表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

悲しいことがありました。

作者: 透明人間りんね。

 今日は悲しいことがたくさんありました。

 まず、わたくしが死にました。幾度も死んではいるのですが、今回が一番につらい死に方だと毎回思うのです。

 そして、滑って転んで脛に大きなあおたんができました。じくじくいたんてたまらないので、きっとしばらく消えないでしょう。

 また、友人が消えました。わたくしの大切な人間です。いえ、もしかしたらたいして興味もなかったのかもしれません。少なくとも、彼らがいましたときは、わたくしの重要な位置にいたことは確かです。

 長年使ったペンもなくしました。昨日までは筆箱にきちんと鎮座していましたので、今日なくしたのでしょう。なかなかに愛着がありましたので、堪えるものがありました。

 本日のご飯もあまりよくありませんでした。食材はよいはずなのに、すべて料理人の手によって悪いものへと転化させられていたのです。箸も進まず、二口三口でごちそうさまと手を合わせました。

 ともかく、今日は悲しいことばかりが起こりました。わたくしに神は微笑む気がないらしいのです。どうしてそんなに悲壮的に考えるのかって、決まっているじゃありませんか。

 こんな薄汚く、人間が溢れているこんな最悪の世界で、わたくしが正気を保ったまま生きていくための自己防衛のためですよ。わたくしは、自分を幾度も殺すことで、ようやく人間であられる気がするめんどうな人間でありますからね。そうして、自分はまだ平気だ、周りの方が悲惨じゃないと思うことでようやっといきていけるからですよ。


 そういえば昨日も悲しいことがありました。


 愛しい彼が死にました。ああ、本当には亡くなってないですよ。ただ、昨日ケンカをいたしました。そこで彼はわたくしを否定する言葉を吐いたのです。その時、わたくしの中にいた彼は喪われました。これからしばらくすればまた、彼を心の中で構成いたしますから、それまでは彼はしんでいるのです。

 それに昨日は道に迷いました。どれくらいさ迷いましたか。詳細はあまり覚えていないのですが、ひどく心細かったことを覚えています。迷子になるなんて、それこそ子供の頃以来ですから、ずいぶん狼狽えてしまいましたよ。

 勿論昨日もわたくしは死に絶えました。そうしなければ息がしづらいのです。どうやって死ぬのか、ですか。そうですね。消えろ、死ね、と呟き続けて心の中でわたくしを殺すのです。そうすればわたくしは死にますから。

 生き辛くないのかって、勿論生き辛いったらありゃしませんよ。どうしてこんな考えしかできないのか、毎晩のように思っています。枕を濡らすことだってございますよ。笑っていただいても構いませんよ。残念ながら、わたくしは自分が嫌いですが、自己愛に溢れています。よく、死ぬんじゃなかろうねなんて聞かれますが、おそらく大丈夫です。眉を潜めないでくださいな。これでもいままで地に足つけて生きてこられたのですから。


 一昨日も勿論のように悲しいことがありました。


 いえ、これはわたくしの自業自得なのですが。行かなくてはいけない予定があったのですが、存在を忘れていたので行かなかったのです。先方にも多大なご迷惑をおかけしました。こういうとき、心の底から死にたくなります。え、ああ、そうでございます。先程申し上げましたことを繰り返すだけです。それに加えて指をカッターで切ったりとかですね。どういうわけか大事なことが覚えられないのです。はっきりいってどうでもいいことは覚えていたりするのですが、基本的に忘れます。学生のときは、教室の人の殆どの顔と名前が一致しておりませんでした。どうやら大事な内容を大事な内容として、頭の中で分類する事ができないようなのです。大事だなと思いましても、10分後には忘れていたりします。

 それに綺麗に整えまたしたばかりの爪が割れました。最近手に力が入らないせいでございましょうか。手を滑らせまして、見事に割れました。なんだか悲しくて仕方なくなりました。

 その日はまた、体調が芳しくなく、朝から胃が痛かったのです。そうしましたら、意味もなく涙が溢れてきました。何を思っているわけでもないのですが、不思議なこともあるものです。その日は少なくとも一時間ずっと泣いていました。疲れてでもいたのでしょうかね。

 今回は死ななかったのかって、愚問ですね。死にましたよ、いやですね。どうあがきましても、わたくしは自分自身を認める才能がないのでしょう。早く朽ち果てることばかりを考えているのですから、どうしようもありません。方法が知りたいものです。


 一昨々日も辛いことがございましたよ。


 いえね、わたくしはこんな性格でございましょう。友人があまり多くありませんで、人がたくさんいるところは頭痛がしてくるほど、人と付き合いが希薄なのであります。ですので、色々な訳あって都心にでなければならない時は心身ともに疲れはてるのです。それが一昨々日のことでございます。

 爪が伸びていたせいもあるのでしょうが、その時にも爪が割れました。割れた瞬間は気づきませんで、暫くしてから布に引っ掛かって気づいたのであります。意味はないのですが、なんとなく悲しくなりました。よく割れるものですから、手入れなんぞしなくてもよいのではないかとさえおもってしまいます。

 そういえば、この日もわたくしを殺しました。これでは毎日ですね。しかし、どういうわけか毎日わたくしは何かで死ななければ耐えられないのです。どうしたらよろしいのでしょう。…誰かに相談するべき、ですか。ええ、ええ。勿論そうした方がよろしいとわたくしもしっていますよ。ですが、それができているならもうわたくしは救われています。どういうわけか、それができないのですよ。


 いつかの日も辛いことがございました。


 わたくしはわたくしを殺しました。いくつになっても成長いたさないものです。面白いくらいですよ。そうですねぇ。この癖はいくからでございましたでしょうか。少なくとも十代前半からこんなだったことは、疑いようがございません。だからといって自殺するような勇気もございません。ですから今まで生きているのですもの。出来ることなら、さっさとこんな癖を無くしてしまいたいものです。

 ですがどうやらそれが出来ないのでございます。いつまでもべったりと死と言うものが、頭の中に張り付いているものですから。そう言うとあなたがたはよく、なにも考えなければ良いなんておっしゃいますけれど、そんなことができているならもうとっくに救われていますよ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ