81_シンプルに放課後を舞台にしてみましょう。
「授業風景をメインに据えた物語というものもそれほど珍しいものではないように思うのですけれども?」トムさんが疑問を述べてみます。
「そうは言っても、教育とか学習とか先生との絡みを主体にしなければ、それほど演出の場として選ばれることもないからのう」テーブルトークの神様がさらりと自然に溶け込んで会話に参加しています。
「なんでしれっといるんだお前は!?」びっくりしているのか怒っているのかわからないような声を出しているのはタケルさんです。
「手帳越しに会話に参加するのは、面倒くさくなったそうです。神様の持つ威厳とか、もったいぶった感覚とか、どこかへ投げ捨ててきた残念な神様がこちらになります」制服姿の巫女さんであるあかねさんが、冷たく言い放ちました。
放課後の学校で、適当な文化部の空き教室です。トムさんを中心にして、いつも誰かが、たむろしている場所でありまして、活動実績はありませんし、誰も部活の名称を覚えていません。なぜか学園側が黙認している不思議空間でリマす。都合のいい場とも言えるわけでございます。
「世界の矛盾を調整するにせよ、しないにせよ」トムさんが語り始めます。
「するよ!というか絶賛作業中だよ!」すかさず突っ込むタケルさんです。
「しないにせよ、これからの人生における行動指針とか、目標とか計画をたてるべきだとは思うのです」無視するように続けます。
「言っていることは正論のように聞こえるの」部室に備え付けてある、急須とか湯のみとか茶筒に入れてある茶葉とか、電気ポットを駆使して、自前でお茶を、しかもほうじ茶を入れて楽しんでいるテーブルトークRPGの神様が、もったいぶったようなセリフを吐きます。
「できることが多いと選択に迷いが出ますね。というよりも、すべての道筋が大筋で見通せてしまえるのが問題なのでしょうか?」トムさんが自問自答していきます。
「いや、まあ、多かれ少なかれ、神様系列ではありがちな悩みだとぁ思うけどよ?」タケルさんが同意します。
「その悩みを解決する手段も同時に頭に浮かんでくるわけでございますから、問題はないわけではございますが」自己完結してしまうトムさんでございます。
「ええと、それでは、このように話し合いの場を整える意味がないような気がするのですけれども?」学生服の巫女であるあかねさんが、疑問点を上げてみます。
「様式美、というやつでしょうかね?」人差し指を立てて、真顔で応えるトムさんでございました。
「すべての可能性を網羅している状況であったとしても、ここで語られる物語は、その一遍であるわけですね。つまりは、どのように見せるかという問題なわけではないでしょうか?」トムさんが問いかけます。
「誰に対して見せるーつんだよ?」タケルさんが突っ込みます。
「観測者でありましょうか?観測している自分自信の認識にもどう語りかけるかが、きもであるのではなかろうかと?」疑問符まじりで、会話を続けるトムさんでございます。
「どういうことでしょうか?」あかねさんが尋ねます。
「ソロプレイということかの、もしくはひとり遊びとも言えるかの?」テーブルトークRPGの神様が言いました。
「観客は少なくとも自分自身が一人いるという、ことですね。それにどの面を見せてみるかという話でありまして。面と表現しましたけれども、3次元のものを2次元に切るという例と言うよりは、より高次の事象を、理解しやすい、程度の情報量とか、形式に変換して、提示している、ようなものですね。わかりやすく、言っているだけのことなのです」トムさんが説明を付け加えます。
「いえ、何度聞いても、かえって分かりにくくなっているような気がいたしますよ」あかねさんが忠告いたします。
「例えば、とある物語の主人公という設定で自分を表してみる、とかするとしますよね?」話を切り替えてみるトムさんです。
「まあ、ある意味すべての意思あるものは、自分を主人公にできるわな」タケルさんがまぜっかえします。
「キャラクターメイキングの話かの?」テーブルトークRPGの神様が、自分領域に置き換えて、確認してみます。
「で、自分の今の能力を説明しますと、いかなる困難も、不具合も、すれ違いも不幸も、遡ってなかったことにできるわけですよね。つまりは、因果関係を結果から遡れるような、そのような力を持っていると」トムさんがさらりと、やはり、どう考えても凄すぎる能力を改めて説明します。
「まあ、神様ってのは、そういうものだからな」タケルさんが、肯定します。
「世界の一つくらい好きに出来なくて神様を名乗ってはいけないからのー。まあ、定義にもよるわけじゃが」テーブルトークRPGの神様が、まぜっかえします。
「そういうキャラクターが、主人公の物語って、こう、究極的には、何も、起こらないのですよね。事件とか発生する以前に収束してしまうわけでありますから。文章にするとこうですね、そこに神があった、故に世界は常に穏やかで、愛に満ち溢れ、何事も問題なく、皆幸せに暮らしていったのでありました、というまあ、短い文で終わってしまうわけです」トムさんがサクッと、どこに盛り上がりがあるのでしょうという口調で言います。
「まー、エンターテイメントという配慮には欠けるわな」笑うタケルさんです。
「幸せとは何であるか?というテーマなら、もう少し踏み込めそうではありますけれども?」あかねさんが付け加えます。
「意識を誘導して、常に幸せであるということにするとか、幸せ以外の状態を知らないとか、快楽づけにしてしまうとか、ちょっとモラルに欠けるのではないかという状態にするパターンとかありそうではありますけど、それに反発するのは、それ以外の状態を知っているからですよね、最初からそれ以外を知らないのならば、反発することもなく、そもそもそういう気持ちすら制御できるのが神様であるわけですから、問題はなさそうではありますね」トムさんがちょっと極端な状況を述べます。
「その幸せな状態というのは、同格の神様には通じないわけだが、そこんところはどうなんだろ~な?」タケルさんが設定に突っ込みを入れます。
「物語を面白くしたり、葛藤を入れたりする箇所としては、良い側面だと思いますね」考察を続けるトムさんでありました。
「他の神様が、介入できないという因果関係を結んだ面を作り出すこともできるけどの」テーブルトークRPGの神さまが、大事なところを指摘しておきます。
「そういう局面では、何ができるかではなくて、何か最適であるかとか、価値観の相違とかを争点にして、物語が作られるのでしょうね」トムさんが指摘から話題を展開します。
「”そういう”のをやりたいのですか?トムさまは?」あかねさんが尋ねます。
「これまでの展開から閉じた世界系を作り出すのは、不自然な流れになりますからね。いや、やろうと思えば、これから僕の世界を作るから、続きはそちらでやるね、と宣言して引きこもってもいいのですけれども。超展開すぎませんでしょうかね?」トムさんが首をひねりながら、思考を確認していきます。
「今更何を?という意見がどこかから聞こえてきそうじゃがの」笑ながらテーブルトークRPGの神様が言いました。
「つまりすでに複数柱の神様が物語に関わっているわけでありますし、ええと、私が手にかけた神様も含めますと……ああ、そもそもテーブルトークRPGの神様と一緒に世界を構築していた神様群がおられますから、最初から多数の神々が参加しているのは、確定なわけですね。私自身、神様に近い人間という立ち位置でありますし、タケルさんは、神様見習い?次世代型の神様候補、でしたっけかね?」トムさんが、神様って結構多いですよねーと言いながら、会話を続けます。
「次世代型の神様って、家電の新製品じゃーねーぞ俺は」ぼやくタケルさんでございました。
「この中で、明確に神様なのは、わしくらいじゃからの」ちょっと偉そうに言うテーブルトークRPGの神様でございました。
「……こんなのが神様をしているのですから、世界って結構いい加減なのですね」しみじみという巫女のあかねさんでございます。
「すでに明確に敵がいないわけなんですよね、無理やりしようと思えば、タケルさんと敵対することもできますけれど。それも、結構いい勝負ができるように演出できそうではありますけれども。真剣見を出すのが難しいでしょうね、どうにも馴れ合いになってしまいそうでして」一応の方向性を提示するトムさんでございます。
「そうだなぁ。たとえば、この面でトムと争って、結果として、この世界が滅ぼされたとしても、別の面では何事もなく、ゆるい日常が進んでいたりするからなぁ」タケルさんが椅子の上で手を上げて組み、背を伸ばしながら言いました。
「すべての事象は、すでにあるからの。まあ、時系列とか無視できるのじゃから、すでに、とか、いずれ、とか今、とかも意味がない言葉ではあるわけじゃが」神様としての目線で言う見た目爺のテーブルトークRPGの神様でございました。
「”意味はなくとも価値はある”という名言もありますけれどもね。まあ、身も蓋もない話、趣味の範囲に収まるわけなのですよね、神様的振る舞いというものは。何でもできるというわけではなくて、そもそもすべて有るからこそ、何もできない、する必要が無い、ということでありますから。この発狂しそうな感覚が日常と同じであるように感じられて初めて、神様としてのメンタリティを保てるということでしょうかね?」トムさんは言います。
「別に保つ必要は無いぞ?狂っているのか、真っ当であるのか、とかは結局のところ相対的なものじゃしな。すべて真っ当に狂っておるという状態がすべてにおいて平坦に存在すると、表現しようかの?それほど外れてないように思うがの?」少なくともわしは、わしが狂っているかどうか、名言は避けるぞえ?と続ける、テーブルトークRPGの神様でございました。
「ええと、控えめに言って最初から狂言的な立ち位置かと?」あかねさんが、鋭く踏み込みます。ほんの致命傷でございました。
「であれば、どうしてそのすべてのうちのこの観測点を明らかにするのか、提示するのかという、趣味的なこだわりの根拠とかあってもいいかもしれないわけですね」トムさんが
「いるのか?それ、気まぐれということでいいような気もするぜ。実際、そういう風に振る舞う神様は多いしなぁ」タケルさんが、知り合いの神様を思い浮かべて言います。
「すっぱりと止めてしまって、ちゃんと終わらせて、仕切り直すというのも手じゃぞ?こう、終末を演出して、天地創造から、また始めるとかの。定期的に循環させるように見せるのも、トレンドになったこともあったのう」テーブルトークRPGの神様が、神様界の流行りとか廃りとかを解説します。
「何かの媒体で作られたフィクションなら、それでいいような気もしますけどもね。……ああ、まあ、状況的には、好きにできるのでそれと変わらないわけではありますが」トムさんが考えを転換していきます。
「むしろ、制作会社とかスポンサーとか世論とか、利益を上げようとする勢力とか、柵がない分、現実のフィクション作成と比べて自由度が上のような気もするの」せちがない内幕を暴露しつつ、突っ込んでくるテーブルトークRPGの神様でございました。
「観測する者の主体がトムなら、結局のところてめーがどうしたいかということじゃねーのか?」タケルさんが尋ねます。
「問題は、私の意志というものが、存在しないということかもしれませんね。自我というのは結局のところ入力されたデータの反応にすぎないわけですからね。自分というものはそもそも無いわけですよ。しかも神様の方に近づいたおかげで入力される情報量の桁が違ってきましたからね。どのように納得して行動したとしても、それは自分で決定したことにはならないわけですよ」トムさんが肩をすくめて答えます。
「まあ、神様あるあるじゃの。結局のところ自動的というか、受動的というか、システムとか現象として自分を捉えるようになるのじゃよな、しかしの」テーブルトークRPGの神様が言います。
「当然その先も思考してますよ。達観するのも情報の積み重ねの結果であるわけで、影響の及ぼしあいということでしょうかね。つまりは、意識がどこにもない、自我がどこにもないということは、すべてまるまるそれが私ということであるわけで、世界そのものが自分であると等しいという考えもあるわけですよ。情報の反響で自分というものが作られているということは、逆に言えば、世界そのものが私の一部であるわけですし、外と内の概念というものは、そもそも意味のないものであるのですよ。とか似非教祖ふうにまとめることもできるわけですね」トムさん今日の長向上でございます。
「広がっているから薄まっているというわけじゃねーからなぁ」頷くタケルさんでございます。
「ええと結局どうなるのでしょうか?」あかねさんが疑問顔になります。
「結論はすでに出ているわけで、すでにというか何度も言いますが時間軸とか神様界隈では問題にならないので、常に結論はそこにあるわけですね。要はそれをどう見せるか、演出とか趣味の範囲ということですね」トムさんが指を振りながら解説をし始めます。
「はあ」なんとなく頷くあかねさんです。かわいいですね。
「ああ、なるほどな、今この状態が、求めているものであるということか」タケルさんが納得します。
「そうです、あーでもない、こーでもないと、益体もない議論を重ねる、無駄話に花を咲かせる、この状況こそ、私がしたいことであり、つまりは世界が求めていることなのです!」高らかに宣言するトムさんです。
「結構ロクでもない世界じゃの」つぶやくテーブルトークRPGの神様に対して、
「あなたが言えるセリフではありませんね」と冷静に突っ込むあかねさんでございました。