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第七十八話:フリーター、地下洞窟に挑む

 黒檀(こくたん)の塔から地下洞窟に入る。


 我ら『ジーナ捜索隊(そうさくたい)』の先頭は土の精霊(グノーム)の戦士ドムドム。

 見た目は残念なハニワだが、なかなかの強者(ツワモノ)。右腕の巨大ハンマーが頼もしい。

 

 二番手はエル姫。

 お得意の神紙(しんし)は切らしているが、所有する神器(しんき)はジーナを探す助けとなる。

 いまも神器の『無限ランプ』とやらであたりを明るく照らしてくれている。

 

 殿(しんがり)は俺とデボネア。

 正確には、小さい身体(からだ)のデボネアは俺の肩に乗っている。

 風の精霊(シルフ)は地下空間は苦手らしいが、俺よりは戦力になるはず。

 てか、俺っていつもメンバー最弱だな。はは。

 

 洞窟内は、幅四、五メートル、高さ十メートルほどあり、(ゆる)やかに下っている。特段(とくだん)、暑くも寒くもない。

 

「地下洞窟といっても普通のトンネルだな。足もともほとんど平らだ」 


「む、領主ロードリューキ殿。この辺りは整備されているようですからな。洞窟を深く潜っていけば、しだいに道は険しくなりましょうぞ。ご注意くだされ!」 


 土の精霊(グノーム)の戦士ドムドムが警鐘(けいしょう)を鳴らす。嫌なことでもあったのか? と問いたくなるような弱り顔だが、言っていることは至極(しごく)まともだ。


 しばらく進むと、(ひら)けた場所に出る。

 エル姫が無限ランプで空間を照らすと、キーキーと甲高(かんだか)い叫び声があがる。コウモリかなにかだろうか。宙を舞う無数の小さな生き物が、いくつもの集団に分かれて、天井や壁にあいた隙間(すきま)に逃げていく。

 

「道が分かれておる。ジーナはどっちに進んだのかのう」


 困ったようにエル姫が言う。

 目の前の空間は広く、黒檀(こくたん)の塔が縦にも横にもスッポリ入るくらいある。洞窟の壁には大小いくつもの横穴があき、そのまま枝道になっている。


「む、大丈夫ですぞ。拙者(せっしゃ)に任せるでござる!」

 

 土の精霊(グノーム)の戦士ドムドムが自信満々に言う。地面を見ながら迷うことなく進む。


「ジーナが進んだ道が分かるのか?」


「無論! 新しい足跡(あしあと)が……小さな足跡がジーナ様の足跡で間違いござらぬ」


 ドムドムがわざわざ言い直したので、思わず地面を見る。積もった土埃(つちぼこり)を踏んだ小さな足跡がある。小柄なジーナのモノだろう。同時に、ジーナの足跡の何倍も大きい裸足(はだし)の足跡が目に留まる。何者かは分からないが、素足(すあし)の生き物は身体(からだ)も大きそうだ。


「デカいのはなんだ? まさか魔物の足跡か?」


「洞窟トロルのようじゃが、そんな怪物がここにおるのか!? ジーナは危険はないと言うておったのに。嘘ではない、本当じゃ!!」


「別にエルを疑ってないよ。ジーナはエルに心配をかけたくなかったのか、ホントに危なくないと思ったのか分からないけど……先を急ごう」


 ジーナの足跡を追い、大きな横穴のなかに入る。道はキツイ下り坂になったり、急傾斜の上り坂になったりしながら続く。途中、幾度も分岐ぶんきがあったが、その(たび)にドムドムがジーナの足跡を見つけてくれた。残念だが、洞窟トロルも同じ道を進んでいた。


 二時間ほど進んだところで小休止する。収納袋からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、チョコやらクッキーやらと一緒にエル姫にも渡してやる。人間界にいたころの俺ならとっくの昔に息が切れていたはずだが、いまの俺は疲れを感じていない。もちろん、ジーナの革のロングブーツのお(かげ)だ。ジーナは良いモノを贈ってくれたものだ。


「そういえば、ジーナが地下洞窟で探してる『大事なもの』の材料ってなんだ?」


「オリカルクムじゃ。リューキは知らぬだろうが……」


「オリカルクム? もしかしてオリハルコンのことか?」


「ほう、知っておるのか!? 確かにオリカルクムは精霊たちが使う古語(エイシェントワード)。世間ではオリハルコンの名前で知られておる。というか、前々から思っておったが、リューキは妙なことに詳しいのう」


「まあね」


 死んだ親父が売れないファンタジー作家だった。

 子守唄(こもりうた)代わりに、親父が書いた物語(ファンタジー)を聞いて育った。

 いつまでもサンタさんの存在を信じる子どものように、結構な年までドラゴンだの妖精(フェアリー)だのがいると信じていた。おかげで学校の友だちに散々からかわれた。俺の黒歴史だ。


 けど、親父が描いたようなファンタジックな異世界は本当にあったんだ。なんだかなあ……


「ドムドム。土の精霊(グノーム)ならオリカルクムは当然知ってるよな?」


「無論! 希少性の高い鉱物ゆえ、手に入れるには相当地中深く潜らなければなりませんぞ!」


「まったく、なんでジーナはひとりで行っちゃったんだろうな」


 思わずこぼす。


「リューキはん。あんさん、ジーナはんのこと本気で心配してるんやな」


「当たり前だ! よし、休憩はおしまい。行くぞ!」


 洞窟内をさらに進むと、小さな横穴が見つかる。

 (かが)みながら穴のなかを覗きこむと、奥行きは数メートルしかない。穴の奥には壊れたスコップやツルハシが転がっている。掘り出された土砂の小山のなかに、極彩色(ごくさいしょく)に輝く石の欠片(かけら)()ざっている。なにかの鉱石を試掘(しくつ)した(あと)らしい。

  

「もしかしてジーナはこの近くにいるのかな?」


「む、領主ロードリューキ殿。オリカルクムを採掘(さいくつ)できるのはもっと深い場所ですぞ! 例えば地底溶岩湖(ちていようがんこ)があるような……」


「グモォオオオオオーーっ!!」と人外(じんがい)の雄たけびが響く。ジーナの悲鳴ではない。俺たちが進もうとする地底の方からドスドスと足音が駆けあがってくる。エル姫が(かか)げた無限ランプの先に、()(たけ)五メートルはある半裸(はんら)の巨人の姿が見えた。

 

「洞窟トロルじゃ! 本当に出たのじゃ!」

 

 エル姫が叫ぶ。

 

拙者(せっしゃ)にまかせるでごわす!」


 なぜか薩摩訛(さつまなまり)っぽくドムドムが声をあげる。


 筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の洞窟トロルに向かって、土の精霊(グノーム)ドムドムが(ひる)むことなく立ち向かっていった。

最後までお読みいただき、まことにありがとうございます。

誤字脱字を見つけられた場合、ご報告いただけると助かります。

次回更新は、来週末を予定しています。

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