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第九十一話:フリーター、ドワーフの村に行く

 ローグ山の内部、洞窟の出口に向かう道。

 

 新たなメンバーが加わった『第四次ジーナ捜索隊』はとっても(にぎ)やかだ。なにしろドワーフ族が百人以上いるからね! ぐるりと取り囲む男たちの熱い視線に火傷(やけど)しそうだよ。ははは。


<むっ、領主(ロード)リューキ殿は楽しそうでござるな>


 神器「畜生剣(ガッデム・ソード)」がつぶやく。


<いや、ちっとも楽しくないよ! こっちの話は何も聞いてもらえずに連行されるんだからね。てか、ドムドムはずいぶんおとなしいな。どうかしたのか?>


<むおっ、仕方ないでござろう。ドワーフたちの村に向かうのですからな>


<ドムドムはドワーフが嫌いなのか?>


<む、そうではござらんが、ちと、恥ずかしいのでござる>


<恥ずかしい? なんでだ?>


<むっ、それは言いたくないでござる……>


 俺の腰にぶら下がる畜生剣(ガッデム・ソード)の正体は、土の精霊(グノーム)のドムドム。その、土の精霊(グノーム)イチの戦士の言葉は歯切れが悪かった。


 はて、なんだろうね? 


 屈強なドワーフたちに囲まれ、ひたすら歩く。俺たちが救出したマリウス少年は有無を言わせず引き離されてしまった。俺の背中にはエル姫がいる。疲れ果てた彼女は眠っている。こんな状況でも眠れるなんて、お姫様はなかなかの強者(ツワモノ)だね。


 黙々と歩き続けていると、隊列の前方から怒号が聞こえてくる。怒号に加え、剣戟(けんげき)の音が鳴り響くが、すぐに静かになる。


 行軍が再開されると、洞窟トロルの身体(からだ)が転がっているのが見えてくる。ドワーフたちが打ち倒した怪物の(むくろ)は、ハッキリ言ってグロかった。


「ドワーフは相変わらず力づくやな。集団で取り囲んで滅多打ちや」


「ん? デボネアもドワーフを知ってそうだね。もしかしてドワーフの村に行ったことがあるのか?」


「あるもなにもカスパーっちゅう族長の村はなー」


<むおーっ! プリンセス・デボネア様! それ以上の説明はお止めくだされ!>


 デボネアの話をドムドムが妨げる。ドワーフの話に興奮したのか、腰の畜生剣(ガッデム・ソード)がカチャカチャと音を鳴らす。


 まったく、ドムドムはいったいどうしたんだろうね? 


 さらに小一時間ほど歩き続けると、洞窟内の様子が明らかに変化する。

 薄暗かった洞窟は等間隔に焚かれた篝火(かがりび)で明るくなる。燃えさかる火の明かりのなかあたりを見まわすと、洞窟の両側が人工的に加工された垂直な壁に変わっているのに気づく。足元のデコボコも少なくなり、舗装された道路のように滑らかになっている。もはや自然の洞窟というより、宮殿や神殿の地下通路の様相だ。

  

「うにゅ、ほわ? ここはどこじゃ?」


 背中から声が聞こえてくる。ちらちらと揺らめく篝火が刺激になったのか、エル姫が目を覚ましたようだ。


「エル、ずいぶん疲れてたみたいだけど、少しは元気になったか?」


「ほえっ! リューキよ! わらわが眠っていた間、ずっとおぶってくれてたのか? すまぬのう」


「なーに、大丈夫さ」

 

 気にするなとばかりに俺は答える。実際、俺はまったく疲れていない。エル姫の体重が軽かったからでもあるが、俺には地竜の能力(ドラゴン・スキル)『頑丈な身体(からだ)』がある。それに、ジーナにもらった『革のロングブーツ』も履いてるからね。

 

 とはいうものの、地竜の能力(ドラゴン・スキル)は筋力はアップしないし、足も速くなるわけでもない。先々のことを考えると、筋トレから剣の訓練まで、いろいろとやらなくちゃいけないとあらためて思った。


 不意に(ほほ)に風を感じる。洞窟の中の空気とは異なる、ヒンヤリした冷たい風だ。


「そろそろ洞窟の出口が近づいたかな?」


「リューキはん、なに言うてんねん。ここはもうドワーフの村やで!」


「え!?」


 知らない間に俺たちは洞窟から脱出していた。

 洞窟から抜けたのが分からなかったのは、洞窟と石造りの建物が違和感なく繋がっていたうえに、時刻が真夜中だったからのようだ。


 建物の地下室を進むと、十人程のドワーフ族の男たちが立っていた。


「お前たち、こっちへ来い!」 

 

 俺たちを出迎えたドワーフのなかで、ひときわ武骨な感じの男が命令してくる。

 男の背丈は俺よりも頭ひとつ低いが、丸太のように太い腕と太腿をしている。顔は濃い(ひげ)に覆われていて、表情はよく分からない。てか、年齢不詳だ。


「行きたくないって言ったらどうす……」

 

 俺の言葉が終わらないうちに、ブオンッ! と風を切る音がする。無骨なドワーフ族の男が大斧を振り回した音だ。


 危ないじゃないか! 

 当たったら痛いじゃないか!


 なーんて思いながら、俺はおとなしく男のあとをついて行く。文句は思うだけで口には出さない。ビビったわけではない、クールに対応しただけだ。

 

 十名ほどのドワーフに囲まれて石畳の廊下を歩く。案内された先は、広さが四畳半ほどしかない小部屋だった。いかにも牢屋といった感じで、部屋には窓ひとつない。明らかに俺たちの立場は賓客どころか罪人扱いだ。


 けどまあ、ここは我慢だ。ドワーフ族にはジーナ捜索の手助けをしてもらいたいからね。

  

「なかなか落ち着いた部屋じゃないか。ひと休みさせてもらうよ。ところでマリウスと話をしたいな。マリウスの親父さんのゲルト・カスパーさんともね」


「族長は捜索隊を率いて洞窟に行かれている。戻られるのは明朝だ」


「じゃあ、せめてマリウスだけでも」


「なにを言うか!? お前らにはマリウス様をかどわかした嫌疑がかけられているんだぞ! だいたい、ワーグナーの者の言うことなぞ簡単に信じられるものか!」


「ん? 俺はまだ名乗ってないけど、なんでわかるんだ?」


「私をバカにしてるのか? 自分の胸を見ろ! (ドラゴン)の紋章があるではないか!」


 なるほど、と思った。


 俺はジーナ・ワーグナーお手製のシャツを着ている。地竜との死闘でお腹のあたりはボロボロになってしまったものの、シャツの右胸にはワーグナー家に(ゆかり)のある者しか身につけることが許されない(ドラゴン)の刺繍がしっかりと残っている。ちなみに、刺繍のモデルは守護龍(ドラゴン)ヴァスケルだ。

 別に立場を隠すつもりはなかったけど、ここまでハッキリと自己主張してたらごまかしようもないね。 

 

 てなわけで、俺は堂々と交渉することにした。


「鋭い観察眼だな。俺の名前はリューキ・タツミ。ワーグナーの領主(ロード)だ。あらためてお願いする。明朝、ゲルト・カスパー殿が戻られたらお会いしたい。正式に取次ぎをお願いできるかな? えと、あなたの名前は?」


「私の名前はヤン・ビヨンド。これでも族長の腹心のひとりだと自負している……貴公は本当にワーグナーの領主(ロード)だと申すのか?」


 無骨なドワーフ族の男、ヤン・ビヨンドが言葉を選ぶようにしながら返答する。俺がワーグナーの領主(ロード)だと名乗ったことで、彼は困惑したように見えた。


「嘘をついても仕方ないからね。俺はゲルト・カスパー殿に助力を頼みに来た。ぜひとも力を貸してほしい……身内のひとりが洞窟内で行方不明なんだ」


「助力だと!? なにをバカなことを! カスパー家は、我らドワーフの民は、とっくの昔にワーグナー家の家臣ではなくなっている。しかも、いまでは両家はたびたび争ってすらいるのだぞ!」

 

「地下資源の採掘で揉めているのは知ってる。その件はあらためて交渉したい。他にも要望事項があれば相談に乗ろう。ただ……大切な家族の消息が不明な気持ちは、あなた方にも分かっていただけると思うが、違うかな?」


 ヤン・ビヨンドの目が泳ぐ。(ひげ)が濃すぎて表情は分からないが、気持ちが動揺したようだ。


「リューキ殿……貴公の話は分かった。族長が戻られたら直ちに伝えよう。だが、いまはそれ以上は約束できないし、貴公がマリウス様をかどわかした嫌疑も晴れていない。すべてはゲルト様が判断されること、私が言えるのはそれだけだ」


 ヤン・ビヨンドが言い切る。彼は堅物(カタブツ)な性格のようだが、実直で誠実な感じもした。俺の要望は無下(むげ)にはされないだろうと思った。


「族長が戻られるまで、あと数時間はかかろう。それまでこちらにいて下され……それと、個人的にお礼を言いたい」


「お礼?」


「私が族長から任されている役目のひとつにマリウス様の教育係がある。マリウス様にもしものことがあれば、私は死を選んでいた。なにより、私はマリウス様を歳の離れた弟のように思っている。だから、私は貴公にお礼を言いたいのだ」


「そうか。であれば、族長によしなに伝えてくれると……」


「申し訳ないが、手心を加えるようなマネはできない」


「はは。ですよねー」


 話しあいは唐突に終わる。俺としては不完全燃焼だ。だが、族長のゲルトが戻るまで、何もできないのであれば諦めざるを得ない。


 扉が閉められ、ガチャリと鍵がかけられる。小部屋は殺風景でベッドや椅子も何もない。


 俺は石床の上にエル姫と並んで腰を下ろす。


「リューキよ。ヒドイ扱いなのじゃ! マリウスが家出したくなる気持ちも分かるのじゃ!」


「まあ、なんか事情がありそうだからね。ジーナを探すのに、洞窟に強いドワーフ族の手助けが必要なのは間違いないし、とりあえず朝まで待とうじゃないか」


 不承不承といった感じでエル姫がうなずく。石床が冷たいのか、彼女は小さくクシャミをする。俺は身を寄せてきたエル姫と一緒にマントに(くる)まる。人肌に触れると温かくなり、安心感を覚える。


 いつの間にやら、俺たちは眠ってしまった。

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