第六十九話:フリーター、お土産を選ぶ
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タナカ商会の巨大倉庫。
雑然と積まれた商品の山脈の前には、俺と姐さんヴァスケルのふたり。
「なんでも好きなものを持ってけ!」とパンチのタナカに言われた俺は、なにを持ち帰るかで悩んでいた。
収納袋の上限は一トン。
たくさん入るようでいて、意外とすぐに一杯になるからね。
まずはジーナがリクエストしたスイーツ。
号泣するほど人間界訪問に同行したがった元領主ジーナのため、最初にお土産を選ぶことにする。
業務用冷蔵庫の扉を開ける。これでもかとばかりに棚に詰め込まれたスイーツの数々。早速俺は、商品を手に取ってみた。
ふんわりホイップドーナツ、とろーりとろけるティラミス、黒糖のシフォンケーキ、旬の栗をたっぷり使った濃厚モンブラン、いちご風味のもっちもちリング、贅沢な午後のチョコレートバー、生乳仕立てのふんわりクリーム、ダブルクリームの贅沢シュー、こだわりカスタードエクレア、パンプキンチーズケーキ、ベルギーチョコのロールケーキ、ふわとろカスタード、ザクザク触感のチョコケーキ、チョコバナナクレープ包み、紅茶のシフォンケーキ、栗のホイップコロネ、キャラメルマフィン、ショコラパイサンド、ふわとろチーズのどら焼き、シチリアレモンのサンドケーキ……
うむ、ふんわりしたり、とろけたりしまくりだな。正直、どれがいいかなんて分からん。よし、冷蔵棚の上から三段分だけ持ち帰ろう。これでだいたい十キロくらいか。
ついでに賞味期限が長いお菓子を選ぶ。冷蔵庫の横にある「菓子類」と書かれた段ボール箱からチョコやクッキーの大袋をテキトーに二十キロほどチョイスする。
てか、スイーツやお菓子をキロ単位で考えるのはチョットおかしいな。はは。
「リューキ。収納袋に入れた食べ物は腐らないんだよ。知らなかったのかい?」
姐さんヴァスケルがサラッと教えてくれる。冷たいものは冷たいまま、熱いものは熱いままだという。なんというスバラしい保温機能と保存能力だ!
けどまあ、大袋のお菓子は領民の子どもたちに配ったら喜ばれそうだからね。評判次第では次回の人間界帰省時は持ち帰る量を増やしてもいいかな。
次は女騎士エリカ・ヤンセンへのお土産。
エリカは、白磁の塔を巡る攻防戦で頑張ってくれた。いまは、陥落させたダゴダネル領の旧首都、西方都市ホプランで復興作業に勤しんでいる。
俺は、彼女の好きな和スイーツを、特に抹茶系を選ぶことにする。
宇治抹茶のマーブルケーキ、口どけなめらか抹茶プリン、黒蜜しみしみ生どら焼き、甘栗のロールケーキ、メープル風あんホイップ、黒胡麻純生クリーム大福、丸ごと栗大福、黒胡麻と安納芋のタルト、紫芋の白玉あんみつ、宇治抹茶仕立ての和風パフェ、ふわふわとろとろ生チョコわらびもち、鳴門金時のモンブラン、安納芋の和風パイ、抹茶プリンのサンドイッチ……
和スイーツは全部あわせても十五キロほど。すべて持ち帰ることにしよう!
多いかな? 多いよな。ま……いいか。
女騎士エリカだし、クールな表情が崩れるとこ見たいしさ。
「菓子類」の段ボール箱の横にはヴァスケルがリクエストした化粧品が山になっている。不動産屋のアラサー姉さんことミヤコが妹分を動員して集めたものだ。
俺がなにも言わなくてもヴァスケルがじっくりと吟味しはじめる。
「雑誌や化粧品は、あたいが自分で持ってくよ!」
姐さんヴァスケルが指さした先にはリヤカー。家庭用の台車やショッピングカートよりも圧倒的に積載量は大きい。さっきまで読みふけっていたファッション誌は既に積まれている。
うん、ヴァスケルさんはヤル気だね!
ホント、いろんな意味で頼もしいわ。はは。
イイ匂いのする化粧品の山の向こう側には、書籍類が山積みされている。俺は本のタイトルだけを見て、直感的に持ち帰る本を選ぶ。
「わが家のお菓子レシピ」、「和菓子大全」、「お菓子の教科書」、「ご家庭でも簡単に作れる絶品スイーツ」、「はじめて作るあまーいお菓子」、「パティシエの知恵」、「和菓子職人の教える基本の『き』」、「紅茶にあうクッキーの作り方」、「絶品スイーツをご家庭で」……
本をリクエストしたのは「亡国の微女」ことエルメンルート・ホラント姫。通称エル姫だ。
彼女が言った「お菓子が好きなら自分で作れば良い」はスバらしい発想だ。たまにアホなことするが基本的にエル姫はポジティブだし賢い。お菓子作りも最初は試行錯誤の繰り返しだと思うが、いつかワーグナーでも甘いスイーツが作れるようになれば良いな。
「紙のすべて」、「紙を科学する」、「実録! 製紙工場」、「紙の基礎知識」、「紙づくりの歴史」、「和紙を紐解く」、「製紙図鑑」、「古紙のリサイクル」、「パピルス 偉大なる発明」……
紙関連の書籍は、いかにも神紙の使い手であるエル姫らしいリクエストだ。どれほど役に立つか分からないが、タイトルに「紙」とある書籍はすべて持ち帰ってやろう。たぶんエル姫が一番喜ぶジャンルの本だからね。
その他、農業、工業、建築、生活全般から会社経営まで、幅広い分野のハウツー本が集められた。なにより忘れてはならないのは各出版社が発行している書籍リスト。エル姫は、次回の人間界帰省時には具体的なタイトル名で本をリクエストするつもりらしい。
ホント、賢い姫様は色々考えてるなあ。
そんなこんなでエル姫用のお土産は六百キロほどになった。紙は重いから仕方ないな。待てよ。電子書籍という手もあるか……魔界でも電化製品は使用できるかな? よし、試しにタブレットのひとつも持ち帰ってみるか。
最後に、自分用のお土産に食料品を選ぶ。
いや、自分で楽しむというより領主としての責務だな。
ゴブリン・ロードのジーグフリードに与えるインスタントスープの素の大袋。
ワーグナー城の守備隊長、オーク・キングのグスタフ用のコンビーフの缶詰。
あとは各種缶詰、レトルト食品やカップ麺なんかを揃えてと……
「ありゃ!? 収納袋に入らなくなった。あとは背中のリュックしかないか。うーん、ヴァスケル。お前のリヤカーに余裕は……」
ヴァスケルに声をかける。彼女はこれ以上ないほどキッチリとリヤカーに荷積みしていた。どうやらこれ以上荷物を載せるのは無理っぽい。
「あん!? リューキはナニか言ったかい?」
「いや別に。ていうか、時計を見たら九時過ぎてる。そろそろ帰るとするか」
最後に倉庫の中をぐるりと見回す。倉庫の入り口付近の棚にある女性用のピンクのスウェットが目に留まる。ジーナが楽チンな格好をしたいと言っていたのを思い出す。服のサイズに迷った俺は、S、Mサイズの両方をリュックに収納する。
倉庫の外に出ると、おっさんトリオとアラサー姉さんミヤコが待っていた。脇には、軽トラと時代を感じさせるスポーツカーが一台ずつスタンバイしている。
「リューキの親分! ヴァスケルの姉御! どこへなりとお送りいたしやす!」
「いや……ミヤコ。大丈夫だ、俺とヴァスケルは歩いて帰るよ」
「そんな! ウチの愛車の鉄仮面はお気に召しませんか?」
「そんなことはない。今度乗せてもらうよ。じゃあ、ひと月後にローンの支払いに来るから。タナカ不動産が倒産してないといいな。そっちの商売も頑張ってよ!」
「ウチに任せて下さい! 生命ある限り不動産屋は続けます!」
「いやいや、生命まではかけなくていいから……」
前のめりなミヤコの勢いに押され気味になる。ホント、俺の周りには個性的な女性ばかり集まるな。まあ、いいけどさ。
明るくなった街を走る。俺の横には楽しそうにリヤカーを引くヴァスケル。フィリピンで乗った白鳥号といい、ヴァスケルはこういうものが好きなようだ。
龍とはそういう生き物なのだろうか? ヴァスケル以外の龍に会ったことがないから、ハッキリとは分からないな。
異世界への扉があるマンションに向かう途中、コンビニ「パミマ」前を通る。元領主のジーナ・ワーグナーと一緒に買い物したのは、ほんのひと月前。なんだかすごく昔な気がする。
スイーツが並んだ棚を見たジーナの真剣な表情を思い出し、笑みが浮かぶ。
「リューキ、どうした? なんだかうれしそうじゃないか!」
「今回のお土産を見て、みんなどんな顔をするかと想像しちゃってね」
「あん!? 喜ぶに決まってるじゃないか!」
さも当然と言った感じでヴァスケルが答える。
三十三階建ての高層マンションに着く。
虹彩認証のオートロックを抜ける。
ハンサムなコンシェルジュに朝の挨拶をする。コンシェルジュ君はちょっとだけ引きつった笑いをしている。
ん? そうか……荷物満載のリヤカーを引いた愛人を連れて帰宅したからか。
まあ、細かいところは大目に見てくれ。
リヤカーはエレベーターにギリギリ入る。俺とヴァスケルは密着する。今回の帰省では何度も身体をくっつけたが、相変わらずタマラナイ感触ですね。
おっと、いかんいかん。煩悩さん、いまは我慢してくれ。
エレベーターは最上階の三十三階に着く。向かうのは333号室。
時刻は九時五十五分。やれやれ、今回もギリギリだった。
来月の帰省はもう少し余裕をもって行動したいな。
きっと、無理だろうけどね。はは。
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