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004「ダイ15歳……高等部へ」



――師匠の元で修行を始めて九年……俺は十五歳になった。



「師匠……」

「あん? 何じゃ、まだおったのか? 早く家に帰りな!」


 師匠、ミーシャ・アイゼンハワーとの修行生活も終え、俺は師匠に別れの挨拶をしに来た。


「……俺、本当にここに来るまでは世の中のこととか家のこととか何も知りませんでした。いろいろ教えてくれてありがとうございます」

「う、うううう、うるしゃい! そんなしみったれた話、あたしゃ嫌いだよ!」


 そう言って、ロリババア師匠は頬を赤らめながらプイッ! と可愛くそっぽを向いた。


 ここでの生活は最初は大変だったが、師匠が厳しいなりにも丁寧に教えてくれたおかげで俺はすごく成長できた。口は悪く、ロリババアな師匠だが俺はそんなロリババア師匠のことが好き……、


 ぎゅううううう……。


「痛ててててて……っ!?」

「おい、ダイ……お前、今、心の中で私のこと失礼な呼び名で呼ばなかったか?」

「い、いへぇ、しょ、しょんなこと……ないれしゅ!?」


 俺は師匠に頬をつままれながら『誤解だ!』と弁明した。


 相変わらずするどい。


「はあ……まあよい。とりあえず、これでお前の修行は終わりじゃ」

「はい」

「あと、この九年間でお前の父親のライ坊からお前には『力の制御』や『世間の常識』を教えるよう言われていた。実際、ワシはお前にそういう教育をしたつもりだ。まあ、『力の制御』については心配しておらんが問題は『世間の常識』に関してはかなり……心配じゃ!」

「そ、そうですか? この世界のこととか種族、政治の勉強はしっかり理解していますよ」

「そういうとこじゃない。そういうとこではなくお前の……『常識』のズレのことを言っている」

「そ、そんなことないですよ。俺は空気を読めるマンですよ~……はっはっは」


 俺は『ご心配なく!』という想いを込めて拳でドンと胸を叩いた。


「はぁぁぁぁ~~……こういうところがなぁぁぁあぁ~~~~~」


 師匠、頭を抱える。


「だ、大丈夫ですって。師匠」

「……あたしゃ、お前のそういうところが心配じゃよ」

「は、はあ……」


 その時の俺は師匠が言ったことにまったくピンとこなかった。今思えば『知らないって怖い』と思うが。


「まあよい。とりあえず家に戻ったらライ坊……父親と話をするのじゃよ」

「はい!」

「ふむ。あと、お前は今年から高等部へと進学となるがくれぐれも…………目立つなよ」


 師匠の目がギラッと光る。


「あ、当たり前じゃないですか~。それくらい俺も理解してますって~」

「じ~~~……」


 師匠はなおも疑いの眼差しで俺を威圧していた。


「まあよい。では、これで本当に最後じゃ。なんだかんだでよく頑張ったな、ダイ」

「し、師匠……」

「では、元気でな」

「ありがとうございました……じゃあ、俺、行ってきます」


 俺は師匠との最後の挨拶を済ませると、


「アクセスゲート」


 と、自作した『空間転移魔法』の魔法名を告げ、普通に空間を移動する為の次元の穴を展開した。


「おいっ!」

「うわっ?! な、何ですか、師匠……突然」

「ダイ、何度も口を酸っぱくして言っておるが最後にもう一度だけ言っておくよ……この自作の『空間転移魔法』も含め、『他の自作魔法』を人前で無暗に使うんじゃないよ! いいねっ?!」

「わ、わかってますよ~」


 俺は『大丈夫、大丈夫』と笑いながら師匠に手を振ると、


「お前、マジ、わかってるか? 殴るぞ?」


 ちょっとマジギレされた。師匠、超怖いんですけど。


「わ、わかってます?! 本当わかってますって!」

「……ふぅ、まあいい。頼むぞ」

「は、はい。そ、それじゃあ、師匠…………お元気で」

「ふん。はよ行け……」


 そう言うと、師匠は俺に背を向けゆっくりと森の中へ消えていった。


「……これまでありがとうございました。ミーシャ師匠っ!」


 俺は師匠の背中が見えなくなるまで感謝の想いを込めて深く頭を下げ続けた。 


 こうして師匠との九年間の修行生活が終わった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「ただいま、父さん、母さん、レイ兄さんっ!」



 家に戻ると、両親とレイ、そして使用人全員が揃って俺を出迎えてくれた。


「よく今日まで本当に頑張ったな、ダイ!」

「体も口調も変わっちゃって……成長したのね」

「おかえり、ダイ。だいぶ成長したようだな」


 俺はこの九年の間に背も175センチまで伸び、ある程度筋肉もついた。とは言え、父や兄に比べれば体も筋肉もちっちゃいがな。


「それにしてもダイ……その髪型、独特だな」

「え、そ、そう? はは……」


 レイが俺の髪型について指摘する。そりゃそうだ。だって…………ウルフカットだもの。


 修行中は髪も伸ばし放題だったので父と同じようにかなりの金髪の長髪だったが、長い髪は手入れが面倒なので家に帰る前に床屋に寄った。その際、髪型は地球にいた時に気に入っていたウルフカットにしたかったので、床屋の親父に指示をしてウルフカットを完成させた。この世界でウルフカットが誕生した瞬間である。


 後に、このウルフカットが流行ることになるのだがその話は今度時間があれば話そう。


 そうして一通り、軽く言葉を交わした後、俺は姿勢を正して父と母に報告をした。


「父さん、母さん……ミーシャ師匠には修行だけでなくこの国のことや世界のこと、政治のことなどいろいろと教えてもらいました。あと、父さんと母さんのことも……」


 俺はそう言って父さんと母さんを見つめる。


「そうか……では、もう知っているのだな? 私たちが『英雄五傑ファイブスター』……」

「『戦場の暴君』と『冷徹の舞姫』ですねっ!」

「「その二つ名で呼ぶのはやめろ(やめてちょうだい)っ!」」


 お約束のやり取りが終わったところでレイが声をかけてきた。


「驚いたろ、ダイ」

「う、うん! この国を救った英雄が両親だなんて……いまだに信じられないよ!」


 実際、『英雄五傑ファイブスター』という『五人の英雄』がいなかったら、50年前に起こった『種族間戦争トライバル・ウォー』で人間の国なんて存在せず、他の種族の奴隷となっていただろう。そんな『英雄五傑ファイブスター』はこの国では誰もが知っている英雄だ。


「私もそう思うよ。まあ、『英雄五傑ファイブスター』は皆、二つ名でしか世には出回っていないから誰がその本人かまではわからない。とは言え、それが両親と知ったときには私もかなり動揺したよ、はは……」

「そ、そうだよねー。やっぱ、レイ兄さんも動揺したんだ」

「当たり前だろ! 正直、『英雄五傑ファイブスター』だなんて言われても最初はどうしても信じられなかったよ!」


 俺はレイと久しぶりに会って話すのが楽しくなりいろいろと話をしようとしたが、


「待て、ダイ。レイとの話もいいが、まずはお前の今後についてを話そう」

「……今後?」

「うむ。お師匠様からも聞いていると思うが学院生活ではくれぐれも『力の制御』には気を付けるんじゃぞ。正直、お前の力は私やマリア、そしてレイよりもはるかに上だ。そんな『規格外な力』を人に知られてしまうとお前を狙う輩が必ず出てくる。少なくとも各州の貴族連中は放っておかんだろう。仲間になるよう言ってくる奴もいると思うが、下手をすれば『邪魔な存在』と考え、お前を亡き者にしようとする奴らも出てくるかもしれん。いずれにしろ、お前の力はこの世界ではそういう位置づけになるということじゃ」

「そ、そんな、大げさな!?『英雄五傑ファイブスター』の父さんや母さんどころかレイ兄さんにだってまだ全然及ばないよ、俺なんて……はは」

「「…………?!」」


 父さんと母さんが俺の発言を聞いてしばらく固まっていた。すると、


 ガシッ!


「!?……か、母さん?」

「ダイ! お前……本当にそう思っているのかいっ?!」


 母さんが俺の肩を掴みながら、若干目を血走らせて俺を問い詰めた。


「え?……う、うん」


 母さんはガクッと両膝をつく。


「お、お師匠様……ちゃんと教えなかったのかしら?……ダイの強さのこと」


 母さんはワナワナと震えながら両手を顔にあてる。


「い、いや、師匠からも『俺の力は強力過ぎる』とは言われてるよ。でも……」

「でも?」

「でも、『大げさだな~』て言ったら殴られそうになったけどね、はは」

「「当たり前でしょ(だ)っ!!」」


 二人が全力で俺に向かって声を上げた。


「お前……自分の力がどれほどのものかわからんのか?」


 父さんがすごい形相で俺に問い詰める。


「い、いや、だって……英雄五傑ファイブスターの父さんや母さん、高等部も首席で卒業して今では最年少の王立軍の新鋭隊長で活躍しているレイ兄さんより強いなんて……」

「「事実だ(よ)!」」


 今度は母さんとレイが口を揃える。


「ま、まさか……そんな……」

「いいか、ダイ、考えてみろ。お前はまだお師匠様のところに行く前の五歳の時点で私と互角に張り合うレベルだったのだぞ……それがどういうことかわからないのか?」

「そ、それは……」

「もちろん私も現役からはだいぶ遠ざかっている……とは言え、五歳の子供が私を相手にあれほど互角に渡り合えるわけないだろう!」

「……」


 師匠のところで修行していたのが長かったこともあり、俺はそのことをすっかり忘れていた。当時は父さんの実力は『一般的な大人より少し強い』くらいに思っていたので、自分の強さはそれなりのものだと思っていた(まあ、それでも凄いと感じてはいたが)。しかし、こうして改めて考えると確かに『英雄五傑ファイブスター』だった父さん相手に五歳の自分が渡り合っていたことを考えると…………三人(プラス師匠)の言っていることがマトモであることを俺はやっと理解した。


 こうして俺は、師匠が口を酸っぱくして言っていた『常識のズレ』を三人に諭された。


「じゃ、じゃあ、俺、学院生活はどうすれば……」

「うむ。さっきも話したが高等部では力を周りに知られてはいけない。知られれば『面倒事』が舞い込んでしまうからな。だから『力の制御』は徹底するんだぞ」

「う、うん。わかった」

「ダイ……私のときもそうだったが、お前のような『大きな力』というものに嫉妬するものは多い。特にまだ学生の身であればなおさらだ。だから、できるだけ厄介事には首を突っ込むなよ」

「わ、わかったよ、レイ兄さん」


『文武両道の天才』である兄さんも高等部時代にはいろいろあったのだろう。レイの眼差しは真剣だった。


「ダイ……母さんも父さんもレイもあなたに何かあれば必ず守るわ。でも、私と父さんは『英雄五傑ファイブスター』であることを皆には隠しているから目立つことをしてはダメよ」

「う、うん。ありがとう……母さん」

「うむ……分かればよいのだ、ダイ。まあ、そこさえしっかりしておけば私たちは何も言わん。学院生活を大いに楽しみなさい!」

「高等部は楽しいぞ、ダイ!」

「う、うん! ありがとう、父さん、レイ兄さん!」

「よし。それじゃあ夕飯にしましょ! さあ、食事を持ってきて!」


 マリアはそう言うと使用人に食事を運ばせるよう指示した。


 こうして俺は三人から『厄介事には首を突っ込まない』という高等部での心得をしっかり教わり学院生活へと入っていく。


 まあ、実際はいろいろと『厄介事』に巻き込まれることになるのだが……。




そろそろ……ストックが……がはっ?!

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