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リザルト

意識が戻ったレイトは

乱暴にデバイスからコードを引き抜き


コンソールにはリザルトが表示される


ハウンド03 イーグル 〈5.8〉

ハウンド03 ウィッチ 〈3.6〉


そんな数字に周りから声が上がる

「5超えなんてあり得るのかよ…」

「というか、〈スポット〉ですら3超え?」

「あんな戦い方してればそうなんだろ」

「てか、最後のアレなんだよ、マジあり得ない動きしてたわ」


口々に唱えるのは、彼らに対する賞賛

さっきまで戦場にいたはずの彼ら

それなのにまるで、映画でも見たかのような当人意識すら希薄な感想を聞かされたレイトは冷たく言い放つ


「…なんでお前ら、ヘラヘラしてんだ?」

その声に、場は静まり返る

「お前らがやってるのはゲームか?」


そんな言葉に反論する声が上がる

「確かに力及びませんでしたが、今持てる力を出し切り戦場の損失を最小にするべく戦いました」


「いくら尊敬されるべき〈イーグル〉とは言えそんな風に言われる云われはないと思いますが?」


まるで、自分たちに非はなく

咎めるレイトが間違っていると言わんばかりの台詞に

イチカは苛立ちを隠せず、声を上げる

「…力及ばずとか本気で言ってるなら笑えないよ?」


そんな言葉を一笑して

「貴方達だって最初から強かった訳ではない」

「敗北から得た事を精査し、次の戦いでその経験を活かせれば良いんじゃないですか?」

「それがワイヤードールたるメリットでしょう」


…いちいち癇に障る喋り方だ

次?

メリット?


だから、ブレインが痛みを知らないなんて小馬鹿にされる

「何一つ知らない」なんて味方にすら蔑まれる


「…なんで〈アサルト〉が一人も居ない?」

「戦術教練はもう受けた筈だろ?」

ワイヤードールを運用する為に必要なクラス構成

それを完全に無視した、セオリー外の配置

あそこに居たのは〈エンジニア〉と〈スカウト〉

そして〈ヘビーガンナー〉のみ

そこに前線を維持して、押し上げる為の前衛職は無く

ルークを落とせたのは、偶々レイトたちがその場にいたから

…運が良かったとしか言いようがなかった


「…必要無いからですよ」

「僕達はしっかりとブレインたるノルマを果たしました」

「スコアも〈1.0〉をキープしています」

「そこに何か問題がありますか?」


話すだけ無駄だったと、レイトはそれを問うた事を後悔する


…成績の付け方は歪んでいるとしか言えない


ポーンを倒してもナイトを倒しても

スコアは同じ0.1

ただルークだけは例外で

それ一体で、〈1.0〉となるが

だから、こんな逃避が成立するのだ


遠距離からポーンを集中攻撃して、それを10体分狩れば

すべてを無視してルークだけを壊せば


課せられたノルマとやらは確かに終わる

戦線を維持する必要性なんて無くなる


だから、こいつらはブレインになる為にそこに居るのだ

安全地帯を手に入れる効率だけを求めて

自分たちの痛みを最小限に生きる事しか考えていない


他人の痛みなど

感じないからそれに酷く無頓着でいられる


だから、当たり前みたいに、次だなんて

戦場で散った奴らには無いそれを口にする

ノルマなんて、数字しか見ないで戦場に立てる

そして、終わってしまえば無関係だと笑えるのだ


レイトは、苦々しく顔を歪める


――彼らはまだゼロ地点の先を知らない

この先に待つ、終わることの無い

痛みを殺して、自分を殺して、敵を殺す

そんな、煉獄の入り口にすら立ってはいない


「…行こう、レイト」

「もうお人形遊びする歳じゃないよ?」

ひどく冷めた目でそれを一瞥し、イチカは隣の実習室を目指して歩き始める


レイトもそれに続き

捨て台詞のように、憎まれ口を叩く

「来年もそんなふざけたことを、当たり前に言いながらここで会うことが出来たら〈イーグル〉の称号をくれてやるよ」


まるで、それは

「お前たちと会うことはもう無い」と

そんな響きを持つ、呪詛のような言葉だった


実習室の扉を荒々しく蹴りあけ

イチカは次の戦場へ向かいながらも、レイトに聞く


「…左手は大丈夫?」

イチカが言うのは〈アンリミテッド〉の副次作用の話だろう

先程、〈ナイト〉に奪われた左腕

あらぬ方向を向き、ひしゃげたそれは

レイトの身体に戻ってもなお感覚を取り戻そうとしない

「正直、()()()しばらく動かない」

「だけど、ワイヤードールのは動くから問題ない」


強い痛みに晒された脳は負荷に耐え切れず

その部位を無いものとして感覚を切り離す



個体に設定されたリミットタイムを無視することが出来ないのも

それが原因だ、それを過ぎてしまえば彼らを守るセーフティは徐々に失われて、完全にそれが無くなった時に全損(ロスト)を起こせばブレイン()は死ぬ、正しく人形と化して、意識がそこに戻る事は無い

「でも、レイトのそれは諸刃の剣だよ?」

「使いどころを勘違いしないで?」

「…私はレイトに死んで欲しくないよ?」

それは、レイトを慈しむはずの言葉


それなのに、彼は吐き捨てる様に言葉を返す

「お前まで、俺を人形に変えるのか?」

「何も感じず、何も出来ない木偶人形だと言うのか?」


イチカは言葉を返せない

彼の言うこともまた、間違っていないのだ


ただそれでも…


「俺は〈イーグル〉だ」

「ちゃんと、痛みを感じる人間だ」


戦場で起こる痛みを

そこにある恐怖を

そのすべてを許容し、それでも考え戦う

それでこそ人間だと


「なぁ、イチカ」

「俺達はゼロ地点を超えられたのか?」

イチカはそれを考え、首をふる

「…多分、超えてない」

彼の言う、それは個人のスコアではない


戦場という単位の話だ

驚異的スコアで

もはや掃討戦と呼べる戦い方で敵を葬った先程の戦闘

目につく外敵すべてを狩り殺したそれを持ってしても

あの戦闘が状況終了するまでに、死んだ人数

それが撃破数を下回ることはない


ゼロの壁すら超えられず

人類の戦いは、落第点だと言える


「ゼロ地点の先を俺達はまだ知らない」

まるでそれが希望のようにレイトは言う


――その言葉にイチカは考えてしまうのだ


誰よりも痛みを正しく理解するレイトが

誰よりも一番、痛みを知らぬ亡霊のように戦うのは

なんの皮肉なのだろうか?


誰よりも考え続ける彼が

その終わりを考えずに、ただ全てを壊し戦いつづけるのは

与えられた敵を、殺し続けるのは


人間であることを望んだ彼が

人形のように感覚を失いながら

それでも戦場に立ち続けようとするのは


一体なんの皮肉なのだろうか?

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