第八十話:フリーター、精霊に力を与える
ワーグナー城の地下。
ローグ山内部の洞窟の奥、さらに奥深く。
土の精霊の戦士ドムドムを先頭に、俺、エル姫、風の精霊デボネアが、ジーナ・ワーグナーを探す。
暗がりから姿を見せた洞窟トロルを、ドムドムが見事に打ち倒す。てか、これで十五体目。
「むほぉーっ! どうなっているのでござるか! 拙者は戦士。戦いは恐れませぬが、敵が多すぎますぞーっ!」
ドムドムが吠える。俺も同感だ。
正直な話。安全な地下洞窟なんてアリエナイと思っていたが、いまや百メートル進むごとに敵が出現するペース。もうずっと人大杉。ちがう、洞窟トロル多すぎ。おかげでなかなか先に進めない。困ったものだ。
「むっ、領主リューキ殿。拙者に力を!」
ドムドムが創造力を欲する。
土の精霊のドムドムは不死の精霊とはいえ、いまは泥人形に憑依召喚した状態。力尽きれば精霊界に戻ってしまう。てなわけで、俺はドムドムの頭に土をこすりつけながら、創造力を注入する。
……ドムドムがんばれ。ドムドムがんばれ。ドムドムがんばれ。ドムドムがん……
「プリンセスチョーップ!」
エル姫がアホっぽい攻撃をしてくる。俺を正気に戻すため、創造力が過剰供給するのを止めるためだ。だが、俺はエル姫のチョップを間一髪避けた。
そう。
ついに、ついに俺はやり遂げたのだ!
プリンセスパンチだのプリンセスキックだのプリンセスデコピンだのを喰らい続けること十四回。十五回目にして、自力で想像力注入完了のタイミングを見極め、エル姫の攻撃を避けたのだ。
「リューキよ、見事じゃ。よくぞ、わらわのプリンセスチョップを避けたのう!」
エル姫が俺を褒める。けど、どことなく悔しそうに見える。
エルさん? 気のせいですよね?
俺をパシパシ叩くの楽しんでませんよね??
「むむっ! 領主リューキ殿は力の扱い方がわかってきたでござるか!」
「なんとなくだけどね。全力で創造力を膨らませるより、ちょっとテキトーなくらいが良いというかね」
俺はいままで必死に頭を働かせていた。が、それはやりすぎだったってわけだ。早く気づけって話だな。はは。
まあいい。コツさえわかればこっちのものだ。
レッツ・ポジティブ・シンキング!
「ガグォオオーーっ!!」と叫びながら、十六体目の洞窟トロルがあらわれる。
背の低い土の精霊ドムドムがハンマーを振るい、ドガンと大音をたてながらマッチョな巨人の左足の小指を叩く。
うおっ、これは痛そー。
足の小指ってタンスの角とかでぶつけるとメッチャ痛いんだよな。
やだやだ。
ともあれ、場数を踏む毎に、ドムドムの戦い方は洗練(?)されていった。
ドムドムは洞窟トロルの足の小指を叩き、悶絶して倒れたところで頭を叩き、トドメを刺している。敵ながら同情を覚えずにいられない必勝パターン。土の精霊の戦士、恐るべしだな。
「むっ、領主リューキ殿! 力を!」
ドムドムが要求してくる。
連戦連勝とはいえ、ドムドムは洞窟トロルの攻撃を毎回喰らっている。なので、俺は一戦ごとに泥人形の身体を修復させなくてはならない。まったくもって無防御戦法は効率が悪い。
「ドムドム! だからさー、なんで洞窟トロルの攻撃を避けないんだよ!」
「むむっ! 違いますぞ! この泥人形の身体が柔らかすぎるのですぞ! 拙者の本来の身体はこんなに脆くはござらん! 洞窟トロルごときの攻撃なぞ、本来は避ける必要はございませぬ。領主リューキ殿がいれば大丈夫なのですぞ!」
ドムドムが反論する。
なんてこったい。
ドムドムは俺をあてにして、敵の攻撃を回避するつもりがないのか……
仕方ない。ちょっと工夫してみよう。
俺は土をドムドムの頭にこすりつけながら、創造に変化を加える
……ドムドム硬くなれ。ドムドム硬くなれ。ドムドム硬くなれ。ドムドム硬く……
イメージとしては雪玉をギュっと握りしめて硬くする感じ。
なんとなく試したアイデアは微妙な結果となった。
「むっ、領主リューキ殿! 良い感じですぞーっ!」
ドムドムが小さく吠える。ちがう、小さなドムドムが吠えた。
「なんや、ドムドムはかわいくなったなあ。うちより小っちゃいやないか」
風の精霊デボネアが嬉しそうに言う。
ドムドムはちんまり縮んでしまった。身の丈五センチ少々。雪玉を強く握るイメージで創造力を注入したせいか、土の精霊の戦士はホントに小さくなってしまった。まるで遺跡から発掘された小型のハニワのよう。いや、歴史的遺物にしては光沢があってツヤツヤしているか。
「むむむっ、確かに。領主リューキ殿、これでは戦えませぬ! もっと力をカモンですぞ!」
ドムドムがリクエストしてくる。期待に満ちた目をした小ニワが俺を見上げる。
「あーもう、わかったよ。やるよ!」
俺はドムドムの泥人形の身体に土をこすりつけながら、創造力を膨らませる。
……ドムドム大きくなーれ。そこそこ大きくなーれ。硬いまま大きくなーれ……
「どうだ、こんなもんか?」
「むほぉおおおーーっ! 領主リューキ殿、ますます良い感じですぞ!」
ドムドムが立ち上がる。身の丈一メートルちょい。結局、元の大きさ。だが、土の精霊の戦士ドムドムは明らかにパワーアップしていた。
そう。ドムドムは泥人形ではなく硬い鋼鉄人形に進化していたのだ。
「むおっ! 行きますぞー! やってやりますぞーおっ!」
ドムドムが駆けだす。足音がズシンズシンと重い。
土の精霊の戦士は、洞窟の奥からあらわれた十七体目の洞窟トロルを瞬殺する。十八体目、十九体目も同様。殴り返されてもノーダメージ。うむ、頼もしい。
「なんや、ドムドムはたのしそうやな。リューキはん、うちは小っちゃいままでええけど、力を分けておくれーな!」
「デボネアもか! わかったよ。ちゃんと活躍してくれよな!」
「任せときーな!」
俺は風の精霊デボネアの頭をなでて、創造力を注入する。パワーアップしたデボネアの見た目はほとんど変わらない。が、心底嬉しそうな顔をする。例えるならお腹いっぱいになった表情か。
「よっしゃあ! うちも行くでー!」
デボネアが宙を舞う。あらわれた二十体目の洞窟トロルの足元をすくいあげて転倒させる。間髪入れず、ドムドムがマッチョな巨人にトドメを刺す。うむ。なかなか見事なコンビネーションだな。
「リューキは精霊たちとの付き合い方がうまいのう。わらわが長い時間かけて築いた以上に信頼関係ができておるではないか」
エル姫が感心する声をあげる。
これは信頼関係なのか? と疑問に思いつつも、俺は先を急ぐことにした。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!




