32_ダンジョンに潜ってみよう、という簡単なタイトルに比較して内容はシンプルでないことが多そうですね。
「50日目の朝です。巫女さまは結構お酒に強い方でしたね。
累積経験点:7,832点
ですか。
今日は、適当なダンジョンに潜ってみることします、確か領都の近くにあったような覚えがあります」
「行ってらっしゃいませ、勇者さま」
「行ってきます巫女さま、日帰りを予定していますので、夕食までには帰宅します」
「冒険者という感じではありませんね、勇者さま」
「もともと冒険をする気はありませんからね、巫女さま」
「領都到着です。まずは若女将の所へ顔を出しましょう。通りを歩くと、戦時色が薄まっているのを感じますね。辺境伯のお触れが効果を表しているようです。
ごめんなさいよ、若女将はおられますか?」
「ようこそおいでませ、トムさま」
「おはようございます、若女将さん。それで、人探しの件どのような運びになっておられます?」
「うちの若い者も動いておりますよ、まあ、冒険者組合にクエストとして、辺境伯さまが依頼しましたので、それほどかからずに所在は明らかになるかと?」
「それは重畳ですね」
「今日はその御確認だけでございますか?」
「いえ、こちらにはダンジョンというものがあると、耳にしまして、今日はそれに少しばかり潜ってみようかと」
「まあ、そうでございますか。それで、御目当てはついておられます?」
「それが、私、その手の知識にはとんと疎くありまして、これから領都の冒険者組合に赴いて、尋ねてみようかと」
「でしたら、私がご同行いたしましょうか?こう見えてもダンジョンでの活動経験もそこそこにございますし、浅い所なら問題なくご案内できますけど?」
「よろしいので、いや、それは助かります。ぜひお願いいたします」
「それでは、少々お待ちくださいね、装備など準備をしてきますので」
「お待たせしました、トム様」
「いえあまり待ってはいませんよ。なるほど、皮の服を主体にして、急所を薄い金属の板のようなもので守っているのですね、動きやすさ重視と見ましたが」
「ええ、ダンジョンの中では、探索士系の職業で活動しておりましたから、素早さが売りなのですよ。気配を探ったり、しのび足をしたり、仕掛けられた罠を発見して、解除したり、隠し通路を探ったりとかが、得意ですね、戦闘もあまりレベルの高いものでなくて、全体がくまなく硬いものでありませんでしたら、そこそこの水準であると自負しています」
「獲物は、短刀ですか?」
「はい、単独で潜る時には、接近戦が主体になることが多いですから。加えて、小型の弩を用意していますよ」
「なるほど、本格的ですね」
「探索者セットも背囊に入れていますので、ダンジョン内でのあれこれには対応可能です。野営とかもできますよ」
「ダンジョンとは、そんなに広いのですか?」
「100層とかあるものも、存在するようですよ?最深部まで潜った人はいないようですけど?」
「潜った人がいないのに、なぜ100層まであると判明しているのでしょう?」
「続き番号が降ってあったそうですよ、こう一階ですと1/100という感じですね」
「誰が書いたのですかね?」
「ダンジョンそのものが、記載したとか言われていますね。ダンジョンは生物に似た特性を持っている、との説がありますから」
「そもそもダンジョンってどのように定義されているのでしょうか?」
「そうですね、形質を列挙するなら、こんなところでしょうか?
・ある程度の大きさを持った他の地形から、意味的に切り離された空間です。
・怪物がいます。
・罠があります。
・宝箱があります。
・要所要所に特別な強さの怪物がいます。
・入り口から遠いほど、怪物が強くなります。
・入り口から遠いほど、財宝の価値が上昇します。
・怪物、罠、宝箱や財宝は、定期的に復活します。
・最深部には、ダンジョンそのものを象徴する怪物がいます。
・その最深部の怪物を倒すと、特別な財宝が手に入ります。
・最深部の怪物も定期的に復活します。
ですかね?後そうですね、ダンジョンは生き物説では、ダンジョンには急所が存在してそこを滅すると、ダンジョンそものが死亡する。とか、逆に、ダンジョンとされている領域を丁寧に破壊し尽くすと、復活しなくなる、とか、まあ、色々不確定な情報もありますね」
「怪物とか、財宝とか、何を材料として復活しているのでしょうね。気にしたら負けなのでしょうか?」
「創造神さまの御力であるとか、ダンジョンが、その中で死亡した冒険者の魂を再利用して作成しているとか、言われていますけど、明確にこれですという説はまだ、確定していないですね」
「なるほど、まだ設定が定まっていないのか、何かのギミックに利用しようとして、情報を伏せているのでしょうかね?我らがテーブルトークRPGの神様ですと、前者のような気がしますね、かなりの確率で」
「何のお話ですか?トム様」
「いえ、若女将さん、こちらのお話です」
「この姿の時は、トバリとお呼びくださいな、若女将じゃなんだかおかしいですよ?」
「確かにそうですね、トバリさん」
「呼び捨てでいいですよ?」
「じゃ、トバリ、そろそろ行きましょうかね?」
「はいトム様」
「ハイ、着きましたよ。ここがダンジョンの入り口です、トム様」
「なんと、街の中にあるのですね」
「歴史的には逆ですね、ダンジョンの上に、街を作成したのですよ。ここは良い資源の採掘場でありますから、古くから、国が管理しているのです」
「なるほど、ええと冒険者組合も絡んでます?」
「ええ、彼らはダンジョン探索、管理のプロですから。委託契約とか、第3セクター方式とか、そのような形態で関わっておられますよ」
「いやその語句の選択、というか知識、とかおかしくないですか?……あー、トバリの方もテーブルトークRPGの神様に、染まってきつつあるのか、他の神様の影響なのか微妙にまだわかりませんね」
「領都ペンタのダンジョンは、そのままペンタのダンジョンと言いまして、地上から地下へと降りていく、密閉空間タイプの領域を維持しています」
「なるほど、上方へ移動したり、水平方向へ移動したり、解放空間であったりするダンジョンもあるのですね」
「そのとおりです、トムさま。変り種としては、海深くに存在したり、火山まるごとがそれであったり、天空に飛ぶ構造物がダンジョンであったりもしますね」
「なんでもありですね」
「星の世界にもあるらしいですよ?」
「構造物の強度とか、密閉空間における空調とか、どうなっているのか非常に興味が湧きますね」
「ペンタのダンジョンは、拡張型のダンジョンで、徐々に成長しているタイプになります。ですので、最深部も定期的に深くなったりしています」
「攻略とかする分には困るのではありませんか?」
「基本的に資源回収用のダンジョンですので、それほど熱心に最深部を目指そうとはしていませんね。現在は74層まで成長しているそうです」
「一層ごとの広さはどの程度なのですか?」
「上にある、ペンタの街くらいはあったりしますね。結構広いですよ、ただ、下層への道順は、確定していますので、下へ行きたいだけならば、それほど時間はかかりませんが」
「どのくらいです?」
「30層くらいで、一泊する必要がありますね。地図は私が所有していますので、迷いませんよ。冒険者組合発行物です」
「印刷とかの技術もあるのですね」
「丈夫で、印刷に耐える紙そのものがまだ高めなので、庶民に普及しているかというと微妙ですけども。活版印刷と云う技術が出来てますから、思ったよりは高くありませんね」
「技術レベルがおかしくないですかね?」
「何のことです?」
「いえ、設定が甘いのか、そこまで不便にするとかえって、話がおかしくなるのか、微妙なところですね」
「私の装備と実力ですと、その30層までならそれほど問題なく活動できますね、トムさまですと、もう少し深部でも大丈夫だとは思いますが、安全に怪物が狩れるのは40層くらいまででしょうか、私の見立てですが」
「意外と物騒ですねダンジョンというものは」
「まあ、基本6人くらいで組みを作って、この組のことをパーティと言うのですが、探索するものですから、単独で行かれるトムさまが少しなんですから。ええと、つまり、トムさまくらいの強さの方が6人集まれば、最深部までは余裕でたどり着けるとは思いますよ?」
「なるほど、一人だから難しいわけですね、システム上仕方ないのですが。まあ、最深部にはあまり興味はありませんけども」
「システム?」
「それもこちらの話ですので、気になさらないように、トバリ」
「トムさま命の危険がありそうなのは、40層より下でしょうね。70層で、どうやっても生き残れないくらいの環境になるのでは、と予想しますね」
「なるほど、経験豊富なトバリの意見なら信用できますね。さて、とりあえず今日は浅いところで日帰りをしたいのですが、お勧めはありますか?」
「では、まずは小鬼を狩ってみましょうか?強い弱いで言いますと、弱いのですが、ダンジョンらしい怪物ですよ」
「ではそれで」
「これが小鬼ですか。身長が110センチくらいの人型ですね。粗末な布を身に纏っていて、手には棍棒とか、石器のような武器を持っていますね」
「はい、そうです。ダンジョンの浅い階層でよく見られる怪物です。個々の脅威度は弱いですけど、ダンジョンの中で徒党を組んで集団で襲ってくることがあります。その場合は駆け出しの冒険者ですと、死のリスクがありますね、ええと、なぜか、一匹ずつしかトムさんへ襲いかかって来ないのですが?」
「仕様です、でも面倒くさいですね。攻撃点は3か4ですか、はやさ が2くらい。……能力値は全て2ですかね?サクッと倒しまして、と、レベルは2くらいですね。
取得経験点:4
取得コイン:4
ですか、確かに雑魚ですね。ザクザクザクザクと、こういう単純作業、それほど嫌いではないですが」
「ええと、小鬼の死体が消えていきますね。やはりこのような結果になるのですね」
「普通は死体が残るのですか?」
「ええ、で、小鬼の死体を解体して食べられる部分を集めて、冒険者組合に持って帰ると、お金が支払われたりします。肉のグレードとしては最低ランクですけど、食べられなくはないですよ、あと部位によっては薬の材料とかにもなります」
「衛生面とかどうなのかな?」
「よく熱を通せば大丈夫です、比較的ダンジョン産のお肉は綺麗ですから、寄生虫とかも滅多にいませんし、今回は消えてしまったのでお金になりませんが」
「素材水晶は落ちますね。小鬼の肉ですか、珍味扱いなのですかね?落ちる確率が低い気がします」
「なんなのですか、その水晶みたいな、綺麗な石は?」
「私の神様であるところの、テーブルトークRPGの神様が授けてくださった技だということにしておいてください」
「なるほどわかりました」
「納得するんですね、少しびっくりです」
「ザクザクと、20匹ちょうどでしたね、
合計取得経験点:80点 累積経験点:7,912点
合計取得コイン:80枚 所持コイン:2,980枚
素材水晶:小鬼の肉 4つ、小鬼のツノ 1つ
ですね。時間はかかりますけど、結構美味しいかもしれませんね、小鬼」
「普通は、20対1の段階で結構危機的状況なのですけれども」
「仕様上、弱い怪物が多数現れても、危機にはならないのですね、私は。MPを消費していくならともかく、偶然の一撃とかで防護点をすり抜けてしまっても、高いHPと回復魔法がありますから、全く問題ないわけです」
「やはりトムさまは凄くお強いのですね」
「いえ、こちらのシステムで戦っているだけのことなのですけれどもね」
「時間もまだまだ余裕がありますし、もう少し強い怪物を求めて、下層へ下ってみますか?」
「そうですね、でも帰るのが遅くなると困りますので、あまり出入り口より遠くならない方が良いですね、基本徒歩で移動するのですから」
「ええ、ダンジョンの中では走るのは罠を見落としがちになるので、あまりお勧めしません」
「ですから、歩いて、夕方までには出られる距離で納めたいですね、トバリ」
「了解しましたトムさま」
「10層に来ましたね、ここにはどんな怪物が出てくるのですか?」
「10層までなら、あまり最初と変わりがありません。小鬼の上位種や、オーク、洞窟スライム、ダンジョンラット、ダンジョンオオムカデ、などなどですね」
「ああ、途中でも、何体が狩りましたね」
「あと、ペンタのダンジョンは10層ごとに、特別な怪物が、特定の場所に出現しまして、この10層では、牛頭の巨漢がそれに当たりますね」
「それは、ミノタンロースかな?」
「俗称ですね、正確には確かミノタウロスと、言ったかような覚えがあります。肉は確かに部位ごとに違った食感が楽しめて、美味ですが」
「それは、私でも狩れるかな?」
「おそらく、問題ないかと、トム様なら」
「決まりですね、案内お願いできますか?」
「了解しました」