52_強く、さらに強くなると、相手も際限なく強くなってシンプルに終わらなくなりますよね。
「少なくともまだ強くなれる余地があるということは、安全度の高い方向へ進むためには、十分対処する必要があるということではないでしょうか?」
「いえ、帰ってくるなり、何を仰ってるのでありましょうか、勇者様」
「かなり急激に戦力が増しましたので、一体何と戦わされることになるのでしょうかと、戦々恐々としている昨今です、皆様いかがお過ごしでございましょうか?」
「誰に尋ねているのでしょうか、勇者様?」
「少し混乱しているようですね、テーブルトークRPGの神様から何か御神託はありましたでしょうか?」
「いえ、何やら神界で慌ただしくしているようでして、漏れ聞こえてくる託宣では、『過剰防衛である』とか『証拠品アを提出』とか『異議あり!』とか聞こえてきていますね?」
「裁判でもしているのでしょうか?これはまた時間がかかりそうですね、では、こちらはこちらで好きに、検証やら、性能アップやら、やらせていただきましょう」
「勇者が好きに動く、って、普通のことのはずなのですが、何か悍まし恐ろしいものを野放しにした気になるのは、なぜでしょうね?」
「そういうのも好きでしょう」
「はい大好きです」
「59日目の朝です。
累積経験点:1,125,899,907,926,000点
所持コイン:625,899,808,430,998枚
ですね、
今日は、まず王都へ飛びます。強化外骨格の二つ目のコアに、心あたりがあるからです」
「行ってらっしゃいませ、勇者様」
「行ってきます、巫女さま」
「サブマーリン学園長、ちょっと欲しいものがあるのですが」
「藪から棒じゃな、あまり法に触れるようなものじゃと、時間がかかるのじゃがの?」
「そんな真っ黒なものではありませんで、以前、魔王の四天王が王都の結界を打ち壊して、要石を破壊されたので、新しいそれを迷宮から、取ってくるというイベントがあったと言いましたよね?」
「うむ、最後のループにおいて、トムさんが、結界が破壊される前に、ざっくりと四天王の一体、毒土の、ええと何といったかな、とにかくそれを打ち倒してくれたので、消え去ったイベントじゃな」
「その素材が欲しいのですよ」
「ううむ、まあ、本来なら壊れていたものである代替品として使用する予定であったものであるから、良いとは思うのである。迷宮の宝物であるから、二度と手に入らないというものでもないしの、しかし、結構な守護者が立ちふさがっておるぞ?」
「まあ、古龍ほどならば、問題ないかと思います。さすがに、神様とかじゃなければ?」
「その自信がどこからくるのか疑問には思うが、そうじゃな、その要石の素材に成る、次元の水晶を守護しておるのは、次元を司る”何か”じゃ」
「名称が”何か”なのですか?」
「もしくは”何ものででもない”とか、”是非もなし”とかじゃな、見た目は、多次元立方体の組み合わせで、物理的な守護を無効化した斬撃を放ってくる、直径10メートルから20メートルの鉱石に見える、何かじゃ」
「だいたいイメージできましたね、しかし、学園の、逆ハーレムチームでよく攻略できましたね」
「何度か全滅はしとったようじゃがの、自力をあげて、コンビネーションを駆使して、どうにかこうにか足止めをしておいて、その間に必要な素材をかすめ取って撤退する、という作戦じゃったな」
「あ、退治したわけではないのですね」
「正攻法では無理じゃな、選択肢次第では、シンシア側との共闘が発生しての、シンシアの強力な精神魔法による、0タイムでの意思疎通からの連携と、メグレア嬢の呪殺を、生徒会メンバーの魔法特化二人、白のデイライトと、紫のルーフェンが強化、手数を撲殺のオーリン嬢と、暗殺メイドのアヤメが稼いで、突破したループもあったのう」
「ちょっと見てみたかったような気もしますね」
「シンシア嬢かフローラ嬢の手が空いているなら、そこら周りに迷宮を案内させるのじゃが、どうじゃろうの?」
「場所さえわかれば、問題ありませんが、迷うほど広いなら案内が欲しいところではありますね」
「地図はあるぞ?何度も攻略した対象じゃしな、わしの方まで報告が上がっとるので、記憶しておる」
「じゃあ、単独の方が楽なので、一人で行かせていきましょうかね?」
「王都の迷宮を単独踏破とか、ふざけたことを抜かしおる、と呆れられる案件なのじゃがの、本来は。まあ、了承した、少し待っておれ」
「大変です学園長!」
「あれ、シンシア嬢ですね」
「あなたもいたのですね、いえそれよりも大変なのです学園長!」
「シンシア嬢が慌てるのは珍しですね、どうしました?」
「生徒会メンバーが、”何か”に至るために、迷宮に潜ってしまいました、しかもフローラさん抜きで」
「それは、ヒロイン以外全滅エンドのフラグじゃな?しかしまた一体なぜに?」
「そもそも、シナリオの流れで、”何か”が守る希少な宝石があるという、情報は生徒会側にすでにあったのです。それで、手頃な探索として、その宝石を手に入れてみようと、思い立ったそうです」
「なんでまたそんなことを思ったんじゃ?要石はもう必要ないというのに?」
「たぶんですが、フローラさんへのサプライズ的なプレゼントにするためではないでしょうか?彼女、シナリオに沿っていた時に、その宝石の話をウットリとした目で語っていましたから」
「何も、そんなフラグを無理に回収せんでもよかろうに」
「四天王戦で、脱落者も出ませんでしたし、圧倒的な障害としての敵キャラとの遭遇がありませんでしたから、自身の実力を過大に評価しているのだと思いますわ」
「なるほど、惚れている女の子に、いい格好をしようと、く、気持ちはわかるが、先の展開を知っておると、迷惑なとしか言えんぞ!」
「とりあえず、フローラさんが、単独で追いかけています!こちらも、手勢を集めてすぐに行くつもりなのですが、準備をしていなかったので、戦力が足りません。もし止めるのが間に合わなくて、”あれ”と戦闘が始まっていたら、撤退戦にならざるをえませんけれども、生徒だけだと厳しいです、ですので学園長の力を借りたいのです、お願いします!」
「よろしいもちろんじゃ、では急ぎ参るとしよう!」
「あ、それなら私もご一緒しますね、都合がよろしいので」
「お、お気楽ですわね”何か”は常識外の強さでしてよ?しっかりとした準備、呪殺の儀式とか連携の打ち合わせとかですが、それがあって、初めて五分に持ち込める相手ですのよ!」
「古龍と同じ程度なら、まあ、なんとでもなるでしょう、おそらく?」
「そんな伝説上の怪物を引き合いに出されても比較できませんわよ!」
「手数が増えるのは、純粋に嬉しいじゃろう、それに、神殺しじゃぞ、トムさんは」
「移し身を不意打ちで倒しただけですけどね」
「道中ですが、適度に剣を振るわせてもらいましたが、ほぼ一撃ですね。うんバランスが崩壊しているようです」
「地竜が単純な剣の一撃で沈むとか、信じられねーんだが?」
「オーリン嬢でしたね、まあ、そんなものだと慣れてください。急ぎで進まなければならないからと、背負子にメグレアさんを乗せたままでかなりの速度で行軍できる貴女もなかなのものだと思いますよ?」
「こ、こちらはちょっと激しくて酔いそうです……少し手加減してくださいな、オーちゃん」
「我慢してくれ、メグ。急がないと間に合わないかもしれないからな」
「うー、バーンくんが心配なのはわかるけど、このままだと、私が戦力にならないですよ?」
「ば、バカ、そんなんじゃないよ」
「青春じゃのう」
「おバカな会話をしてないで、早く行きますわよ」
「お嬢様のいう通りです」
「あ、先の方、広間で戦闘っぽいことをしてますね」
「本当ですかトム様。間に合いませんでしたね、仕方ありません、攻撃を引き受けつつ、生徒会メンバーを撤退させます」
「わかったぜ」
「ううう、吐きそう」
「ご命令のままに」
「まあ、引くだけならなんとかなるじゃろうて」
「さて、生徒会のメンバーは、多次元立方体の”何か”にいいようにあしらわれたようですね、現在は、フローラ嬢が作り上げた結界の中に、全員がこもって、致命傷一歩手前の傷を治療中ですか。見たとろ、今後のシナリオからの強制的な脱落者はいないようですね。ただ、結界そのものを何だか侵食されていってるようですね、あまり持ちそうにありませんね」
「シンシア嬢が、精神のネットワークを構築したようですね、私は仕様で人と協力できないので不参加のようです。少し寂しい気もしますね」
「オーリン嬢が正面から攻撃と、彼女は本当に素手で突貫するのですね。それで気を引いた瞬間に、背後?からアヤメさんが双剣で攻撃ですか、急所があるようには見えないですが、有効なのでしょうかね?そしてその二人を囮にしておいて、本命のメグレアさんの呪い、……ですが、抵抗されて、あまり効果がないようですね、ぐるーりと回転して、接近戦をしていた二人をなぎはらったようです」
「そこへ満を持して学園長の魔法が飛びますね。すごい爆発ですね。噴煙が生じて、これは視界が閉ざされましたか?誰かが、やったか?とか呟いていますね」
「そして、無傷で現れる”何か”ですね。さすがに学園長、びっくりしていますね。生半可な攻撃は通らないようで……、と、いい位置です。とー。意外と手応えがないですね、強化外骨格はやりすぎでしたか?能力値強化系の重複起動と、魔法の付与くらいで十分でしたかね?ザクザクザクと、格子結晶ぽいものを分解しましょう。何か攻撃をしてきているようですが、通りませんね。さすが5桁の防御点です、魔法扱いですから、ギリギリ4桁なのでしょかね?何とも言えない発音をしながら、倒れ伏しました、さて、経験点は、と、かなり入りましたね、神のアバターと同等ですか、本当に最近、インフレがひどいような気がいたします、コインと、素材水晶を確保しましょう。なるほど、名もなき時空神、その眼ですか、それっぽいですねー」
「さて、取るものも取りましたし、帰りましょうか?どうしたのです、皆様?鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして?」
「トムさんの強さに驚いておるんじゃよ、察しろ」
「あ、左様で。まあ、いろいろと装備で強化していますからね」
「それだけで、納得する人はいないと思いますわ……私の魔法も弾いているようですね」
「シンシアさんの魔法は、私の仕様に合わないようですね、すいません、悪気はないのですが」
「仕様って……、いや本当、トムさん、あなたはいったい何者なのですか?」
「通りすがりの勇者ですよ」
「さて、多人数でしたので、ダンジョンの脱出も徒歩でした。単独ですと、魔法で楽に出られたのですけど、比較的楽に時空神の瞳が狩れたので結果的には良かった方ですね」
「いやもう、どこから突っ込んでいけば良いのかわからんの」
「生徒会のメンバーは、フローラさんからの説教漬けでしたっけ?」
「シンシア嬢の精神的な調教も合わせてやっておる、まあ、これに懲りて、無謀な行動は慎むようになるじゃろう」
「調教とか言ってますね、怖いですね」
「お主の、底知れぬ実力に比べれば、幾分マシなような気がするがの、ああ、いや、陰険さではシンシア嬢の圧勝かもしれん」
「それ本人が聞いたら怒りませんかね?」
「正直、悪くて強い魔王くらいなら、サクッと倒せるのじゃないかねトムさん」
「どうですかね?これだけ強くなる要素が、こちら側にあるということは、相応の難関が、あちらにもある、という可能性もありそうです。が正直そうだとすると、他の勇者の実力との開きがありすぎるので、バランス的にどうなのでしょうかね?という疑問が沸き起こりますね」
「いや、トムさんクラスの戦力がゴロゴロしておって、それでバランスを取れるような魔王の強さとか設定されているとなると、単純に戦闘が発生しただけで、世界が崩壊しそうじゃろ?」
「それは考え過ぎです、と言えないところが、笑えないですね」
「さて、王都の学園で、いろいろと常識を壊してきましたが、ホームグラウンドの、シャヨ国では、通常運転の勇者です。というか、何をやっても、ああ、勇者だからねーで受け止めてくれる、この国の懐の深さは、大したものだと思います」
「おーい、ビルさん、スミスさん、新しいコア候補を入手したので、強化外骨格に組み込んでくださいな」
「早いだーよ」
「さすがだな、ガハハ」
「で、匠の手によって、出来上がったのがこちらでございます……いや、本当に何と戦うことを前提にしての、装備なのでしょうか?」