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休みも波乱でして

え?、え?、え?

 そんなこんなで数日が経ちまして。


 今日は学校が休みの日。そんな日は友達と遊んでいる学生や家でゴロゴロしてる学生が大多数だろう。

 クラスの皆も、今頃は各々の時間を有意義に使って疲れた身体にリフレッシュを与えていると思う。


 俺だってそうしたい。けど、俺学校に友達居ないし。寂しい奴とか言わないで!

 だったら、家でゴロゴロするしかないじゃない。とか思うけど、実はそうでもなかったり。


 俺達は朝早くからある場所に来ていた。そこは王都の外れの方。

 ここに来るまで見たものっていったら、作物が育った畑と水が引き終わったばかりの田んぼ。後は、ポツポツと建っている家と広がる草原くらい。

 華やかな都からは想像も出来ないくらい殺風景なんだけど、それがまた良い。

 耳を澄ませば、草木を揺らす風の音が聞こえる。

 鏡のような水面が映し出す美しい風景が見れる。

 虫や小鳥なんかが風の音色に合わせて踊ってたり歌ったりしていて。

 のどかな感じなんだけど、賑やかさを感じられたりもして。


 そんな場所に佇む、とある一軒家に来ていた。

 といっても、それを家と呼ぶにはもうボロボロ。寧ろ、徐々に解体されつつある。

 時刻は十時を過ぎたところ。

 朝のヒンヤリした――ってのは大袈裟かもしれないが、空気も太陽がだいぶ暖めてくれたおかげで暖かい。でも、ちょっとばかしそれを憎む。今は動いたばかりで若干暑く感じてしまうから。


 簡易的に作られたプレハブ小屋から引っ張り出してきたパイプ椅子に座りながら、これまた小屋から引っ張り出したテーブルに飲み物と煙草を置いて寛いでいる。


 話を聞くと、この家は十数年間誰も住んでいない空き家だったらしい。何でも家主のおじいちゃんが亡くなってからずっと放置されていたとか。


 で。俺が何でそんな場所に来ているか?

 簡単に言うと、仕事だ。

 仕事といっても、知り合いの手伝いだ。そして、知り合いってのが俺の隣で渋い顔しながら煙草を吸っている厳つい男。

 その雰囲気は、ほんとに俺と同い年かと思うくらい完熟しているが、同い年である。


 この前一緒に銭湯に行った時、その引き締まった身体を見て驚愕した――デカイということにも驚愕した。

 それと俺との身長差。見降ろすように覗くその鋭い眼光に、初めて出会った時はチビりそうになった。

 でも喋ってみると、案外優しい奴で、少し抜けているところもあって、思いの外熱い男で。


 施設で過ごした最後の夜、夢を語り合った。こいつが語ってくれたのは、俺は親父のような男になる、だからここから出たら俺は親父に弟子入りする。っていう夢。

 そして今、夢に向かって走るその姿やっぱかっけぇよ。俺? つい最近まで不登校だったよ、言わせんなっ。


 そんなこいつ――ガンちゃんに、俺は学校での出来事を話した。


「――ってことがあったのよ」

「ふーん」

「いや、ね。俺がそう感じるんならガンちゃんもあり得るかな~って」

「へえー」

「で、ガンちゃんはどうなの?」

「うーん」

「……俺の話、聞いてる?」

「うん、聞いてる聞いてる」


 ……ほんとか? ほんとに聞いてるか? さっきから生返事しかしてないぞお前。

 そんなガンちゃんが吸い終わった煙草を消しながら、俺に衝撃的な事を言った。


「リッコ、お前今頃気付いたのか?」

「え?」

「俺は勿論、マイヤも強くなってるし。っていうか、強さで言うならお前が一番変わったぞ」

「――まじで?」

「まじで」

「いつ気付いた?」

「施設に居た頃。お前、日に日に慣れていった環境に疑問を持たなかったか?」


 そう言われれば。いや、でも、あれはただ単純に身体が環境に慣れたとばかりにしか思わなかったよ、俺。

 そんな俺の心を読んだのか、ガンちゃんがため息を吐くように煙を吐いてから続けた。


「お前……だから童貞なんだよ」

「か、か、か、か、関係ねーだろ、それは」

「ククッ、冗談だ。えっと――ああっ、そうだ。出所も近づいた時には確信に変わってた。明らかに魔力量も上がってるし、何より施設版魔闘で看守とそれなりに渡り合えてたし。

 いや~、そっからは一日一日が楽しかったな~。マイヤも楽しいって言っていたっけ。それを気付かずに過ごしてたなんて――ククッ、だから童貞なんだよ」


 おい、自分で振っといて何オチで笑ってんだよ。っていうか、何俺をオチに使ってんだよ――誰が童貞だクソヤロウ。


 それにしても。

 そうか。俺強くなってんのか――ん? ってことは――


「魔法水晶破壊したのって」

「お前」

「魔闘中、咄嗟に避けることも出来たのも」

「寧ろ、そっから反撃出来たはず何だよな~」

「ルミスちゃんと相思相愛なのも」

「――そう思ってるところが童貞なんだよ」

「黙らっしゃいっ!」


 と、冗談はさておき。

 実際こういう風に改めて確認していくと、けっこうぶっ飛んでるっていうか何というか。

 だけど、俺に実感ってのが無い。それは勘違いだ、って何回もかぶりを振ってきたから。


 そんな俺にガンちゃんはまだ半分も残っている煙草を消して、おもむろに立ち上がり、言った。


「――そんな信じられんねーなら少しやってみっか?」

「ん? 何をだよ」

「決まってんだろ――俺とお前で魔闘をよ?」


 俺を見降ろすガンちゃん。

 本気だぞ? 俺を捉えるその鋭い眼光は、それ以外を語っていなかった。

 俺はそれを見据えながら立ち上がり、言った。


「上等」


 それを聞いて、ガンちゃんがニヤッと口角を上げた。


 ――移動してきたのは見晴らしの良い草原。

 一応、周りに被害が及ばないようにこの場を選んだが、どうなるかは分からない。


 実感が湧かないとはいえ、俺もそれなりに強いってことが証明されているから。そして――相手はガンちゃんだから。

 ガンちゃんはむちゃくちゃ強い。施設に居るときに見た強さは、やべーなって何回も思った。


 そんなガンちゃんと俺が相対する――うん、本気でやんねーと死ぬなこれ。

 ガンちゃんが身体を解すようにゴキッゴキッと音を鳴らしている。それはまるで、これから始まる出来事の合図のように思えた。

 来いよ。見据えた目は挑発するようにそう語っていた。安い挑発だなってことくらい分かっている。けど、それに簡単に乗ってしまうほど今の俺は熱くなっていた――いいぜ、やってやるよコノヤロウ。


 俺は左拳を握る。そこに魔力を集中させ、振りかぶる。そしてそのまま身体をひねり、ガンちゃんの顔目掛けて打った。


 その瞬間、俺の視界は急激に変わった。

 さっきまでガンちゃんを捉えていた目は、空を見ている。背中と足からは痛みを感じる。

 一瞬の出来事だった。投げられたと気付くまで、少し時間がかかった。


 目一杯に広がる青空が暗くなっていく。そして、それは俺の目の前に落ちてきた。


 俺は腕をクロスして、降ってきたゴツゴツの拳を防御する。

 痛ってぇ――岩石のように硬いそれを何とか腕で持ちこたえ、俺はガンちゃんの顔面目掛けて蹴りを入れる。

 しかし、俺の足は空を蹴る。けど、それでいい。

 俺は足を戻す動力を使って勢いよく起き上がる。そして態勢を立て直した。


 ジンジンする腕。拳の固さ。咳き込む苦しさ。ドクドクと音をたてながら身体中を駆け巡る血。


 俺の身体を襲う痛みと興奮。こんなもん知らない方が良い。知っていても良いことなんて何もない。それに――こんな快感知ってしまったら、もう引き返せない。


 俺はガンちゃんを見据える。そして、もう一度腕に魔力を集中させる。

 さっきまでの痛みはもう感じない。多分、感覚が麻痺してるからだろう。


 俺は地面を蹴り、そのまま一気に駆ける。

 そして、振りかぶる。このまま振れば、また同じことの繰り返しになる。だから――


「うおっ!?」


 俺は集中させていた魔力を放出してやった。俺の(仮)さ・い・あ・いっ! のルミスちゃんと同じやり方。これで俺達――ムフフ。


 まあ、ルミスちゃんほどの威力は出ていない。流石俺の(仮)ルミスちゃん! さいかわ、さいきょうですっ!! けど、ガンちゃんの態勢を崩すには充分だったようで。へへっ。面食らってやがる。


 俺は再度、拳に魔力を集中させ、豪快に引き絞り、放った。


 俺の放った一撃がガンちゃんの胸元を捉える。

 しかし、その直前に強化魔法を使われた。

 それでも、鍛え抜かれ、盛り上がったその胸筋に、俺は拳をめり込ませる。

 それを喰らって、足をフラつかせ、後退するガンちゃん。

 そして、俺は思い知った。いや、改めて実感した。


 クッ……クッソ……くそ痛ってえぇぇえええっ!!


 これ絶対折れてる! 絶対に折れたよ、これ!! ――ごめんなさい、盛りました。折れてはないです、はい。

 殴った拳の痛さ。俺はその場で泣き叫びたかった。心では泣き叫んでいた。

 何で殴った方の俺がこんな痛い思いしなきゃいけないのよ? ガンちゃんの強化魔法、固すぎでしょうよぉおお!!


 俺はガンちゃんを見る。俺に殴られた箇所を手で擦っていた。何でお前はそのくらいで済んでのよっ!?

 そんな俺を見て、ガンちゃんは少し笑みを浮かべて言った。


「いや~、あれから不登校していたとは思えねーな。案外鈍ってねーじゃん」

「いや、俺クッソ痛いんだけど?」

「お前と違って俺は鍛えてるからな。」


 豪快に笑いながら答えるガンちゃん。何でそんなに余裕なのよ、ほんと――っていうか、さりげなくディスってんじゃねーよ。まあ、事実だけどさ……

 ひとしきり笑い終わった後、ガンちゃんは真面目な顔をして話を続けた。


「まあ、でも――これで分かったろ? 俺達が強くなってるってこと」

「まあ、なんとなくは、ね」

「ってことで、自信持て。お前は強い。そして、強くなっていく。そしたら、またやり直せんじゃねーの?」

「……そうだな」

「ククッ。照れんな、照れんな。だからククッ――」

「それはもういいっ!」

「ククッ、冗談だ。まあ、お互い頑張ろうぜ」


 拳を突き出しながら、そう言うガンちゃん。それに応えるように俺も拳を突き出す。

 そして、それを合わせた時、思い出したかのように激痛が走った。


 今度こそ、泣き叫んだ。ガンちゃんは爆笑してた。

 そして――今日の仕事量をガンちゃんの親父さんにめちゃくちゃ怒られた。




ああ、そういうことか。除外の意味ねーじゃん!

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