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11弾き目.ダンジョン攻略開始

「全く! 君はいつまで惚けているんだ! 」


 そう言いながら、師匠は空中に円を描く。綺麗な細い指で、描かれた円からは炎が実態を持ったのかと思うほどの芸術的な槍が何本も、眼前の敵を穿つ。穿つ。穿つ。


 血しぶきと咆哮をあげながら、魔物達はその行く手から消えていく。それを俺はサリアさんに抱き抱えられながら見ている。順を追って説明するから蔑んだ目で見ないで欲しい。


 師匠を封じていた999階層のこのダンジョン。師匠の魔力と、豊富な魔力を利用して日々とんでもない化け物が量産されている。

 俺たちは何とか結界を破ることに成功したが、次はこの化け物だらけの場所から脱出しないといけない。しかもご丁寧に地下に掘って出来ているので、ひたすら上に昇っていくしかないわけだ。


  さらにさらに、最悪なことに師匠の魔力を介して、触媒として、利用して生まれたこの魔物達。師匠には引かれるように集まってくるからもう最悪。


 師匠は最強の魔法使いだ。元魔王でもあるが、そんなことを抜きにしても最強最凶の強さを誇る。しかしそんな師匠も数には勝てない。


 人間が数で他を圧倒し、辛うじて生き延びているように、数というのは圧倒的なわかりやすいアドバンテージだ。

 なので現在は迫り来る魔物を血祭りに挙げながら、俺達は地上を目指しているってわけ。


 俺?俺はその。し、しししし師匠にキスされて......なんていうか......その...情けないんですが...フフ......腰......抜けちゃいましてね。


 その間にも師匠は色とりどりの魔法で魔物を蹂躙していく。

 木の枝を投げたと思ったり、それが敵に当たった瞬間、身体中から枝が伸び串刺しに。

 雷の槍をぶん投げたと思ったら、それが這うように数十体の体を走り回って丸焦げにしたり。


 軽い詠唱を唱えたと思ったら、眼前に迫っていた魔物数百体を瞬時に炎の熱で蒸発させたり。

 いや、師匠強くね?強すぎね?しかも息切れ一つも起こさない。


 そして抱えられるまま、俺達は巨大な階段を見つける。

 青いランプに照らし出されたその巨大すぎる階段。目の前にはもう魔物が存在していない。おそらく先程蒸発したので、この階層の魔物は全部だったみたいだ。


 俺も魔力がかなり回復したし、サリアさんにはお礼を言って、その腕から降りた。サリアさんは軽くお辞儀し、師匠の近くの傍に立つ。


「サリア、ご苦労。お前は少し休め」


 そう言うと小さな箱を取りだした。綺麗な装飾の施された、真ん中の宝石がトレードマークの古い箱。

 はい、お嬢様、と短く言うとサリアさんはそこに溶けるようにって―!?

 サリアさん溶けたけど!?


「言ってなかったかい、我が弟子。サリアは私の血と毛をオリハルコンに混ぜたゴーレムだ。」


 師匠は短く言うと、その箱を大切そうに虚空にしまった。

 そして視線を俺に向けると、真剣な表情で言葉を紡ぐ。


「私は最強にして頂点だが、先程のように何度も数で来られては確実に死ぬ。だから、我が弟子。しっかりしてもらわないと困るぞ」

「わ、分かりました」

「うむ、よろしい」


 そして師匠は俺の手を引いて、階段を登り始めた。緊張で俺の心臓が弾け飛びそうになるが、それは師匠も同じだったらいいなぁと勝手に思ってしまう。


 汗ばむ手がどっちの手なのかは分からないが、俺は期待を胸に秘めて師匠と共に階段を昇った。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 俺達は現在三十層ほど上がった地点にいる。そして師匠が見守る中で、目の前の敵の前に立つ。


 三つ首の巨大な狼。全長が鮫のように大きく、それぞれ首輪をしているが、首輪の意味を果たしているのかが疑問である。

 歩くたびに抉れる大地。その爪の一つ一つが名匠が打った業物のようにさえ思ってしまう。

 そんな奴が今俺の前にいる。


 とりあえずこいつの情報でも見てみるか。


 俺が得た獲得技能の[魔物理解]。これは魔力眼に切り替えた世界で、命ある物を見ると相手のステータスを見ることが出来る。それこそ弱点とか見えてくれればいいが、種族名と個体名、そして相手のレベルしか出てこない。


 人間とか異人とかならもう少し情報がわかるそうだが、魔物はほとんど見れないらしい。


 まぁそんなこんなで相手の力量を測るぐらいしか出来ないが、今はいいだろう。俺の眼前の魔物のステータスにはこう記されている。


 =====================

 レベル897

 種族名 狼

 個体名ケルベロス

 =====================


 レベル高ぇなおい。というかやっぱケルベロスだったか。実在したんだなこんな化け物。喉を鳴らしながら涎を撒き散らす。しかもご丁寧にその涎は、強い酸にでも出来ているらしく、ステーキがやける音を地面と奏でている。


「我が弟子、期待しているよ」


 高みの見物のつもりか、テーブルと椅子。そして紅茶とお菓子を用意している。羨ましいなちくしょう。


 だけど俺も成長しているんだ。魔力眼から視界を切り替え、拳に力を入れる。

 俺の意識をケルベロスも汲み取ったのか。ゆっくりと間合いを詰めてくる。その間に俺は自分の決意を口にした。


「ケルベロス、俺の経験の礎になれ」


 その言葉を皮切りに戦闘は始まった。


 巨体からは信じられない速さのジャンプ攻撃を避ける。薄暗いダンジョンでも、視界が明瞭なほど、俺の視力は純粋に上がっていた。レベルアップしたからか、それとも魔物の血肉たちをその身に宿したからかは分からない。

 おかげで、ケルベロスの動きは見れるし、反応速度も爆上がりだ。


 まるで、ゆっくりとした子どもの攻撃でも避けてるみたいだ。

 爪による薙ぎ払いを難なく避け、魔力が集まる場所。

 魔物の弱点とも言える場所を先ず一つ消す。


穿つ音の破壊(ソニード)!」


 そう唱えながら放った指パッチンからは、衝撃波にも似た波が放たれる。俺から見て左側の犬の顔面は、その瞬間破裂するように吹き飛んだ。

 血しぶきとケルベロスの苦しみ悶える声がダンジョンを木霊する。



 穿つ音の破壊(ソニード)。俺の攻撃特化した音魔法。指パッチンでしか発動しない結界やケルベロスの頭部を破壊したこの音魔法。

 振動を爆発的にあげて、内部から破壊するこの魔法は普通に使っても破壊力が凄まじい。それこそ全ての魔力を集めて放てば、このケルベロスも羽虫の如く殺せるとは思うが、その代償が凄まじい。右腕の全てと全魔力。たったの一撃だけで再起不能に陥る。


 なので、身体強化よりも多く魔力を溜めてから放つ。それだけで代償なしにこの破壊力だ。この限度を知るまで、何回体がぶっ壊れたことか。だがその死にそうになる修行でこれだけの成果を上げられた。


 痛みよりも、怒りが勝ったのか俺に食らいつこうとする。その勝負乗ってやるよ。

 俺は自らに軽く指パッチンをする。


音の祝福(マハト)


 横から伸びてくるケルベロスの獰猛な牙。鋭利に磨かれすぎて一本一本が鏡のようだ。だがそれも意味を成さない。


 動かない俺にご満悦といったふうだが、馬鹿だなぁ。わざと動かないんだよ。


 土煙を上げ確実に射殺すといったその獰猛な牙。数え切れないほどの生物がその牙によって殺されているであろう。そんな牙を俺はただ受け止めた。


「おいおい、こんなもんか。地獄の番犬」


 喉の奥が動くのがよく見える。余程うろたえているのだろう。まぁそんなこともあるさ。たかだか人間に、自慢の牙も、顎も止められるなんて。


 俺が先程はなった音の祝福(マハト)

 あれは身体強化の音魔法だ。音を留めるという技能を獲得した俺は、身体を強化させるために練習した。

 それこそ何度も心臓が止まり、師匠に心配されたが、その結果が今のこれだ。


 微弱な音の振動で、俺自身の力や肉体の能力を数十倍まで膨れあげさせる。

 これは肉体の活性化だけではなく、簡易的な治癒も施す。肉体が数十倍まで活性化してるんだから、それだけ治癒力も上がるはずだ。


 これの弱点は長いこと自分に掛けられないことと、終わった後に体が軽くだるくなることらい。

 ただ代償には余りある程の効果を発動させてくれるこの魔法を俺は気に入っている。


 身体強化も相まって、俺はケルベロスの口を強引にねじ曲げた。


「!?!?!?!?!?」


 声にならない声が上がり、悶えるが俺は気にしないで。指パッチンをした。


穿つ音の破壊(ソニード)


 小気味の良い音と共に、目の間に肉塊が出来上がる。今更驚くことも無い。初めてカエルを殺した日から、かなりの数の魔物を殺してきた。殺しに快楽などは神に誓っても感じてはいないが、俺の中で生きる為の選択肢の一つにはなっていた。


 生きるために他を犠牲にする。


 そんなことを反芻していたら、両手の皮膚が回復し、同時に体にだるさが宿る。

 効果時間は5分ぐらい。この調子ならあと数発は音の祝福マハトを打てそうだ。


 身体強化のさらに強化で、溶解液の効果も防ぐは防ぐけど、そこまでの効果は期待しない方がいいな。現にケルベロスのヨダレで皮膚持ってかれてるし。


 俺はつかつかと歩きながらもう立つことも、しないケルベロスの前に立つ。最初の威勢はどこへやったのか、今は完全に怯える一匹の生物がいる。

 息を荒くし、残った頭に近づき、ゆっくりとデコピンをした。


 肉が弾かれる音と共に俺に大量の血が降かかる。

 俺は着ているTシャツを脱ぎ、軽く自分の体を拭きながら師匠の元に向かう。


「我が弟子。見事な戦いぶりだ、君の職業が吟遊詩人だということを忘れる程には」

「そういえば俺、吟遊詩人でしたね」


 師匠が用意してくれた水で体を拭き、新しいシャツを着る。この体になってからはかなり筋肉質になったとは思う。自分の体に付いた傷を撫でながら、そんな事を思う。


「ケルベロスの毛皮を剥いだら、一気に上に登るぞ。」

「はいー」


 師匠の言葉に俺は頷き、ケルベロスの解体を手伝うのであった。







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