ルミスは疲れているようで
ということで、さりげなく除外解除してみたり。
異次元からの帰還かな?
学校が終わって、家に帰ってきた。
私はそのまま自分の部屋へ行く。部屋に入ると、無造作に鞄を投げて、ベッドに乱暴に身を預けた。
そんな少し行儀の悪い私を、嫌な顔せず優しく包み込んでくれるベッド。
そのふかふかで気持ち良い感覚についうとうとしてしまう。
このまま少し眠ってしまおうかな。明日は学校も休みだし。
睡魔が私を誘惑する。抵抗はするけど、多分いつの間にかに負けてると思う。だって――この一週間はほんとに疲れることばっかり起こったから。
私は改めて考える。私をここまで疲れさせたリコル・ガルトさんのことを。
彼との出会いは運命だった――いや、私が呼び寄せたっていった方が魅力的、かも……
私達の学校とリコルさん達の学校が共学になって。そしてたまたま私とリコルさんが同じクラスになって。
ここまでは単なる偶然だったけど、その後の出来事は私が望んでやったこと。
――それは私も皆も新しい学校に、新しいクラスに慣れてきて、異性の友達も出来てきた時のこと。
初日からある誰も使ってない椅子と机が気になっていた。
最初は余計に用意したのかなって思ってた。よくよく考えれば、あんな真ん中の席が余りなわけないはずなのにね。
でも、そう思うくらいに慣れない環境っていうのは思考を奪っていて。
でもでも、皆何も言わないんだもん。
私達女子校出身の子達も男子校出身の皆も何も言わないし。だから、余計に不思議で。
友達のユーちゃんやルッちゃんに聞いても分かんないしか返ってこないし、男子校のシラハさんとかに聞いても知らないって言うし。
だから、最終手段。先生に聞いたの。
そしたら、いつもニコニコしている先生の顔が真顔に変わってこう言った。
関わるな、知らなくていい事だ。って。
それを聞いて、ホラー系なのかなって思った。全てを知った時、呪われるみたいな。
でも、そう言われたら知りたくなるじゃん。だから、何度も先生にしつこく聞いて。やっと真実を知って。それが彼――リコルさんだって知って。
先生の話では、ついこの間までアーガルム矯正院に居たとか。もう出てきてるはずなのに、学校に来ないとか。
それを聞いて思った。とんでもないことに首突っ込んじゃったなあって。
けれども、何故かそれを上回るほどの好奇心があって。
アーガルム矯正院。マイちんから聞いた話だと、学校が手に追えない生徒を矯正させる施設だって言ってたと思う。
でも、そのほとんどがその辛さから監守さんに土下座とかして逃げるように脱獄するんだよとか語ってた気がする――それ脱獄っていうの?
そしてその後に、私はそんな半端もんと違い、あの地獄で魂の叫びを聞いて、刑期を全うしたんだよ、とか誇らしく言ってた――マイちん……誇るのはいいけど……ううん、何でもない。
そんな話を聞いた後にリコルさんの話を聞いて。
怖い人だったらどうしよう。とか、もしかしたら、襲われちゃうんじゃないかなとか思ったりして。
でも、会ったら意外と――ううんっ! 何でもない。全然そんなことなかったってだけ。
いざ会いに行くと決めた日。
何も持たないで行くのは不自然だったから、適当に理由をつけてプリントとか持っていって。
先生は「そんなことしなくていいのに」とか言って、関わりたくないって顔してた。
でも、興味が湧いたからというか何というか。せっかく同じクラスになったんだから、一度位は顔見たいなあって。それに、私も魔法の使い方とか魔闘とかは、それなりに自信もあるし。いざってときは……ね?
そして彼の家の前。
そういえば、初めて男の人の家に来たなあって。
ちょっと髪をいじってみたり、制服のよれとか気にして身だしなみを整えてみたり。それらが終わって息を整え――呼び鈴を押した。
少しして出てきたのは私と同じくらいの男の人。それはそうよ。うん、分かってた。けど、緊張してるからよく分かんない。
そんな自分を落ち着かせるように笑って見る――変じゃないかな……ぎこちなくなってないかな……
そんな私を見ながら彼は固まっていた――というか、誰だお前? みたいな顔してた。
……仏頂面が怖い。でも、そんな顔も少しカッコいいって思ってる自分もいて……
少し見つめ合ってると、だんだん恥ずかしさが込み上げてきて。私はまくし立てるように早口で用件を伝えた。
今でも覚えてる。私が喋ってる間ずっと、?マーク出していたリコルさんの顔。それを思い出して今でも悶絶することがある。ううっ……
でも、次の日。
ちょっと遅刻してきたけど、ちゃんと来てくれて。私が伝えたかったことがちゃんと伝わっていて、とりあえず一安心。
これから仲良くなれればいいなあ。なんて思ってると、そのまま先生に連れられていって。
その間ユーちゃんとかと、あの人が? とかカッコいいね、とか怖そうだね、とか女子トークで盛り上がってたり。
男子の皆は何か青ざめてたけど――そんな状況を密かに察していたり。
そんなざわめきが起こってたなんて知らずに、リコルさんが戻ってきた。それはお昼の後の授業だった。怒られたりしてたのかなとか、ちゃんとお昼ご飯食べたかなとか考えていた。
けれども。
リコルさんの実力を見た時、そんな柔らかい思考が飛んじゃった。
興味本位で私はリコルさんに振ったけど、まさかこんなことになるなんて思ってもなかった。
魔法水晶を割ったリコルさん。
その衝撃的な光景を目を丸くして見つめる私達。
私はそれを目の前で見た。何が起こったのか理解するのに時間がかかった。そして理解した時に思った――この人、どのくらい強いんだろうって。
それを確かめる日はすぐにきた。
魔法闘学の授業で、私はリコルさんと力試しをすることになった。
っていっても。私が自ら望んだことなんだけど。
リコルさんと魔闘するために、私は前に出る。
幸い、リコルさんと闘いたいって思う人はいなくて私の希望はすんなりと通った。当たり前だよね、水晶を割るくらいの実力なんだもん。
案の定というか、ユーちゃんとルッちゃんに止められた。でも、私は止まらない。
心配してくる二人を見て、私は笑顔で「大丈夫だよ」って伝えた。
そして、リコルさんと対面する。
あんな光景を見た後だけど、不思議と怖いとかは感じない。寧ろ、今の私がどれだけ通用するんだろう。そんなことを思って、わくわくしてる私がいた。これがマイちんが言ってた魂の叫びってものなのかな?
ダメッ! そんなこと思うと、顔がニヤけちゃう。
そんな私とリコルさんの目が合った。
気のせいかもしれないけど、私を見て、ちょっと引いてるような、可哀想なものを見るような、そんな目をしていた。
――顔がどんどん熱くなっていくのを感じた。だから、誤魔化すように私は言った。
「き、緊張しますね……」
「あ、ああ」
「でも、ちょっと嬉しい、かも」
苦笑いを返された。うん、気のせいじゃない。絶対引いている……
だったら!
私はそんな子じゃないってことを証明しないとっ!!
そんな私の意気込みを汲み取るように先生は合図を出した――
――でも。
「全然通用しなかったなあ……」
私は呟く。その声は孤独に寂しく消えて行く。
闘ってみて、その実力差を思い知った。
無駄のない身のこなしも圧倒的な魔力量も。
そして私と彼との差も。
私の全力の魔法を涼しい顔して受けたリコルさん。
もうちょっと辛そうにとか痛そうにしてくれれば、こんな落ち込むことないのに……
って、止め止めっ!
そんなこと思うなら、強くなるためにもっと勉強するとかもっと身体を動かすとかしなさいよ、私!!
それにしても。
まだあの感触が残ってる。
少しぎこちなく振った手刀。でも、全然痛いってこともなくて。寧ろ、優しい感触で。まるで宝物を傷つけないように丁寧に優しく扱うような感じに思えて。ちょっと意地悪してやろうって思って、わざと痛がってみたりして。
そして、あの言葉。
――ププッ
思い出して、笑いが漏れた。
リコルさん――それは流石にないよ。私もあんまり詳しくないけど、それは流石にあり得ないよ――ふふっ。
笑ったおかげで少し眠気がなくなった気がする。これもリコルさんのおかげかなあ。
また眠気がくる前に、先にやることやっちゃいますかっ!
私は身を預けていたベッドから勢い良く立ち上がり、まずは制服から部屋着に着替え始めた。
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