プロローグ
前から構想にあったものです。何卒よろしくお願いします。
一応一週間は連続投稿しようと考えています。
明日の21時によろしくお願いします。
水の滴る音を耳に聞きながらも、俺の体は動かない。
目も暗闇に慣れてここが大きな洞窟である事くらいは分かった。だけどそれだけだ。
俺に残されたのは手首が切られたこの燃えるような痛みと、この先に待っている確実な死ぐらいか.......。
慣れた目で周囲を軽く見渡してみた。それだけでも激痛で今にも死にそうなんだが、それでもこの体は死を許さない。
ふと俺の学生証が目に付いた。日本のよくある平凡な高校のしかもよくあるような学生証。
こんな世界にクラス単位で異世界転移しなければ、今頃好きなラノベやアニメに囲まれていたのだろうか。
こんな事になるならもっとこの異世界を堪能しておけばよかった、なんてくだらない事すら考えてしまう。
岩に潰された左足の感覚ももう無くなってきた。流す涙も、血も、何も無い。
恨むことすらもう飽きてしまった。落ちこぼれと言われてはいないが、その空気から俺がパーティーの中でお荷物だったと感じてはいた。
それでも貢献しようとした。オタクと呼ばれる部類に属しているからと、異世界の知識や魔法と呼ばれる事への知識や考え方をあいつらには授けた。
だが許せない一言があった。
力あるもの、状況をしっかりと理解出来る者、そして勇者と呼ばれる彼が口にしたあの言葉。
『もう助からないから―』
いや助かったはずだ。縮地はどうした?、空間移動能力の最上級と呼ばれるエスケープは?重力で無理やり持っていくのは?体を固定させる魔法は?結界を展開させて足場を固定させては?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんで俺を殺そうとしたんだあいつらは。
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意識を失っていたみたいだ。
だが目を開けるとそこは、俺が落ちた洞窟ではないみたいだ。
俺の通っていた高校も体育館より、でかいかもしれないその場所。
黄金と赤、しかないような荘厳な大きな部屋。
光を反射するような量の黄金に目が痛くなる。しかも元凶の光源であるシャンデリアは、バカでかいときた。なんだここは。
夢の中かと錯覚するが、手首のない右腕の痛みに嗚咽が出てしまう。その事実がさらに俺を蝕む。まだ俺は死ねていないのだと。
体の感覚が少し戻ってきた気がする。冷たい洞窟の地下とは違い、ここは暖かい。自らが椅子に座っているのだと認識するまで、少しかかっただろうか。
奇跡でも起きて王族の部屋にでもテレポートでもしたか?助けを呼ぶ為に、動いてみたほうがいいか?いや、無理だろう。体を少し動かしただけで激痛が走る。
まだ生きている。そんな事が俺への絶望をさらに駆り立てた。左足は潰れ、利き腕の右手は切り落とされている。どうせなら―
「どうせなら一思いに殺してくれ......」
ぽつりとでたそんな声。気付いたらない右手で目の前の机を殴っていた。
痛みに悶える中でも考えるのはやめられない。どうやらとんでもない高さから、これまたとんでもない土砂崩れと共に落ちたが俺の声帯は傷ついてないらしい。
そんなどうでもいいことが頭に浮かんだ。
「ふむふむ、どうやら君は、私に殺されたいのかな? 」
不意に響いたその一言に全身の悪寒が際立った。死にかけるような出来事、いや実際もう多分すぐに死ぬのだろうが、そんな経験を得てもここまでの悪寒は感じたことがない。
ここに人が居ないという確証は無かったが、今の一言は近すぎる。ASMRでも聞いている気分だ。俺はゆっくりと声のした方向、真正面に目を向けるとそこには少女がいた。
俺と同じくらいの高校生ぐらいか、もしくはもっと幼いかもしれない。
銀色に輝く絹のような長髪。纏めるのが面倒なのか、それともそういう髪型なのか、無造作に放し飼いされている毛の一本までもが上質なのは間違いないだろう。
そして真紅に燃え上がったような紅蓮の瞳。見ているだけで宝石さえと見間違えてしまう。
そしてさらに黄金や金銀財宝さえその価値を失うほどの、恐ろしいほどに整えられた顔。
全ての情報を統合しても美女と言っても差し支えないだろう。現に2次元しか嫁のいないこの俺の心臓が爆音でエンジンを鳴らしている。
もっと早くに会えたならば、と思うがもう恋に色気付くには失いすぎたみたい―
「アルビノ美少女来たーーーーーーーー!!」
「!?」
おっとどうやら俺はまだ意外と元気だったらしい。目の前の美少女もびっくりしすぎて飲んでいた紅茶らしき茶器を床に落としている。
「すまない.......」
短く言葉を返し、椅子に座り直す。どうやら反射的に立っていたらしい。いやはやオタクという存在、いや魂に紐づけられた習慣というのはとてつもないほどに害悪だ。
「私も少しびっくりしただけだよキミィ。」
ニッと笑みを浮かべる目の前の少女。いやかわっ、え、可愛すぎる。
「それで。死にかけの君をここまで転移させた私には君に複数の選択肢を提供できるのだが、聞くかい?」
いつの間にかそばにいるメイド姿のこれまた端正な顔立ちの女性にお茶を渡されながら目の前の少女はそんなことを言う。
巨乳だ。でかい。そしてメイド服のクオリティ高すぎでござるなぁ。
おっと思考が乱れるな、まぁ死ぬ前のただの暇つぶしだ。一応聞いておこう。
「それで、この死にかけの俺の選択肢は何個あるんだい?」
おどけた調子で思わず言葉が出た。非常に死にたい。キョドりすぎた事を悟られないように出た表現がこれって。
「3つ」
俺の内心などお構い無しに少女は細い指で数を示す。いや指も可愛いな、おい。いやホント可愛い。若干踊らされてる感が最高。
「一つ目。純粋に君の願いを聞き届け、殺される、君が。」
ふむ、妥当な内容だ。なんなら手をくださなくてももう俺は死ぬ。
「二つ目。今までの起こった事を私に話してから私に殺される。」
結果でなくて過程が変わる感じの話しか。全然選んでもいいけど、純粋に足りるか?時間が。もう息をするのもしんどくなってきた。
「そして最後。」
勿体着けるようにゆっくりと手のひらを遊びながら、顔に指を運ぶ。どのように行動すれば視線を誘導できるか、その全てを把握しているようだ。現に俺はもう少女に釘付けだ。
「全てのことを話し、死ぬような思いを得て、君をそんな目に合わせた奴らに、この世界に復讐する道。 」
さぁどれがいいと言わんばかりに両手を広げる彼女。その姿が、あまりに可愛らしくて、可憐で、幻想的で、それでまた儚く、消えそうで思わず涙が出てしまう。
何度も涙を流したことはあるけれど、こんなあたたかい涙があるのだろうか。ゆっくりと俺の涙を拭った彼女は、天使のような、いや悪魔のような笑みを浮かべながらもう一度俺に問う。
「さぁどうする、異世界からの来訪者君」
あどけない少女の手を握った。自然と痛みも恨みも、その何もかもを忘れられるような気がした。
俺はこの少女に会う為だけにこの世界にやってきたのかもしれないとさえ思ってしまう。
でも、忘れては行けない。この心臓を動かす恨みを、闇を、俺はどうであれ、理由を知らなくてはならない。こんな現状にしたヤツらの事を。
それができるなら悪魔にだって魂を売ってやる。
俺は高らかに宣言しよう。この世界に報復を。
「結婚を前提に付き合ってください! あ、間違えた 」
本当に思ってることが口に出るのは直さないとな。そんな事を思いながら、驚く少女の顔を最後に俺の意識は遠のいた。