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58_認識を摺り合わせる努力がシンプルな解決策につながると信じて。

 「さて、食事も済みましたので、食後のコーヒーでも。インスタントですが、アレスさん」

「食事の内容が、和食だったのつっ込もうと思っていたのですが、ここにきて、日本で定番の銘柄が出てくる方が、びっくりしてしまいますねトム様」

「なぜか国の雑貨屋で手に入ったりするのですよね、仕入れのルートは不明ですけど、もしかしたら、似たようなものを錬成しているのかもしれませんが」

「さらり、と現代日本製の製品を見せられてしまいまして、普通に対応してますが、トムさん、どこまで分かっているのでしょうか?」

「そこそこ、知っているかもしれませんし、見当違いな面もありそうですので、話し合いをいたしましょう。まあ、物騒なことには、ならないといいですよね?」

「え、笑顔が怖い気がしますよ、トムさん」


 「まずは、自己紹介でしょうか、私の本名は、タイラ トム と言いまして、現代日本の高校生です。こちらの異世界へは、テーブルトークRPGを司る神様からの依頼、取引ですかね、それによってやってきました。ええと、ジャンルで分けると、異世界転移勇者となるようです?」

「非常に身も蓋もない自己紹介ですね。私の方も詳しく言いますと、本名、というか、日本で使っていた名前は、トウジョウ アキラ です。同じく高校生でしたが、日本で、交通事故に遭い、死亡して、この世界へ記憶を持ったまま赤ん坊に転生しました。そちらの言い方に合わせるなら、ジャンルは、異世界転生者ですかね?勇者というのは違うと思いますけど」

「なるほど、まずは大事なことを確認しましょうか。あなたは神を信じますか?」

「言っている意味がよくわかりません?なんでしょうその、昔の宗教の勧誘のようなセリフは?」


 「別に因果律を操作できる存在でもいいのですが、概念的に神さまとか呼称する方が、意味が通りやすい、話しやすいのでそう言っているのですが。つまりはですね、あなたの転生という現象に特定の神様が関わっているのを認識しておられますか?というお話でありまして」

「はいそれはもう、交通事故、交差点で信号待ちをしていたところに、トラックが突っ込んできて、私が死亡した後、あの世?の様なところで、そのまま神さまと出会いました」

「ああ、やっぱり、こう白い服を着た長いお髭を蓄えた、おじいさんで、古めかしい大きな杖を持っている様な?」

「いえ、外見は可愛らしい幼女でしたよ?こう庇護欲が湧き出てくる様な、一生懸命なという感じの方でした」

「なるほど、そういう神さまもいるのですね、羨ましくはありませんが、未熟な人格?神格ですかね?をしている神さまもいるのですね。よく考えたら、それほど格がしっかりしている神さまって、まだあったことがないですね、そういうのが、基本なのでしょうか?」

「よくわかりませんが、いいえ私も神さまに直接あったのは、後にも先にもあの方だけですのでなんとも言えませんが……」


 「その時の様子をもう少し詳しく尋ねたいです。こう、どのようなやり取りをしたのか、契約の内容とかですが」

「そうですね、最初は謝られましたか?」

「ええと?何か過失があったのですか、神さま側に?」

「転生を司る神さまと自己紹介がありまして、私がまだ、死亡する運命ではなかったのに、手違いで亡くなってしまったと、謝られてしまいまして」

「はあ、個人の生き死にというか、運命をその神さま一柱で管理しているのでしょうか?それは、少し考えても、かなりブラックな職場ではないでしょうか?」

「言われてみればそんな気がしますが、そこはこう神さま能力というか、スペックで対応しているのではありませんでしょうか?」

「いや、アキラさん?それともアレスさんですかね?」

「今はアレスの名前が定着していますので、そちらでお呼びください、トムさま」

「ではアレスさん、人の生き死にのみに関してもですよ、現在の地球人口がおよそ、73億ちょいですよね」

「おおむね私の認識と違いませんね」

「で、お亡くなりになる予定やら、生まれる予定やら、生き残る予定やら、それらすべてを管理しようとするならば」

「するならば?」

「それらすべての人をリアルタイムで観察していなければならないわけでありますよね?」

「そうなりますよね?でなければ、死に至る運命を管理するとかできないわけですし?」

「単純に、それは、能力として可能なのでしょうかね?まずセンサの問題があります、こう地球全体、この場合は地表に限ってしまうわけですが、建物とか遮蔽物をものともしないで、リアルタイムで覗けなければなりませんよね?」

「理屈で言えばそうですね」

「地球の直径がええと、1万3千キロより少ないのでしたか。半径が6.5千㎞として、表面積は半径の二乗に円周率をかけて、それの4倍ですから、5億平方㎞くらいですかね?で、高さがそうですね、高低1万メートル、10㎞くらいとるとすると、50億立方メートルをリアルタイムで観測できるセンサもちということになりますね、それも常時展開と」

「うわ、なんでスラスラ出てくるのですかねそんな数字」

「覚えておく数字は、惑星の直径くらいですよ?あとは、球の面を求める公式と、円周率、まあ3.14くらいを覚えておけば、ざっくり計算することぐらい、誰にもできます」

「いや僕はできないからね?」

「……日本の高校生としてそれはどうなのでしょう?」


 「光学的なセンサではないのでしょうね」

「ええとどうしてかなトムさん?」

「それだと、建物の影とか、地中とか、カバーできないからです。あと、光の速さでは遅すぎるような気もします」

「そうなんですか?」

「処理速度が追いついていかないのではないかなと、予想ですが。同時に観察するだけではなくて、何らかの影響を人間に与える必要があるとするなら、その因子を光に頼れるのか問いう問題もあるわけでして」

「なるほど、運命を物理的に左右させるなら、何らかの影響を地表まで届かせなければならないと?あれ、トムさん、そもそも神様はどこから観察しているのでしょう?」

「合理的に考えるならば、惑星外でしょうかね?光学センサを使用しないとしても、高所からの見下ろしは障害物が少なくなりますし、遠方からなら、視野が広く保たれますから」

「地球の裏側に目が届かないのではないですか?」

「そこは、目を増やしているのでしょうね、こう、衛星軌道上にスパイ衛星を飛ばしているような感覚でしょうか、何らかのデバイスを使用しているのかもしれません」

「神の目がスパイ衛星になってしまいました」

「まあ、物理的に存在しているのかどうかはわかりませんが、概念的にはそういうスタイルにしたほうがエネルギーの消費が少ないと予想するわけです」

「?」

「地中を抜けて、裏側まで通るような仕様にするよりは、適当な中継点を作成して迂回したほうがロスが少ないかなと」

「なるほど」


 「そもそも、観察の方法がそのような見るタイプのセンサではない可能性もあるわけですが」

「いやもう何が何だかわからないのですけど」

「つまりは、関係性のみを高度な計算式などを駆使して、高い精度で予想しているだけであるとかなのですが」

「か、神様パワー?」

「実はそう言ってしまったほうが簡単でよろしいのですけどね。ある程度精度の高い測定をしたのちに、その後に起こる事象を計算で導いて、予測して、それに対しての影響を及ぼす何かを制御していけば、まあ、リアルタイムに全てを同時に観測する必要がなくなるわけでありましょうね?」

「答えが出たような気がするのですがトム様」

「でもこれって、だいぶ前に否定されていたはずなんですよね、ええと、カオス理論でしたっけ?」

「カオスって、混沌とかいうネガティブなイメージですよね?」

「元は、ギリシャ神話でしたっけ?」

「そうなのですか?」

「たぶんそうですね、最初の方の神様です」


 「私もうろ覚えなのですが、カオス理論によると、観測された数値が極めて正確でないと、その後の計算結果に、大きな開きが出てしまうことがある、でしたっけかね?結果、とても常識では無理なほどに精度を高めたセンサを使用しないと、予想が仕切れないので、計算によって未来を導くとかそのような数式は作成できない、というか、作る意味があまりないということだったような?」

「そうなのですか?」

「その辺りをなんとかするのが神様パワーなのかもしれませんが、どれほどのリソースが必要になるのか、想像も出来ませんね。それだけのことができるなら、つまりは、それだけのエネルギーを持っているなら、もっと他のことに使用した方が、効率的というか、建設的なような気もするのですけど、そこまでして、人間の運命を制御する必要があるのでしょうかね?と云う疑問は浮かびますね」

「言われてみれば、他にやることがあるような?」

「人類と云う種全体を見てればよろしいような、つまりは、個人個人に注目する必要は必ずしもなく、社会全体での流れとか、その関わり、主要な組織周りを見ていて、目的に沿って制御していくくらいが、まあ、妥当な干渉の範囲というか、コスト的に見合うような気はするわけですよ。それなのに、個人の生き死にまで一柱が監督するという状況が、少し不思議ですね」

「言われてみれば、そうですね。でもそこはそういう神様だからと納得してはいけないのでしょうか?」

「安易な納得は思考停止と同じですよ?そこからは何も生まれません。まあ、考えても仕方のないことを考えるのも、また不毛ではあるわけですが、そこまで行くと、そもそも思考するという現象そのものを否定するような結論が導き出される可能性もあるわけでして」

「うう、よくわからなくなってきました」

「もう少し抽象的に行きましょう。ええ、大事な話にまだ届いていないですし」

「そうなんですか!?」


 「神様の能力によって、世界に生きている人間の生き死にが制御されているとします。その仕組みはブラックボックスなままで話を進めましょう。エネルギーがどこから来ているのかとか処理体系がどうなっているのかとか、そもそもどのように干渉しているのかとか、考え出すと、そこで話が止まってしまいます、考えること自体は楽しいですが」

「楽しいのですね」

「ええとても。では、なぜ神様は、人間の運命を制御しているのでしょうか?」

「そ、そういえばなんでなのでしょう?」

「幾つか考えられますね。一つは、そういう存在であるから、これは神様に自由意志がなくて、そのようなシステムとして作られているからですかね?なんらかの基準がありまして、人の生き死にを含めた運命をある一定の条件に当てはまるように制御する、という仕事を与えられた、作られた存在であり、本能に近いところでお仕事をしているのですね」

「あ、なんだか機械みたいですね」

「ニュアンスは近いような気がしますね、この考えだと、そもそもそのような仕組みを考えて構築したさらに上の神様の存在とか、別の種類の神様の存在を仮定しなければならなくなりますが、実際の実働している神様の動機を説明する分には十分ではありますね、その上のシステムを構築した神様の動機を考える必要が出てくるので、実はあまり意味はないのですけど、出会った時の印象とかを補完する意味合いくらいはありますかね?」

「言われてみれば、小役人的な、下っ端的な雰囲気があった気がします、幼女の神様」


 「次に、人間の運命を制御するとなんらかのメリットがあるのでしている場合ですか?これは上役がそのメリットを享受するために、システムとしての神様を作成したとか運用しているという理由にもなりますね」

「ええと、メリットですか?」

「どのようなものがあるのかは、わかりませんが、人の、それも個人個人の行動やら、思想やら、及ぼす影響やらを制御することで生まれる何かを欲している、パターンと、制御下に置いておくことで、不利益を回避できるパターンと、大きく分けて2種類ありそうですね」

「ええと、欲しいものがあるから介入するのと、避けたいものがあるので介入するという感じですかね?」

「そうですねアレスさん、だいたいそんな感じの、まあ、俗っぽいお話でして。それは、神様にとって何らかの価値が、それもかなりのリソーズを消費してまで欲しいとする何かがあることになりますね。もしくは、それらのリソースを注ぎ込んでまで避けたい事態があるのかもしれませんが」

「何なのでしょうね?」

「注ぎ込んだリソースよりも大きなリターンを得るのですよね、純粋にエネルギーとかですかね?こう大きなリソースにつながる何かであるのかもしれませんね?ちょっと想像できませんが、少しわかるような気もします」


 「他には、単純な趣味の範囲ということもあるかもしれませんね?」

「趣味ですか?」

「こう、人類の未来を、ちょこちょとと介入することで、自分の美しい?美意識に即した、もしくは退屈がまぎれるような娯楽作品として、完成させてみようかと。もしくは、適度に躾をして、その動態を愛でるような?可愛がるような感覚とかですかね?さらには、不用な要素を摘み取りつつ、全体として、綺麗な立ち姿の、もしくは風情のある作品を作り出すような、そのような感覚で干渉しているのかもしれません」

「ああ、なるほど、それは趣味ですね」

「それを通して、自身の精神的なストレスと軽減させるのが、最大のメリットであるわけですね」

「神様ってストレス溜まるのですかね?それこそ、なんとでもなりそうなきがするのですけれども?」

「横で見ている分には、結構ドロドロとした感情があるみたいですね。人間らしいというか、らしすぎるような気もしますが」


 「さらには、実は、別に運命を管理していないというパターンもありそうですよね」

「えっと?私はその管理のミスで亡くなったと言われましたが?」

「それが正しいかどうかは、判断できないでしょう?」

「言われてみればそうですね」

「その幼女の神様が言っているだけで、裏付けはどうやっても、こちら側からはできないわけですし、それこそ、神様力で、認識を歪められて、正しいと思わされている、洗脳に近い状態になっている可能性も高いわけであるでしょうね、怖い話ですね、だからと言って何ができたか、何ができるかという話でもないのが、さらに怖いわけですが」

「うわあ、もしかして知らない方が幸せでしたかね?」

「そういう側面はいつも存在するでしょうね」



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