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第四十六話:フリーター、婿になる

 白磁(はくじ)の塔の一階。

 俺は、女騎士(ナイト)エリカ・ヤンセンに思わぬ話を打ちあけられてしまう。


「俺が払う代償とはなんだ?」


「私と同じだそうです」


「エリカと同じ? どういう意味だ?」


「私と同じく、ジーナ様の生命(いのち)(まも)るため、一生を捧げなければならないのです」


 はい? えと、その、言葉の意味がよく理解できないんですけど……


「なぜそうなる?」


「『鉄の処女(イゼルネ・ユンフラウ)』はジーナ様の生命(いのち)(まも)るために存在しています。契約の代償に、ジーナ様の保護を求めてくるのは不思議ではありません」


「ホントに、俺は生涯かけてジーナを(まも)り続けなきゃいけないのか?」


「はい。申し訳ございません。私を助けたばかりに、このようなことに……」


 俺はこの世界で生涯を終えてもいいと思いはじめていた。

 城のローンを払い終えたあとも、元の世界に戻らなくて良いと考えていた。

 けど、それはエリカが俺の(そば)にいてくれて、領主(ロード)の立場もあるからであって……決して、ジーナのお()りをするためではない!


畜生(ガッディイーーム)!」

 

 俺は自分のおかしな運命を呪った。


「ちと、聞いてよいかのう? いや、話を盗み聞きしたわけではないのじゃが」


 計ったようなタイミングで、エル姫が螺旋(らせん)階段を降りてくる。きまりが悪そうな顔をしつつも、躊躇(ちゅうちょ)なく近寄ってきた。


「姫様。これは私たちの問題、口出しは無用に願います」


女騎士(ナイト)エリカよ、そう邪険にするな。わらわは神器(しんき)の専門家じゃ。遅かれ早かれ疑問を感じて、おぬしに()(ただ)していたであろうぞ」


「エル。何を言いたいんだ?」


女騎士(ナイト)エリカは、すべてを説明しておらぬということじゃ」


 エル姫に指摘され、女騎士(ナイト)エリカ・ヤンセンは(うつむ)く。彼女の口から言葉は出てこない。どうやらエリカは(かく)(ごと)をしているようだ。(だま)されたとは思わないが、俺は少なからずショックを受けた。


「エリカ。俺に話していないことがあるのか?」


我が領主(マイ・ロード)……あります」


領主(ロード)ではなく、ただのリューキとして頼む。正直に話してくれないか」


「……わかりました。私が黙っていたのは、『神器(しんき)との契約解除』の方法です」


 女騎士(ナイト)エリカが白状する。ただ、正直言って、わざわざ隠すような内容とは思えなかった。


呪器(じゅき)の束縛から解放される方法か! 教えてくれ、何をすればいいんだ?」


「契約を仲介した者が、契約解除を宣言すれば良いのです」


「それだけ? で、契約を仲介した者って誰だ?」


「ジーナ様のお父上、ギルガルド・ワーグナー卿です」


「ジーナの親父さんか。てか、もう亡くなっているじゃないか」


我が領主(マイ・ロード)、その通りです」


 エリカの話に俺は落胆する。この世にいない者に頼み事をするのは不可能だ。


「じゃが、『仲介者』の役割は後継者に引き継がれるはずであろう?」


「姫様の(おっしゃ)る通りです。ただし、神器(しんき)が後継者と認めた者がいればですが……」


「ワーグナー家の後継ぎはジーナであろう? ジーナではダメなのか?」


「『鉄の処女(イゼルネ・ユンフラウ)』は後継者の資格として、ギルガルド・ワーグナー卿と同等の力量を要求しています。ワーグナー家当主の立場と公爵の権威に相応しい領土です。対して、ジーナ様はお優しい性格ゆえ、(いくさ)に向いておりません。領土を奪還するどころか維持もできず、ついには無領地貴族(ランドレス・フルスト)となってしまわれたくらいです」


「これ以上、ジーナを戦場に立たせるのはかわいそうだと言いたいのじゃな? であれば、ジーナが婿(むこ)を取るのはどうじゃ? 落魄(らくはく)したとはいえ、公爵家ならば縁談の話もあるじゃろう」


「大貴族との縁組の話はいくつかありましたが、いずれの殿方も私を神器(しんき)の呪縛から解放するつもりのない方でした。なにしろ私は神器(しんき)(まと)った戦闘兵器。手放すのが惜しかったようです……結局、ジーナ様はすべての話をお断りされました」


従妹(いとこ)殿はエリカを大事にしておるのじゃな。優しすぎて貴族らしからぬ性格じゃが、わらわはジーナを心底好きになったぞよ。()よう()うてみたいものじゃ」


 大きなメガネの小さな微女(びじょ)が、うんうんと(うなず)く。ちらりと俺に目を向け、思い出したかのようにニヤリと笑う。


女騎士(ナイト)エリカよ。ここにおるではないか」


「姫様? 誰がですか?」


「かつての領土を奪還できる力を持つ上に、おぬしを神器(しんき)の束縛から解放してくれる男じゃ。思うに、ジーナはリューキを婿(むこ)に迎えるのを拒絶しないであろう」


「エル! ちょっと待て! 俺に、ワーグナー家に婿(むこ)入りしろというのか?」


「そうじゃ。安心するがよい。公爵家の当主ともなれば、第二夫人どころか、(めかけ)や愛人が何人いてもおかしくない。まあ、婿(むこ)に入るのだから、第一夫人はジーナで決定じゃな。女騎士(ナイト)エリカは第二夫人で異存は無かろう?」


「わ、わ、わ、私は、その、あの!」


「なんじゃ? 第一夫人でないと不満か? それともリューキが嫌いか?」


「不満はありませんし、リューキ殿のことはお慕い申しております! ふえっ! 姫様、なんてこと言わせるのですか!?」


「では、決まりじゃな。リューキよ、頑張って領土を取り返すのじゃぞ!」


 なんだろう……俺は三文芝居でも見ているのだろうか?

 主演:俺、ヒロイン:エリカとジーナ、脚本:エル姫ってとこか。

 俺の人生設計が定まりつつある気がする。うん、あとは実践(じっせん)あるのみだね! いやいや、違うだろう? 俺にも意見を言わせてくれよ!!


女騎士(ナイト)エリカ・ヤンセン。エル姫は、あんなこと言っているが……」


我が領主(マイ・ロード)。実は我がヤンセン家には、ワーグナーの血が(わず)かに流れております」


「え? そうなの?」


「ヤンセン家の始祖は、初代ワーグナー卿の第三夫人でもある女騎士(ナイト)です。願わくば、私たちの間に生まれてくる子どもをヤンセン家の騎士(ナイト)として育てることをお許し下さい!」


女騎士(ナイト)エリカよ。まだ神器(しんき)の束縛が解かれてもおらぬのに、いささか気が早くないかのう?」


「あああ! いやー、私ったら!!!」


 エル姫に冷静な指摘を受けた女騎士(ナイト)エリカ・ヤンセンは、イヤイヤを始める。今日はいつもより激しい動き。下手に止めようとすれば、弾き飛ばされそう。


 うむ……一度回り始めた運命の歯車は止められないようだね。


 それにしても、なんという前向きな発言だ。


 俺とエリカの子どもって……

 

「わらわは第三夫人かのう」とつぶやく声がする。誰が言ったかなんて説明は不要だな。どさくさに紛れてなんてこと言うんだ。いいさ、この際まとめて面倒を見てやるさ。


 ははは……俺は自分のおかしな運命を笑った。 

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

本作を読まれたすべての方に幸運が訪れますよーに!

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