36_冒険は達成した後よりも、その前後の扱いが難しいという言葉には、シンプルさの奥にそうでないものが隠されているわけで。
「まあ、油断しているわけですから、あっさりとバッサリやってみたわけですが。意外と弱かったですね、最深部の怪物にしては、不意打ちであったからでしょうか?もしくは かしこさ 特化だったのかもしれませんね。声すら上げさせなかったのは、さすがと自画自賛できそうです。どうにも最近、勇者の意味合いが、暗殺者に変わってきそうな気も致しますが」
「モニターには、ピタリと止まってしまった、大きな竜型の怪物が見えますね。その目の前には、全滅間近の冒険者の一団です。ああ、かなり薄汚れていますし、瀕死の重症ぽい、人もいますけど、事前に見ておいた、アレスさんたち冒険者一行のようですね。どうして、こんなところでのっぴきならない戦闘をしているのでしょうかね?」
「とりあえずどうしましょうか?と、目の前に何かメッセージが流れてきましたね、空中に浮かぶ文字とか、なるほど幻想的です。ええと、ダンジョン番号、ヘの896番、通称ペンタのダンジョンの管理者が例外的な手段で取り除かれました。と、続いてさらに、メッセージが流れてきましたね、現在ダンジョン管理者が設定されていない状態です、速やかに、引き継ぎをしなければ、重大な障害が発生する可能性があります。交代要員の管理者は、速やかに画面をタップしてください……。触ればいいみたいですね、ポチッとな。
『新しい、管理者が設定されます。システムの再構築にしばらく時間がかかります。ゆっくりお茶でも飲んでお待ち下さい』
何かのパロディなのかな?
『既存の対侵入者用のデバイスは、待機モードに移行します。所定の位置に格納いたしますので、作業員は、白線の内側まで下がって安全を確保してください』
このアナウンスって、ダンジョン全体に流れているのでしょうかね?」
「アレスくんたちも呆然としているようですね、そして慌てて仲間の治療とかしているようです。閉じ込められていた部屋の入り口が開いていきますね。巨大な竜の怪物の方は、壁が開いて、そちらに向かって歩いて、入りましたね。そして、壁が閉じて、怪物は待機状態になったようです。見た目が、かなりメカニカルですね、と、自動で、整備が開始されているみたいです。ロボットみたいですね。どういう仕組みなのでしょうね?」
「さて、管理者権限は私に移行されつつあるよですが、そもそもここはどこだか、何をしていたのかが、全くわかりませんね、少し腰を据えて、確認していみましょう。モニターの前にあるのは、私の世界で言うところのコンピュータの入力デバイスであるところの、キーボードのようなものらしいですね、一応、文字が刻まれているようですから、いろいろと試してみるといいのかもしれません。
アレスさんたちは、おっかなびっくり、移動し始めましたね。通路の怪物も、いなくなっているみたいですから、無事に地上まで戻れる可能性が高いでしょう。こっちからちょっかいをかけるには、ちょっと、手段が今はありませんから、眺めておくだけですね。
まあ、最終局面か何かで介入して、あちら側へのリソースの回収を阻害した、という認識であっているのでしょうかね?」
「再起動をしている間に、神様のメモ帳を確認しますと、先ほど倒した怪物は、『ダンジョンの管理者にして、転生者』であったようですね、私と同じように、異世界から紛れ込んでいた勇者 かっこわらい のカテゴリーだったのでしょうか?反応が完全に怪物でしたから、問答無用でやってしまいましたが、もしかすると、意見交換くらいはできたかもしれませんね。まあ、過ぎたことを悔やんでも仕方がないわけです。それに、やれそうな時にやってしまうのは、間違った選択ではありませんでしょうしね」
「それにしてもえげつない経験値ですね、これは。
『勇者トムは、ダンジョンの管理者にして転生者を倒した』
『勇者トムは、経験点を、1,048,576点てにいれた』
『勇者トムはレベルが上がった ~
『勇者トムはレベルが上がった ~
『勇者トムはレベルが上がった ~
『勇者トムはレベルが上がった ~
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『勇者トムはレベルが上がった、勇者トムは21レベルになった』
今までの苦労とかが、一瞬で吹き飛ぶわけですが、テーブルトークの神様、この急成長は、さすがにバランス悪いのではありませんか?と書き込んでおきましょう」
「返信が返ってきましたね。
『他の神様の、その後頭部にバールのようなものを叩き込みました、なう』
何やってるんでしょうか、あの神様?ええと続きですね。
『領都ペンタのダンジョンを中心にして、別の異世界の小説の神様、すなわち、ジャンルが、ダンジョンマスターものをおもに司っている神が、カビのようにはびこっていたようです。そして、くそったれなことに、最初に気がついていた、異世界転移の、冒険者成り上りものをおもに司っていた神様の悪行が、表面でカモフラージュしてやがりましので、ダンジョンマスターものの、発見が遅れました。全く、みんな、私のリソースをなんだと思っているのですか』
はあ、びっくりですね。なるほど、そのダンジョンマスターものの神様が核にしていた存在を、ずんばらりんと、やってしまったので、大きな隙が生まれたと。
『その通りですね、グッジョブです。ふざけたことをやらかしていた、その当事者の神は、かなりのショックを受けたのか、硬直しやがってましたからね、いい気味です』
そのダンジョンマスターものの神さまはどうなったのでしょうか?
『今、私の足元で、ピクピクと痙攣しておりますな。遠巻きに視線を感じるので、これから対処するつもりであるな』
それ、いいのですかね?犯罪じゃあないのですか?
『神さま間の取り決めとか、話し合いとかはされていますが、それを取り締まるための大枠での法律とかは、実質にはありませんからね。ただ、あまりひどいことをしていると、各方面から、制裁とか非難決議とか出されます。それでも、強い神さまには拒否権とかありますので、あまり深刻な状態にはならないですね』
国際社会みたいですね。
『実力主義な上に、対決上等主義な世界ですから。では、これからちょっと、このダンジョンマスターものの神を、見せしめも兼ねてきっちり絞ってくるぞい』
神様社会って、結構バイオレンスなのですねぇ」
「では気をとりなおして、ステータスを確認しておきましょうか。
職業:勇者
レベル:21
累積経験値:1,059,020点 (次は2,097,152点でレベルアップします)
・ちから 45
・はやさ 45
・かしこさ 45
・がんじょう 45
・HP:90/90(全快です)
・MP:40/45(MP回復のブレスレットが良いお仕事をしています)
16,18,20レベルで、新しい魔法を覚えていますね、それぞれ
16LV:魔法の装甲 消費MP:4
18LV:魔法の快速 消費MP:4
20LV:魔法の怪力 消費MP:4
ですね、効果は似たようなもので、能力値の数値に、かしこさ の数値を加えることができるというものですか。装甲が、がんじょう に、快速が はやさ に、怪力が ちから に、対応するわけですね、シンプルですが、結構強そうです。あとで、いろいろと魔法の効果を検証してみましょう」
「迷宮の管理者権限の移行が終了してようですね。まずは、マニュアルとかヘルプがあるの、読み込んでみましょう」
「なるほど、迷宮の経営をする権利を得たようなものですね。資源は冒険者とか発生した怪物の生命力?のようなものが、それらへの負担にならないように、吸い取られて蓄積されていくものを利用と。ああ、ペンタの街そのものからも、吸収しているのですね、なるほど、ですから、成長度合いが早いのかもしれないですね。
冒険者とか、怪物が死亡した時のエネルギーも資源にできるのですね、この辺りは基本設計ですので、いじれないと。
ダンジョンマスターは、そのリソースを使用して、ダンジョンを成長させて、より多くの生き物をその身に取り込んで、リソースを稼ぐことが、本能として刷り込まれているのですね、最終的には、何を目指しているのかは、定かではないようですが、生き物が生き続けるのに理由はあまり必要ないでしょうからねぇ。
基本的にダンジョンマスター自身は非力であるので、自分の身を守る為や、ダンジョンの中核をなす、”コア”と呼ばれる存在を守るために、守護者を用意すると。”コア”が壊されたら、ダンジョンマスターも消滅するので注意……であるのだけれども、システムの埒外から、乗っ取ったみたいですので、私には関係なさそうですね、つながりを確認するコードで、エラコードのログが続いていて、あきらめられているみたいですし。
ダンジョンの改変とか、レイアウトの変更とか、新たな怪物の召喚とか、できそうですね。有効に使い倒せば、効率的なレベルアップとかできそうです、こちらには攻撃できないような設定にして、怪物を狩りまくるとか?卑怯で美味しいですね。
まあ、テーブルトークの神様が、落ち着いたら、そういう設定は調整されるような気もしますね。
……当面は、基本的な設定は、いじらないようにしましょう。ただでさえ神様の領域が混沌としているのに、余計なマネをしてそれを助長するわけにもいきませんしね。
アレスさんたち一行が脱出する時に、あまり障害にならないようにだけ注意しておけばよろしいですかね?
下層の怪物はとりあえず待機状態を維持しておきましょう。
実験とかは、ゆっくりとしていけばよろしいわけですし」
「ペンタのダンジョン内であるなら、隠し通路とかで自由に各階層を動けるみたいですね、まあ、魔法の非常口の方が、脱出する分には早いですが。何回でもこの制御室に戻ってくることもできそうですし、そろそろ夕方ですから、一度戻りましょうかね?」
「どうも、ダンジョンから戻ってきましたよ、若女将さん」
「ご無事でしたか、心配、はあまりしていませんでしたが、早かったですね」
「まあ、日はまたぎたくありませんでしたから。
ええと、アレスさん冒険者一行には、やはり会えませんでしたよ。ちょっと探索をしてみましたが、迷宮が少し不安定になっているような、そんな雑感でありましたね」
「やはり、一人なら、最深部でも探索可能なわけですか、結構すごい実力ですよ、それは、ご主人様」
「まあ、曲がりなりにも、神の勇者ですからでしょうかね?あまり自覚はないわけですが、ではまた明日来ますので、今日は」
「……ふんではくれないのですか?」
「少しだけですよ?」
「♪」
「ただいまです、巫女さま。今日は危うく、人を踏みつぶすところでした。急にちからが上がると、調整が難しいですね」
「おかえりなさいませ、勇者さま。一体どういう状況なのでありましょう?」
「そうそう、今日は、ダンジョンを一つ手に入れました」
「本当に一体どういう状況だったのでありましょうか?」
「なるほどそのような展開だったのですか」
「納得するのですか、巫女さま」
「いえ、トムさまならやりかねません、というか、勇者さまと、我が奉神であるところのテーブルトークRPGの神様なら、悪ノリの一つから、ダンジョンの一つくらい、拾ってきても不思議はありません」
「別に拾ったわけではないのですけどもね、正式に私のものになったのかも、疑問が残りますし」
「大量の経験点は、美味しかったですね、勇者さま」
「そうですね、ダンジョンまるまる攻略したようなものですからね、ボーナスみたいなものでしょうか?」
「どんどんいろんなダンジョンを攻略したら、もっとサクサクレベルが上がるのでしょうか?勇者さま」
「今回が特別だったのじゃないかな?とは思いますけど、経験点の上限とか途方もない数字なので、さらにインフレする可能性はあるかもしれませんね」
「最初の頃の経験点が、あまり意味を持たなくなるので、少し寂しい気もしますね」
「その頃にはその頃のバランスがありますから、それほど寂しがることもないかと思いますよ?まあ、さすがに今回のこれは、イレギュラーではあったとは思いますけど。その辺り、どういう経緯になりそうなのか、とか今後の行動の指針とか、神様のメモ帳に書き込んで、訪ねておきましょうかね」
「そうですね、既にレベル的には、強くて悪い魔王の側近と戦えるくらいには、なっているみたいですし、勇者さま」
「まだ、こちらに来て、52日しか経ってないのですけどね、巫女様」