10弾き目.この忌々しい結界にお別れを
今後は16時すぎにだしますー
「それで、勇ましく啖呵切ったは良いんですけど、あれから一ヵ月ってどうゆうことですか!? 」
俺が世界最強の鉱石オリハルコンを破壊してから、優に一ヶ月立っていた。俺はなんならその場で結界を壊して外の世界に行くのかと思ったが、俺の可愛い可愛いお師匠様はそうでも無いらしい。
「準備は出来たのは君の方だよ、我が弟子。というか女は支度に時間がかかるもんなんだ」
「かかり過ぎです! 」
うるさい童貞、と言われて師匠は今日も荷物整理なんかをしている。泣いてなんかいない。
泣いてなんかないもん。
「というか君、また勘違いしているだろう?」
「?」
とんでもない量の服を分別しながら、師匠は話す。
「結界を壊して終わりじゃないんだよ、君。ここは地下ダンジョン999階層のとんでもない場所さ。それを上り詰めて、地上に出てようやく外の世界というわけさ。ちなみに一層上がる為に普通の人間なら約二週間かかる」
わーお。とんでもないでかさだ。まぁそれなら確かに師匠がここまで慎重になることもわからないでもないかもしれない。
師匠だってここから出たことはないんだし、初めての試みなら慎重になるのも頷けるかもしれない。
その準備しているのが、衣服類が多くても、菓子類が多くても、その他嗜好品がとてつもないほど多くても、文句は言ってはいけない。いけないんだ......。
「というかほんとにこの人、封印されてるの?」
楽しそうにさまざまなものを出したり入れたりする師匠を見て、俺はそんな疑問を口にするのが精一杯だった。
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そしてその翌日。下ろしたての一張羅に包まれた師匠が、修行場に待っていた。
深い青が特徴的な軍服のような服。ボタンの一つ一つに施された紋様のレベルの高さが、いかに上質な服かということを俺に教えてくれる。胸の真ん中に添えられたガラスの花飾りと、色を控えた赤いリボン。
そしてそんなに服から伸びる綺麗な黒ストッキング。茶色のブーツと、そしてワンポイントのようなベレー帽のような帽子。
肩から伸びる綺麗な銀色の髪の毛をより際立たせている。というかなんであれ、斜めがけなのに落ちないの?
まぁそれは置いといてこの人、国宝級に可愛いな。俺の可愛いフォルダ全てがブサイクフォルダに変わるぐらいには可愛すぎる。
そんな可愛すぎる師匠を閉じ込めたのか?ニュースだろそんな悪事。
「いやぁ、師匠と言ったらこの世界のアイドルみたいなものですからねー。それはちょっと、世間は許してくrえゃすぇんよ」
「何アホなこと言ってるんだ君は」
自然と口が動いてみたいだ。ああ、アニメとかが遠い存在に感じる。師匠は軽くリボンをいじりながら、俺の事を見つめてきた。
「それで......感想は?」
そんなん言わんでもわかるでしょと俺は思うが、まぁ形にして相手に伝えるのも悪くは無い。それは信頼関係を築いていく上では必要な事だ。
うし、バシッと決めるか。
「し、ししし師匠、かわかわかかかわかかわ可愛いです!」
「うむ、悪くない。」
……成し遂げたぜ!
「そ、それで師匠、俺がほんとに結界壊せるんですか?」
「最もな質問だ。だが、大丈夫。私は確信を持っている」
師匠は自信に満ちた顔で俺を見ている。俺を見ないでくれ、可愛いから。
「私は基本的に外的に危害を加える魔法しかないが、君の指力を使った音魔法なら結界を内側から破壊できるはずだ。」
俺の音魔法が?半信半疑だが、俺もこの約一ヶ月で成長はした。師匠が荷造りの合間にそこら辺から持ってきた魔物と戦っていたからだ。その中でいろんな技とか開発したけど、それを説明するのはまず、結界を破壊してからになりそうだ。
「手筈は大丈夫か? 」
「はい、後のことはお願いします」
「任せておけ」
短い会話の中をした後。俺は全ての魔力を右腕に込める。まずはこの忌々しい結界を破壊することだけを考える。
体に中の俺の魔力が徐々に右手に集まる感覚。熱を帯び始める。手のひらが悲鳴を上げるように痛みを訴えるが、そんなことはどうでもいい。恨みのような怨念のような俺の魔力が、俺の魂に呼応する。こんな誰にも会えない、師匠の力だけをあてにしたようなくそみたいなこの場所。この結界、この世界への。
「これは宣戦布告だ。待ってろよ、お前たちに目にもの見せてやる。これは、この世界への慟哭と決意と知れ。」
俺はありったけをただただ込めて、それしか出来なくって、でもそんな俺を存在させてくれる人がいる。だから―
「だから、お前は邪魔だーーー。穿つ音の破壊!」
俺は指を弾いたんだ。
およそ人が出せるとは思えない量の、破壊の音が俺の指からはじき出される。
衝撃は俺すらも飲み込んで全てを穿つ。衝撃波にも似た一撃。
地面はその反動に耐えきれず、俺を中心として破壊されている。修行場の壁は衝撃の余波に耐えきれずにその仕事を放棄する。
だが止まらない。俺の放った一撃は修行場の天井をも破壊しながら、さらにその奥の空間にぶち当たる。
右腕を犠牲に、文字通り右腕が吹き飛んだ俺はその行く末を見る。大量に流れる血なんて全く痛みを感じない。脳内麻薬がドバドバ出ているからだろうか?それとも師匠が痛み止めと治癒魔法をかけてくれているからだろうか?
恐怖なんてなかった。ただこの人に俺は世界を見せてみたい。こんな所で一人で300年なんて、そんなのってないだろ?
俺の一撃が結界に当たって数秒。雷でものたうち回っているのかというバチバチとした拒絶の音が収まるまで、さらに数分。だが、完全な静寂が辺りを包み込み、同様に俺も恐怖に包み込まれた。
泣きそうな顔で横で俺の治療が終わり、天井を見上げる師匠には尋ねる。
「し、師匠、俺もしかして―」
「いや、成功だ。我が弟子」
口元をこれでもかと歪め笑いをうかべた師匠。紅の瞳がさらに輝きを増しているようにも見える。
そしてその言葉通り、辺りからはガラスがひび割れるような、氷がひび割れていくようなそんな音が響き出す。それは最初は小さな音達だったが、どんどん大きな波のように大きくなっていく。そして―。
「我が弟子、君と出会えて私は良かった。この孤独の300年は無意味ではなかった!」
魔力が切れ、体を動かすのも難しくなり、床に座り込んでいる俺の目に映ったのは、あまりにも幻想的で、官能的で、見たことも無い感動をに包まれるような景色だった。
嬉しそうに笑う師匠とガラスの破片のように砕け散り、天井から降り注ぐ、紋様の書かれた残骸。
光を伴ったそれがあまりにも美しくて、そしてその中で踊るように回る師匠があまりにも綺麗で俺はただそれを見ることだけしかできなかったんだ。
「我が弟子、最大の感謝を君に捧げよう。本当にありがとう、君を愛している......」
そしてそんな俺に師匠は優しく口付けをした。
キス、しちゃった。