34_ダンジョン側の内情も考慮に入れつつ攻略するというプランは、シンプルと真逆の様相であり。
「51日目です。
累積経験点:9,514点
です、まだ夜戦での伸びしろが見られますね」
「毎晩すごいのですが?勇者さま」
「付き合える巫女さまもなかなかですよ?では行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
「領都です、若女将さん、おはようございます」
「おはようございますトムさま」
「引き続きペンタのダンジョンへ潜ろうと思うのですが」
「お待ちください、辺境伯さまからお呼びがかかっています」
「探している冒険者の情報が入ったのですかね?」
「いえ、辺境伯の息子であるJrさまが、帰還しましたので、そのあたり、情報のすり合わせがしたいとのことでした」
「まあ、多少なりとも関わってきましたので、そのあたりの事後処理に参加することは、構いませんが?」
「がっつり、中心になって解決されてましたよね?執務室へ真正面から潜入して、辺境伯を暗殺とか」
「人聞きの悪い。辺境伯に成り代わっていた、魔王の配下をやっただけです」
「トムが来ましたよ。辺境伯さま」
「よく来たな、まあ座れ」
「はい、辺境伯さま。それと、お久しぶり?ですJrさま。と、なるほど堂々と私の姿を現したところを見ると、覚悟を決めましたか。いいでしょう、素直に首を差し出してくださるなら、苦しまないように一撃で終わらせてあげます、魔王の配下で悪魔の手下の怪物さん、手早く私の経験点になりなさい」
「ひい!」
「いや、それは困ると。リリスはすでに僕のパートナーとして生きることが決定しているのだからね」
「冗談です。半分ほどですが」
「……半分は本気だって、言ってますよ、若様」
「仲が良いなお前たち」
「良いのでしょうかね?辺境伯さま」
「うむだいたいの経過はお互いに確認できたな」
「いやそれにしても、父さんが6年もの間、義母さんだったとは、驚きですね」
「あー、それはまあ、そうだな。表面上は意識を動かせなかったが、本性であるところの、息子やら娘やらへのひいき目というか、対応とかは、止めれなかったようだったのが幸いだったな」
「そうですね、なぜか実の父が辛く当たってきて、それに対して義母がフォローを入れていたのでしょうか?とか不思議に思っていましたが、そういうカラクリがあったのですねえ」
「怪物である魔王の管理職の洗脳は、本心からやりたくないことは、なかなかさせることが難しいですからね」
「なるほど、その手のプロである、リリスが言うなら、説得力があるね」
「催眠術とか、暗示とかに近いのでしょうかね?」
「トムさん鋭いですね。そのような感じですよ、ですから認識をずらして、結果を導き出すような手を使うのですね、僕たち”悪魔”は」
「悪魔って種族名なのですね、リリスさん」
「当たり前じゃないですか?トムさん」
「当面の問題はだ、結果としていなくなってしまった、妻のことなのだが。どうだろう、リリスとやら、影武者にはなれまいか?」
「僕のレベルだと、少なくともしっかりと、対象を確認したことがあるか、実際に目の前に本人がいなければ、その通りには化けられないなぁ」
「そうか、では、後妻がいなくなっても不自然な状況でもない形で、認識をずらすことはできるか?」
「可能だけど、あまりやらない方がいいような?後日どんな副作用というか、精神とか記憶のズレからくる疾患とか、予想されるよ?」
「……そんな危ない術なのか?」
「まあ、滅殺とか獲物対象の人間相手なら躊躇なく使えるけど、身内には使いたくないレベル?かな」
「うん、物騒ですね。やっぱり面倒ごとが起きる前に、狩って経験点にしましょうか?辺境伯さま?」
「だから、身内にはしないよ!信じてよ!」
「トムさん、あまりいじらないでやってください。耐性が低いのですから」
「精神的に弱い、侵入工作員とか、敵に回すと美味しいタイプじゃないですか。そのようはお仕事、向いてなかったんですね」
「向いてなかったから、寝返ったんじゃないか!」
「言われてみればそうですね」
「となると、事実をある程度公表するか何かして、後妻のローザが消えたことを説明せねばならないわけだが」
「すればよろしいのでは?」
「いやトムさんよ、ローザの実家関係やらの背後関係がまだ洗えていないので、安易に公表もできないのだよ」
「ああ、単純に魔王軍の手にかかったとかすると、王党派からの横槍が入るとか。もしくは、ローザさまの生家である、トルクマン家がそのまま魔王軍の支配下にあった場合、みすみすこれを逃したりする可能性があるわけですか、でもですね、予定通りの反乱が発生していないのですから、すぐに、魔王の手下である、悪魔の管理者が、行動不能の状態になっていることは、わかるのでは?」
「まあ、いずれは分かるであろうけれどもだ、それを遅延させている間に、うてる手がいくつか考えられるのだが、まあ、仕方ない、生半可な替え玉だと、すぐに見破られる上に、逆に利用される状況までありえるからなあ」
「……生半可な替え玉でなければいい?」
「リリスさん、何か思いついたのですか?」
「うん、若様。辺境伯さまは、長年その後妻である、ローザさまであったのですよね?」
「うむ、6年ほどな」
「でしたら、おそらく、辺境伯さまの性質には、その痕跡があるはずなのです。その残された特性を利用すれば、その女性の姿を取らせることができるかもしれません」
「なるほど、辺境伯領都で過ごしたローザは、その実全てわしが中の人であったからな、情報の齟齬も無い。しかし、姿が完全に変わったままになると困るぞ?誤魔化す期間が少ないとはいえ、辺境伯が不在というのは、よろしく無い」
「そうですね、こう、認識阻害とか、変身とかと相性の良い、魔法の道具とかあれば、それを媒介に”繰り返し変身をする術”をかけることができるけど、そんな都合の良いものが、簡単に手に入るなんて偶然はありませんよねぇ」
「なるほど、これが”旗”を回収するというのですね」
「ええとトムさん?どうしたのですか?父上も奇妙な顔になってますよ?」
「さて、辺境伯さま、変身アイテムは、杖がよろしいですか?それともベルトがよろしいでありましょうか?」
「結局のところ使用するアイテムは杖になったようですよ。それもやたらファンシーなものです、若女将さま」
「ええと、言っている意味がよくわからないのですがトムさま?」
「でしょうね。ベルトですと、身につけたままになりますので、衣装とかが制限されるのが決め手だったそうです。しかし、合言葉と共に、マッチョな美老年が、肉感的でアダルティなご婦人に、それも、リボンとか光とかが、派手に宙に舞いつつ、一瞬シルエットだけになって、変身するとか、一体誰が得をするのでしょうか?」
「ええと?」
「これも何かのオマージュか、パロディであるのでしょうね。なるほど、テーブルトークRPGの神様が関わっている案件らしいです」
「もしもしトムさま?」
「は、すいません。ちょっと世界の不条理というか、方向性に疑問が浮かんだので、自ら納得しようとしていただけです。若女将さんには、辺境伯が消えた後妻の問題を解決できたことと、ことの次第を知った思春期の娘さんである、エリザベスさまの心のケアをよろしくお願いいたします」
「ええと、結構責任重大な気がしますが?」
「さて、つまらないことに午後まで時間を費やしてしまいました。ではサクッと、お肉でも狩りに、ダンジョンへ行きましょう」
「お伴します、トムさま」
「遠慮しますよ、トバリ。帰りには、魔法の非常口を使用する予定ですから」
「梱包してくだされば、構いませんよ?それに、トムさまは、まだまだ、探索者としては素人ですから、私がいると便利ですよ?単純に荷物持ちにもなりますし」
「最終的に抱えて帰らないといけないので意味がないような?まあ、身動きできないまでに手荷物扱いで梱包されるのが我慢できるなら、いいですよ?」
「むしろ、あのギチギチと抵抗できないまでに締め付けられるのが、目的です」
「……変な扉を開いてしまいましたかね?まあ、それなら私も楽しめるのでいいですよ」
「10層の特殊怪物は、今度は普通のミノタンロースでしたね」
「ミノタウロスです、トムさま。それにしても、あっさりと勝ちましたね」
「鋼の鎧と、自前のがんじょうで、98点まで、魔法でない攻撃を防ぎますからね。加えて、こちらの攻撃は最低でも70点です。10レベルくらいの殴る蹴るをしてくる怪物なんて、敵になりようがありませんね」
「なんですその、なになに点というのは?」
「テーブルトークRPGの神様の加護とでも、思っておいてください。要は、相手からの攻撃は通らず、こちらからの攻撃は通るという状態だと、認識してくだされば、それほど間違いではありません」
「無敵っぽいような気がするのですが?トムさま」
「これも相性が良ければのお話ですけれどもね」
「さて、前回は特殊怪物を倒したら、宝箱が出てきましたが、今回は出てきませんね?」
「確率の問題らしいですよ?」
「まあ、素材水晶で、普通のミノタウロスの肉を手に入れましたから、それほど問題はありませんが、まだ時間もありますし、もう少し降りてみますか?」
「11層からは、少し大型の怪物が主体になります。牛頭巨人とか、豚顔とか、鬼とかですね」
「豚顔は狩ったことがあるなあ、オークと言いましたね。お肉が美味しいのですよね」
「そうですね、11層から20層までは、これらが主体になって出現します。蛇とか兎とか蝙蝠とか、動物タイプの怪物も出現しますが、総じて、体が大きくて、力が強いですね。それと、人型の怪物は、稀に良い武器を使ってくることもあります」
「なるほど、魔法を使ってくる敵はこの浅い階層ではでてこないのでしたっけ?」
「その通りです、だいたい、21 層から下で少しずつ現れま始めます。21層からは、歩く腐った死体、走る新鮮な死体、踊る陽気な骨、詩歌を口ずさむ幽霊、のような、死に損ない(アンデット)が出現し始めます、この中で、幽霊種が魔法を使ってくることが多いですね」
「冗談のような名前の怪物がいましたよ」
「その名の通りですね。腐りかけた死体は、動きが鈍いのであるくことしかできませんが、新鮮な死体は走って飛び蹴りまではなってきます」
「格闘家ですか!」
「痛覚を無視して、自身の限界を超えて殴ってくるので、結構手強いですよ?」
「意外と強そうだね!」
「完全に肉が腐り落ちると、かえって体が楽になるのか、重みが消えたことが嬉しいのか、まるで踊っているように迫ってくる骨状の怪物になります」
「そういう流れなわけですね、踊りながら攻撃してくると」
「そうですね、その骨が踊っているところに近づくや否や、自然に一緒に、激しい踊りを踊っていて、疲れたりするそうです。疲れ切ったところで、鋭い刃物とかで攻撃してきます」
「一見ファンシーなのは見た目だけで、実はスリラーなわけですね、トバリさん」
「……踊る骨ってファンシーですかね?」
「光っていたら、ファンシー決定ですね。ええ、蛍光色でぶらぶらと揺れているみたいな感じです」
「よくわらからない感性ですねえ?それもテーブルトークRPGの神様サイドの特徴でしょうか?」
「おそらくは?それにしても、かなり、テーブルトークRPG側の流儀に染まってきましたね、このペンタのダンジョンは」
「どういうことでしょう?」
「トバリさんには、わからないかもしれませんが、ジョークが増えてきたら、危険なのですよ」
「?このダンジョンは、昔から何の変わりもありませんよ?」
「それはそれで、元の異世界物の小説を司る神様のセンスに、驚くだけなのですけどね」
「ある程度、肉とかの素材水晶も集まりましたし、時間にも余裕をもたせて、地上へと戻ってきました。美味しいですね、11層から20層、お肉とか動物性の素材が結構、充実しています。もちろんトバリは梱包済みで、魔法の非常口を上がってきたのですが……」
「うぅうううううぅ、ふぅうぅぅぅう、ふはぁ、あはぁ」
「うん、この女、絶対に往来では見せられない、顔とか、身体とか、になってますね。酷い惨状です、大丈夫ですかトバリ?」
「トムさまぁ……」
「どうしましたか?」
「これ、さいこーですぅ」
「あ、これはダメな奴だ。と、大きな袋に入れて外から見えないようにして、このまま戻りましょう、静かにしていてくださいね、トバリさん」
「ダメですぅ、きもちよすぎてぇー」
「我慢できたら、後でキツく踏んであげますから」
「♪」