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殿下の神託で不具合が起きた話  作者: 冬至 春化
7章 殿下の神託で不具合が起きていた話
45/59

1

お待たせしました。



「これって……」

 殿下の机の上に広げられた紙に、私は眉をひそめた。殿下は重いため息をついて、足を組んだ。その視線はじっと紙を睨みつけている。

「今朝、神殿前で配られた号外だ。同じものが掲示板にも貼られている」

 隊長が腕組みをして吐き捨てた。私は目を剥いて隊長を見上げる。「……これ、が?」と呟くと、隊長は仕事中に居眠りする私を見つけたときの三倍ほど渋い顔をした。


「思った以上に神殿は強硬手段を取るつもりみたいだ。ことを大事にして圧力をかける算段だろう」

 殿下は珍しく舌打ちをすると、頬杖をつく。私は呆然とその号外を眺めていた。



 これが、街中で、配られ、掲げられたのか。私は何も言えず、ただ立ち尽くす。

「……ソルニア・コルント」

 綴られているのは私の名前だった。殿下の婚約者は異端者である、と、厳格な文体で書かれている。そのどこにも、アルカ・ティリという名前は記されていない。

 これでは、まるで、私が私でないかのようだった。それでいて、指し示されているのは紛れもなく私だ。肩を上下させて息をする私の背を撫で、殿下が柔らかくほぐすように囁く。

「大丈夫だよ、アルカ」

「でも、……意味が、分かりません」

 徐々に気持ちを落ち着かせると、隊長がこれ見よがしに差し出してきた焼き菓子を受け取って一口食べた。もぐもぐとお菓子を頬張る私の背をなおも撫でながら、殿下は人差し指を立てて説明する。

「アルカが託宣人であることには触れないみたいだ。あくまでも、王族が異端の疑いのある人間と婚姻を結ぶのは認められない、という論点だね」

 ちょっと情報量が多い。理解してみようかと一度斜め上を仰いでみたが、すぐに諦めた。自分に理解できた範囲を咀嚼して頷くと、私は首を傾げる。


「要するに、私と殿下は結婚出来ないってことですか?」

「できるよ」

「返事が早い……」

 殿下はぎらぎらと「その可能性は何が何でも潰す」と凄まじい気迫である。すげぇや。

「確かに出生や婚姻、死去に関する儀式的なものは神殿が扱うけれど、実際に情報としてそれを管理するのは公的な機関だから王家の管轄だよ」

「ほーん」

「さては理解を放棄したね」

 図星である。まあ何か要するに色々あるらしい。


「それで、王家が私を神殿に差し出すことを要求してるって訳ですか?」

「今のところは正式な要求ではなくて、裏で交わされているだけだけれど、……そのうち、異端審問の召喚として声明が出される可能性はある」

「ヒィ……」

 私は自分の肩を抱いて震え上がる。殿下は厳しい顔でため息をついた。



 ***


 神殿は、私が親からつけられた名前を公表し、異端者である可能性があるとして私を糾弾した。報道は連日続き、号外のみならず、翌朝の朝刊やビラなど、様々な方法で情報は拡散された。

 神殿と王家は一部例外を除いて不干渉が原則であり、今回神殿が行ったのはあくまでも世間への報道で、王家に対するものではない。だから私たちが表立って神殿に反応するのは、逆に図星であると表明するようなものだった。

 要するにどういうことかっていうと、迂闊に身動きが出来ない、ということらしい。殿下が言ってた。


 自分で言うのも何だけれど、私はどうやら思った以上に憔悴していたようだ。報道を見たくないのに、どうしても気になって新聞に手を伸ばしてしまう。私は文字を読むのが苦手だから、さらりと読み飛ばすなんてことも出来ない。日々、城の外でどのように私の姿が描かれているのかが変わってゆく様をありありと眺め、それでまた落ち込む、最悪の循環である。

 見るに見かねたのか、隊長が外の空気でも吸ったらどうかと声をかけてくれた。それならばと頷いて、久しぶりに私は自室の扉を開けた。


 玄関の広間に足を踏み入れた瞬間、ざわめきが広がり、それから不自然な沈黙が落ちる。

「……やっぱり私、部屋の外には出ない方が良いかもしれないですね」

 膠着状態が続く中、庭にでも行こうとした私は、体を縮こまらせて俯いた。向けられる視線はどれも、怪訝そうであったり胡乱げだったり、少なくとも好意的ではないように思えた。

 隣を歩く隊長は「気にするな」と低い声で囁くが、私はいまいち顔を上げられずに床を見る。囁き声の内容は聞こえないけれど、突き刺さる視線とざわめきだけあれば十分だ。


「アルカ・ティリ」

 唇を噛んだ私に向き直り、隊長は珍しく荒い声で告げた。

「お前は、何か悪いことをしたのか」

 肩を掴まれて、私は息を飲む。隊長は真剣な表情で私を見下ろしていた。私は呆然と口を半開きにしたまま、隊長の言葉を数度胸で繰り返した。それから、ゆっくりと答える。

「……私、何も、してないです」

 私が弱々しく応じると、隊長は肩から手を離して、鼻を鳴らした。

「それなら、どうしてお前が俯くんだ。俯くのは、後ろ暗いことがある証拠だ。お前はどうなんだ」

 隊長の言葉は力強かった。私はしばらく目を伏せたまま、ゆっくりと今の言葉を反芻する。


 おずおずと顔を上げた。見回してみれば、周囲の視線は突き刺さってはいたが、必ずしも全てが私を遠ざけるようなものばかりではなかった。広間の反対側で、誰か知らない使用人が微笑んで拳を握ったようだった。

「アルカ様」

 時々廊下ですれ違う、見覚えのある文官が声をかけてくる。

「私たちに出来ることは少ないですが、……この心だけは共にあります。同じことを思っている者は他にもおります。どうか覚えおき下さい」

 名も知らぬ文官はそれだけ言って、「では」と足早に立ち去った。その背中を見送って、私は呆然と立ち尽くす。隣で隊長が「良かったな」と微笑んだ。


 私が、今まで、この城で為してきたことは、無駄ではなかったのかもしれない。そんな思いがした。殿下に連れられてこの城で暮らし始めて、もう八年以上だ。見てくれていた人はいるのだ、と、私は恐る恐る、頬を緩めて笑みを湛えた。がばりと隊長を見上げ、私は威勢良く頷く。

「……そ、そうですよね! 私ったら、別に何かされた訳でもないのにこんなにクヨクヨして……。きっと大丈夫ですよ! 殿下もいますし!」

「お前は程よく元気を出すということが出来ないのか……」

 力強く拳を握って胸を張ると、隊長は呆れたようにため息をついてから、「まあ良い」と肩を竦めた。

 そういえばこれからお散歩に行くところなのである。少し外の空気でも吸って頭をすっきりさせよう、と私は歩を進める。

「よーし、お散歩行きましょ! おさんぽ!」

「あ、おいこら」

 隊長を引きずりながら、私は颯爽と歩き出した。



 ***


 疲れた様子で眉間を揉む殿下を眺めながら、私は眦を下げた。私に出来ることはないか訊いても、「今はないかな」と微笑まれるだけである。

「でも……」

 私がぐっと唇を引き結ぶと、殿下は私の頬に触れて相好を崩した。そんな風に笑ったって、ころりと騙されてあげるほど、私はもう幼くない。じっと殿下を見ると、彼は参ったと言わんばかりに肩を竦める。

「これから、少し、状況が厳しくなるかもしれない」

 殿下は薄らと笑みを湛えながら囁いた。やっぱり、と私は目を伏せる。

「だから、アルカは、そこで笑っていて」

 噛みしめた唇を解くように、殿下の指先が口角を辿った。私はやっとのことで頬を緩める。殿下は満足げに頷いた。



 翌朝、常にはない騒音に、私は目を覚ました。どこかから飛んでくる怒声に、私はびくりと体を竦ませた。恐る恐る布団を押しのけ、ベッドから出る。そっと部屋の外に顔を出すと、廊下の突き当たりで殿下が影に隠れるようにしながら外を窺っていた。

「殿下、何を見ているんですか?」

「アルカ、」

 殿下は振り返り、私を見下ろす。青ざめたその顔に、私は何かがあったのだと直感した。一歩踏み出し、窓から身を乗り出そうとした私の腕を、殿下が強く引く。

「下がって!」

 たたらを踏んでよろめいた私の前に、殿下が体を割り込ませる。咄嗟にその背に隠れながら、私は今見た光景を反芻していた。


 自分の目を疑った。広い庭園のその先、城門の向こう側には、見たこともないような熱気が渦巻いていた。目を見開いた私に、鋭い声が刺さる。

「――――王家は異端者を擁護するのか!」


 広い庭園の反対側でも、その声ははっきりと届いた。初め、何と言っているのか聞き取れなかった言葉は、繰り返される内に、私の中で組み立てられてゆく。大勢の口から叫ばれるその言葉は、怒りと疑念に満ちていた。

 ……息が、出来ない。私は殿下の背に掴まり、肩を上下させ、何とか息を整えようと試みた。

 声は繰り返す。殿下は私の手を引く。私はその場に縫い止められたように身動きできなかった。そのさなかにも怒号は続く。

「異端者は然るべき裁きを受けろ!」

 ――正直言って、驚いた。私はこの期に及んで、自分がそれほど大きな騒動の中にいるという自覚はなかったのである。突然突きつけられた、あまりにも大きな感情に、私は唖然として立ち尽くしていた。


 城門前を埋め尽くす人の群れ。黒々としたその塊は、絶えず拳を振り上げ、王城に向かって声を上げ続けていた。

「これ、って、」

「アルカが気にすることじゃない」

 殿下は硬い声で告げる。私は力なく首を横に振った。

「……でも、全部、私のことです」

 ぱたん、と殿下が窓を閉じた。声が一段階小さくなり、廊下には一つ落ち着いた空気が戻った。カーテンを引くと、廊下の片隅は薄暗くなる。


 私は頭を抱えてうずくまった。思考がぐらぐらとした。そんな私の背に手を当て、殿下が柔らかい声で私をなだめる。

「あれは、アルカのことじゃ、」

「私の、ことですっ!」

 殿下が驚いたように手を引いた。呆気に取られた表情に、私は「ごめんなさい」と小さく呟く。

「……あれは、アルカのことじゃないよ」

 殿下はもう一度はっきりと告げた。

「あそこにいる誰も、アルカのことなんて見ていない。神殿が作り出した『異端者』の幻影を、君に投影しているんだ」

「たとえそうだとしたって、実際に批難を向けられるのは私です」

 殿下は私を言いくるめるのが得意だ。私もそうやって、殿下に転がされているのが心地良いこともあるけれど、こればかりは誤魔化されてはやれなかった。


「投影されているのは私です。……いざというとき、実際に声の対象になるのは、この私なんです。自分に関係ないことだなんて思えない。これはずっと、他人事じゃなかったんです」

 私はすとんと落ちたその言葉を、自分の中で数度反芻した。何となく現実味が湧かなくて、なんとなく一歩下がったところで成り行きを見ていたけれど、

「……私、ちゃんと分かりたいです。守られてばっかりなんて嫌です」

 殿下も、隊長も、私に何も言ってくれない。それが優しさだって私は知っている。あんまり近づきすぎたら、私はきっと今みたいにのほほんと過ごしていられなくなるのだろう。

「全部、私のことです。私、ちゃんと、向き合いたい。だって私、これでも殿下の護衛官で、託宣人で、その上いつか、……殿下と添うんですから」

 きっぱりと言い切って胸を張ると、殿下は難しい顔のまま腕を組み、目を伏せた。私はじっと殿下の言葉を待つ。


「……分かった。おいで、アルカ」

「、はい!」

 小さく頷いて、殿下は歩き出した。未だ怒号の鳴り止まない外に背を向けて、私は意識的に背を伸ばし、姿勢を正した。



 陛下の執務室の付近では、慌ただしく足音が行き交っていた。高位の文官があちらこちらで奔走し、こんな事態になっていることを知らなかった私は呆気に取られて立ち尽くす。殿下に誘導されるがままに、私は突き当たりの部屋へと足を踏み入れた。中では早口で会話が飛び交っている。奥にいる陛下は、私たちが入ってきたことにも気づかない様子で、苦々しく何かの書面を睨んでいる。

「……アルカに出来ることは、正直言ってあまりない。僕も、ほとんど何も手出しが出来ない状態だ」

 壁際に寄ったまま、殿下は舌打ちでもしそうな顔で呟いた。髪をかき混ぜ、重いため息をつく。私は思わず俯いた。当たり前である。国のトップが必死に頭を回しているのだから、私みたいなド素人に何か出来るはずもなかった。

「……それでも、こういう状況だっていうことを知れただけでも、十分です」

 私が何とか応えると、殿下は小さく頷いた。


「父上、」

 扉を開け放ち、つかつかと歩いてきた兄君が、苦々しい表情で手に持っていた紙を掲げた。

「チェルタが神殿についたそうです」

「……厄介だな」

 陛下は顔を顰める。「この件が収まったら、今度から城ではチェルタのレモンは使わないようにしよう」と吐き捨て、兄君を見る。

「――セデロフィル、行けるか」

「そう仰ると思って、もう準備は整っています。先触れを今しがた出したところです」

「素晴らしい」

 陛下は満足げに頷いた。兄君は「では」と軽く告げると、持っていた紙を側の文官に手渡し、颯爽と歩き去った。いまいち何が起こったのか分からず、唖然と口を開いたまま後ろ姿を見送る。


「兄上は、神殿につきそうな領主や名家の当主に手紙を出したり、直接訪問したりして、脅し……話し合いをしている」

「今『脅し』って言ったの聞こえてますけど」

「はは、人聞きの悪いことを言わないでよ。……ただちょっと、この先の展望を見据えた話し合いを『穏便に』しているだけだって、兄上も言ってたよ」

「絶対穏便じゃないやつだ……」

 震え上がる私に、殿下は「まさか」と、爽やかな笑い声で応じた。王族って怖い。


「……流石に僕は、兄上みたいに直接どこかに働きかけるのは出来ないからさ」

 それは確かに、と私は頷く。渦中の人物だしね、迂闊なこと出来ないもんね、と腕を組んで納得した私の隣で、殿下は自嘲気味に鼻で笑った。


 部屋の隅でこそこそと会話をする私たちに、陛下はようやく気づいたようだった。意外そうな様子で私に目を留め、それから殿下に視線を移す。

「連れて来ないんじゃなかったのか」

「……僕は彼女に対して情報を隠そうとする悪い癖があるみたいです」

「怒られたか」

 殿下は返事の代わりにひょいと肩を竦めた。私は横目でじとりと殿下を見る。殿下はさりげなく目を逸らした。


「状況はどのような感じですか」

「昨日と大差なしだな。……チェルタが向こうにつくと面倒なことになりそうだが、それはセデロフィルが上手くやると信じよう」

 陛下が長い息を吐いたところで、廊下からこれまでとは異なる足音が響いた。ざわめきが近づき、私たちが一斉に振り返った直後、扉が勢いよく開く。そこにいた人を見て、私は目を見開いた。



 それは、ここ最近ずっと姿を見なかった先輩だった。「このような格好で御前に立つことをお許しください」と呟き、胸に手を当てて略式の礼をする。

「先輩!」

 先輩は疲れた表情で部屋に入ってきた。私の呼びかけに先輩は頷くだけで応え、殿下に歩み寄る。殿下は先輩が前に来るのを待ってから、短く問うた。

「シアトス、ジャクトは?」

 先輩は黙って首を横に振る。その動きに、私は目を伏せた。……分かっていた。もしも先輩がジャクトを見つけられたのなら、今、彼はここにいるはずなのだ。

 多分、ジャクトは、帰ってこない。一切音信不通になり、唯一の手がかりである実家まで行った先輩が、彼を連れて来られなかったのである。最後に会ったジャクトの様子からしても、もう、帰ってくるつもりはないのだろうと思えた。


 先輩は重々しい口調で告げる。

「ジャクトの実家はもぬけの殻でした。それと、……荒らされた、形跡が」

「荒らされていた?」

 殿下が目を見開く。その背後で、陛下が「やはりか」と腕を組んだ。私が振り返ると、陛下は「簡単な話だ」と肩を竦める。

「古今東西、様々な場合において使われる手だ。家族を人質に自白を強要する」

「ひと、じち」

 私は息を飲んだ。先輩は「はい」と頷いて、背負っていた鞄から封筒を取り出す。


「……これが、机の引き出しの中に」

 殿下は素早くその封筒を受け取る。封のされていない封筒をぱらりと開き、険しい表情で中の便箋に目を走らせる。私も殿下の隣に移動して、その便箋を覗き込んだ。


『多くのことを書き記す時間がなく、取り急ぎ書いたものでお伝えすることをお許しください』

「ジャクトの字だ、」

 ジャクトには、なぜかだんだんと右斜め上に文字列がずり上がっていく癖があった。まさにその癖の通り、走り書いたような様子の文章は見る見るうちに斜めになっていた。

『大神殿で言われました。このままではおれも、おれの家族も全員、異端となるのだと』

『おれは怖かった。ごめんなさい。言い訳はしません。おれは弱くて、不義理な裏切り者です』

 荒れていく文字に、私は唇を噛んだ。殿下の手が小刻みに震える。

『やっとのことで逃げてきました。家族を連れてどこかに身を隠します。それから先、どうするかは、決めていません』

 もはやそれは殴り書きと言って差し支えなかった。酷く急いで書かれたものであることはそれだけで分かった。


『この手紙が、然るべき人のとこ』


 ……手紙は、そこで終わっていた。これ以上書いていられない事情が、あったのだろう。

「ジャクト、」

 殿下が小さく呟く。私は声もなく、無理矢理打ち切られたような文章を眺めていた。呆然としていた。頭がくらくらとする。

 ……ジャクト。私の後輩。ちょっとときどき腹立つけど、憎めなくて、素直な子だった。

「おみやげをね、買ってきてくれるって、言ってたんです」

 何か言おうと思って口を開くと、出てきたのはそんな、とりとめのない言葉だった。殿下は黙って私の横顔を見ていた。

「私の為に、買ってくるって、言ってたから、私、嬉しくて、」

 殿下の手が私の背を撫でる。私は顔を覆う。それ以上声が出なかった。


 ジャクトに、彼のいない間に起こったことを伝えたら、きっと驚きながらも祝ってくれると思っていた。『やっとですか? 待ちくたびれましたよ』とか腹立つことを言いながら、何だかんだ最後には満面の笑みで『おめでとうございます』って言ってくれると思っていたのだ。

 自分でも自分が分からなかった。情報を漏らしたジャクトのことが憎くて、でも、彼がどれほど傷つけられたことか、想像できない訳じゃない。信じていたものに裏切られたのは、私たちもジャクトも一緒だ。

「……また、会えますかね」

「どうだろうね」

 殿下は曖昧に答え、ため息をついた。






最終章です。

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