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16弾き目.世界への第一歩

今日から第二章、弾き始めます!

 和やかな木々の騒めき、流れる小川、美しい小鳥たちの演奏会のような囀り。

 ああ、世界はなんて美しいんだ。上機嫌だし鼻歌でも歌おうかな、いや歌うね!


「ふんふふふふふふふふふ、ふんーふーーーーん!」

「我が弟子、それは新しい呪いの歌か?」

「なんでもないです」


 鼻歌は金輪際やめよう。


「それで、師匠。何処に行くんでしたっけ?」

「君は鳥か?鍛冶の国に行くんだろう? 」


 そうだった。俺の一張羅だっけ?

 別に今のままでもいいけど、Tシャツでも。そんな俺の意図を察してか、前方を歩いている師匠が振り向きながら、話をしてきた。


「我が弟子、今のままでもいいとか思っているだろう?」

「まぁ、そうですね」

「母上の置いたロンゴミニアド。母上は他にも様々な残したが、純粋にそれ以外にも、人知を超えた武具が存在している。それをその身一つだけで受けるつもりかい?」


 あれ以外のやばい代物が?よくこの世界、均衡を保ってたな。確かに師匠の母上が遺した聖遺物、呪われた神の槍。受け止めるだけでも、肉体を抉られるような感じだったし、確かに師匠の言う通り、準備を整えた方がいいかな?


 太陽の光を浴びて、キラキラと輝く小川を触りながら、楽しそうに遊ぶ師匠。愉快そうに、水の冷たさを感じたり、水を蹴ってみたり、本当にこの世界を楽しんでいるように見える。ああほんと可愛い。


 まぁ呪いのない状態なら、蹴りあげた瞬間にここら一帯川ごと吹き飛びそうなのだが、そう思うと切ない感情が少し胸を締め付ける。


「おい、我が弟子。気持ちいーぞ、君も来たまえ」


 軽く手を挙げて、師匠の元へかける俺だがその場を振動させるような女性の叫び声が聞こえた。


「いやああああああああああ! 」


 俺と師匠は顔を見合せ、声の下方向へ急いで向かう。


 小川を少し下った先、川の終着点下流付近。血の匂い漂うその場所に俺と、俺に抱えられた師匠が到達する。

 師匠は空間魔法が使えるが、身体能力はほとんど絶世の美少女並みに下がっている。なので、役得、じゃなかった俺が運ぶような形になった。


 美しい森の中だが、その場はかなりの修羅場と化していた。四人の黒い甲冑に身を包んだ男達と、いかにも魔法使いのような男が一人。


 そしてその男たちの前には首のない冒険者風の姿が三体転がっている。その奥には、銀の甲冑を纏った女性。


 いかにも聖騎士って感じの風貌だ。綺麗なブロンドの髪が光を反射し、鎧に隠せない豊満な体は今なお小刻みに震えている。涙でぐちゃぐちゃになった顔からでも分かる、かなり整ったお顔立ちだ。


 俺は師匠を下ろす。だが、そんなにことに気づかない男達が下世話な会話をしていた。


「おいおい、こんな辺鄙な所で上玉がいるとはな」

「堪らねぇなおい」

「楽しんだ後にあそこに持っていけば金も貰えるし、神様にでも感謝ってか?」

「「「ギャハハハハハハハハハハハハ」」」

「い、いやぁ。来ないで! 」


 ふむ、どうやらよくあるテンプレ展開が目の前で繰り広げられている様だ。ひとまず男達から情報貰うか。


「なぁなぁ、この世界今どうなってんの?」

「「!?」」


 驚いたように後ろを向く男達と、女性騎士。え、結構近くにいたのに気づかんかったの?もしかして私の気配薄すぎ?


「おいおい、我が弟子。そんなフランクに声をかけんでも」

「挨拶は大事週間ってのを、小学生の頃やってて―」

「あ、あなた達もこの人たちのお仲間ですか! 」


 目の前の女性騎士が叫ぶように俺たちに言葉を投げかける。いやいや、どう考えても違うでしょとは思うが、一応言葉にしておこう。


「そんなダサい甲冑の奴らなんか知らん。」

「ああ!? てめぇ何がダサいだと!? 」


 啖呵を切る一人の男。まずいな、服のセンスを貶めるのは最低の行為だった。


 何しろ様々な雑誌を読みあさり、V系やらなんやらで着飾った中学時代。意気揚々とブックオフに行き、見せびらかすように歩いたはいいが、結局収穫もなく、帰り道でクラスメイトにみつかり笑われる始末。くっ、俺の黒歴史が疼く。


 とりあえず謝ろう。うん、ごめんて。


「す、すまん。人のことをとやかく言うのは駄目だった! ごめん!」

「許すわけ......。ああ、いいぜ許してやっても、その後ろの女をくれるんだったらな」


 腐り、下卑た顔で師匠に近づくこの男。師匠はこの状況を面白そうに眺めているが、俺は我慢がならん。何だこの男。


「おい、師匠になんて目使ってやがる。お前、おれの経験の礎になるか?」


 殺意を漲らせた俺の顔をおちょくるように、男は汚い言葉をはく。


「ああ?だったらどうするんだぁ?てめぇみてぇなぼう―」


 近づいて胸ぐらを掴んだ男の腕をつかみ、へし折る。身体強化でこれか。存外脆いな。

 へし折った腕と俺を見ながら、絶叫を上げ後ろに逃げる男を無視し、こいつらのステータスを盗み見る。


 え、平均70じゃん!?ウッソだろお前。そんなんでいきがってたんかい!

 ついでに後ろの女性騎士も見たが、少し高い90。まぁたしかに一体一なら勝てそうだが、五人相手は分が悪いか。涙を浮かべる男と武器を構え出した男達に宣言する。


「情報をくれるのであれば、命までは奪わない。ただ、俺の、俺たちの邪魔をするなら経験の礎になってもらう。」


 ただならぬ俺の気配に脅えたのか、慎重に攻め時を模索する男達。俺と男たちの間に木の葉が落ちた瞬間。


 眼前の魔法使いの眼球が破裂した。

 神に誓って言うが、俺は何もしてない。

 だが眼球が破裂した魔法使いは怯えた表情で、師匠のいる場所を指さしている。む、指さすとは何事。


「あ、あの女。化け物...だ。」

「ははん、魔力感知で私のことを覗いたか? 馬鹿なやつだな、人間なら私の事を覗いただけで眼球が沸騰するぞ」


 呪いは受けていようが、表示されるステータスは隠せない。そしてそれは、人ならざる魔王の魔力だ。巨大すぎるものを見ることで眼球が耐え切れなくなったのか。


「というか、我が弟子。君が魔力感知、おっと君は魔力眼と呼んでいたな。使えるようになってから、私はいつ覗かれてもいいようにステータスに細工をしていたのだぞ?」

「細工、ですか?」

「私のスリーサイズが見える・よ・う・に♡」


 俺はその瞬間、身体中の魔力の半分を眼球につめ込む。そしてつらつらと流れ出る言葉に従った!


「深淵を除く全知全能の眼よ!その全能を今解き放つんだ。深淵を除く時、深淵もまた覗いているのだ!唸れ俺の魔眼、闇を見通す最強の魔眼よ! でもガッツリ見ることが恥ずかしいから片目だけ! うおおおおお師匠のスリーサイ―ぎゃあああああああああああああああああ目がああああああああぁぁぁ」


 俺も魔法使いのように右目が破裂した。めっちゃ痛い。膝を着く俺に師匠はアホを見るようなそんな目を向ける。


「アホか君、私のサービスタイムはもう終わっているぞ」


 くそ、なんたる不覚。俺は血涙が止まらない。文字通り血が流れてるんだけど。まぁ治療しますか。神経が通る眼球もちゃんと治せるようには、この体も俺も成長している。


 だが、膝を着いている俺のこのタイミングが好機と見た男達が、切りかかってくる。瞳はまだ治らないが、まぁいいだろう。治しながら、対処しよう。


 切りかかる男の剣を受け止め、へし折る。ジャンプをし、空中歩行で男達の攻撃を避けてから軽く指パッチンをした。


穿つ音の破壊(ソニード)


 素早くはなった四発の死の音が騎士の男三人と魔法使いを穿つ。着弾した瞬間上半身が砕け散り、血の噴水が四箇所にできる。で、残る男だが。


 戦意を完全に失くしたのか、持っていた剣を捨て、頭を抱えている。まぁ情報を得たいし、生かしておくか。右目も完治したし、男の元に歩み寄る。


 男は俺を見る目。まるで化け物でも見るような、そんな形相で許しをこいはじめた。

 俺は情報が欲しいんだけどなぁ。


「私達が欲しい情報を話せば、私たちはお前の命を奪わないと約束しよう。」


 師匠の落ち着いた声で、男は辛うじて己の知りうる全てを話し始めた。


 要約するとこうだ。俺達、異世界からの勇者が召喚されてから、人間側の情勢はかなり変わったらしい。

 まず、異人との共存を考える、異臨海がほぼ壊滅。それは己の力で好き勝手やりたい征伐会と神様絶対信じるマンの教会側が、理由は分からないが手を組んだからだそうだ。人間側の土地を奪われた異臨海は、様々な異人の村に逃げ延びたそうだが、全てが受け入れる訳では無いらしい。


 それは征伐会の巫女、ラトレア女王とかほざいていたあの女のでまかせのせいで溝が出来てしまったせい。


 そしてさらに最悪なことに、俺の元クラスメイトは異臨海の領地で好き勝手やっているらしい。


 人間狩り。そう総称された奴隷狩りが広く広まっている。胸糞悪い話だが、転生を行うための人間確保だろう。

 勇者側に組みするこの目の前の男のように、異臨海や、その他の人間、歯向かう人間は狩られている。そして持ってきたものには美味しい蜜を吸わせて金まで貰えるらしい。


 しかもしかも、人間をよく思わない異人が、征伐会に流れ始め、異人狩りも同様に行われているらしい。人間は嫌いだが、成長や己の力を高めたい。なのでその大義名分がしやすくなるように、同族を殺してもいいような効率の良い方に流れる異人もいるらしい。


 なるほどな、あいつらを殺す理由が増えてしまった。心は冷静を装っても握りしめた拳からは、血が滴る。


「我が弟子、殺気がダダ漏れだ」


 おっとまずいまずい。目の前の男は、理解出来ていないようだが、後ろの女性騎士は先程より警戒した顔になってる。


「あ、あっしはもういい、ですか......?」


 男は脅えたようにそんなことを言う。本当は殺してやりたいが、師匠が口を出したのは何か考えがあってだろう。


 行け、と師匠に軽く言われおぼつかない足でその場をあとにしようとする男。だが、涙を流しながら走る男の首が綺麗に跳ねられる。


 驚きの表情と共に、男は息を引き取った。女性騎士は震える剣をこちらに向けながら、必死に言葉を紡ぐ。


「あなた達、何者ですか...!?......。」


 うーんどうしようか?実際このまま戦闘に入ったら、殺さないといけないし、かといってなぁ。とりあえず、無害アピールしとくか。


「やぁやぁ美しい人。俺は怪しいものじゃ―」

「いやぁ、来ないでっ!」


 確かに。眼球が復活するとか、SAN値ゴリゴリよな。うん、分かります。ただそんなやり取りを愉快そうに眺めていた師匠が俺をつつく。


 何だこの生物、超可愛い。


「我が弟子よ、お前は目の前で殺人者が怪しくないと言って信用できるか? 」

「まぁ確かに」

「任せておけ、可愛い可愛い我が弟子」


 そういうとゆっくりと、師匠は女性騎士の前に立つ。依然、震える剣は前に突き出して警戒心増し増しだが。


「やぁごきげんよう、驚かせて悪かったね? 」

「な、なんのつもりですかっ......」

「いやまぁ今から君に交渉を行おうと思ってね。先程見た通り約束は守るとも」


 警戒心の抱いた眼差しは如何せん変わりがないが、その提案に女性騎士は乗る。


「交渉...?」

「ふむ、まずは私たちはそこでなくなっている君のお仲間を供養しようと思う。それを手伝って欲しい。そして私たちをある国へ、ああ遠かったなら近場の村でもいい。案内してくれないか?」

「あん、ない......ですか?」

「ああ、なにぶん辺境育ちでね? ここら辺には疎いのだよ。」

「断ったら......?」

「断ってもいいだろう。ただまぁ君は私たちという用心棒もなく、この森を歩くことにもなるし、私達の手が滑って君を殺してしまうかも?しれないなぁぁ?」


 愉快そうに口元をゆがめ、顔を斜めにしながら問う師匠。 それは交渉とは名ばかりのただの脅しだ。師匠、そんなに取引とか上手くないのでは?


「なぜ...ですか...」

「敵対したらという意味か?それは、私達の邪魔をするなら殺すと決めているからだ。その剣が何よりの証拠だよ、君。人間が魔剣を持つなんて、そうそうないからね?」


 驚いた。この女性騎士、魔剣持ちかよ。女性騎士は剣を構えたまま、暫し考える。だが、急かすような風が辺りに吹いた時、女性騎士はその剣を鞘にしまった。


「魔剣とは名ばかりのただの名残りです。条件は呑みます。ですが、馴れ合うつもりないので、あしからず」


 その答えに非常に満足したように、俺の方を振り向く師匠。おいどうだ、とでも思ってそうな見事なドヤ顔。可愛い。頭撫でよう。


「ああ、そういえば一つ条件を加えよう」

「な、約束が違いますよっ! 」

「なぁに、簡単なことさ」


 頭を撫でられている師匠が俺の手を掴み、自分の前に持ってくる。まるで後ろから俺が抱きしめているような格好だ。


「我が弟子は私のものだからな。手を出したり、色目を使うなよ」


 は?くそ可愛いんですけど。結婚しよ。


「ふえ!?。い、いえ馴れ合うつもりはないって言いましたよね?...」


 酷く迷惑そうな顔をうかべる女騎士。ぽわぽわした雰囲気ではあるが、さすがの切れ味凄まじい正論だ。ご最も。俺達はそうして墓を作り始めた。







一応土日連続投稿の平日は水曜日だけの投稿にしたいと思います。時間は一応夕方にあげていきますが、時間は未定です。

では今後もよろしくお願いします。

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