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第六十六話:フリーター、オッサンを説得する

リューキは権藤さんたちをオッサン呼ばわりします。

自分もそれなりの年ですが、気持ちは若いつもりなのです。

どうか許してあげて下さい。

 満天の星の下。

 守護龍(ドラゴン)モードの夜間飛行(ナイト・フライ)で帰国の途につく。

 

 ヴァスケルが擬人(ヒト)化した堕天使(だてんし)モードじゃないのは、身体(からだ)がデカい権藤(ごんどう)のオッサンも一緒だからだ。(あね)さんの姿では、男をふたり(かか)えるのは大変だしね。


 てか、(つや)っぽい(あね)さんヴァスケルにお姫様抱っこされてイイのは俺だけだ! どんな事情があろうと他の奴には譲らん!


 なーんてね。


 守護龍(ドラゴン)モードのヴァスケルに抱えられ、権藤(ごんどう)のオッサンと同じマントに(くる)まる。男同士で身を寄せるのは心地よいものではない。けど、権藤(ごんどう)を無事に日本に連れて帰るには我慢するしかない。なーに、たった四、五時間の龍飛行(ドラゴン・フライ)さ……むむ、長いな。


 ヴァスケルさーん、できるだけ急いでね!


「ラブナ、ラブナ、ああ、ラブナ……」


 茫然自失(ぼうぜんじしつ)権藤(ごんどう)がブツブツつぶやく。

 ひたすら繰り返される泣き言に、俺までブルーな気持ちになる。 


 うーむ、権藤(ごんどう)は大丈夫か? ぜんぜん周りが見えていないよな。


 (ドラゴン)に抱えられて空を飛んでいる現状も、権藤(ごんどう)は理解できていなさそう。騒がないのはいいけど、だいぶ心が壊れてしまっているようだ。

 マジメ一筋に生きてきた男が女に(おぼ)れた挙句(あげく)、手ひどい裏切りにあったのだ。

 淫魔(サキュバス)ラブナに魅了(チャーム)されていたとはいえ、築き上げた地位を捨て、友人を裏切り、犯罪者となって海外逃亡までしたのだ。


 よく考えれば、これ以上ないテンプレな転落人生だな。ちょっとやそっとじゃ立ち直れない気がする。(おさな)なじみの竹本さんとタナカさんに心のケアしてもらうといい。


「ラブナ、ラブナ、どうしてなんだ……ん? ここはどこだ?」


 権藤(ごんどう)の目の焦点が定まる。あたりをきょろきょろ見まわし、ため息をつく。


「なるほど……私は死んだのか」


「へっ? 権藤(ごんどう)さん? なに言ってるんですか?」


「うん? きみは辰巳(たつみ)君だったかな? 我が社との雇用契約を解除されたあと、行方不明になったと聞いてたが……そうか! 辰巳(たつみ)君が天国から迎えに来てくれたのか。私なんかのために、すまない」


 権藤(ごんどう)がひとりで勝手に納得する。しかも、俺をあの世からの使者だと勘違いしたようだ。いやいや、お前は色々と間違ってるぞ!

 仕事をクビになったくらいで俺は死なない。自慢じゃないが、その程度でいちいち死んでいたら俺の生命(いのち)はいくつあっても足りないからね。はは。


「俺は天国からのお迎えじゃないです。と言いますか、権藤(ごんどう)さんは俺を知ってるんですか? 俺、正社員じゃなかったし、倒産前にクビ……退職してたのに」


辰巳(たつみ)君のことは、人事課の竹本から聞いていた。解雇すべき人材じゃないとね。彼があれほど強く主張するのははじめてだったから、よく覚えているのさ。いまさら謝罪するのは遅いだろうが、君には申し訳ないことをしてしまった。すまない」


 権藤(ごんどう)の発言に驚かされる。

 極太(ごくぶと)眉毛(まゆげ)でタラコ(くちびる)の顔は、真っ赤に日焼けしている。アクセントの強い顔にもかかわらず、実際の権藤(ごんどう)は誠実なひとのようだ。


 おっと、顔と性格は別物だな。これは失礼。


「ところで、辰巳(たつみ)君は天国から来たんじゃないのか? いや、そうか。私は数多(あまた)の悪事を重ねたんだ。ケダモノに連れられて地獄に行くのは当然だな」


「はあっ!? 誰がケダモノだってぇ!! あたいはワーグナーの守護龍(ドラゴン)でリューキの愛人さぁ!!!」


 ケダモノ呼ばわりされたヴァスケルが怒る。

 あまりにも激しい怒気に権藤(ごんどう)が震えだす。


「ヴァスケル、説明ありがとう。権藤(ごんどう)さんがよけいに混乱しちゃうから、あとの話は俺に任せてくれ」


「混乱だって? ゴンドーはあんたと一緒にジーナのマントに(くる)まってるんだよ! 淫魔(サキュバス)ラブナの魅了(チャーム)はとっくに消えたさ!」


「えっ! そういうもんなんだ! けどさ、権藤(ごんどう)さんは(ドラゴン)をはじめて見たと思うんだよ。ほら、ぶるぶる震えちゃってるよ。淫魔(サキュバス)魅了(チャーム)より(ドラゴン)威厳(いげん)の方が上だと思うなー」


「はん!? 当たり前さ! あんたの言うことは分かったよ! ゴンドーのことはリューキに任せた!」


 ヴァスケルの機嫌が治る。

 俺の守護龍(ドラゴン)の性格が素直で良かった。擬人(ヒト)化したら頭をなでてやろう。


権藤(ごんどう)さん。俺の話を聞いてください。あなたは悪い女に(だまさ)されてたんです。いや、ハッキリ言って操られてたんです」


「ラブナのことを言ってるんだね? 私は自分の意志で行動したんだ。彼女のせいにするつもりはない」


 むうっ、なんというマジメで堅物(かたぶつ)な男だ。ヒドイ目に()わされながら「自分が悪い」と言い切るとは。淫魔(サキュバス)魅了(チャーム)は人間界の色仕掛けなんかとは違うモノなのに。俺は金や地位目当てに近づいてくるおネエさんにうっふんされたことなんかないけど、まったく異質なモノだと思うな。

 

「とにかく、権藤(ごんどう)さんは俺と一緒に日本に帰ってもらいます。悪事は全部自分のせいだと考えるのは構いませんが、竹本さんとタナカさんにはちゃんと説明した方が良いと思いますよ」


「私が化けて出てきたら、ふたりとも驚くだろうな」


「だから、権藤(ごんどう)さんは死んでないってば!」


「ははは。そんなはずないだろう。こんな大きなケダモ、いや、(ドラゴン)に乗って空を飛ぶなんてありえない。辰巳(たつみ)君には本当に済まないことをした。これから行くのが天国か地獄か分からないが、きみにはできるだけ罪滅ぼしをさせてもらうよ」


 どーしましょう? 権藤(ごんどう)は自分が死んだと信じて疑わない。

 マジメで堅物かたぶつなのは、頭が固いってのと同じなのか?

 うーん、こうなったら……


「確認しますけど、権藤(ごんどう)さんは死んでるんですよね?」


「当たり前じゃないか」


「じゃあ、二度は死なないですよね」


「ははは。辰巳(たつみ)君は面白い男だな。生きている間にもっと話したかったよ。本当に、きみなら正社員で雇っても良かったな」


「いえ、そーいった話はもういいです。ヴァスケル! 権藤(ごんどう)さんを落とせ! 目を覚まさせてやるんだ!」


「はあ!? ゴンドーは眠ってるのかい? 寝たまま話がデキるなんて変わった男だね!」


「そうさ! 権藤(ごんどう)さんは竹本さんやタナカさんと同じ面白いオッサンさ」


「面倒くさいオッサンが二匹だけじゃなくて三匹に増えちまったね。まあいいさ、そんじゃあヤルよ!」


 ヴァスケルがため息をつきながら、権藤(ごんどう)身体(からだ)をポイッと投げ捨てる。 

 権藤(ごんどう)は「おやっ?」と顔をしたあと、まっさかさまに落ちていく。


 あれを見ろ! 鳥だ! 飛行機だ! なーんだ、タダのオッサンじゃーん。


 月明かりの中、自然落下する権藤(ごんどう)がジタバタする。


 オッサンのシンクロナイズドスイミングってこんな感じかな?


 なーんて、俺は軽く妄想をする。

 

「あばばばば、死ぬ。死ぬーーー!!」


「あれれ? 権藤(ごんどう)さんは死んでるんですよね?」


「いや、わかったー! 私は死んでない! 死んでないー!!」

 

 権藤(ごんどう)にぴったり並走するように急降下する俺とヴァスケル。

 遊園地のフリーフォールのような感覚に、お尻がムズムズする。


 けれど、俺の恐怖心はジーナの衣装が抑えてくれる。

 なによりヴァスケルの腕のなかにいる安心感もある。

 

「ヴァスケル! 権藤(ごんどう)さんをつかまえろ! ショック療法は十分(じゅうぶん)だ!」


「あん!? ゴンドーはもう音をあげたのかい? だらしないねえ」


 (ドラゴン)目線で物事(ものごと)を考えないでほしいが、まあいいや。


 守護龍(ドラゴン)ヴァスケルのたくましい腕が権藤(ごんどう)をひょいっとつかむ。極太(ごくぶと)眉毛(まゆげ)の下は白目をむいた眼、タラコ(くちびる)は泡まみれになっている。権藤(ごんどう)は現実に返るどころか夢の世界に落ちてしまった。


 うむ、ちょっとやりすぎたかな? まあいいか。


 えーとまあ、とりあえずは、めでたしめでたしとしておこうか。

最後までお読み頂き、ありがとうございます!

ブクマ、評価もありがとうございます!!


さて、最近の展開はいかがですか?

魔界にシモベーズあり! 人間界に三人のオッサンあり!

ええもう、暑苦しい男たちがそろってきましたね!

増えたのがカワイイ女の子じゃなくてスイマセン。


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