69_シンプルにこだわると、同じことを繰り返したりもしますよね?
「そういえば、ゲームで亡くなると現実世界でもお亡くなりになると云うシステムでありましたよね?」トムさんは声だけの立場で引き続き尋ねます。
「そうですよ?」デスゲームに閉じ込められた、勇者のお嬢さんである、シルヴァディさんが答えます。
「……復活してますよね?」
「まあ、抜け道はあるのですよ、主に、あの女神=GMの都合で左右されるということですが」ちょっと目をそらす女勇者さんでございました。
「さいですか」
「ところで、今までの苦労とかあまり意味をなくしてしまって、成果だけと受け取ることに対してはどういう感情を抱いていますか?いや、ここまでやったのだから最後のボスは自分たちの手で倒したいなとか、言われるかもしれない未来も予想したのですが?」トムさんが尋ねます。
「いや、遊びのゲームだったら、拘ったかもしれませんが、リアルに命の危険があるような状況で、リスクは負いたくないですね」真顔で答える勇者シルヴァディさんと、頷く仲間たちでございました。
「それはまあ、そうですね。確かにフィクションの主人公ではないのですから、そういう拘りとか、葛藤とか、無駄とまでは言いませんが、面倒くさい状況にならなくてよかったのでしょうかね?」トムさんちょっと首をひねるようなニュアンスで応答します。
「散っていった仲間とか、大事な想い人の無念をーとか、まあ、多少は思うところはありますけれども、それで自分自身が亡くなってしまったら、本末転倒ですし、そもそも、無駄な自己犠牲とか流行らないですからねー」冷静に返す、デスゲームの主人公さんでございます。
「なるほどね」
「実際、一度死んでしまいましたからね、それも魔王本人ではなくて配下の四天王の一角にですし。正直、これからどうやって、リカバリしようかと考えると、途方にくれる次第ですし。まあ、あの女神がまだ健在であったなら、膨大な悲劇を伴って、パワーアップとかありえたりしましたし、その道しか選べないように他の選択肢を物理的に排除して、高笑いの中こちらを進ませようとしたでしょうけど、それももう無くなりましたし」
「な、なるほど?」
「正直もう疲れました。早く現実世界にもどって、甘い食べ物と、暖かいベッドと、心地よい家庭に戻りたいのです」
「戻りたいと思うような家庭があるのは、良いことかと」
「旦那も心配しているでしょうし、さらには、娘に顔を忘れられていないかどうかと、今から心配です、本当早く戻りたい」
「まさかの既婚者、加えて、経産婦でしたか……現実でも女性ですよね?」
「ゲームは現実と同じ性別を選ぶようにする趣味なのです、あと、長い間使用するキャラですから、見ていて楽しめるように可愛らしいお尻が見える女性キャラにするのは当然でしょう?」
「いい趣味をしておられますね」
「ありがとうございます」
はい、設定もろもろきっちりと調整が済みました、ので、現世復帰というのでしょうか、専門用語で言うところのログアウトが可能となりました、順次皆様、ゲームを終了して、現実へと帰還していただきましょう。
残りたいと言うような方が、一定数いるようですね。これはどうしましょうか、まあ、別に犯罪ではないわけでありましょうけど、現実世界の肉体と、情報が紐付けされていますしね、永遠にいることはできませんと言う事情を説明しておきましょう。
それでも残りたいと、意思を示している方がいますね。現実世界がよほど嫌なのでありましょうか?
……肉体的なハンデがあるので戻りたくないと、これはまあ、結構切実な願いであるわけですかね、一応権能の内で完全にこちらへ受肉させることも可能ではありそうでありますけど、いいのかなー。ちょっと、テーブルトークRPGの神様に確認をしてみましょう。
「ということなのですけどどうしましょう?」
『多勢に影響はないので、そちらの好きにすれば良いぞ?』
「ぶん投げてきましたね、一応、逆もできますよとか言っておきますかね?」
『逆、というと?』
「こちらの肉体データを還元して、あちら?現世?の肉体を再構築しましょうか、という提案ですが」
『あー、それもできそうじゃなー。ちょうど、多くの神様の目も離れておるし、どうとでもできそうじゃな、それから連なる因果は結構ひねくれそうじゃけど、面白そうだし、本人に確認をとったら良いのでは?』
「言った本人が言うのもなんですが、いい加減ですね?」
『アドリブはシナリオのスパイスとして肯定する立場じゃからの、テーブルトークRPGの神様としては』
「まあ、後のことは知ったことではないので、好き勝手にするというのも神様らしいといえばらしいですが、そうですね、健康体になるくらいならいいですかね?再現性は問題にならないでしょうし……実験動物扱いになったとしても、その期間は限定的なものにはなりそうですよね?」
『新たな物語の種になる可能性はあるがの……ちょっとばかり特殊能力とかもたせたりするか?』
「そこまでサービスするのもどうでしょうかね?サービスというか余計な要素ですか?そもそもこの経験から結構、自然に、能力が派生したりしていますし……、ログアウト?して現実に復帰しただけでもかなり、性能が上がっているように見えますからねー」
『魂の修練場、かっこわらい、としての役割もあったのかの?あの闘争を司る女神がやりそうな仕掛けではあったなー』
「環境的に現実世界に適応できそうにないので、こちらに残りたいと言う方は、受肉させましたよ。現実の肉体は消滅させておくパターンですね。あと、健康な肉体に戻れるならーという人たちは帰還させました、人並みの寿命は持って復活ですかねー。さすがにすでにお亡くなりになっている方々は、因果律の制御が難しいというか、観測できそうにないので、蘇生は無理でしたけど」
「改めて、トムさんって規格外でしたのね」最後まで残っていましたシルヴァディさん、デスゲームの主人公さんが呆れた声を出していますね、失礼な。
「まあ、規格外なのは、このシステムを構築していた、闘争を司る女神、さんですけれども。僕は流用したまでですからねー」肩をすくめるニュアンスで応えます。
「本当に感謝いたします。陳腐なことしか言えませんけれど、最上の讃歌を!」
「いや、無理して格好つけなくてよろしいので……、では良き人生を。本日は当アトラクションをご利用、誠にありがとうございました、またのご利用をお待ちしております?」
「二度と来ません」にこやかな表情でログアウトしていきましたね。
さて、デスゲームというジャンルでこの世界に干渉してきた方々は退場していただいたわけですが、相変わらず魔王が残っているわけでありますね。こうサクッと消去したりしたらよいのでしょうかね?
できそうなのが、身も蓋もないわけですが。正面から戦っても、システム上からちょっかいを出してもどちらからでもどうにでもなるという、この状況ですが、もしかして、同情に値するような立場であるのでしょうか。
少し探ってみても、こういい感じの敵役という役割を押し付けられているだけのようでもありますし、マッチポンプの災害担当を超えていない立場というのも、哀れというか、これはなんとも救いがないような気がします。
魔王とかその周辺、一応自由意志とかあるのでしょうかね、というか、やられることを前提とした、達観というか諦観が見られるような、あえてそこは無視するような設定にしているようですね。
それほど手間でもありませんし、一度話し合ってもいいのかもしれませんし、裏側から、丸く収めてもいいかもしれませんし、どちらが効率的なのでしょうかね、と自問するわけです。
……因果律を紐解いていけば、あっさりと結果まで逆算できるので、戯言にすがならないと言うのも、酷いというかなんというか、盛り上がりにかけるわけでございますが。
「と言うわけでどうするよ、魔王さん」
「フランクだな勇者よ」
魔王は巨躯でありました、状況によってその大きさを変えることができて、長くひねくれた角を数本頭に備えて、四肢も状況によって増減可能、眼光は鋭く、美醜どちらかというと、異界の美と言う感じでありますね。
はい、一応様式美として対峙したほうが良いのでは?というテーブルトークRPGの神様からの、投げやりな助言に従って、やってきました魔王城、大広間。謁見の間とかいうのでしょうかね?
配下の四天王もずらっと揃っていたりしますが、こちらは結構青ざめた……血の色が赤かどうかはわからないので、雰囲気だけですが、顔色が悪いですね。彼我の実力差がハッキリ分かってしまっているのか、微妙に震えているのがわかりますね。そう怖がらなくてもいいのに。
「痛みもなく消してあげますので心配は要りませんよ?」
「善意で言っているとわかるので、なおさら怖いわ!」おおう、魔王に突っ込まれた、新鮮だなぁ。あ、女性の幹部が、白目をむいて、気絶しそうになりましたね。周囲のが気を確かにもて意識を手放すと死ぬぞとか言ってますね。
「……意外とやわですね」
「邪神の類と対面してるようなものだぞ?想像より持っておるわ」誰が邪神ですか……私ですか。自分の生殺与奪権を持った気まぐれな存在がその能力を隠さずに、目の前にいればそう言われても仕方がないのかなー。でも、
「心外ですね、一応筋を通しに来た律儀な勇者ですよ私は」
「これから滅しますよと、正面から来て宣言して、しかも逃げることもできないと、無理やり存在の奥底から刻み込まれてしまったら、邪神認定されても仕方ないとは思わないかね?」
最初はのどかにキャベツを収穫していたのに、今は邪神認定待ったなしとは、思えば遠くに来たものだなあと、ちょっと遠い目をした私でありました。
「いや別に問答無用で滅するつもりはないわけですが」ちょっと弱気を見せてみます。
「問答ののちに消滅されられるならあまり違いはないがな」王座に座って返す魔王さまです。
「まあ、正直倒されることが前提で存在していたので、その辺りは納得してもらわないと」淡々と返しますと、ビクッとなる四天王たちです。そういえば結局、以前倒された方も復活しているのでしょうかね?
「魔王が存命なら、その配下の復活は容易い、とまでは言えないが、不可能ではないからな」左様で。
「いろいろと終末の設定も考えているのですが、ええとですね、まず、舞台を整えて、きっちりと魔王が退治されたと明示するために、ちょっと演出として最終決戦をプロデュースするというのがありますね。もちろん手加減はしますので結構熱いやり取りは期待できます」人差し指を立てて言います。
「やらせじゃねーか」投げやりですね魔王さま
「まあ、のっけからまんまそれですから、最後まで踊っていただこうという観点ですね」これはひどい。
「あとは、何か超常現象できなことが発生して、魔王とその配下が、この世界から断絶してしまうような演出ですね、まあ、神の御業とか言ったら、大衆は納得するんじゃないですかね?」二つ目の指を立てます。
「大味だなあ」ちょっと呆れている魔王さま。
「こっちは、別に好き好んで魔王とその一派を滅亡させたいわけじゃないですからね、この方策は同時に人間を捕食しないといけないという、魔物とか魔族?つまりは魔王に連なる者の体質完全とかも並行して行うことになりますね」ちょっと興味深そうになる魔王さま。
「できるのか?と聞くだけ無駄なんだろうなぁ」
「基本的な設定をいじるだけですので。そもそも不自然なまでに人類?からのヘイトを稼ぐ仕様ですから。生物としての成り立ちをサクッと変更するか、代替物を用意するか、の二択になるとは思いますが、お勧めは代替物ですかね?」
「その心は?」
「僕が楽です、変化させる個体の取りこぼしもなさそうですし。人もどきでも創生しますから、それを家畜化してくだされば。天然ものよりも美味しいですよ?」セールストークが炸裂します。
「俺が言うのもなんだが倫理的に大丈夫なのか?」倫理を問う魔王とか、うけるー、とか言って欲しいのでしょうかね?
「人間でも豚は飼育して食べます、それはまた別の次元の議論かと。もちろん人もどきには知能とかないですし、屠殺することに対する嫌悪感は、人間の家畜に対するそれと大差ないですよ?」まあ、品種改良とかしていくと、どうなるかわかりませんが、とさらりと続けておきます。
「距離的に断絶させて、文化に対する忌避感も和らげると、しかし今までの所業とかに対する感情的な決着はどうなるのであろうな?」いや俺が言うのもなんなのだが、と魔王がこぼします。
「数百年もあれば風化しますよそんなの、人間は忘れっぽいんですし、世代交代も早いですから。そもそも身内での争いが活発化して当面危機でなはない魔王連中なんて、危機感棚上げすること間違いなしですよ、ようはそっちがちょっかいをかけなければいいんです……かけませんよね?……やっぱり、魔王含めて、あっさりと滅亡させた方が後腐れないですかね?」
「その発想が邪神的なんだよ!」
「むしろ、独善的な神様目線ですかね?」
わかっているなら心が折れるのでやめていただけませんかね?と涙目になる魔王さまでございました。