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プロローグ後編「大いなる勇気と異世界転生」



 不良たちに拉致られた榊大介は、その後、不良たちがリンチの時に使う通称『リンチ場』という、民家や町から離れた今は使われていない登山客の休憩所だった場所へと移動。


 そして、その『リンチ場』で不良たちは暇さえあれば榊大介を殴り、殴るのが飽きたら、生爪や歯を力任せにペンチで剥いだり、熱く煮えたぎったお湯に顔を無理やり突っ込ませたりと、まるで『おもちゃ』で遊ぶかのように榊大介の体を、残酷に、残忍に、好き勝手に傷つけた……そして、



「やめろぉぉぉぉ~~~~~~!! もう……やめて、くれ」



 俺が死ぬまでの一部始終を淡々と語っていた老人に止めるよう叫んだ。


 そう、すべてを思い出したからだ…………あのリンチされた『恐怖の二日間』を。


 それは想像を絶するリンチだった。言葉にするだけでも恐怖のあまり震えが止まらなくなるほどに。


 幸い……というのも変だが、二日目の朝、不良の一人が『金属バット』で手加減無しのフルスイングで俺を殴ったおかげで、『二日間に渡る長いリンチ』と『十六年の生涯』を終えた。


『死ぬことは怖い』と人はよく言うが、この時の俺からすれば『不良が間違って殺してくれた』ことに感謝した。


 それくらい……あの二日間はまさに『死んだほうがマシ』だと思わせるほど、残忍で、残酷で、一切の慈悲のない絶望と恐怖の二日間だった。


「すまない……。ワシはお主が死んで本来の自分である『魂』に戻ったことを気づかせるのが仕事でね……悪いことをした」


 老人はそう言うと俺に謝罪し頭を下げた。


「あ、いえ……今は少し……落ち着き……ましたから?」


 俺はさっきまでリンチされた記憶を戻されてパニック状態となっていたのだが、しばらくすると、スッと気持ちが急激に落ち着いていくのを不思議に感じた。


「うむ。この世界では感情の起伏はすべてフラットへと戻るよう調整が施されている。お主の今のパニック状態の回復もそれによるものじゃ」


 確かに老人の言う通り、今は精神的にすごく安定しているというか……まるで温泉に浸かっているようなリラックスした状態になっていた。


「榊大介よ、お主のおかげで彼女は救われた。何よりお主のその行動は『大いなる勇気』そのものだ……よくやった。ちなみにあの不良たちはお主の死後、警察の捜査により捕まることとなったが彼らは未成年ということや彼らが『やったことに対して後悔している』といった演技をし、また、それが受け入れられ、結果、少しの服役で少年院からすぐに出所した」

「そ、そんな……」


 俺は老人の話を聞いて愕然とした……が、


「まあ、話はそこでは終わらん」

「え?」

「裁判で周囲をまんまと騙した彼らだったが、出所後、彼らのリンチで被害を受けた男に三人全員殺されて生涯を終えたよ」

「え? 被害者に?」

「うむ。彼らは男女構わずお主と同じように拉致をしてリンチや強姦を繰り返していたのじゃ。そして、その内の被害者の一人がその三人を復讐目的で殺したのじゃ」

「そ、その不良たちを殺した人は……?」

「……その子は三人を殺した後、すぐに自害しよった……悲しい事件じゃったわい」

「そ、そんな……」

「まあ心配には及ばんよ。その子は死後、しかるべき場所へ、しかるべき新しい命へと転生し……今は幸せに暮らしておる」

「そ、そうですか……よかった」


 俺は死んでしまったけど、最後は人助けみたいなことをして死んだのならそれはそれでよかったなと、俺の人生そう悪いものでもなかったな、と、一人心の中でちょっとした充足感に浸っていた。


 老人はそんな彼の姿をジッと見ながらフッと笑みを零す。


「さて……」


 しばらくすると、老人がふいに話を始めた。


「……お主は死んだ。具体的には、地球上で活動するために必要な『肉体』から離別し、本来の自分である『魂』へと戻ってきた」

「そうか……死んだんだよな、俺。それにしても『肉体』って地球で暮らすために必要な、その……コスチュームみたいなもの、なの?」

「うむ。本来のお主とは、今ここにいる『魂』がそれじゃよ」

「で、でも、あまり変わっていないような……」


 大介は自分の体を眺めてみたが特に変わった様子はなかった。服だって着ている。


「うむ。それは『お主がお主という認識』がその状態だからじゃよ」

「お、俺が俺という認識? ど、どういう……?」

「よい、よい。今のお主に言ってもわからないことじゃ。気にするでない。それよりもお主の次の転生について話すことがある」

「お、俺の……転生先?」

「うむ。人間だけでなく命あるものすべて死後、また新しい生命へと転生していく……それが『宇宙の理』じゃ。そして、その転生先じゃが、お主は地球ではなく別の並行宇宙の世界へ転生することとなる」

「別の並行宇宙の世界へ転生……? ん? それってまさか……?」

「うむ。お主が今、閃いたとおりじゃ」

「い、異世界転生……っ?!」


 ニッ。


 老人は少し悪戯な笑みを浮かべながら話を続ける。


「本来、並行世界への転生は、地球上で魂がしかるべき状態になるまでは許されておらん。しかし、今回のお主の『大いなる勇気』による行動が認められ、次回の転生先が並行宇宙への世界となった」

「は、はあ……でも、それって、別に何か神様になるとか、天国に行くとかそういうことじゃなくて、ただ、転生先が並行宇宙の世界に変わっただけで、また、人として赤ちゃんから生まれてその世界で生きていくってことですよね? それだったら地球に転生した時と何も変わらないんじゃないんですか?」

「うむ。表面的には一緒じゃな。しかし、いろいろと大きな違いがある」

「違い?」


 そして、老人はまたしてもニッと悪戯な笑みを浮かべる。


「それではヒントをやろう……」

「?? ヒント?」

「大いなる勇気による転生先のステップアップ……転生先が並行宇宙の異世界……お主の知っている漫画やアニメに出てくる異世界転生した主人公とは?」

「……え? そ、それって、まさか……俺がその……主人公……っ?!」


 老人から聞いたヒントを示すワードについて推測しようとした途端、俺の体の内側からかなり強い光がほとばしり、同時に体がスーッと透明と化していく。


「ちょ、ちょっと待って!? ま、まだ……聞きたい、こと、が」


 しかし、俺の声に反して光がどんどん増していくと同時に、その場にいる自分の存在感がどんどん加速して薄くなっていった。


 この世界から消える直前、ふと老人の言葉が聞こえた。


「……後はお主の生きたいように生きなさい。さすれば、道は自ずと開かれる」



 かくして、榊大介の新しい人生が『異世界』で始まることとなった。



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