002「五歳になる頃には……こんなんなりました」
――さて、時は流れ、俺は五歳となった。
この頃になると、喋ることも体を動かすこともだいぶできるようになり、俺の勉強と行動範囲はさらに広がった。
前にも話したが、この頃には父の剣術と武術のすべてを習得していたので父との組手は手加減無しの組手となった。
まあ、勝つことはなかったがそれなりに父を苦戦させるくらいには実力はついていたと思う。
それからしばらくすると、父親がけっこう家を空けることが多くなった。
母親のマリア・エスティオットの話だと、王都からちょくちょく呼ばれることが多くなったからだと言っていた。何で呼ばれているのか理由を聞くと少しはぐらかされるような感じで教えてはくれなかったので、俺は自分なりに『領主の仕事』についてお咎めを受けているのかな、と思っていた。
まあ、これも俺の『大きな勘違い』だったけどな!
そこで、この頃からは今度は『魔法』についてさらに掘り下げて勉強しようと『実践重視』で一人、黙々と魔法の研究をしていた。
すると、それを見た母のマリア・エスティオットが結構驚いた顔をして固まっていた。
どうしてそこまで驚いているのか当時の俺には理解できなかったが、今、思えば驚くのも無理もない、とわかる。その時、俺がやっていた『魔法研究』というのが『オリジナル魔法の生成』……と言えばわかるだろ?
ただ、母はそんな俺に驚きながらも、その後は父のように俺の『魔法研究』で足りない部分や、本には載っていない魔法のことも教えてくれた。
そんな『魔法研究』が一段落した後、しばらくしてから兄が久しぶりに家に帰ってくるということで家の中が少し慌ただしくなる。
俺の兄である『レイオウガ・エスティオット』は今年十歳で、本来であれば初等部の五年生なのだが、八歳の時『飛び級』で中等部に上がり、今は『中等部の三年生』として在籍している。そして、その八歳から今まで中等部の寮で生活をしていた兄のレイオウガ……レイが約二年ぶりに帰ってくるということで皆がバタバタと出迎えの準備をしていた。
ちなみに、今回、帰ってきた理由は高等部の入学試験を合格したということでの報告を兼ねての帰宅だった。
十歳にして『高等部』への進学……しかも、話によると『首席合格』らしい。
いわゆる『天才』というやつだ。
そんな兄のレイは俺の憧れだった。
俺が覚えている兄レイは『飛び級』で中等部の寮へ行くまでの三年間だけだったが、いつもやさしく、そして強い兄だった。
いろんなことを知っていて博識であり、また、体も大きい割に身軽で運動神経も抜群という、『文武両道を兼ねた天才』という兄を俺は尊敬していた。
ちなみに兄のレイは、母と同じ綺麗なエメラルドグリーンの髪色をしているが、褐色目でライオンヘヤー、おまけに体格もまだ十歳だがすでに一六〇センチメートルと髪以外は体格も含めて父とそっくりだった。
そんな兄が二年ぶりに帰ってくるということだったので、俺は兄の帰りを今か今かとソワソワして待っていた。
それから三日後、兄が帰ってきた。
父は相変わらず不在だったが、レイは父とはここに来る前に一度学校で会っており、今日、家には帰れないということを聞いていたとのことだった。
俺は兄に会うのが嬉しくて、たまらず全力でぶつかって抱きしめた。
すると、レイは少し後ずさりしたがしっかりと俺を受け止めてくれた。やっぱり、相変わらず強い兄貴だと俺は改めて尊敬の眼差しでレイを見つめた。
その後、レイは母と少し話があるからと言って母の部屋へ入っていった。まあ、母に改めてしっかりと高等部の首席合格の報告をするためだろう……俺は『さすが尊敬する兄レイ。しっかりしてる!』と目をキラキラさせて二人を見送った。
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「は、母上……」
「動かないでっ! ゆっくりと、ベッドに横になりなさい…………今、治療してあげるから」
マリアはそう言うとレイをベッドに仰向けに寝かし、レイのみぞおちあたりに手をかざし、回復力の早いS級快癒魔法『ヒレスティア』をかけた。
「あ、ありがとう……」
レイの青ざめていた顔に赤みが戻ってきた。
「よく、耐えたわね……レイ」
「お父さんから話は聞いていたけどあれほどとは……ね。正直、お父さんの話はだいぶ誇張されていると思っていたよ。でも……突然だったとはいえ、ダイが僕に飛んできたとき瞬間的に防御を最大限まで高めたんだけどそれでもこれほどのダメージを負うなんて……ハハ、世界は広いというけれど、こんな近くに『凄い』のがいるなんて……しかも、弟とは」
レイは苦笑いしながら、しかし、嬉しそうな顔をして呟いた。
「……レイ、あのね、実はお父さんがいなくなってあなたが来る前にダイはさらに成長したの……魔法のほうでね」
「えっ? ま、魔法まで?! お父さんからは剣術と武術だけしか話は聞いていなかったけど……?」
「ううん……あの子、元々、剣術や武術よりも『魔法』のほうが好きだったのよ。ダイは三歳の頃からすでに自分で魔法の専門書でずっと勉強してたわ」
「ま、魔法の専門書っ?! 三歳の時に?! そんなまさか!? 大人でも難しくて読めないものなのに……?」
「本当よ。あなたに今さらウソなんて言うわけないでしょ?」
「で、でも、それって……ダイの奴、これ以上どこまで……」
「しかも、最近やっていたのはお母さんも最初偶然見かけたときは驚きすぎて固まったんだけどね…………作っていたのよ、魔法を」
「え? 魔法を……作ってた?」
「オリジナル魔法の……生成よ」
「!! バ、バカなっ?! そんな……『オリジナル魔法の生成』なんて、この国の魔法学者や専門家でもまだ実現していないものを……」
「信じられないかもしれないけど事実よ、レイ。私は実際に見せてもらったからね、あの子から」
「ち、ちなみに……どういう……オリジナル魔法だったの?」
レイはおそるおそるマリアに尋ねた。
「……空間転移魔法よ」




