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14弾き目.負けられない戦い

「だ、大事はないか......。我が...弟子?」


 俺の前には、神の槍に貫かれた師匠が......居た。


 巨大な槍に貫かれた師匠を、俺は震える手で触ることしかできない。唇が震え、涙が止まらない。なんで?なんでなんだよ。やっとここまで来たのに!なんで俺なんかを。


 いつまでも涙が溢れて止まらない。疑問しか出てこない馬鹿な俺の脳を焼き切ってやりたい。師匠は俺のそんな顔を見ると、より笑顔に、母のような笑みを浮かべて涙を拭う。


「泣く、な。我が弟子...がっ......」


 師匠は口から、血を吐き出した。そして槍は光のように消え、師匠は地面に倒れてしまう。

 濡れた師匠を抱き抱え、俺は泣き叫ぶ。声にならない声を上げながら。なんでなんでなんでなんだよ。この人がなんで―。


「なんでなんだよ......師匠。」

「君は...あの空間から私を救い出してくれた...。君は私に助けられたと言っていたがな。私の...方だよ。助けられたのは......。」


 涙が止まらない。そんなこと俺がいくらだって、貴方を助ける。そんな事のためにあなたは死なないでくれ...!


 その間、前方で咳をしながらモルガンが、忌々しそうに俺達に視線を向ける。


「悪運の強い女が......。急所が外れてやがる!」


 急所?それがどうした。


「まぁいい。いいことを教えてやる坊主。この槍はな呪いの槍だ。一撃の槍だ。ちっ、急所は外れたがな、その女はもう呪われた! 死に損ないが。ただ、今までのような化け物みたいに行動できねぇだろ!」


 呪い?急所を外した?なら生きてる?行きも絶え絶えの師匠に視線を向ける。


「だ、い、じょうぶだ。あの女の言う通り、死ぬようなことは...おきない......。」


 師匠が死なない?本当に?その言葉を聞いただけでも、溢れ出す涙は止まらない。ああ、畜生。涙が、涙が本当に止まらない。


「この槍はな、その女の母親の墓からの遺産だ。忌々しい親子。この呪いの槍を持ち出すために、数億の魔物が犠牲になった。」

「あの槍は、母の残した複数の聖なる異物のひとつだ。私が...壊してやりたいが、どうやら無理そうだ......。我が弟子、頼む。私の、私に母の―」

「大丈夫だよ、師匠。」


 優しくゆっくりと彼女の髪の毛を撫でる。大丈夫、貴方の母の残したものを破壊するのは、嫌だけれども、もう俺の殺意が抑えきれないんだ。本当にごめん。


「師匠、ここで少し待っててくれるか? 」

「ああ......少し回復に専念する......。」

「本当に...死なないよな?師匠......。」

「この血に...この名にかけて......。」


 今にも死にそうな師匠がゆっくりと、その力を振り絞って、優しく俺にキスをした。

 触れるような、そんなキス。


 師匠はゆっくりと顔を話した後に、ゆっくりと目を閉じた。涙が止まらない。本当にこのまま死んでしまうのではないかと疑ったが、体に感じる魔力の動きから、本当に治癒に専念し始めたようだ。


 安心した。俺の命が助かったことより、安心した。なら、やるべきことはひとつだ。恋焦がれた、命を救ってくれた、そんな人に、俺はこの殺意を持って証明しよう。


 俺は師匠を抱き抱え、ゆっくりと登ってきた階段の横の壁に師匠をおく。その間モルガンは動きを見せなかったが、もうどうでもいい。


 師匠がゆっくりと呼吸したのを確認してから、俺は歩みを進める。モルガンに目の前に。


「お別れは済んだか?安心しろ、坊主の後に仲良く、その死に損ないを殺して―」

「俺の...経験の礎になれ、モルガン!」


 俺は問答無用にモルガンの腹目掛けて、穿つ音の破壊(ソニード)を唱える。無条件に肉体を破壊する音がモルガンを二つに分かつ。だが―。


 半身が瞬間的に回復したモルガンが返答というように、俺に向かって殺意を投げかけてきた。


 蹴られた神殿の床が爆ぜ、俺の眼前に忌々しいその槍を振り上げながら、攻撃をする。ああ、なんて、のろい攻撃だ。こんな攻撃に俺はやられたのか。


 髪の毛が空中に舞う。俺がギリギリ避けたからだ。その後の追撃、のろい本当にのろまなその攻撃を避けながら、俺はモルガンの左腕を吹き飛ばす。が、その左腕すらすぐに生えてくる。


「貴様ァ! 」

「お前らがあの人にした仕打ちはそんなもんじゃないぞ! モルガン!」


 怒りに震える。俺はこいつを殺す。必ず。誓いにも似た感情で、俺は右腕を振り下ろす。


音の祝福(マハト)!」


 身体強化した、そして音の祝福を受けた俺の動きにモルガンなんぞが付いてこれるはずもない。


 後方に避けるモルガンの間合いに入り、渾身の拳をお見舞する。身体強化と音の祝福(マハト)を掛けた一撃。拳の感覚から多分、臓器を潰しただろう。


 涎を撒き散らしながら、槍を振り回し、モルガンは槍から蛇のような魔法を放つ。そして俺は穿つ音の破壊(ソニード)でそれらをことごとく、打ち消す。


「貴様ァァァァァァ! 」

穿つ音の破壊(ソニード)! 」


 俺の指パッチンから放たれた殺意に、モルガンの目が破裂させられる。小気味の良い音と共に、血飛沫が空中を漂った。


「貴様の音魔法確かに厄介だが、避けられ無いわけじゃない! 」


 そんな苦し紛れの戯言をほざきながら、槍と魔法によって健気にも俺を攻撃してくる。


 そしてモルガンの槍の攻撃に俺の左腕は、切り落とされた。なるほど、これが師匠が感じた痛みか。瞬間的に俺の左腕が生え、元通りになる。


 迫り来る黒騎士を素手で八つ裂きにし、モルガンにぶん投げた。黒い塊を空中で避けながら、モルガンの黒い魔法が俺目掛けて飛んでくるが、そんなのわけない。


 蛇行しながら空中を走る黒い流星のような魔法。空中歩行と、縮地を利用しながら避け、穿つ音の破壊(ソニード)で何度も打ち消してやった。


 そう、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。


 槍の攻撃も、蛇のような魔法も、黒い稲妻のような魔法も、体術も、何もかもを打ち消す。青筋と汗が滲んだ顔でモルガンが叫ぶ。


「化け物か貴様ァァァァァァ! 」


 だがもう終わりだ、モルガン。お前は音を本質的に勘違いしている。もうお前は俺の音を聞いてしまった。意気揚々と走るモリガンが、地面に血反吐を吐き、倒れる。


「な、何故!? 」

「俺の音魔法は浸透する。目に見える魔法だけを避けているお前の負けだ。」


 俺はモルガンの眼前に歩いていく。それを好機と見たモルガンがロンゴミニアドと謳われたその呪いの槍で、俺の心臓めがけて突き出してくる。だが、その攻撃が俺に届く前に、モルガンの右腕が吹き飛んだ。


「ぎゃあ...ああああああああ! 」


 いくつもの傷を浴びさせていたが、今度は喉が張り裂けんばかりの絶叫をモルガンはあげる。


「槍から魔力を得ながら、痛みでも消していたのか?浅はかな女だな、それでもしないと前に立てないのか? 」


 小さく恨み言を言うモリガンが這うように動くが、動いた瞬間モルガンの左腕も吹き飛ぶ。


「音を空間に留めた。もうお前に勝ち目なんてない」


 そしてモルガンの爆ぜた右腕の呪いの、そして神の槍に俺は視線を向ける。俺の師匠を穿いた憎き呪いの槍。異世界からのおそらく俺たちと同じように、この世界に持ち出された聖遺物。


 俺の視線に気付き、俺が何をやるのか悟ったのか、モルガンが醜く声を出す。


「や、やめろ...。お前それがなにか―」


 声を無視した一撃。小気味の良い音ともに、俺の指パッチンから放たれた破壊の音は神槍ロンゴミニアドは粉々に砕け散る。

 星の光のような光の玉をいくつも放出しながら、その槍はこの世界から、元の世界へと帰るように薄く、半透明になっていく。


「きさま...なんてことを」


 大量の血の海を生成しながら、両腕の無くなったモルガンが這いつくばるように、その槍の残骸を求める。だが、形はあれど、触ることすら許されない。ゆっくりと透明になり、その痕跡をロンゴミニアドは消していった。


 呻き声を上げながら、這いつくばるそれに俺は足を乗せた。小さな恨み言を言いながら睨みつけるそれに俺は声をかけた。


「師匠を裏切り、利用し、心を弄んだお前らを俺は絶対に許さない。」


 神殿には指が弾ける音と、肉塊が潰れる音が響く。なまじ魔力というのは非常に悪趣味だ。俺と同じような技能によって、ゆっくりと回復していく目の前のそれを何度も死なないように、指を弾く。


「えぐぁ...やめ...ぎゃぁ...あぐ......」


 何度も血が溢れ、どんどん回復の速度が遅れていく。しまいには白目を向きながら、消えそうな声で懇願してくる。


「ごろ...しで...おねが...いじ...まず......。」


 そして、神殿には肉が弾ける音だけが響いた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「師匠終わったよ。」


 眠るように血に海で目を閉じる師匠に優しく声をかける。


「い、いやー意外と弱かったよあいつ。師匠封印される時、油断しすぎじゃない? ねぇ、師匠。師匠ってば、起きてくれよ...。もう一度からかってくれよ......。...う、うわぁ、あああああ...ああああ」






「ばぁ! 」

「あああああああああああああああ」


 驚きのあまり、腰を抜かしてしまう俺。


「驚いたか?なぁ驚いた我が弟子?」


 無邪気な笑顔を浮かべながら、師匠はそんな事を話してくる。

 びっくりさせられた事なんて、そんなことはどうでもいい。俺は師匠を力いっぱい抱きしめた。


「師匠、ああああ師匠、うわああああああああああああああ」

「なんだい、我が弟子。君は本当によく泣くな」


 そう言いながら、頭を撫でてくれる。ああ、師匠が生きていた。生きてくれていた。ああ、救えたんだ。


「ありがとう、ありがとう、師匠」


 涙でぐしゃぐしゃになる。構うもんか。師匠を失う程の恐怖なんてない。ただ、体に感じるこの温かさが、今は俺の救いなんだ。


「全く、これだとどっちか救われたか分からないではないか?」

「あああああああああああ」


 いつまでも涙の止まらない俺の頭を師匠は何度も撫でてくれた。











前話と今回にお話は展開が頭にあっても悲しかったです。

ハピエン厨なのでご了承を。

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