31_法整備がされている状況での盗賊の立場は、シンプルに考えるといけない気がします。
「情報局では不安です、冒険者組合の講習も申し込みとか、講義日程の調整が面倒くさそうですので、若女将さんに学ぼうと思います」
「えっと、トムさま?」
「ちょうどお仕事もでましたし。
『お仕事:迷宮の探索者技能を得てみよう 取得経験点:128点
(報酬:該当技能習熟 取得コイン:なし)』
ですね、よろしくお願いします」
「話が見えてくるようで、見えませんが、要は、この盗賊7つ道具を使えるようになりたいのでしょうか?」
「あ、盗賊って言うこともあるのですね」
「普通にシーフズツールとか言いますからね、これ。結構いい仕事をしていますね?魔法のアイテムですか?」
「辺境伯さまから融通していただきまして、使う機会もあるかもしれませんから、これを機会に習得しておきましょうかと」
「さすが伝説の暗殺者さまですね、そういう方面での技術習得への貪欲さは、好ましいものがありますよ」
「いや、いつの間に伝説に?」
「領都の厳重に警備されたお城に単身忍び込んで、白昼堂々辺境伯を滅して、その死体すら消滅させてしまい、まんまと逃げおおせてしまった、という手際は、十分い伝説級にふさわしい所業かと?」
「バロックさんという、内部の協力者がしっかりいましたから単独ではありませんし、死体が消えたのは相手が怪物だっただからだし、そもそも辺境伯は殺していません」
「細かいことはいいではありませんか、実際、今暗殺者仲間うちでは、狂気の仮面を被った伝説級の暗殺者についての話題が、超ホットですよ?」
「どこからそんな話題が」
「まあ、私達が流しているんですけど」
「ほう、伝説級の暗殺者が、次に狙うターゲット、それが無情にも決まったようですよ、今まさに」
「ええと、魔王軍の手下をあぶり出すための方便ですからね?情報局とも足並みをそろえてですね、謎のエージェントを創作して、相手を混乱させようとする作戦です」
「こちらが先に混乱しそうなのですが。……まあ、私の顔とか素性がバレなければいいです」
「その辺りはええ、十分に注意していますし、そのために、結構荒唐無稽な内容を広めようとしています、けど、実は事実が一番、リアリティが無いというのが、どうにも困りものでして、いくらか薄めないと、そのまま流言だと流されかねませないのが、頭の痛いところでありまして」
「いやさすがにそれはないでしょう?」
「自覚がないのも問題だとは思いますが?」
「意外に簡単でしたね」
「だから、その感覚の異常さを自覚してください。どこの誰が、ほんの一とおり使い方を見せただけで、鍵開けとか、罠解除とかの技術が、熟練者級の腕前に達するというのですか?世界中の真面目に働いている盗賊さんたちに謝りなさい」
「いや、そう言われても?そもそも盗賊が真面目に働いているというのは、褒められたものではないような?」
「職業に貴賎はありませんよ?」
「倫理観くらいは守ったほうが良いとは思うけどなあ」
「さて、
累積経験点:7,730点
ですか、
日が沈むまで時間がありますし、少し狩ってから帰宅しましょうかね?」
「手取り足とり、しっぽりと、丁寧にお教えするつもりでしたのに。残念です」
「まあ、それはまた次の機会に?別にこれっきりというわけでもございませんし」
「期待してもよろしいのですか?」
「来るものは拒まないですよ、私」
「どうせですから、ドゥの村へ飛んで、豚を狩りましょう、豚、今日は生姜焼きがよろしいですよね。
エルフ靴のおかげで、足音とかも消せるわけですし、鋼の鎧をつけていても音が掻き消えているようですね。これは嬉しい誤算です。
認識阻害のマントと、魔法で探索 の魔法で、完全に不意打ちが可能になりました。
相手のレベルが低いと、隠れて近づいて、ダーツを投げれば、それで終了とか、ひどいバランスになってませんかねこれ?」
「ダーツの攻撃点に、きちんと ちから の能力値が乗るのが卑怯くさいですね。ダーツそのものの攻撃点は1点か2点ですが、能力値の上乗せで最低で33点ですか、しかも複数同時に投擲可能とか。さすがに命中率は悪くなりますが、それぞれに最低33点ダメージが乗るわけですから、凶悪ですね。10レベル程度の普通の防御力の持ち主程度なら、2発で落ちますよこれ。
間合いが遠くても大丈夫になりましたから、不意打ちで一撃、距離を詰められる前にもう一撃、で撃ちきる前提なら楽勝となりました。自動補充に6時間かかりますが、投擲したダーツのものを回収できれば、そのあたりのロスも無くなりますし。なんで私、最初から投擲武器を使おうとしなかったのですかね?
シンプルでなくなるから、検討しなかったのかもしれませんね。矢玉の管理とか、しなくてはいけなくなりますし。
ああ、なるほど、その管理をしなくて良くなった、自動補給ができるアイテムが登場したから、投擲武器という攻撃手段が候補に上がったとも言えるわけですか。
なるほど、私自身もテーブルトークRPGの神様の影響を受けているわけですか、いや、受けていなわけがなかったですね、改めて認識しました」
「豚顏の怪物はオークというのですか。ちから は強いみたいですし、タフですが、のろまですね。頭も悪そうです。レベルは10くらいですね。はやさは10ですか、かしこさ が5あるかないかですかね? ちから と がんじょう は17か18くらいですね、でHPは35点と、皮の鎧と、簡素な槍で武装しているので、ちょっと装備による恩恵がありますが、それでも、鋼の剣で一撃ですね。ダーツも2発当てればHPが危険区域です、3発で落とせますから、まとめて投げつけると、それだけで終わる個体もいましたね。
5匹ほど狩りましたが、経験点とコインが20ですか、美味しいですね。素材水晶も豚人の肉を落としましたし。
人型ですけど、やはりこれは怪物なのですね。経験点が入るかどうかで、人類か怪物かが判断できるのはシンプルですね。
累積経験点:7,830点(14レベルに必要な累積経験点は8,192点です)
となりました。
MP回復のブレスレットも問題なくスペック通りの働きをしてくれているので、MPも全快しています。いつまでも戦ってられそうですけど、日も落ちてきましたし、今日はこの辺りにしておきましょう。しかしちょっとズルっぽいアイテムですよねこのブレスレット」
「というわけで、異世界物の小説を司る神さまの、影響力の核となる、主人公格の所在は、辺境伯に調査を丸投げしてきました、巫女さま」
「それがよろしいですね、聞き込みとか、人探しとかは、人海戦術が正しいでありましょうし、おかえりなさい勇者さま」
「あと、盗賊的な技能を手に入れましたよ、これはやはりダンジョンに潜っていくべきでしょうかね?」
「あそこは、アトラクションが豊富と聞いたことがあります。あと、魔法のアイテムとか、単純な財宝とかも眠っているそうです」
「なるほど、そこはテーブルトークRPGの神様サイドも変わらないのですね、巫女様」
「と言うよりも、そもそもテーブルトークRPG側の要素だとは思います、勇者様」
「そうなのですか?」
「はい、迷宮に潜って怪物を倒して、お宝をゲットするのが、由緒正しいテーブルトークRPGというものです、勇者様」
「じゃあ、その辺りはテーブルトークRPGの神様の影響が残っているのですね、巫女様」
「いえ、そうとも言えなくてですね。異世界物の小説には、迷宮とかダンジョンをテーマにした物語もまた多いのです。つまり、テーブルトークRPGの要素を取り入れているわけですね」
「そうなのですか?著作権とかどうなっているのでしょうか?」
「そもそも迷宮の概念というものの著作権があるのかどうかという問題もありますね。そもそも著作権とかその辺り、真面目に考えていきますと、ローカルな遊びにまで、その被害が波及しかねませんしね、勇者さま」
「確かに一般的な概念に対しての著作権とかはありえませんか。今までの傾向からテーブルトークRPGはリスペクトとかパロディとか多そうでありましょうからね、巫女様」
「テーブルトークRPGの根底には、想像上のあの世界で、自分が、あのキャラクターのようになって、活躍したい、という欲求がありますから、まあ、リスペクトとか模倣とか、パロディとかは、その存在と切っても切れない間柄にあるわけではないでしょうかね?勇者さま」
「で、パロディとかに走ったテーブルトークRPGのネタから、さらに異世界物の小説が引っ張っていくわけですか?ならお互い様ではありますね」
「それでも、元ネタには、多少なりとも敬意は払っていただきたいようには思いますが。逆にネタにされて嬉しがっている方もおられますし、印象はそれぞれでありましょうね、勇者様」
「ああ、なるほど、つまりそこに愛がなければならないのですね、巫女様」
「たまに歪んでいる物もありますが、確かに、愛はそこに存在したのでしょうね、勇者さま」
「王妃様、豚肉を手に入れてきました」
「おお、オーク肉だね。昨今ではこの肉はかなり上質な豚肉として認識されているんだよ。嬉しいねぇ」
「そうなのですか?」
「そもそも豚肉は、古来ではあまり上質な肉ではなくてね。固くてパサパサして、臭い、というあまりよろしくないお肉だったのさ。しかし調理方法の進化によって、かなり上等な部類の食材になった上に、品質の改良とかで肉本来の旨味が引き出されるようにもなったのさ」
「なるほど奥が深いのですね」
「まあ、どこの誰が、怪物の肉を品種改良したのかは知らないけれどさ」
「……人間に美味しく食われるために、自らを改良しているとしたなら、結構悲劇なような気もします」
「何か大きなシステムとか、世界の流れとか、もしかすると、何かの流行に乗っているだけかもしれないけどね。まあ、どちらにせよ美味い物に罪はないさ。でどうする?」
「一匹分は調理済みのお肉で欲しいです。あとは買取できますか?」
「あいよ、少し待ってな、生姜焼きを作って渡してやるよ。量はとりあえず一食分な、あとはハムとか燻製とか焼き豚とかにして届けてやるよ」
「ありがとうございます」
「というわけで、再びただいまです。生姜焼きを作ってもらいました」
「私はすでにビールを片手にスタンバイしています」
「ビールって、こちらにもあるのですね、巫女様」
「たいていのアルコールはありますよ?前にも言いましたが、この辺り、王様の能力で、農業生産物的に言えば、勇者様が来られたところくらいかそれ以上の便利さが、蔓延している環境ですから」
「どこが王様なのでしょう?農業王とかならいい敬称ではありそうではありますが。彼はどこからどう見ても、凄腕の農家の人なのですよね」
「北の大地ですからね、ここは、きっとそういう補正がつきやすいのですよ」
「亜熱帯の作物も生えてましたよね?」
「北の亜熱帯なのでしょうね」
「なんですかそれは。なんだか、時間が経過するごとに大げさになっていくような気がしますよ巫女様」
「だんだん大きく、だんだん変に、なっていくのもテーブルトークRPGを司る神様の権能ですよ。そもそも設定を煮詰めるために、いろいろやっている最中なわけですから、細かいことを気にして、そこで足踏みしていてはいけません。光の速さで明日へ行く周囲に置いていかれますよ?」
「それはそれで、のんびりできそうではありますが、巫女様」
「枯れたコンテンツは、確かに楽しめますけど、それだと、メーカーが死にます、勇者様」
「どういうことなのでしょうかね?まあ、確かに商品が売れなければ、販売元はやっていけませんが?」
「ですので、飽きられる前に、常に新しいものを出し続けなければ、そのまま会社がこけてしまうのですよ、勇者様」
「それって、自転車操業とか言いませんかね?というか会社ですか?」
「違いましたね、神様業ですね。あの業界も、いろいろ大変みたいですよ、勇者様」
「神様に仕える巫女様が言うと、説得力があるような、そうでもないような?」
「それで、明日は適当なダンジョンに潜ってみようかなと思っているのですよ、巫女さま。生姜焼きおいしいですね」
「よろしいのではありませんか?基本的なレクチャーはされているのですよね?勇者まあ。本当です、ビールに合いますね」
「レクチャーは、領都の若女将がしてくれましたので。だいたいは、それに明日はちょっとだけ雰囲気を掴むために潜るだけですからね。よくそんな苦いのを飲めますね?」
「若女将がまた出てきましたね。いえ別に嫉妬しているわけではありませんが。話は変わりますけど、その若女将の頭髪とか一本でいいので手に入りませんかね?なれるとこの苦味がたまらないのですよ」
「髪の毛って何に使う気ですか。慣れるまで飲むのが大変そうですね」
「厭魅とか袁紹とかって聞いたことありますかね?そういえばいつの間にか慣れていましたね」
「いや知りませんけど、物騒な響きだといことはわかりました。あげませんよ?巫女さま」
「非常に残念ですね、勇者様」
「いろいろあるかもしれませんけど、最後に帰ってくる場所は、あかねさんの所ですよ?」
「結構鬼畜なことを言われた気がしますけど、そこも含めて嬉しいです、トムさま」