5弾き目.変貌
16日(土)と17日(日)の二日間は二話投稿にしたいと思います。
14時と21時に投稿しようと思いますので、よろしくお願いします。
「さぁ君の決意は聞いた。ここからは、やる事が沢山だぞ。我が弟子 」
遠足前の子どもみたいにはしゃぐ俺の師匠に、疑問をぶつけられずにいられなかった。
「やる事って、マリー?」
しかしどうやら俺は選択をミスったらしい。ケラケラとはしゃいでいた師匠の顔がストンと表情が落ちたように、顔の笑顔が消えた。
そして軽く空中に円を描くと、一言だけ呪文を唱える。
「『緋槍』」
すると円を描いた場所から、燃え上がる焔の槍が出現した。
魔法と言われても気付かないほどの美しいフォルム、そして全てを焼いてしまいそうな炎に目を奪われ、火の槍はその役割を全うする。
要するに俺の体を貫いた。
「あ、が...ああああああああああああああああああああああああ」
焼け付くような焔の刃が、俺の腹をつきぬけ、消失する。
「し・しょ・う、だろー」
どうやらこの師匠本気で、この呼び方でないと納得しないらしい。頬を膨らませて、腰に手を置いてそんな事をいう。いやとてつもなく可愛いんだけど、現実は腹に風穴が空いてるし、余韻とかない。
なんだこれ?胃が引き裂かれるような痛みに、理性がぶっ飛びそうになる。
「まぁ丁度いいか。順を追って説明しよう。」
そう言うと師匠は虚空から等身大の鏡をその場に出す。本当にそこら辺に売ってそうな姿見なので、ああそこは手抜きなんだと思っていたが、鏡に移った自分の姿に驚愕した。
「な、な、な......」
「なーなーなー?」
わざとらしく俺の言葉を反復するような師匠を後目に、俺は声高らかに感情を吐き出す。
「な、なんじゃごりゃあああああああ」
俺の懇親の顔芸を見て、師匠が腹を抱えて笑っている。でも俺はそれよりも、鏡に映る己の変貌具合に頭がいっぱいだ。
「ふふふ、君の反応は本当に面白い」
「え、これ誰」
「それ我が弟子」
「え、おれ我が弟子?」
「知能下げるのやめい」
バシッと軽く頭を叩かれ、まじまじ鏡の中に移った自分の姿をもう一度見つめる。
まず体が完全に復活していた。右手首は生えてるし、潰された左足も完全に回復してる。そして先程、師匠によって穿たれた腹の傷も、もう治っていた。それに、俺の着ていた布地のTシャツもビリビリに破かれてる。
「え、なんでこんな服ボロボロなの? まさか、師匠が?」
「んな訳あるかい。成長したんだよ、我が弟子。軽く15cm程ね。 」
師匠が可愛らしく、頭の上で手を切る仕草をする。確かに身長が高くなったみたいな気がする。おおよその俺の観察眼による、師匠の推定身長160cm未満がより小さく感じられる。15cmだっけ、なら180cmオーバじゃね?しかもなんか筋肉質っぽくなってる気がする。
そして俺の体には、さらに変化が起きていた。瞳の色が師匠と同じように炎のような、紅に染っている。
カラコンとかつけたことない俺からしたら、まぁそりゃ結構なニュースなんだけども!
「魔物との反応だろ、その目。まぁ生死の境にいて、その程度の変化で良かったでは無いか?」
「生死の境!? え、マ―。し、師匠何を......」
「私の血を飲ませただけだが?」
「え!? 」
ドン引きなんですけど。え、師匠何やってくれてんの?
そんな俺の表情を読み取ったのか、師匠は椅子に座り直すと、紅茶を飲みながら説明を始めた。
「君の決意は大いに結構。だが、それをこなすには全てが足りない。肉体も知識も経験も、精神も」
俺も立っているままだと辛いので、師匠の目の前の椅子に座る。
そういや、さっきから体に力が入らない。空腹も感じ始めている気がする。目にも力が入らず、目が自然と据わってしまう。
「とりあえず、君には健康な肉体を手に入れてもらおうと思ってね。人間である君に魔物である私の力を分け与えただけさ。」
「じゃああの感情は?魔物の?師匠の感情?」
「ああそうだよ。基本的に君達が魔物と呼ぶものは殺意しか持ち合わせていない。まぁ私は特殊なケースだが」
なるほど。俺が飲み干した事で肉体を得る、その代わり魔物の殺意に飲まれてしまうかもって言うことか。いや、これ結構危なくね?
殺意に呑まれてたらどうなってた?いや、これ以上は考えなくていいか。
「ちなみに失敗してたら死んでたぞ。」
契約書とかは絶対に読もう。絶対にだ!
「君のステータスも変化しているぞ、見てみるといい」
虚空から取り出した俺のギルドカードを無造作に放り投げる。
なんで俺の私物を師匠が持っているかは置いておいて、ひとまず俺は自分の状況を見ることにした。
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波風 隼斗 男性 16歳 レベル32
職業:吟遊詩人 魔力保有量4570
指力:1040
体力:55
耐性:55
俊敏:55
幸運:2
固有技能:言語理解、音強化
獲得技能:肉体再生、魔力吸収、身体強化、魔力視覚化、毒耐性、麻痺耐性、幻覚耐性
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久しぶりに見たような気がする俺のギルドカード。学生証と同じような大きさの鉄のカードは、俺には見た事がない程の変わりようだった。だが、俺の注目は違うところに釘付けだ。
「れ、れ、れ...」
「れーれーれー?」
楽しそうに指をくるくると回す師匠そっちのけで、俺は大きな声をあげた。いや上げずにはいられない。乗るしかない!このブックウェーブに!
「「レベルが上がってるー!!! 」」
涙を流しながら高らかにギルドカードをあげる俺とは対照的に、師匠はただ俺が言いそうなことを大声で叫んでいるだけだ。
いやそんな師匠は置いとくとしよう。
念願のレベルアップ! この世界に来てから初めてのレベルアップ。支援職、しかもお荷物状態だった俺からは考えられない進歩だ。
しかも獲得技能やらなんやらとか色々増えてるー! 実際こうゆうのなきゃ異世界なんてやってられないでやんす!
「自分の世界に入っているところすまないが、我が弟子。何か質問は?」
おおっと自分の世界に入りすぎていて、師匠の存在忘れてた。そうだ、色々と聞きたいこともあるんだった。
とりあえず、ずっと疑問だった事を俺は師匠に尋ねることにした。
「指力って?」
「知らん、見たことない」
「あ、そっすか」
俺の疑問はすっぱりと両断された。うんまぁ、指の力ってなんぞって思うし、やっぱバグかなぁ等と考えていると、師匠が上目遣いで次を催促してくる。絹のような艶やかな銀色の髪の毛が、揺れる。
いや可愛い。どんな角度でも可愛いとかどんな魔法だよ。
「えーと、追加技能って?」
「そのままさ。君が今後、様々な要因で取るかもしれない便利なものがここに追加されていく。今あるのは、まぁ文字通りのような技能さ。今度教えよう」
今あるのでもかなり強いんじゃないか?肉体蘇生とかやばい代物だろ。
まぁ今はいいか。
俺からの質問が無いことを確認すると、師匠が手元のティーカップの中をくるくると回し出す。
なんともまぁこの人がやる動作が一々可愛く見えてしまうのだから、恐ろしい。
「それでだね、まずは食事から始めようかと思う。君、かれこれ一週間、ここで暴れていたからね」
「へっ?」
変な声を出した人、怒らないから正直に手を挙げなさい。はい、私です。
え、1週間?何かの聞き間違いでは?
いやでももうかなり前半から、お腹は減っていたし、妙に力が入らないのはこのせいか。
興奮冷めやらない脳や心はひとまず置いて、俺がひとまず旅に出る前にはこなさないといけないことが多そうだ。
とりあえず、俺は出された食事を食べることにした。
師匠の身長は小柄設定です。可愛い。