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一難去ってまた一難でして

これは小説ですか?

 暗闇の中、俺を呼ぶ声がした。

 そいつはとてもやかましく鳴り響くが、感情というものはない。俺を起こすために叫び続けている。そう言っても過言ではない存在だ。

 俺は今も叫んでいるこいつの口を封じるように丸っこい体型の頭を叩く。この動作で今日こいつが俺に口を聞くことはない。


 眠たい目で確認した時刻は八時三十分。おいおい、まだ朝じゃねーか。ってことでもう一眠り……じゃねーよっ!


 ま、まじかっ!? ま、まじかぁ……


 俺はもう一度、確認する。しかし刻まれていた時刻はさっき見たのと一緒。


 やっちまった。二日連続の遅刻だ――――まあ、いいか。

 俺は起き上がり、今まで身体を潜らせていた布団を畳む。

 さっきまでの眠気も今はない。けど、眠気覚ましにカーテンを開け、ベランダに出る。


 ああ、そうだ、煙草と灰皿。


 嘘ついた。まだ眠気が残ってたっぽい。

 俺は煙草と灰皿を取りに行って、ベランダに戻ってきた。

 そのまま煙草を吸う。起きたばかりの身体に染み渡る煙が徐々に俺を覚醒させていく。


 本当に共学になってたんだな……

 吐いた煙を目で追いながら、そんなことを思う。


 一昨日の出来事から、あれよこれよと流れに乗って来たものの、やっぱ一度に押し寄せると実感が沸かない。正直なところ、まだ夢でも見てんじゃねーかとも思ってる。


 試しに、吸っている煙草を手に近づけてみる――あっつ!!

 今度はおもいっきり吸ってみる――んっふ、んっふ、んんっん。


 うん。あっつし苦しいから、やっぱ現実だ。ってことは――うわぁ……


 昨日の出来事を振り返って、心の中でのたうち回った。

 遅刻と不運な出会い。これは昨日の昼に切り替えた。とはいえ、もう気にしていないって言えば嘘になる。しかし、問題はその後の出来事。

 授業の最後に俺は学校の備品を破壊した。


 ――いや~、いや~、ね? まさか砕け散るなんて思ってない訳ですよ。それがあんな木っ端微塵に粉砕するなんて。や、やめて……そんな目で見ないで……

 そんな俺の願いは届くはずもなく。

 えっと――ル……ルミスちゃん! を始め、クラスの全員は言うまでもなく、恐怖と怯えを目で訴えていた。


 それからはあんまり覚えていない。気付けば学校が終わって、いつの間にか寝ていた。そして、今起きた。


 俺は吸い終わった煙草を消して、新しい煙草に火を付ける。

 連続で吸うのはあまり好きじゃないけど、嫌な事を思い出した時なんかはよくやってしまう。


 ――でも、何で水晶は砕け散ったんだ?


 ふと、そんな疑問が浮かんだ。

 魔力水晶、こいつは手をかざした者の魔力を光で表す物だ。それが砕け散るなんて余程の魔力を有していることに違いない。

 それを踏まえて俺はどうか? いやいやいや、それはない。

 俺にそんな魔力があるはずがない――いや、待てよ。校長が言っていた期待――――いやいやいや、それこそ自惚れだって。第一、そんだけの魔力があったんならあの時に――いや止めよう、それは俺が惨めになるだけだ。


 多分だけど、ルミスちゃんがやった時に亀裂が入って、それに俺が止めを刺した。こう考える方が当たり前、か。


 ――――ん?

 ってことは俺悪くなくない? それどころか俺、もしかしてルミスちゃんのこと救ったんじゃない?

 例えば、あのままルミスちゃんで終わったとする。そうすると、既に罅の入った水晶はいつ割れてもおかしくないわけだ。

 もしあの場で割れてしまっていたら、それはルミスちゃんが学校の備品を壊したことになる。


 自分が壊した事に責任を感じてしまうルミスちゃん。その顔には涙を浮かべている――あ、これはこれで有りかも。じゃなかった、それに付け入ろうとする男共。蹂躙されるルミスちゃん。


 ――殺す。俺の(仮)ルミスちゃんに触った奴は殺す。


 しかし、それを俺が救ったのだ。これはもう彼女の命の恩人と言っても過言ではない。

 そして、このネタで揺さぶって――ムフフ。


 はっ!? 待てよ。俺は大事な事を見落としている。

 何故彼女は自らで俺を指名した? それはもしかして、彼女は自分が水晶に罅を入れてしまった事に気付いていたのでは? それを隠すために俺を生け贄変わりにしたのでは?


 な、な、な、何という悪女。何という計算高い女――でも、それはそれでギャップがあっていいかも――じゃなくてっ!


 こうしちゃいられねえ。

 俺はまだ残ってる煙草を一気に吸い込み、後始末をする。その後、急いで準備をして学校に向かった。


 ――で、いざ来たものの。

 俺はとんでもないことに巻き込まれてしまった。


 俺が学校に着いたのは昨日と同じくらいの時間。でも昨日と違うのは静かに教室に入った。

 それでも、注目を浴びるのは自然の流れで。それをいち早く察したのは先生で。

 なんとなく昨日のデジャブ感を感じながらも、授業を受けていた。

 そして今は昼休み前の最後の授業。

 それは魔法闘学で、体育館に移動してきた。

 そこには既に先生が居て、移動してきた俺達に声を張って言った。


「全員揃ってるな。よしお前ら! 端の方に移動しろ」


 愉快そうな笑みを浮かべている。それはまるで品定めでもしているように見えた。

 俺達は先生が言ったように体育館の端の方へ寄る。と言っても、使うスペースなんて体育館の半分なので準備に手間はなかった。

 それが終わった時、先生は俺達を一頻り見渡した後、言葉を続けた。


「これから、魔法闘学の授業を始める。最初にやりたい奴、前へ出ろ」


 声量のある声が聞こえなかったなんてことはない。しかし、その声以外は聞こえない。

 誰からの返事が無かったことを確認してから、先生がつまらなそうに言う。


「んだよ、お前ら。積極性が足んねーな。じゃあ、リコル前へ出ろ。そして、こいつと魔闘したい奴も前に出ろ」


 何がお気に召さなかったのか、なんては言わない。けど、投げやり過ぎやしませんかね。

 とも言える訳もなく。俺は指名されたので、前へ出た。

 前へ出たのはいいものの、肝心の相手は出てこない。


 ――うん。知ってた。

 知ってたけど……やっぱ現実になるのは落ち込みますって。

 俺はグルッと周りを見渡す。そして、目を逸らされる。あれ? 昨日のデジャブを再び感じる。

 それが終わった後、俺は先生の方を見た。

 互いの目が交差する。その目からは同情のような、哀れみのような思いが伝わってきた。おいっ、お前のせいだぞ? 何て目で見てやがる。


 そんな何ともいえない空気が続く。これ、もしかしたら俺と組む奴が現れなくて、先生と嫌々やらされるパターンのじゃないか? うわぁ……

 しかし、そんな空気が続く中、声がした。それは――


「先生、私がやります」

「お、ルミスはやる気があるな」

「はい――リコルさん、お願いしますね」

「あ……おう……」


 三日連続で見たその笑顔。それは何度見ても飽きが来ない。寧ろ、もっと見せつけて欲しい。誰だ、美人は三日で飽きるなんて言ったクソヤロウは。


 それよりも。


 こ、これって。ま、まさかっ!?

 やっぱり俺達、出会った時から既に――か、歓喜ですっ! 相思相愛です!!

 俺は心の中で叫びながらも、表には出さないように取り繕う。そうした結果、吃りながら返事を返してしまった。止めろ、童貞臭い――童貞だった……

 だからこそ思う。何か裏があるんじゃないか、と。

 そりゃそうだ。こんな可愛い娘が三日に一日はイカ臭い俺に好意を寄せているだなんて――はっ!?


 こ、これは罠なのでは?

 そうだ。これは可哀想な俺を助け、私はなんて優しいの、アピールしているに違いない。

 そうだよ、俺。よく思い出せ。この娘のことを何て思っていた? そうだろ、朝に確信していただろ。じゃあ、この状況はどういう意味か、分かっているはずだ。


 俺は中央で対面するルミスちゃんを見据える。

 俺と目が合うと、彼女は照れたように笑いながら言った。


「き、緊張しますね……」

「あ、ああ」

「でも、ちょっと嬉しい、かも」


 可愛い。それ以外に何もない。このまま抱きしめたい。誰だ、こんな可愛い娘を悪女なんて言ったクソヤロウは。俺だった……


 手を伸ばせば触れられる距離にいる彼女。しかし触れられない。触れてしまえば、壊れてしまうような気がして。

 それでも。脈打つ本能が俺に訴えかけている。それはどんな言葉よりも雄弁で、どんな言葉よりも俺に染み渡って。

 頭では分かってる。けど、分かりたくない。


 俺がそんな葛藤をしていると、先生の合図で始まった。


「ルールは簡単。相手に一発魔法をぶち込んだ方の勝ちだ――じゃあ、はじめっ!」


 その瞬間、彼女は容赦ない魔法を放つ。

 驚きながらも、それを俺は身体をよじって避ける。

 横目で見たそれは、まるで光芒の輝きのように俺が元居た場所を貫いた後、遅れて大きな音をたてた。


 ――え?

 何いまの? 彼女の魔法だよな――いや、それしかないんだけど。

 え? 俺が言うのもあれだけど、さっきまでけっこういい感じだったよね? いきなり豹変し過ぎじゃない?


 俺は後ろを振り返る。

 魔法障壁が張ってあるはずの壁が剥がれているじゃないか……殺す気か!?

 俺は再び彼女に目を合わせる。彼女は微笑みながら右手に魔力を集中させていた。そして、俺を見てこう言った。


「お互い全力でやりましょう」


 二発目の光芒が見えた。

 それは俺の居た位置を寸分の狂いもなく、貫く。

 それよりも早く、俺は身体を動かし、逃げる。しかし俺の行動を読むように三発目が襲いかかる。


 これは避けきれない。

 脳が身体にそう伝達するより先に、俺の身体は防御の態勢をとっていた。

 足を開き、身体を屈める。握った手で頭を守るように構え――魔力を集中させていく。

 そこへ加減という言葉を知らない容赦ない一撃が飛んできた。


 ――受けきった


 と思う。俺と衝突した時の轟音。ビリビリと痺れる腕。彼女の驚愕した顔。他色々と思うけど、それを踏まえて、今これだけは言わせて。


 痛ってええぇぇぇええっ!!

 バッカじゃねーの!? まじで殺す気か、ああっ!? 殺す気だった……

 な、な、何という悪女! これはさすがに俺も怒っちゃうよ!?

 っていうか、全力過ぎんだろ! ほら、見て!? 皆ドン引きしてるよ? 大丈夫? ルミスちゃんまで好感度下がっちゃうよ? そん時は俺が貰ってあげるから心配しないで。ムフフ


 俺とルミスちゃんの攻防が止まった。それを見計らってか、先生が言った。


「だ、大丈夫か? 保健室行くか? と、とりあえずリコル」


 先生が言い終わる前に、俺はそれを制すように言葉を被せた。


「先生。これ……ぶち込まれたうちに入んねーよな?」

「……あ、ああ」


 その言葉を聞いて、俺はルミスちゃんを見据えて言った。


「だってよ――お互い全力でやろうぜ?」

「……え、ええ」


 彼女は顔に焦りのような色を浮かべている。それは多分――いや絶対、初めての表情だった。


 うっひょおおおっ!!

 そんな顔も可愛い。ちょっと俺がいじめてるみたいに見えるけど、断じて違うからな!? 寧ろ、一番の被害者俺だからね!?


 ともあれ。


 何故俺が続行したか? それは少し疑問に思うことがあったから。決して、彼女との時間を引き延ばした訳ではない――半分は。

 受けきった後にこう言うのはちょっと嫌みになってしまうけど、俺にそんな力量も技量もないはずなのは俺が一番よく知っている。

 俺の予定では、あのままぶっ飛んで情けない姿を晒してしまう覚悟を持って受けた訳で。

 それが受けきってしまった訳で。


 かといって、彼女の方が手を抜いたかって言われると、答えは否だと思う。

 速さも魔力量も一発目と変わってないはず――ん?


 そう言えば。

 よく俺あんな咄嗟に反応出来たな。あの速さで、あの距離だぞ。


 俺がそんな風に思っている中で四発目を作り出しているルミスちゃん。そして、それが放たれる。

 俺は色々と考えていたことを一旦捨てて、かわすことに専念した。



 ◆◆◆



 それにしても。

 彼女の集中力が凄い。

 普通ならそろそろ途切れても良さそうだが、未だそんな感じがしない。そして、それは彼女放つ魔法にも言えることで。一体どんな魔力量よこの娘。

 だからこそ。俺はこうして集中を途切れさせずにかわせている訳で。

 あんな痛い思いをしたくない。その一心で今もこうしてかわしている。


 そんな攻防が続く中。

 俺はやっぱり思うことがあって。


 こうも長丁場だと嫌でも感じてしまう。それは――俺強くなってんじゃね? って。

 いやいやいや、それはない。って、頭では感じてるんだが、心は何処かうきうきしていて。

 そんな狭間の中、どっちを信じていいか分からなくて。


 そんなことを考えていたからか。

 彼女が放った魔法が俺を捉える。うん、避けれない。

 俺は諦めて防御の態勢をとろうとしたが、ふと思った。


 そういや、俺から攻撃してねーじゃん。


 俺は身体に攻撃の合図を送るように左手を握る。

 そこに魔力を集中させて、地面を大きく蹴った。そして、俺へ襲いかかる魔法目掛けて拳を振るった。


 相対する魔法。しかし、俺が振るった拳はそれを裂く。

 俺はそのまま彼女目掛けて、走る。

 彼女も魔法を放ちながら、距離を取る。


 無駄の無い魔法と隙の無い動き。

 その洗練されたような動きは、やっぱり手を抜いているとは思えない。


 だからこそ――少し熱くなっている俺もいる。


 俺は頭ん中と心ん中のモヤモヤを捨て、彼女が放つ魔法を捌いていく。


 そして――彼女を捉えた。


「キャッ」


 小さく悲鳴を上げながら、尻もちをついてしまうルミスちゃん。

 俺を見上げるその顔には、怯えるようにうっすらと涙を浮かべていた。


 クッ……。


 俺は叫びたくなるのを我慢して、右手を手刀の形にしてこう言った。


「――おいたのし過ぎだ」

「へ? いたっ」


 俺はそのまま右手を振ってチョップした。

 戸惑いながらも、それを喰らった彼女は頭を擦っている。


 それを見て思った。

 現実の涙目上目遣いはクッソ可愛い。って。





いいえ、駄文です。

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