48_シンプルという言葉がそろそろゲシュタルト崩壊を巻き起こし、周辺の家屋を押し流し始めました。
「話は少し変わるのですが、辺境伯の娘さんのことです」
「おう、物騒な話はとりあえず置いておこうか、確かエリザベス嬢じゃな」
「休学扱いになっていましたが、今日か、明日には復帰することになりまして」
「どうしてトムさんから報告が上がってくるのか疑問ではあるが、了解した、事務方に連絡しておくとしよう」
「ありがとうございます。エリザベス嬢との関係は、手荷物と運び屋ですかね?」
「?いやなんだ複雑な関係のたとえかの?」
「そのままですが」
「意味がわからないぞ?」
「話をすれば影じゃの、どうやエリザベス嬢が学園に登校したようじゃ」
「便利ですね、その伝言魔法」
「学内の各所に設定してあるからの、メッセージを小鳥型の魔法人形が音声で伝えるわけじゃ、手紙など、軽い荷物なら同時に送れるしの」
「そういう、便利系の魔法って、習うことはできるのでしょうかね?」
「十分な魔力量と適性ががあれば可能じゃとは思うぞ?なんなら後で調べてみるかの?」
「ちょっと、興味はありますね、是非に」
「まあ、転入するなら必要な検査でもあるからの」
「失礼しますわ」
「お、きたか、とりあえずそこにかけなさい」
「なんで能面勇者がここにいますの?」
「ちょっとした編入の打ち合わせですよ、エリザベス様。エリザベス様こそどうしてここへ?」
「学園長に呼ばれたからですわ」
「そうじゃ、わしが呼んだわけじゃが、いろいろと確認したいことがあっての」
「……あーなるほど、確かにエリザベス嬢の状態は試金石とかになりますね」
「じゃろう?」
「何のことですの?」
「フローラ嬢のことはご存知ですか?」
「平民出身の、天才魔法使い候補でしたわよね?入学時そうそうからいろいろやらかしていますので、さすがに知ってますわ」
「そこのところを詳しく」
「変なことを尋ねますのね、ええと私も噂でしか知りませんが、確か、規格外の魔力量の持ち主でしたわよね、けれどもあまりその制御とかが得意ではなく、魔術の実習ではトラブルが多かったようですわね、あと、平民出身でありましたので、学力に少々難がありまして、教員が個人指導をして底上げをされていたとか、補習を受けていたとかですかね?」
「……なるほどの、エリザベス嬢は、昨年度の終わりから辺境伯領へ戻っておったのじゃったかの?」
「そうですわ、ちょっと地元でいろいろ用事がありまして、復学まで時間がかかってしまいましたが。必要な単位は最低限確保はしてますが、何か問題があるのでしょうか?」
「いや、学業に関してはとくに問題はないと聞いておる、まあ、出席日数が若干危ない可能性があったが、この時期ならレポートで代替できるじゃろう」
「よかったですわ、ちょっと領でいろいろありまして、まさか学園に復帰することをころりを忘れるとは、思いませんでしたわ」
「そうですね、それも異常ではあったのですね。あれだけのせいかと、思っていましたが、現状の学園の状態も関わってきそうではありますねぇ」
「そうじゃな、トムさん」
「何のことですの?……は、また何かやらかしたのですのトムさん!」
「その私が何かやらかしたにちがいないという、眼差しと口調はおやめください、今回も巻き込まれた側なのですから」
「このような、災厄を巻き込んだ方々にお悔やみを申し上げたいですわね」
「お嬢様も大概酷いですね」
「おそらくエリザベス嬢は、ループが始まる前に学園から出たようじゃの」
「そうですね、フローラ嬢がまだ一回目の学園生活で、慣れていない頃のみたいですからね」
「二回目以降は、さすがに補習とかは受けておらんかったからのう」
「ループ?なんのことですの?」
「知ると生存確率が下がりそうですよ?」
「何を強いことをさらっと言っているのです!知りたくなくりましたわ!」
「知らないと、うっかり舞台から消えそうではありますけれども」
「逃げ道を絶たれましたわ!」
「話は微妙に変わるようで、そのままなのですが、エリザベス嬢、学園に復帰して何か変わったことはありませんでしたか?」
「今日来たばかりですわよ!」
「まあ、そうなのでしょうけど、何かこう違和感とか感じませんでしたかね?」
「言われてみれば、妙に新しいサークルが増えたような気がしますわね、春からサークルの新設ラッシュでもありましたの?幾つか昔馴染みから勧誘を受けそうになったのですけど?」
「なるほどのう、学園生活がループによって色々充実していった結果じゃろうの。結構いい面もありそうじゃの」
「無意識下に、繰り返される、日常に対して変化を求める欲求が、発露したのかもしれませんね」
「何か裏があるのですの?」
「そういえばシンシア嬢のことは知っておられますか?」
「もちろんですは、家臣筆頭の伯爵家のご令嬢ですわね、親しい友人を介してですが、面識もありますわよ。復学後の挨拶はまだしていませんが、早めに顔つなぎはしておきたいと思っておりますわ」
「それは意外、というか、中立派の辺境伯のご令嬢が、王党派のご令嬢と懇意にしてよろしいのですか?」
「中立派であるからですわよ、それに癖のある友人の面倒を見てくださっているので、そのお礼も兼ねて色々付き合いがございますね」
「……そのご友人というは、どなたで、どのような関係なのでありましょうか?」
「メグね、メグレアというわ、彼女と私の関係は義理の従姉妹ということになるのかしら?」
「それはひょっとし、その伯爵家の名前は、トルクマンとかおっしゃいませんかね?」
「当然ですわ、能面勇者、あれやこれや背後関係を探っているので私に、彼女周りのことを、尋ねたのではありませんの?」
「いえ偶然です、なるほどそっちとつながるのですか。元辺境伯夫人、後妻として送り込まれてきた、実は魔王の刺客、その実家が、呪殺令嬢のところだったとは」
「呪殺令嬢ってメグが聞いたら泣くわよ、彼女は、正当系の魔女子よ」
「……これも何かのパロディなのでしょうかね?」
「ふむ、辺境伯のところも何やら物騒だったようじゃの、しかも王都にも魔王の手が伸びている可能性があるわけじゃの」
「ここだけの話にしておいてくださいね、いろいろと対応してもらいたい、学園長だから話したのですから」
「いいように使い倒す気じゃの、まあ、ほおってはおけぬが、わしがその魔王の手下とか、潜入工作員だったとしたらどうするつもりじゃたんじゃ?」
「ああ、その時はすでにあなたはそのことを気にする存在になっていませんので。私の糧として美味しくいただいていますから。そうでなくて少し残念ですけれども」
「目が怖いぞ、冗談はやめてほしいのう」
「残念ながら、学園長、彼は、徹頭徹尾本気ですわ、私は知っているのですよ」
「おう、エリザベス嬢の目が何か達観したものになっておる」
「ははは、君たちは愉快だなぁ」
「とりあえず、エリザベス嬢がシンシア嬢に会うのはまずいですね」
「そうじゃの、無駄に警戒させることになりかねん、メグレア嬢とも距離をとった方が無難じゃろうかの?」
「どういうことですの?一応貴族的な腹芸くらいはできますので、それとなく探りを入れてみようかと思ったのですが?」
「シンシア嬢の特性で、近づくと情報が漏れる可能性があるのですよ、同じようにメグレア嬢さんからもですね。でもシンシア嬢が庇護下に置いているのですから、魔王の手下が化けているということは、なさそうではありますね」
「シンシア嬢がそもそも魔王側ということもあり得るのではないかの、まあ、性質的になさそうな気もするが」
「シンシア嬢は一度会ったことがあるのでわかりますが、彼女は人間ですね。同じく、フローラ嬢と、生徒会のあの結果の要石に来ていた面子に人間外はいませんでしたね」
「そういえば、能面勇者はそういう偽装を簡単に見抜けるのでしたわね」
「なるほどの、じゃから、最初からワシのことは信頼していたのじゃな」
「信用はしています。おかけで色々楽をさせていただいていますし、学園内に、魔王の手下が紛れ込んでいるかどうかは、ざっくりと見て回れば判明するとは思います、王都には結界がありますから油断して足元をすくわれる可能性もありますね」
「並の怪物なら行動も困難になるのじゃがな?」
「そういう、前提を覆すような、アイテムとか、魔法とかを駆使する可能性はありますからね。単純に人間の協力者を使っても良いわけですし」
「魔王に協力するなんて、自分の首を自分でしめるようなものですわよ?」
「目先の利益につられるのも、また人間なのですよ、エリザベスお嬢様」
「しかしそういうアイテムがあることを後出して出すと、アンフェアじゃないかのう?」
「これはゲームではないですからね。私が言うと違和感がありますが」
「ええと私はこれからどうしたらいいのでしょうか?」
「エリザベス嬢な、復学の手続きが終わりましたら、今日は帰宅する予定でしたか?」
「少し教室を覗いて、知り合いに挨拶をする予定ですわ」
「シンシア嬢にあう可能性はありますね……同じ学年でしたか?」
「そうですわ、クラスは違いますけど、彼女は後衛の魔法使いですし、私は、中近距離向けの魔法騎士にして、戦場指揮クラスですから」
「意外と強そうですね」
「個人ん実力はトップクラスまではいきませんが、上位には入りますわよ。卓上のシミュレーションでは、こちらは、たまに最高点を出すこともございますわ」
「うむ、エリザベス嬢は、かなり優秀な生徒じゃよ」
「お褒めに預かり光栄ですわ」
「なら、仲間に引き込ませていただきましょう、大丈夫ですよ、そう簡単には死なないといいですね」
「言葉の最初と最後の整合性が取れていませんわ!何をさせる気ですの!」
「学園内を歩き回って、違和感のあるところを調査してもらいましょう、伝を使って噂とかを集めてみるのもいいですね、主にフローラさん周りと、シンシアさん周りで」
「あまり危険な感じは致しませんわね?その両人が魔王と通じている可能性があるのですか?」
「そうかもしれませんし、そうでないかもしれませんが、事態はより深刻でして」
「相変わらず表情が変わらないので、深刻そうに見えませんわ」
「実は深刻ではないかもしれません。そうですね、ちょっとした世界の危機でして、下手を打つと、世界が物理的に崩壊する可能性があります」
「むちゃくちゃ物騒ではありませんか!え、なんですの、いつの間に、世界は滅亡待ったなしに追い込まれていますの!」
「のべ数十年の間に徐々にですかね?客観的にはここ10年ですけども。時間と空間が疲労しているようですよ?」
「意味がわかりませんわ!」
「シンシア嬢に会わないように、こちらでナビゲートしようかの、この髪飾りを耳のそばにつけておくれ、エリザベス嬢がシンシア嬢とその関係者に会いそうになったら警告音を発するようにしておこう」
「とても便利なアイテムではありますけど、学園長さま?これはそもそもどう言った経緯で作られた魔法のアイテムなのですの?」
「別に他意はないぞ?会いたくない人の一人や二人普通に生活しておったらおるじゃろう?で、そういう者に時間を取られて煩わしくならないように、開発したのじゃよ。残念ながら、とある事情があって学園内でしか使用できぬがな」
「……前に一度、事務の長から、学園長が捕まらなくて書類がたまっていて困るとか、言っているのを、見たことがあるのですが、まさかそういうことでしょうか?」
「何のことじゃか、わからんのう」
「お、監視システムに感ありじゃ、どうやら、学生食堂でフローラ嬢とシンシア嬢が絡んだイベントが発生しておるようじゃの」
「私にも見せていただけますか?学園長」
「監視システムなんてものがありますの!?」
「一般生徒には内緒じゃよ、学園長命令ね」
「理不尽さを感じますわ!」
「映像を机上の水晶球に投影するぞ、音声もありじゃ」
「結構画質がよろしいですね、音もステレオというか、音源を理事長室に散らしていますね。無駄に臨場感が溢れています」
「まあこのあたりは趣味じゃからな、力の入れようが違うのじゃよ」
「情熱を傾ける先が間違っているような気も致しますが、まあ、人間趣味の生き物ですからね」
「納得してはいけない気がしますわ!」
「ほう、平民であることに難癖をつけて、生徒会の人員との距離に難癖をつけている、一般生徒に巻き込まれて、シンシア嬢が矢面に立っておるの。おそらくフリーのイベントじゃろう」
「解説がゲームナイズされていますね、とするとどうなるのですか?」
「やり取りの中で、生徒会メンバーとの親密度があがって、シンシア側の評判が少し落ちる程度かの?」
「なるほど、と、この映像もう少し引いてもらえますか?」
「できるぞ、視点変更は自由自在じゃ、迫力重視でローアングルから狙ってみるか?」
「そういのはいいのです」
「学園長!その視点は品がないですわ!」
「ああ、その生徒ですね。ふーんなるほど……。ちょっと行ってきますね、何かアクシデントがありましたら、もみ消しをお願いします」
「それはもう、何か酷いことをやること前提じゃよな!」
「諦めましょう、学園長。トムさんのやることですよ?」
「その達観の方向性は何かヤバいものを感じるのじゃがのー」