告白
水島香織の部屋は良く言えば無駄な物がなく洗練された、悪く言えば非常に質素な空間だ。リビングにはテレビにソファー、テーブルがあるだけで、おおよそ若い女性を感じさせる小道具や飾りといったものはない。
「夕ご飯はパスタでいいかしら?」
この部屋で俺がする事は、手作りの夕飯を一緒に食べ、風呂に入り布団で眠るだけ。翌日8時には彼女の部屋を出る。一線を越えるような事はない。ただ、それだけの事が、水島香織という女性と過ごせるという事だけで至上の喜びに変わる。同時に、喜びを感じるほどに、自分の家族への愛着のなさも感じてしまう。それでも、ずっとこの関係を続けていきたい。ずっと彼女と一緒にいたい。今の自分にとって、それが全てだ。
ーーー
「好きです。付き合ってください」
朝練終わりの俺を捕まえた白崎唯が、人気のない物陰に俺を連れ込んで発した言葉は思いも寄らないものだった。
「え、なんで? っていうか、俺たち殆ど話したこともないよね?」
白崎唯はたしか俺のクラスの隣の隣の、そのまた隣のクラス、2年A組だ。週に二回、選択科目で同じ授業を受けているが、それ以外に接点はない。
「好きになってしまったからです。それ以外に理由はありません」
肩に少しかかった髪を触りながら、素っ気なく応える。告白ってもっとドキドキしながらするものではないのか……
「ごめん、気持ちは嬉しいんだけど」
俺は既に水島香織との関係を築いている。よく知らない同級生に割く時間はない。
「毎週金曜日」
白崎唯が唐突に、何の脈絡もなく発した言葉に、少しの動揺と疑問を覚える。
「赤い車に乗って」
何を言っている。
「どこに行っているの?」
疑問は、確信に変わる。
「何の話?」
こいつは知っている。
「水島先生、美人よね」
待ち合わせは他の生徒が絶対に通らないような道のコンビニを選んだ。車に乗るときに細心の注意を払っていた。だが、知られている。
「今の関係、壊したくないでしょ? なら、私と付き合って」
これは愛の告白なんかじゃなかった。まごうことなき、脅迫だった。