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プロローグ

 今から一世紀前、世界各国は戦争していた――らしい。

 俺の住んでいるこの国、王都アーガルムも参戦したその戦争は現代の教科書で世界大戦とまで呼ばれる位、大規模な戦争だった――らしい。


 幸いにもこの国は戦勝国の括りに分別されていて、今日まで街や経済と様々発展し続けている。今もそれは右肩上がりに延びていて、まだまだ平和で豊かな日々が続くだろう。

 逆に敗戦国となった国々は、まだまだ発展の途上であるらしい。

 と言うのも、これは新聞やテレビで得た知識であり、俺が実際に現地に赴いて見たものではないから、一概に決め付けられない。

 もしかしたら報道よりも発展が進んでいるかもしれないし、その逆もあり得る。

 色々と考えたりはするが、最終的には決まってこう思う。ぶっちゃけどうでもいい、と。


 俺は先人達が勝ち取った平和で豊かな国で産まれ、育っているのだから。知らないところで起こっていることに一々リアクションなんて取ってられない。

 そういうものに興味がある奴だけ、もっと詳しく調べて、もっと大袈裟にリアクションを取ればいい。

 俺の知らない世界で、俺を置いてきぼりに世界が回って居ようが、どうこう言うつもりは毛頭ない。


 俺はベランダに出て煙草を吸っていた。

 俺の知らないところでは紛争だの反乱だの起こっている今日、そんな物騒な事で悩まされている場所とは無縁な場所で煙草を吸っている。

 物騒な事――とは別物だが、この頃悩まされているものと言えば気温だろうか。

 この時期は日によって、長袖か半袖か迷ってしまう。

 道を歩く帰宅途中であろう大人達や学生達を俯瞰しても明確な答えはなさそうだ。

 しかし、今日は長袖を着ていて良かった。風が少し冷たい。


 中で吸えればいいのに。

 ヒンヤリとした風を身体が受け止める度、そう思う。

 しかしそれは許されない。俺が住んでるこの部屋は賃貸だからだ。

 去年の春、学校に通うため親が借りてくれた。この部屋とはもう一年と少しは一緒にいる。


 空を見上げながら煙を吐く。

 太陽が落ちかけている薄暗い空にゆっくり昇って行く。そして、いつの間にか消えて無くなる。

 残るものは燃やした時に出る灰と口に広がる苦みのような煙の味。


 まるで今の俺だな

 吸い終わった煙草の後処理をしながらそんなことを思った。


 今思えば、色々と予兆はあった。

 それは、つまんないとかだるいとかの単純なものから、周りが雑魚ばっかりとか俺がこの学校で一番なんだとか自惚れだったりまで。

 だけど当時の俺は、そんなイカれた思考も天才だからこそ出来る贅沢な悩みだ、なんて誤解してた。


 そんな伸びきった鼻は、ある日ポッキリと折られた。

 魔法模擬戦という学校行事で呆気なく天才という称号を剥奪されてしまう。

 今思えば、自称が付いた天才の称号だったし、ただの生意気なガキだったとも自覚はしている。


 それでも当時の俺は悔しかった。

 ボコボコにやられたことも、俺に才能がないと思い知ったことも。


 そして受け入れられなかった。

 才能がない自分を、弱い自分を。


 悩んで、葛藤して――気付けば今の俺が出来上がっていた。


 最初こそは色々と頑張って、努力して、強くなりたいと思っていた。

 でも、思うように行かなくて、行き場のない感情を発散するように喧嘩して。

 そんな非行が妙に心地好くて。気付けばこんな奴にまで転げ落ちてきて。

 ついこの間まで、王都の北にある矯正施設にぶち込まれていたし、暴力事件だって起こした。おまけに喫煙だってもう止められる気がしないし、学年が上がってからは一度も学校に行っていない。


 むさ苦しく、男しかいない学校で不良少年と呼ばれ、その素行の悪さと勉学の怠りから出来た、哀れな俺だ。


 俺は更に一本、煙草に火を付ける。

 吐いた煙は相変わらず空を彷徨い、薄暗い夕方に溶けていく。


 いつまでこんなことしているんだろうか。

 自問はするが、その答えは決まって俺の中で無かったように溶けていく。まるで吐いた煙のように。

 頭では分かってる。けど、分かりたくない。


 俺はベランダから覗き込むように下を見降ろす。

 行き交う大人達に帰宅途中の俺の学校の奴ら。ここら辺では滅多に見ない女子校の生徒。


 何にせよ、幸せそうだ皆。


 そんな光景をなんとなくで眺めているとそう思う。少なくとも俺よりは幸せに見えるせいだろうか――いや、止めよう。こんな下らない事を考えるから世の中自殺が絶えないんだ。


 今日も無駄に過ごしたな……


 煙草の後始末をして、俺は部屋へと踵を返す。

 そして着替えて、財布を持って、夜飯でも買いに行く準備をしているとインターホンが鳴った。


 ガンちゃんかな?


 よく連んでいる奴の名前を頭に思い浮かべながら、俺は玄関のドアを開けた。

 しかし、そこに立っていたのはこの辺では滅多に見ることのない女子校の生徒。

 誰? と思いながら、俺が暫く固まっていると、その女の子は俺を見ながら小さく微笑み、頭を下げた。


「あ、あのリコル・ガルトさんですよね? 初めまして、私、貴方と同じクラスのルミス・フライアです」

「……え、あ、はあ……」

「はい、これ。先生から預かってきたプリントです」

「え、ど、どうも」

「それと、明日は学校に来れますか?」

「え、と……大丈夫かと思います」

「では、お待ちしてますね」


 ――――は? え? ど、どういうこと?


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