2弾き目.裏切り
過去話は早めに終わらそうと思ったので、文量が多いですがよろしくお願いします。
俺がこの世界に来てから三ヶ月ほど立った。この世界の構造や魔法といった概念を概ね理解出来ただろう。
この世界は魔法で充ちている。それは一般家庭ですら、軽く魔法を使っているほどだ。火をつけるのも、水を出すのも、風も、何もかも魔法で簡単に出来る。
そしてそれらには、順序がいる。まず口頭で必要な魔法の言葉を吐く。これは火の魔法であれば火に類する言葉を、水なら水に類する言葉を。さらにどのような意図で使うか、どれぐらいの火力で、どれぐらいの時間をなど、土台を整えてから体に流れる魔力と呼ばれる物を消費して魔法を使う。
俺自身わかりやすくいえばMPだな。それを消費して魔法を使うんだが、俺のクラス全員は、それをあまり本質的に理解していない。それは勇者達と言われる所以だろう。イメージ力さえあれば魔法を扱えるんだから。こうして図書館やお偉い魔法術士の授業を受けてようやく俺も魔法が使えるようになったわけだ。
あのクラスで唯一、様々な手順を踏んでから行動しないといけないのは俺しかいない。それが分かった途端、そうそうに王女側は俺を見切り、クラスメイトもどうしていいかわからず一旦放置になっている。
二ヶ月が過ぎてからは、分かりやすく俺はぼっちになってしまった。
煌びやかな装飾が施された食堂でもポツンと、皿の上をいじるだけ。こういう時の大きな場所は嫌に自分が一人ということを分からせてくる。有名絵師かよ。
完全追放ルートを辿っていないのは、オタクの知識として俺が知っていることをクラスに教えたからだろうか。実際この世界に出てくる魔人、もとい魔物はおおよそファンタジーの世界と繋がる。ゴブリンは弱いけど繁殖力がやばいから一体見つけたら五十匹いると思えだとか、スライムは張り付かれたら危ないから遠くから確実に、とか。
そういった知識を披露して辛うじてパーティーに居座らせてもらっている。
ちなみにこの世界、職業というのが厄介で職業事に割り振られた武器というものがある。剣士なら剣、槍使いなら槍の様な。俺は吟遊詩人というジョブクラスで装備できるのは琴、ギターのような楽器類のみ。
しかもイメージで魔法を発動できないから、まず武器を構えて、魔法に類する言葉を歌いながら、楽器を弾く。そんで仲間にバフ、強化をして、みたいな支援職だ。だが、俺の役割は魔法使いのクラスメイトが全部やってるし、なんなら俺楽器出来ないし詰んだって訳。
まぁそんな俺でもゆっくりできる時間が出来たのはいいけどね。俺は楽器は弾けないけど、指パッチンならお得意よ。ってな。
今日も一人でかい王城のバルコニーで書物を見ながら、指パッチン、楽器、指パッチンで時間を潰す。
そんな日々が続くとは思ってはいたが、さらに一ヶ月たったある日。
王国の近くで新しいダンジョンが見つかったとの報告を受けた。ダンジョンてのは、大量の魔力がその土地に溜め込まれるとできる代物で、何が最悪ってそこから魔物がどんどん出来ていくこと。
しかも階層ごとに分かれてて、奥に行けば行くほど強い魔物が生まれてしまう。だから早めにダンジョンの奥にあるコアを破壊して無力化しようということ。
ただダンジョンは何も悪いことだけではない。俺らみたいなジョブクラスを貰った者にはうってつけのレベル稼ぎ場所だし、何より鉱石が上手いらしい。
何故か俺もパーティーに呼ばれ、クラスメイト全員でそのダンジョンを破壊することになった。そして王城の王女の間で、俺含めたクラスメイトがその場で待機している。
「ダンジョンの破壊クエストなんて初めてだよね、大丈夫かな」
「だ、大丈夫。俺たちこの4ヶ月ぐらいで強くなったし、レベルも上がったしな! 」
クラスメイトが王国の外というクエストで、不安や期待をこぼしている。最初の一ヶ月では人間側の歴史やこの世界の事、魔法のこと、そして他種族に虐げられた事を見せられていた。
まるで歴史の授業だ。俺はほぼ寝ていたが、その中でも他種族の話題に偉く真剣の学ぶ奴がいた。
「皆、不安だろうがこの世界を救う為に頑張ろう! 」
白を基調とした甲冑に身を包んだ男。伝説の聖剣を手にし、声高らかに上げているこのクラスで一番レベルの高い、そして勇者のジョブクラスになった男。
藤堂尚也。
レベルは70。人間側では、かなりLvが高いそうだ。一番高くて400とか化け物が居るらしい。それこそ異人とか魔物だ。インフレしてね?俺は1だ。だって支援職だし。
しかもあいつの技能は全武器使用可能とか、魔力上昇とか、もうほんと素でいる時点でバフもりもり主人公だ。
「皆様、お待たせ致しましたわ。」
藤堂がクラスを奮わせている間にいつの間にかいる王女が言葉を発していた。クラスは俺を含めて全員膝を着く。俺を見限ったことへは多少の苛立ちはあるが、実際自他ともに認める無能なのだから仕方がない。
「この王国の近くにダンジョンが生成されました。皆様はこの短い期間の中で、このラドノーク王国の最強の騎士団まで上り詰めました。不安はありましょうが、私が保証致しますわ。皆様は無事ここに帰って来れると」
その言葉に歓声が場を支配した。俺も一応声出しとこ。
「う、うおーいえーいうおーいえーい」
咆哮や鼓舞といったそれらが終わるのを待つと、王女はゆっくりと聞こえるように話し出した。
「発生地はここより南東、アグルと呼ばれる場所ですわ。階層は10階層。初めての野外クエストですが、皆様教えた通りの手筈でよろしくお願い致しますわ」
俺たちのクラスは、この王国に設置されているレベルアップ用のダンジョンにひたすら潜っていた。俺は一ヶ月ぐらいでリタイアしたが、こいつらは完全にこの世界に染った。悪い意味でも良い意味でも。
殺しをするという大義名分をしっかりと与えられ、そのように己を成長させた。それが俺は少し怖かった。
だが、こいつらも初めての王国の外での戦闘だ。不安が自信を上回ってきたらしい。
そんな不安を抱えたまま俺たちの初めての野外クエストが始まった。
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ラドノール王国、郊外のアグル。
その中に出来た15階層で生成されているダンジョンの7階に俺たちは下りながら進んでいた。
15階層とか言われてたからビルみたいのが建ってると思っていた俺たちが、地下の入口を探すのに手間取ったのは別の話にして、順調に俺達一行はすすんで言っている。それは勇者である藤堂だけのおかげではない。このクラス全員がダンジョンの魔物を捻り潰すぐらいに全員が強いのだ。もちろんレベル1の俺を抜いて。
このクラスの平均レベルは55。これは戦士の中でいえばほとんど上級の部類になる。しかもレベル50になるとできる転生クラスと呼ばれる者も何人かいる。
勇者である藤堂は転生すればするほど自身も、その聖剣さえも能力をあげるという化け物だ。しかも身体能力も上がるので、俺はついて行くのがやっと。
そしてそんな俺を見る目が変わったのは10層を超えた辺りからか。そろそろ本気で追放案件になってきたかもしれないと、あいつらの目から感じた。
運動会のリレーでビリをとった時みたいな、そしてそんなお荷物を見るようなそんな目。
そんなこんなで俺は周りの視線を苦笑いで交わしつつ、最下層直前までやってきた。
土を形成させたようなダンジョン内には不釣り合いの巨大な鉄の扉。昔から出来ていると言っても騙されるほど、古びたその大きな鉄の扉の前には二体の巨大な騎士が居た。
鉄の扉を守るように立っており、俺たちが全員鉄の扉に近づいた瞬間動き出した。
巨大魔物用の整列をすると、まず魔術師のクラスメイトが詠唱を始める。もちろん俺にはこの隊列は教えられていないので、邪魔にならないように壁に体重を預けながらその戦闘を観察することにした。
「火、水、木三原種の断りを示すもの、我の魔力を触媒に、このモノ達の黄泉の門を開かん」
毎回思うけどこういう詠唱を良くもまぁ覚えられるもんだなと感心する。
実際この詠唱に意味なんてものは無い。それこそぐちゃぐちゃの意味だ。この世界では。
ただこいつらはこの世界のルールに乗っ取った言葉なんてほぼ必要ない。イメージ力さえあれば魔法を具現化できる化け物達だ。なのになんで唱えているといえば、ただただ破壊力を高めているだけだそうだ。
イメージ力だけとイメージ力で具現化した魔法をさらにこの世界の言葉で縛ることによって絶大な効果を発揮するらしい。
俺の考えの通り、数十名の魔法が得意なクラスメイトの輪の中心から龍を象った魔法の塊が生まれ落ちた。ダンジョンの壁が揺れる程の巨大な魔力の塊。俺に敵対していないといっても、膝が笑うほどには怖い。そしてそのまま扉の騎士の一体を見つけると、噛み砕くように大きな口を開けておそいかかった。
俺たちの身の丈を優に超える大剣を振り回して抵抗するが、ほとんど意味をなさないだろう。俺が瞬きを数回した後、完全に石の塊になって、その残骸だけしか無かった。
そしてもう一体。
「藤堂くんそっちいったよ!」
武闘家のジョブクラスの萩川が騎士の攻撃を引き付け、関節にダメージを与えながら数人のクラスメイトともに藤堂の前へと誘導する。
そしてこのクラスの最強格。勇者のジョブで2回転生している藤堂は聖剣を引き抜くと余裕の表情で剣を振るった。
巨大な騎士は溶けたバターのように真ん中からバッサリと切られている。さらにその剣の斬撃によって騎士の後ろの大きな鉄の扉に大きな傷がつけられていた。とんでもない破壊力だ。俺にも欲しい。
お分かりいただけただろうか。なんてナレーション風に考えてみただけなんだけど。他のメンツは大層な技や魔法を引っさげてるけど、藤堂は一振だけであの巨大な騎士を即死させている。最早兵器だ。唯一の救いはあいつが自分の力を過信していない所だろう。過信していたらクラス単位でなんて来ないし、てかなんでクラス単位なんだっけ。完全にそこ考えるの忘れてた。
「まぁいいか」
俺はそう呟き、気づかれないように忍び足であいつらのあとを追うように鉄の扉の中に入った。
鉄の扉の中を見た俺は思わず言葉を失った。それはクラスメイトも同様らしく、皆同じように口を開けている。
そこは丸い空間であり、一つの光源以外は何も無く異様な威圧感がその場を支配していた。何も飾りのない青銅で出来たような空間。そして一番奥に場違いに輝く、身の丈ほどのクリスタル。
俺でもあれから目に見えない魔力を感じられる。あれを壊せば、このダンジョンは機能を終え数日中にはこのダンジョンもただの平たい土に戻るだろう。
だが、それを防ぐ為に存在している異様な存在が一人。
「そなた達はこれを壊しに来たのであろう?」
座禅したような格好の少女が一人、その言葉を吐いた。地面に着くほど長い黒髪のポニーテール。瞳は髪で隠されているが、低身長の彼女には似合わない長刀を傍らに置いている。
これだけ見ればただの少女だが、空気が振動しているのかと錯覚すりほどの緊張感が場を支配していた。
実際今朝食べたものを俺は吐き出しそうなほどの緊張感だ。
それに動じない者が一人。そいつだけはその場でゆっくりと口を開いた。
「ああ、そうだが?」
「殺す! 」
藤堂の言葉に少女は傍らの長刀に手を伸ばし、切りつけた。
藤堂もギリギリの所で、刀を止めるがその余波で壁に叩きつけられる俺。
「いっ......」
肺から空気が抜け、上手く呼吸ができない。そんな俺に目を向けるものはいない。非常に惨め、しんどみが深い。
そんな事を考えている側から、剣戟の音がその場にこだまする。あまりの速さによく分からない絶叫をあげるもの、魔法をただただ適当に発動させるもの、そんな地獄絵図がその場にできていた。
「貴様らが、姫様を殺しさえしなければ! 」
「!?」
恐らく俺だけだろうその言葉を聞き逃さなかったのは。姫様を俺達が殺した?俺はありったけのオタクの知識をかき集める。なにか確実に見落としはないか?いや一旦この少女から話を聞くのが先決だ。
そう思い俺は魔法の流星たちを避けながら、少女に近づく。そして声が掛けれる所まで移動して、軽く声をかけようとした。
「俺たちが姫様を殺したって―」
「邪魔だ」
ただ話しかけようと差し出して右腕。その右手を剣で切り落とされた。
藤堂に。あの勇者の、いつも俺にやんややんやと文句を言いながらも、共に生活していたクラスメイトに。
「あ、が、、、、ああああああああああぁぁぁああああああああああぁぁぁああああああああああぁぁぁああああああああああぁぁぁ」
自分でもびっくりするぐらいの言葉が喉から出されていく。これは夢だと頭で思っても、誰かの叫び声と、誰かの痛みが体を辛く刺していく感覚にこれは夢ではないと、諭されるようで俺はただその場で叫び続けるしか無かった。
だが、そんな行為さえ許されない。
藤堂に体を持ち上げられ、少女の方に投げられる。
少女は何が起きているのか分かっていないのか反応がおくれ、俺を受け止める形になってしまった。
しかもそれを待っていたと言わんばかりに、萩川が叫ぶ。
「波風君を人質に取るなんて、最低よ! 」
お前、俺の事君付けで呼んだ事ねぇだろ。なんてことを残った理性で考えていると、俺の口が勝手に動きやがる。
「『俺のことはいいから、俺ごとこの女を殺してくれ』」
何かおかしいと思った。なぜ藤堂が俺を投げた時に疑問の声が上がらなかったのか。目の端で捉えたブツブツと詠唱しているクラスの魔術師の一人。こいつか、幻と俺の口を操ったのは!
それからすぐのことだった。足場が爆ぜ、東堂がクラスメイトに話しているのを見たのは。
それでも誰か助けられるだろう。俺を、その恵まれた能力で。
そして俺は目を覚ますと、瓦礫の下敷きになっていた。この世界の魔力が体に満ちてしまっているせいで死にずらくなっているらしい。
一緒に落ちた少女はどうなったか、最初の数日はそれだけを考えた。そしてそれすら飽きてからは元クラスメイト達のことを。
でもそれを考えても疑問しか浮かばず、すぐにそれすら飽きてしまった。
目の前に転がっている学生証を眺め、そして俺は意識を失った。