はじめまして動く人形です
黒のトレンチコートに黒のニット帽を被った男が大きな皮のカバンを持って走っている。
はぁはぁと息を切らし、時折後ろを振り返っては舌打ちをしている。
後ろには小太りと痩せ型の憲兵数名が警棒をもって追っかけている。
「待て! 貴様は近頃噂の人形泥棒だな、観念しろ!」
「くっそしつこいなあのデブ、しょうがない使うか」
男は懐から丸い球を取り出し地面に思いっきり叩きつけた。
「じゃあな、あまり吸い込むと体に毒だぞ」
辺り一面にピンクの粉が舞い、たちまち男は姿を晦ました。
家に着くなり男はカバンを雑にベッドの上に放り投げ、はぁとため息をついて一服し始めた。
「ぷはぁ~、なんであんな山奥のほったて小屋にあんなに憲兵がいるんだよ」
男はベッドの上のカバンを横目で見た。
「やはり、魔女が作った人形って本当だったのか?いやまさか、この文明社会で?ないないあるわけない」
カバンを開けるとの中にはいたって普通の人形があった。
いや、よく見ると関節がおかしい。基本的には球体関節や針金が主流だがどちらでもない。明らかに骨らしきものが入っていて、逆関節や回転しないようになってる。
さらには、首に水晶に似た宝石が埋め込まれている。
「すごい……美しい……完璧だ、魔女が作ったと言われてるだけあるな」
ふと、首の宝石に手をかけた時バチッとものすごい電流が手先から脳へと走った気がした。
その時走馬燈みたいなものの向こうで子供の笑い声が聞こえた気がした。
「いっっっ!」
思わず人形をケースに放り投げた。
「え?何今の。俺死ぬのか?」
顔や体を雑に触り、何も起きてないことを確認する。
洗面所に行き鏡でも確認する。
「大丈夫か……」
ほっと安心したところに、リビングでガタガタと音がした。
まさかなと思いつつも急いで戻るとそこには、ふぁ~と大きな欠伸をし、腕を天井に伸ばしている人形の姿があった。辺りをきょろきょろと見まわした後に男を見つけ歩いてきてこう言った。
「おはようございます新しいマスターさん。私はテトリと申します」
何が何だかわからず、唖然としながらも「よ、よろしく」と言っていた。