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マイヤ参上!! 前編

マイヤを登場させたかったんだ。

 学校に来るようになって、数週間。


 日に日に増していくこの暑さに、夏を意識した太陽のやる気に嫌気が差す今日この頃。

 時刻は八時前。まだ多くの学生が登校の最中、もしくは準備中だろう。そんな中、俺はというと――実は学校に着いていたりする。


 最初こそ遅刻をしていたが、最近は慣れたもんで。

 今ではテレビでニュース、今日の天気、占いと一連の流れを見て、その後で一服するというこの余裕っぷり――ん? 何々、ラッキーアイテムは金髪? ねーよ、んなもん!


 そして、登校して教室に入るのが大体この時間。それでも、教室に入ると、実は既に登校してる人がいたりする。

 その人に、いの一番に会うために、俺はこの生活スタイルに変えたと言っても過言ではない。


 俺は教室のドアを開ける。そこにはいつものように、誰よりも早く来ている薄茶色の髪の女の子。

 ふわふわとした髪を揺らし、こちらを振り向く。そして、目が合うと――ニコッと笑い、こう言った。


「おはようリコルさん」


 んはああぁぁんん!! まじ尊い!!


 こんな可愛い娘が、こんな可愛いおはようをくれるのに早く来ない理由がないじゃない!

 今日も相変わらず可愛いらしい。こんな朝早いのに眠たそうな顔を一切していない。そんな彼女がくれる、笑顔のおはよう。それは毎日無理して起きている俺へのご褒美。それは毎日俺に目覚めをくれる太陽。誰だ太陽に嫌気が差すとか言ったクソヤロウは。俺だった……


 しかし悲しいかな。


 笑顔で挨拶をしてくれるルミスちゃんに、俺は手を軽く上げて挨拶を返すだけ。言葉を発することはない――だから俺は童貞なのか……

 そして、俺は自分の席に座り、腕を組んで瞼を閉じる。

 俺とルミスちゃんのやりとりはこれで終わり。今日一日を引っ括めてこれで終わりだ。

 ここで「おはよう」の一言くらい返せればまた違っているだろう。しかしながらそれは叶わない。


 というのも。


 忘れもしないあの日。俺が初めてこの時間に登校した日のことだ。

 ほんとに偶然だった。いや――もしかしたら、その時には運命ってものが決まっていたのだろう。

 きっかけなんて特にない。強いていうなら、偶然朝早く起きてしまって、テレビを見てたら占いが幸運で一等賞。お? 何かいいことありそうだ、って思ったくらいだ。

 気分を良くした俺はちょっと軽い足取りでそのまま学校へ向かった。けど、何も起こらなかった。当然だ、俺ん家から学校までの距離は歩いて十分少々。軽い足取りならもう少し早い。

 仕方ないと思いながらも、まだまだこれからって気持ちで教室に入った時――そこには幸運があった。


 今だからこそ言う。こんな時間に誰も居ないと思っていた。

 今だからこそ言う。かもしれない。を心掛けしとけよ俺……

 今だからこそ言わせて。そんないきなりはズルいよおぉぉ!


「お、おはようございます。リコルさん」


 幸運が俺を呼ぶ。

 しかし、俺は固まっていた。どうやら脳の処理が追い付いていないようだ。

 それでも何とか処理をさせた。そして捻り出した答えがこれ。


 あ……その……えっと……お、お……


 お互い無言になった。

 幸運を自らの手で手放した。


「び、びっくりさせちゃいましたね……ご、ごめんなさい」


 幸運が謝ってきた――良い子だ。そして、逃げるように俺から離れた……え?

 俺はその日やる気がなくなった。何度も何度も心で泣いた。心の涙は枯れた。そして俺は誓った――占いは絶対に信じないって。


 そんなことがあって。

 俺はそれ以来、挨拶は手で返している。

 そんな一件があっても。こんな俺に嫌な顔せず挨拶をしてくれる彼女。これは希望的観測と俺の独断と偏見による情報蓄積量から見ると、俺達やっぱり120%――ムフフ


 しかしながら。こんなぎこちない挨拶でも、俺はそれでもいいと思っている。どれだけ不運と思われようが、どんな悪運の巡り合わせであろうが。この二人きりの空間は俺にとっての幸せの一等賞なのだから。


 それでも。彼女が少しでも嫌そうな素振りを見せた時は潔く止めよう。彼女に嫌悪感を与えてまで俺は幸せになんてなりたくはない。


 そんなことを目を閉じて固く誓っていると、一人また一人と登校してきた。その度に聞く彼女の声。ああ、癒される。

 その中でも、一際教室のドアを勢いよく開ける大きい音がした。そして、大きな声でルミスちゃんが呼ばれ、こう言われていた。


「ルミッ!! 体操着忘れた。貸してっ!!」

「もう。マイちん、また?」


 マイちん!? 体操着!? またっ!?


 な、な、な……何と羨ましい。

 マイちん、君はその体操着で一体ナニを股……またするつもりなんだ――はっ!?


「ちゃんと洗って返すから」

「そういうことじゃなくて……もう、次は貸さないからね」

「サーンキュ、ルミ。大好き」

「そうやって誤魔化そうとして」


 ま、ま、まさかっ!?

 マイちん……それは良くないよ。その前に俺に貸してくれ! それを貸して欲しいって俺のマイちんも叫んでいるから!! ちゃんと洗って返すから!!


「あはは……」

「笑ってもダメ。次はほんとにないからね?」

「はいっ。ルミス様~」

「……もう、調子いいんだから」


 ――ん? そういえば。

 この声、どっかで……


 俺は目を開けて、ルミスちゃんと喋っているバカでかい声の方を見る。そこにはルミスちゃんの体操着――じゃなくて。それを持った金髪の――え?


「マ、マイヤ?」

「――あ? はあ!? リコ!?」

「え、マイちん? え、リコルさん? え?」


 俺の声でこちらを向くバカでかい声の金髪。振り向いた時の眼付け。間違いない、マイヤである。



そしたら、ねえ?

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