けた。