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第八十八話:フリーター、地竜の力を手に入れる

 ローグ山の内部、洞窟深部。

 小さな村が丸ごと入りそうな空洞。


 目の前に横たわるのは地竜デュカキス。

 体長五メートルほどの黒い巨体はピクリとも動かない。(むくろ)の頭からは二本の(ツノ)が生えている。(いな)、一本は(ツノ)ではなく剣。アゴから脳天まで貫く畜生剣(ガッデム・ソード)だ。地竜にトドメを刺したのが、剣のひと突きだったのは明らかだ。


「あんなに怖ろしかった地竜が安らいだ顔をしておる。眠っておるかのようじゃ」


 落ち着きを取り戻したエル姫がボソリと言う。

 亡国(ぼうこく)微女(びじょ)こと、エルメンルートホラント姫の顔色を隠すノッペリ化粧(メイク)は、すっかり落ちている。その、泥と汗にまみれたスッピン顔には、不思議そうな表情が浮かんでいた。


「デュカキス、仲間の地竜たち……ゆっくりと休んでくれ」


 俺はつぶやく。望まぬ戦いに巻き込まれたのは彼らも同じだ。


 地竜の(むくろ)に近づき、畜生剣(ガッデム・ソード)に手をかける。ズルリ。剣は簡単に抜ける。生気のない地竜の身体(からだ)は硬直するどころか、むしろ崩れ落ちそうな感じがした。

 

<むっ、領主(ロード)リューキ殿。見事でござった>


<ありがとう、ドムドム……じゃなくて畜生剣(ガッデム・ソード)。お前のおかげだよ>


<むおっ……やはり、その名前はなんとかしたいでござるな>


 俺は畜生剣(ガッデム・ソード)愚痴(ぐち)をスルーする。別に意地悪をしたわけではない。ただ、俺としては畜生剣(ガッデム・ソード)の名前がちょっと気に入ってきただけだ。はは。


「な、なんじゃ!? 地竜が!!!」


 俺の肩に乗る風の精霊(シルフ)デボネアが、大きな声をあげる。 

 見ると、地竜の姿が空気に溶け込むように消えつつあった。


 ものの十秒も経たないうちに、大きな(むくろ)が跡形もなく消滅してしまう。まるで最初から存在しなかったかのように。


「なんと! どういうことじゃ!?」


「地竜は死龍(アンデッド)だったのさ。三百年前に倒された地竜デュカキスを、何者かがムリヤリ召喚したらしい。ある意味、ようやく解放されたんだと思う」


 俺は淡々と説明する。なんというか、胸がいっぱいな気持ちになった。


「リューキよ。なぜ、そんなことを知っておるのじゃ?」


「リューキはん、意味が分かっててしゃべっとるんか? 死龍(アンデッド)なんかおったら大問題やで!」


<むおおおおーーっ! どおりで手強かったのですぞ! リューキ殿。死龍(アンデッド)を倒すなぞ、なかなかにできることではございませぬぞぉ!!>

 

 三者三様の反応が返ってくる。

 もうちょっと落ち着いてから説明すれば良かったと、俺はいささか後悔する。


「えっと……ほら! 俺の傷口はすぐに(ふさ)がっただろ! あのとき、俺はあの世に行きかけてたんだ。黄泉(よみ)の国の手前で地竜デュカキスと腹を割って話しあって、いろいろ教えてもらったんだ」


「リューキはんは精霊界に旅立つ前に黄泉(よみ)の国に立ち寄ろうとしたんや。あんさんはホンマ(せわ)しないやっちゃなー!」


 デボネアの軽口に俺は言葉を失う。まったく……風の精霊(シルフ)姫君(プリンセス)軽口(ジョーク)はブラックで困るな。


「わらわも驚いたのじゃ。ともかく、リューキは生命(いのち)を粗末にしてはイケナイのじゃ! わらわたちを未亡人にしてはいけないのじゃぞ!」 


「未亡人って……そうだね、生命(いのち)はもっと大事にするよ」


 エル姫にもからかい気味に言われてしまう。


 ねえ、ふたりとも。

 俺のこと、本気で心配してくれてたんだよね?

 信じていいんだよね? ね?


<むむむ……、領主(ロード)リューキ殿は『龍殺し(ドラゴンスレイヤー)』を達成しただけでなく、死龍(アンデッド)の魂と語りあったとは……拙者、恐れ入ったでござる>


 畜生剣(ガッデム・ソード)に感心される。


 神器の剣の元の姿は土の精霊(グノーム)の戦士ドムドム。そんな土の精霊(グノーム)イチの戦士に褒められた俺は、ちょっとばかりイイ気分になる。我ながら単純な性格だな。ははは。


◇◇◇


 いつまでも立ち止まっているわけにもいかず、俺たちは前に進むことにした。


 『第二次ジーナ捜索隊(そうさくたい)』の先頭は俺。

 右手には畜生剣(ガッデム・ソード)。左肩には風の精霊(シルフ)デボネアがちょこんと座る。

 

 俺のすぐ後ろを歩くのはエル姫。

 意気揚々と神器の『無限ランプ』で前方を明るく照らしてくれる。


 広大な空洞の足元は、地竜デュカキスとの戦闘でぐちゃぐちゃになっている。当然、ジーナの足跡は分からない。けれども、いくつもある枝道をひとつひとつ覗きこんでいくと、手前から十番目の枝道の奥に小さな足跡が続いていくのに気づく。ジーナの足跡に間違いないだろう。


 俺たちは小さな足跡をたどり、少し広めの枝道を進むことにした。

 

「それにしても、リューキの傷はあっさりと治ったものじゃのう。なんでじゃ?」


「俺が知りたいよ!」


 早足で歩きながら会話を続けるが、俺はエル姫の問いに答えることができない。代わりに答えを出したのは畜生剣(ガッデム・ソード)だった。


<むむむ、思い出したでござる。龍殺し(ドラゴンスレイヤー)を成し遂げた勇者には、(まれ)竜の能力(ドラゴン・スキル)を引き継ぐのですぞ!>


<なに!? じゃあ、ケガがあっという間に治ったのも竜の能力(ドラゴン・スキル)のおかげか?>


<むう! きっとそうですぞ!>


 俺は猛烈に感動した。さてさて、どれほどスーパーな能力が身についたのやら? 


「エル! デボネア! ドムド……畜生剣(ガッデム・ソード)! 教えてくれ! 地竜の能力ってなんだ? どんな特殊能力があるんだ?」


「……リューキよ。わらわの知る限り、地竜とは竜のなかでもっとも地味な存在なのじゃ。あまり過度な期待をするでないぞ」


「ん? どういう意味だ?」


「要するにじゃ……」


  

 地竜(下位)

・外見は竜というよりトカゲに似ている。

・腕力、脚力などの身体能力はヒト族と大差ない。

・他の竜族に比べて秀でているのは頑丈さと回復力。

・雑食性で食欲旺盛。貪竜(どんりゅう)の異名を持つ。



「はあ!? 頑丈さと回復力? いや、ぜいたくは言わないけど地味じゃね?」


「リューキよ。贅沢を言うでない。丈夫な胃袋もあるのじゃぞ!」


 うーむ、欲張ってはいけないのは分かるけどさあ……


 丈夫な胃袋。

 頑強な身体(からだ)

 優れた回復力。


 おお……なんと実用的すぎる能力だ!

 俺らしいといえば俺らしいか。そうとも……そうだとも、健康第一だ!

 元気があれば何でもできる。素敵だ!


 転んだら起きあがればいい。倒されても起きあがればいい。

 へなちょこでもいい、(たくま)しく起きあがればいい。

 は、はははは……畜生(ガッデム)! 

 

<むっ、リューキ殿、拙者を呼びましたかな?>


<気にしないでくれ、俺のひとり言だ。ただのリアル畜生(ガッデム)だ!> 

 

 俺は力強く答える。そう、俺のメンタルはそこそこ強い。底なしの健康まで手に入れたいま、俺は無敵だ。なはは!



 洞窟の枝道をダラダラと下り続ける。特に何にも遭遇しないまま小一時間ほど歩き続けると、突如、ザクッ、ザクッと穴を掘るような音が聞こえてきた。


「リューキよ。何かおるようじゃぞ!」


「また怪物(モンスター)が出たのか? よし、生まれ変わった俺の力を見せてやるぜ!」


「リューキはん。なんや急に勇ましくなったのう!」


<むお! 領主(ロード)リューキ殿は(おとこ)でござる!>


 枝道の先、二十メートルほど前方、洞窟トロルが穴を掘っている。いや、穴に潜んだエモノを捕えようとしているようだ。


「助けてー、ジーナちゃーん!」


 洞窟トロルの掘る穴の奥から、助けを求める幼い少年の声が聞こえる。


 俺は畜生剣(ガッデム・ソード)を握り直し、洞窟トロルに飛び掛かった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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