28_社会を真面目に考察することに、シンプルさを求めてはいけません。
「職業とかあるのですね」
「大きなカテゴリーでは冒険者はみんな冒険者という職業ではありますね。
その中で、得意なスタイルを職業と呼んでいます、剣が得意なら剣士ですし、槍が得意なら槍士です。まあ、結構曖昧なところもありますけど、得意な間合いを職業にしているとも言えますね。
野外活動に特化していることを示す狩人とか、逆にダンジョンなど人工物に近い環境を得意にしている探索者とか、戦闘方法に直接関わらないところで特徴を示している職業もありますね。
まあ、仕事を斡旋してもらう時に、自分のできることを端的に表すために名乗っているのが職業なわけです。一応完全な自称ではなくて、一定の水準をクリアしているかどうかは、組合側で調べたりするので、それほど本人の実力とか方向性とかから乖離した名称にはなりませんね」
「ああ、普通に職種の名称なわけですね」
「逆にそれ以外の職業に込められる意味とかあるのでしょうか?」
「意気込みとか、ポリシーですかね?」
「そういえば、トムさんは職業が勇者というのでしたね」
「魔法使いとかはいないのですか?」
「この辺りの地域では、教会からの圧力で在野の魔法使いは異端判定をされて、隔離されましたからね。まあ、こっそりとバレないように使っている冒険者もいますけど、職業として名乗る人はいませんね」
「ほう、それでもこっそりとはいるのですか」
「それか、貴族の血が入っている人が堂々と、魔法を使って冒険をしてたりしますかね?」
「貴族って、冒険者になる人もいるのですね」
「魔法の実践的な使用ができるからとか、単純に実家が傾いているので金銭が欲しいからとか、3男以下で、家にいても冷や飯食いルートしかないからとか?まあいろいろな理由があります、それほど例外的ではないですね」
「魔法が使えるなら軍隊とかへ行きそうなものですが?」
「そういう人ももちろんいますよ。まあ、選択肢の一つですね。軍よりは堅苦しくないですし、攻撃魔法を使える方は、例外的ではないとは言っても、全体から見れば、少数ですから貴重で大切にされるので自尊心とか適度に満足できますし、純粋に冒険が好きという変わり者もまたいますし。まあいろいろですね」
「貴族って怖がられているだけの横暴な存在かと思っていました」
「特権階級であるのは確かですよ。魔法の才能が開花するのは血筋によるところが大きい、らしいですから。その血筋を誇って、偉ぶっているのは少なくないです。まあ、財政的に傾いて、商人に首根っこをつかまれている方もいますけど。基本横暴に振舞っても、その貴重な魔法の戦力が、魔王の軍団に対応するために必要でありますから、その無茶がまかり通っている、というのが現状でしょうか」
「貴族もいろいろなわけですね」
「冒険者になろうとする貴族は、結構そういう横暴さがあまり見られない傾向にはありますけどね。その辺りは、個人の性質とか、生まれ育った時の環境とかによるのでしょう」
「うん、ジェーンさん、やっぱりこの辺り、文化の成熟速度とか、偏りが変ですね。貴女、発想が、近代的すぎませんか?」
「?なんのことでしょうかね?私は結構常識的な範疇の女子冒険者でありますよ?」
「そこですね、その辺りが常識になるのが、ちょっと変なのですけど。思想とか、心理学とか社会学とか、発展の形が結構いびつなような気がしますね」
「それは、まあさておき、教会とかは冒険者組合にちょっかいは出していないのですか?」
「教会所属の冒険者という形で、加入している方々もいますよ。魔法とか使ってくれるので、便利です。まあ、組織内で発言権を強くしようと、上のランクを目指したり、組合管理者側に食い込もうとかしている人もいますね」
「それは大丈夫なのですか?」
「組合に明確に被害が出そうな案件やら、人材やらは、問題が起きないように狩られていたり、権力から遠ざけられていますから。それほどには。正面から冒険者組合とやりあうと、被害が尋常でなくなる上に、差し迫った怪物という危機に対して隙を見せすぎることになりますから、まあ、小競り合い程度ですね。明確な共通する外敵がいる限り、この状態は続くのではないでしょうかね?まあ、どこの世界にも自分の組織の利益しか考えない愚か者がいますので、たまにそれらが暴走して、ひっそりと狩られたりしていますが」
「今更ながら事情通ですね」
「冒険力測定で、学力面での試験、結構成績がいいのですよ私」
「……冒険者組合のカリキュラムとかが、いびつなのでしょうかねぇ?」
「怪物を狩るなら、専門の軍隊とか統治者側で作らないのでしょうか?」
「ありますよ、そういうのも。ただそれらは運用が税金で行われているので、あまり安易に動かせないのですよ。綿密な調査の上に、いくつもの書類を揃えて、武器とか物資とかの調達に予算を承認してもらって、それでやっと動き始められるかな、といったところで、利権争いとか、政治的判断でまったがかかるとか。要はお役所仕事で、腰が重いのです」
「ああ、なるほど、だから、気楽に動ける独立採算制が高い冒険者組合が幅を利かせていると」
「そんなところですね、一度動き始めると、討伐軍はそれはもう凄まじい規模で殲滅を開始するので、全く必要ないかというとそういうこともありません。まあ、適材適所といったところでしょうか?」
「この辺りは、辺境伯のトップダウンで結構無理か効きそうなものですが?」
「官僚やら、貴族間の駆け引きやら、豪商との折衝やら、豪族みたいなのもまだ幅を利かせていますからね、その辺りをまるっと無視できるほどには、力はなさそうですよ。やろうと思えばできるでしょうけど、抵抗が強くなると、コストがかさむので、とっさには動けない、と見ています」
「ジェーンさんあなた、やっぱり冒険者じゃないでしょう?」
「普通ですよ?」
「それを普通と言えるくらいの人材が、カエル相手に剣を振るっている現状が、異常なのだと思うのですが」
「貴族が独自に多くの私兵を持つことも、周囲に要らない緊張感を与えてしまいますので、冒険者組合を利用しているという側面もありますね」
「ああ、なるほど、冒険者組合所属のギルドということで、貴族が主体のそれを作って、カモフラージュするわけですか」
「まあ、どっちにせよ、人の生存領域を確保、維持するために、怪物は狩らなければならない対象ですから、いろいろとおまけがつく組合に入って方が、お得である、という面もあるでしょうね」
「貴族とか為政者サイドと冒険者組合は、共生関係にあるということなのですね、なるほど」
「ギルド、というのは、組合からの仕事を効率的にこなすために、集まった冒険者です。組合側も、仕事の達成率とかがよくなるので、結成や、運営の後押しを積極的に行っています。ギルド自体にランクづけをして有力なギルドには、金銭面とか制度面とか、優遇措置を取ったりもしています」
「まあ、一人で冒険をしていると、単純に危ないですからね、いや私が言うのもなんなのですが」
「冒険者見習いを育てて、自分のギルドの層を厚くしたりする育成面とか、引退した人の第二の人生を応援しつつ、アドバイザーとかとして雇って、技術の継承とかしたりとかしてますね。つまりは、社会保障とかセーフティネットとかの役割も近年出てきたとも言えますね」
「いや絶対、知識の質がおかしいですって、というか中の人がいるでしょうこれ」
「中の人などいない!……はっ??ええと?私は今何を?」
「いえ、いいのです。多分、神様関係のお話ですから」
「教会のお話はもう終わってますよ?」
「虚構の方ではなくて現実な神の話ですが、いや何が現実なのかはすでに分からなくなりつつありますが、気をつけないと、こっちも侵食されそうですね」
「ところで、トムさん。私たちのギルドに入りませんか?今なら改名すると正会員になれますよ?」
「名前にそこまでこだわるのですね。いえ、私はシステム的にソロを強要されているので、遠慮いたします」
「ただいまです、巫女さま」
「お帰りなさいです、勇者さま、お疲れのようですね」
「テーブルトークRPGの神様的な常識を補充させてください、主にあなたの愛で」
「それには自信があります、勇者さま」
「というような世界設定が外では構築されているようでして、細かい設定のようですが、いろいろとおかしな抜けがありそうな世界にめまいを感じて帰宅した次第です、こちらはいいですね、適度にそこ抜けたいい加減さ具合で」
「難しくしたら、ゲームとして楽しめないじゃないですか、というのが、私たちの神様の言い分ですから。ふんわりと、やんわりと、無理につじつまを合わせようとしないで、伏線とかも忘れた方が良さそうなものは、放り投げてしまう、そんな、自分に優しい神様でございますからねぇ」
「それでいて、そんな伏線覚えていませんよ、とか、そこが伏線だったのですか、と机をひっくり返したくなるようなことをたまにしでかすのですよね、あの神様は。ねえ巫女さま」
「ええ、可愛らしいですよね、勇者さま」
「そういう容姿ではないですが、巫女さま」
「あの神様でしたら、大衆からうけをと取るためだけに幼女の姿が実は本性です、とかやって、イメージチェンジをしてきそうですけれどもね、勇者さま」
「それ以上はいけない、奴は本当にやりかねませんから、巫女さま」
「とりあえず、多分私を通して見ていたでしょうけど、経過を報告しましょう。神のメモ帳へ書き込んでおきます」
「勇者さまの行動は、記録となって、その神のメモ帳へ書き込まれていますから、今更書かなくてもいいのではありませんか?」
「いえ、純粋に、私が、直接突っ込みを入れたいだけです」
「返信が早いですね、どれどれ。
『異世界物の小説を司る神に、勇者はニアミスしたようです。ジェーンという女性の中にちょこっとだけ干渉していたみたいですね』
あ、やっぱり。
『そこから少し辿ってみましたが、異世界物の小説を司る神が核にしている、主人公格の存在まではたどれませんでした。ただ、その主人公格は、冒険者組合に関わっている可能性が高いですので、次回はそのあたりで情報を収集して、特定して、カチコミをかけてください』
カチコミなのですね。というか、異世界物の小説を司る神様で、決定なのですね。
『相手の神は、異世界物の小説を司る神で、ジャンルは、転生して成り上がる冒険者物、でまず間違いないでしょう。辺境伯のご令嬢と繋がりがあり、彼女の危機を救うか何かで頭角を表すような展開だったのではないかと、推測されますね。他の大物がこの辺りに干渉した様子はありません。菓子折りを持って尋ねてみましたけど、知らないとのことでしたから』
その展開、こっちが先に潰してしまいましたね。
というか、菓子折り持って訪ねていけるものなのですね、大物の神様って。
『その主人公格は、おそらく、反乱が発生するのは回避できず、その争乱で、独自の強さを発揮したり、特別な力とか、早くから先を見据えて鍛えてきた能力やら、現代知識での対応やらで、さらに世界への影響力を増して、活躍するような物語、だったのではないかと』
その展開も潰してしまいましたね。
『活躍や成長につながる機会を、結構こちら側で、潰したとは言っても、生来の特殊能力とかで、いくらか冒険者として有名になっている可能性もあります。逆に目立つことを嫌って、潜伏している可能性も同じくらいありますが。
このままだと、その主人公格側は、言葉の通り話にならないので、何らかのアクションを取るのではないかと予想しますので、その辺り、注意して観察しておいてください』
で、結局私は、どうすれば良いのでしょうかね?
『ヤッてください』
物騒な。
『命まで取れとは言わん。社会的でも経済的でも、心を折るのでもいい、とりあえず無力化して、世界への影響力を削げば良い、まあさっくりと、ヤレるようなら、ぬっ転ばしても構わんが。で、それに対して対応をしようとしかけてくる神を、こちら側で後ろから、不意を討ってポカリとしますので』
ポカリと?
『神様バールのようなもので、ポカリと一撃。反抗する気力を削いで、徹底的にいたぶります。見せしめと、腹いせも兼ねて。きっちりケジメつけさせたる』
どこのヤクザですか」