71_夢オチってシンプルですよね。
「という夢を見た」
「なげーよ!」
俺の名前は、久坂部尊。くさかべ、が苗字で名前はタケルと読む。小学生時代には、勇者か!というツッコミを受けたり、異世界に行きそうだと、言われたりもしたが、現在平凡な高校2年生の春を謳歌している、一般市民だ。
「いや、どこが平凡だとどの口が言うのか?このリアルファンタジーが。設定を羅列したら、編集からリアリティがありませんと言われるくらいの高スペックに加えて、歩んできた人生が波乱万丈というか、もはや何かズルをしているのかというような生い立ちで、ドキュメント風にカメラを回そうとしていてもハリウッドの映画のような情景しか撮影できなような人間が何を言っているのだ?」
目の前で意味不明なことを言っているのは、平凡な自分にとって、由一の非凡を凝縮したような物体Xであるところの、非常に不本意ながら、長らく友人の座の高位をキープしている存在であるところの、平良 富夢、たいら トムと発音する、である。珈琲を飲むときに、時と場合によってブラックで飲んだり、ミルクを入れたり、極端なまでに砂糖を入れて、飽和水を作り出したりするような、飲み方にポリシーがないことを、ポリシーにしている、男である。ちなみに女にはだらしない。
「褒めるなよ照れるな」
「褒めとらんわい、この顔だけ男」顔だけはいいのだこの男は。
学校帰りの喫茶店で、実は大事な話があるんだと、真面目な顔で言われて、珍しく真剣に聴こうとしたらば、とうとうと話されてしまって、しかもなんだかちょっと面白いかもと引き込まれて気がつたら2時間ほど経っていたわけであるが、最後夢オチで終わってしまった俺の心境は如何ばかりであろうか、激怒しても良いのではなかろうか。傍若無人な友人を誅さねばならないのでなかろうか。
「なぜにちょっと走れ裸族ふう?」
「メロスだろう!」
「し、著作権の問題がある、機関に聞かれたら如何する?」
「とっくに切れてるよ!著作権!」
「何を怒鳴っているのか、そうかカルシウムが足りないのだな。マスターこちらに煮干しコーヒーのおかわりを」
「足りてるよ!毎朝サプリで補充しているよ、というか、煮干しコーヒーって何だよ!」
「ああ、違った間違いだったな」」
「そうだよな」
「今日は丸干しのコーヒーだったな」
「そっちかよ!」
そーと、初老のマスターの手で、テーブルにコーヒーが置かれるし、んで、ソーサに丸干しが一匹丸ごといい感じに焼かれて置いてあるよ!
「しかも、意外とおいしそうだなおい!」
「そうだろう、コーヒーにつけて食べるとうまいぞ」
「白飯が欲しいわ!つーか普通に美味いわ!」ばりぼりと頭から食べる派であるので俺は、嚙り倒したわけである。
「食べるんだ」
「出されたものは食べるようにしてるんだよ、悪いか」
「やっぱり育ちがいいなぁ」
「まあ、そのようなリアルな夢のようなものを見たわけであるが」
「おう、長々と聞かされたな確かに」うんざりとした表情を隠さずに返してやるぜ。
「実は、ただの夢ではなかったようなのだなぁ」ほ?
「とすると、税込324円くらいか、メーン」
「……どこかで聞いていたのか、同士タケルよ?」
「誰が同士か。で、なんだっけ?その神様?みたいなのに異世界へ連れられて、ゲームのテスターを始めたら、紆余曲折を得て神様になりました、だっけか?」丸干しの尻尾を噛み砕いて飲み込んでいってやる。
「正確には神様相当の力を行使できるアイテム?強化外骨格を手に入れたわけだが……ああ、肉体的にもかなりチート?ズル?進化とか言うのかな?変質して強化された上に、魔法のようなものも手に入れたわけであるが」淡々を自分が手に入れたと云う妄想上の能力を列挙する、悪友トムである。
「へいへい、で、別にいいじゃねーかよ、それより、前の土曜に遊んだゆー子な、結構いい雰囲気まで持っていけそうなんだよな、で次に遊ばないかって、飛ばしたら、お前と一緒ならとか言ってきたわけよ。なので俺の踏み台になるために、つきあえ」
「あー、悪い、その子もう食った後だけどそれでもいーか?」気のない返事でとんでもない話題を返してきやがったぞこいつ。
「ぬな!どれだけ手が早いんだ!昨日の今日だろ!」
「やるだけなら45分くらいあればできるだろ?というか、やめとけあの子、見た目より軽い……というか、見た目通り軽い?水素なみ、ちなみに火をつけると爆発して火傷しそうだよな」
「焼け死んでくださいお願いします」だんっと、机に両手をついて懇願してみるぜちくしょうめ。
「残念ながら、僕のハートは石綿なみなんだな」
「そりゃ燃えないね!ちくしょうめ、というか、公害認定素材じゃねーか、自重しろよ畜生め!」みだれとぶ絶叫が目の前の絶悪美少年に襲いかかればいいのに。
「おっと、現在もそれで苦しんでいる方がおられることを考えて、もう少し配慮したらどうかね、尊くん?」
「うわ、正論だけど、発端はお前だよな、なにこの責任転嫁っぷり」
「転嫁わけめの戦いを制したわけだよな」
うん寒い。
「話を戻そうか、ええと夢だけど夢じゃないというのかな。いい精神科を紹介すればいいのかトムさんよ」半眼になって言葉を紡ぐわけだよ俺様。
「間に合ってるからいい、薬もまだ切れてないし」驚愕の表情をしてしまうわけで、あれ微妙なラインついちゃったかとか後悔、
「そもそも薬も飲んでいないし、精神科にもかかってないしな」したことを後悔するんだよな、こいつの言動に付き合うと。
「帰っていいかな?」割とマジで。
「世界が滅びるぞ?」割とマジなのか?
「いやそんな世界の危機なんて今更珍しくないだろ?」ポーズでもなくさらりと言ってみたりするわけだが。
「尊さんの常識で世の中を図って欲しくないのだが、今回は都合が良い、話が早い、つまるところ今回は僕が起点で世界の危機なのだ!」
「あらいぐまか!」思わず口調に突っ込んだ俺は悪くないと思う。
「何の話だ?」
「いや、風化したネタだ、きにするな」
「C調無責任?」それは一周回って新しいネタなんだよな。
「で、今回はなんだ、宇宙人か、異次元人か、妖怪か、悪魔か、幽霊か、地底人か、それとも未来人か?ローテーション的には、バイオハザード的な何かのような気もするが?」
「世界の危機が出番待ちしていることが普通であるという感性はそろそろどうにかした方がいいような気がするのだが」何を馬鹿なことを言ってるのだろう?クライシスなんて日常茶飯事だろうが?
「これだからノンフィクションの中でフィクションをしている奴は……」言ってる意味がわからないや。
「世界が変質しているんだよ」おう、空間がセピア色に染まって止まっているな。
「よし、その系列か、任せろ、対応策はパターン化されてるからな。個人的には物語の中心となっている核を涙ながらに討ち滅ぼすのが好みだ、というわけで、世界のために滅せられるが良い、この女の敵」嬉々として笑顔で答える俺がいる。
「やれるものならやってみろ……て、うそうそ、本当に消滅させられそうになるからなあ、冗談じゃない」何を言ってるんだこいつは。
「もちろん冗談じゃないぞ?」
「え?」にやりと笑ってやる。
「合法的というか心理的な負担が少なくなる状況で、滅せられるなんてなんてラッキー、じゃないや、なんということだろう、友が世界を脅かす巨悪に堕ちてしまった、せめて俺の手で決着をつけるのが手向けとなるだろう、というわけで死ね、とく逝け、とっとと滅せよ」笑いながら、励起状態まで権能を持っていくわけだな俺。
「うわ本気で干渉してきたぞこいつ!そこまで狙っていた女を取られて悔しかったのか!」
「うるさい図星だ、悪いかこのやろう!」真っ赤な顔になりながら、存在をすり潰そうと力を込めるが、なんだ固いなこいつ!
「やってる時の反応はそこまで良くなかったし、肉体のバランスもそれほどじゃなかったぞ?」うるさいな!あの純粋そうなところが良かったんだよ。
「……しかも、そこそこ経験があったのか、うん、ちょっと引くくらいプレイが露骨だったしなぁ、彼女、きっと、うまく猫をかぶってただけだと思うぞ?」
「夢くらい見させてくれよ!」俺様大激怒である。
「なんだよお前、人間やめてるじゃないか」ゼーハーと息を切らしてしまったぞ俺。
「失礼な、まだかろうじて人間の範疇だと、信じてるぞ?」肩をすくめて俺の干渉を完全にいなしてしまった、人外のイケメンが曰っているな。
「もともと、元の世界に戻った時に、異世界で手に入れた能力をそのまま持って帰ってこれることが報酬だったんだよな」何事もなかったかのようにコーヒーのお代わりを飲むトム野郎である。砂糖多めなのは、いささか疲れているからだろうか?
「お前の妄想が妄想でないと?というか、なんつー危ない契約を結んでるんだ」ムスーとした表情である。
「おや?心配してくたのかい?」
「最悪だろ、その神様にとって、というか、なんで人類最悪に声をかけるかな?」
「さすがに酷くないかい、タケルくん?」ちょっと引きつってる顔だな、いい気味である。
「よく見ると、確かにまずいんじゃないそれ?」俺はちょっとだけ真剣になってみる。
「だろう?戻ってきたのはいいけど、この世界この手の力に弱いみたいでしてね、結構慎重に慣らしているのだけども、こっちが慣れる前に、周囲の方が限界を迎えかねないという、困った感じなんですよねー」肩をすくめてHAHAHAとアメリカンな笑いをしている場合か!
「上位者の権能が権限しないような結界がこっちの世界には結構堅牢に引かれているからな。そりゃあ、そこまでバリバリに超常の匂いを振りまいていたなら、侵食も激しいし、反応もしかるべきレベルになるだろう、というか、対抗機関がすでに接触してるよな?」疑惑の眼差し。
「勝手に現れて、自動的に壊れていったよ?あ、別に僕が何かしたというわけじゃないからね、どうも自我を含めて認識すら阻害?破壊?しているようで、こう繊細すぎるのも良し悪しだよねー」悪びれない笑みを浮かべているこれはなんだ?いや、いつものトムだなぁ。
「全く精神構造が変化していないのが、返ってひどいというか、酷いよな。もともと極悪な性格というか人格に、巨大な力を与えるなんぞ、なんてことをしてくれたのやら」
「だから言ったじゃないか、世界の危機だって」うわ、どうしてこう自然な笑みで言えるかな?
「わかってるなら、自重しろ!」
「だって、こっちに戻ってきてから初めてわかったんだものさ」あ、いやなことを言う気だな。
「こちらの神がすでにお亡くなりになっているってさ」致命的な一言が放たれるわけだなこれが。
「……うすうすは感じてたけど、現実として突きつけられると、きついものがあるなぁ」ぐったりと笑うしかないとは、このことであるな、と俺は、喫茶店のソファーに深く沈み込んで、顔を天井へと向けたのだった。
「本来なら、外来神の能力は、既存の神の権能によって調整されて、穏やかに同化するとか、世界に影響が少ない少なくとも待機状態であるならそれほどの権能が及ばないようにされる、はずなんだよね、いや僕も戻ってくるとき初めて知ったわけだけれども」にこやかに、軽やかに、こわばりもせず、しなやかな動作で、語る、最悪。
「そうだな、で、こちらでは、神の不在は観測が決定づけられていなかった命題だったわけだが……」苦い、悲しい、やるせない、でも清々したような気持ち。
「僕が戻ってきたときに、観測結果が収束してしまったという感じかなぁ、不在と言うよりは、消滅が確定したとかの方が表現が正しいわけでしょうかね?」清らかな笑み。
「どうりで、今日は騎士団が静かなわけだ」皮肉げに商売敵未満を思う。
「まさにお通夜状態ですよね」誰がうまいことを言えと。
「で、どうします?タケルくん?
次代の神様候補さん?もしくは、永遠に完成に近づき続ける可能性の亀、無限の手水からこぼれた一滴の大河、極大にして極小の、最強にして最狂にして最弱にして最寂の、救世主にして、終末のラッパ吹きであるところの、
女主人公は?
」
最初から決まってる、
ぶっ潰す。
「シンプルだねー」