13_シンプルな青年達の主張。
「あんな田舎で終わるような僕たちではなかったはずなんですよ」
「次の村へ行く途中の森の中にそびえ立つ小さな塔で、終わる人生であったということでしょうかね?青年よ」
「あ、私は、エリックと呼んでください、巫女さまに言い寄って、いいものを食らって、3日目で目を覚ましたという武勇伝があります」
「それは、まあ、なんとも」
「すごいのですよ、勇者さま、3日で復帰というのは、青年団の中でも最速記録なのです。しかも、一回目も5日という驚異的な速さだったのです、私は7日かかりました!あ、私のことはコナンと呼んでいただけたら、勇者さま」
「んだなあ、エリックはすごいだ。あ、おらのことは、シンイチロウ、と呼んでくれや」
「まさかの和名!」
「まあつまりは、恋に破れて傷心したまま、国に閉じこもるよりも、広い世界に出て、いい女を捕まえたり、自分の実力を十分に世に知らしめてみようとしたんだよ、勇者さま」
「大体事情は把握しました、一階にいた村人三人、エルリック、コナン、シンイチロウさんは、そういう感じだったのですね。体にどこか不自然なところはありませんか?」
「「「ないなあ」」」」
「了解です、むしろ、出奔する前より健康になっている感じすらしますね」
「そうだね、勇者さま、筋肉がついた気がするよ、今なら、巫女さまに殴られても、寝込むのは1日くらいで済みそうです」
「さすがエルリックだな」
「いやコナンも結構な筋肉だよ?」
「オラは?」
「シンイチロウも、立派になったなぁ」
「そうそう、もう一人の青年は先に、村へ戻っていますからね」
「そうか、マックスは、すでに生まれ故郷へと戻っていたのか、よかったぞ、勇者さま」
「で、村の純朴な青年3人組、エルリック、コナン、シンイチロウはいいとして、元兵士のジョンソンはどうしたのですか?」
「いや、気がついたら、塔にいて、2階を守っていました。確か、腕を活かして、出稼ぎに出て行ったはずなのですけども?森の中で、何かに襲われた後から、意識がありませんね。勇者さまから、聞いたところによると、およそ1年くらいは経っているでしょうか?前回の田植えの後で、旅立ちましたから?」
「そういえば、青年3人組は、いつ頃出奔したんだ?」
「オラ達は、2年前の夏頃かな?」
「そうすると、最初に行方が分からなくなったというか、世界を見てくると言い残して、国を離れた、先代宮廷魔法使いの弟子であるところの、チャーリーが事態の鍵を握っているのでしょうか?そこのところどうなんでしょうか、チャーリーさん」
「いやあ、僕が旅立ったのが、30年前だってね?その時が15歳だったから、今僕45歳?全然そんな感じがしないのですけど?勇者さま」
「そうですね、みたところどう上に見繕っても、20歳そこそこに見えますね」
「トリツキノコって、すごいんだなぁ」
「それで、どうして、こんな森の塔、その最上階で踏ん反り返っていたのですか?」
「いやまあねぇ、あの頃はさあ、若かったわけですよ、僕。で、若さってたまに暴走したりするじゃありませんか?」
「まあ、世間一般的に、若者の浅慮な行動に眉をひそめるケースとかは、私のいた世界でも、結構あるパターンでしたけれども?」
「そうそう、僕はね、どうしようもなく、魔法使いだったんだよ、今でもそうだけどね、さらに当時は、とにかく若くて有能な、魔法使いだったんだよね。で、その僕がね、初めて一人旅に出て、森の中にひっそりと佇む怪しげな塔を見つけたらどうすると思う?」
「怪しいので近づかないか、野営よりましかどうか調べて、危険がないようなら軒先きくらいは、雨露避けに使用する?」
「違う違う、全然違う!それは、魔法使いとしてのロマン的に大間違いだよ!正解は、悪の魔法使いごっこをするために、最上階に王座を作って、それっぽい装飾で飾り立てる、だよ!勇者さま」
「そんな伝統があるのですか?」
「様式美ってやつだね?ほら、子供の時に秘密基地を作ったら、無条件に楽しかったりしたじゃない?男の子が秘密基地を作るのが好きなように、魔法使いは、そこに塔があったら、悪の魔法使いごっこをしたくなるんだよ、これは自然の摂理だね!勇者さま」
「そんな自然の摂理がまかり通るような世界は、早急に、どうにかするべきだと思いますけど、魔法使いのチャーリさん」
「ははは、冗談が上手いですね、勇者さま」
「それで、悪の魔法使いごっこを始めた、魔法使いのチャーリーさんが、結局のところどうなったら、30年も塔に閉じこもっているようなことになるんです?」
「あーそれも、悪の魔法使いっぽい、ポリシー?いわば生き様が関係してきましてね」
「なるほど、それで?」
「悪って言ったら、退廃的な感じ?で、こうドラックとイカしたセリフ交じりの詩と、やかましい音楽じゃない?」
「まあ、そういう側面もありますね、いささか品のない方向性ですが。チャーリーさん」
「そのコンセプトで行こうとして、周囲を見渡したら、この森、気持ちよくなるキノコの素材水晶を落とすキノコ型の怪物がいるじゃない?それなら、これを利用しない手はないだろうと、いくつか狩って、その手の薬を作ったわけよ、もちろんそれは、そのままスムーズに、自然な流れに沿って、自分で使ったわけよ、大丈夫ですよ?タバコほどの常習性はありませんし、悪影響もほとんどない、自然由来のお薬ですから」
「ほうそれで?」
「何度か薬を使用して、悪い魔法使いっぽいセリフを吐きながら、悦に入っていた、いつものあの熱い夜、とかまでは記憶があるのですけどねー、あとはなんだか、あやふやで?」
「それは、薬のやりすぎで、意識が朦朧としていた時に、トリツキノコにやられたんではないでしょうか?でわ、30年間の間に、何か覚えていることはありませんでしょうか?」
「そういえば、無意識にですかね、悪の魔法使い的な行動として、森を抜けようとしている人を捕まえて、トリツキノコで仲間に引き込んいましたね。そして、『これで塔を守る、四天王がまた一人手に入った』とか、そんなセリフをカッコよく吐いていたような、夢を見ていた気がします?よく覚えていませんが、とても、楽しかったですねぇ」
「ええと、なるほど、自供はしっかりと取れましたね、それでは元兵士にして、長年、シャヨ国にて、治安維持に尽力されていた、ジョンソンさんどうぞ」
「ありがとうございます、勇者さま。では、薬物の不正作成からの不正使用と、傷害、拉致、監禁、のセットで、まあ、少なく見ても懲役刑で、50年くらいですかな?こう、捕縄をつけさせてもらいますね?」
「意外に軽いですね?ジョンソンさん」
「こんなものですよ、勇者さま。まあ、殺人は犯していないようですし、実行時に情緒不安定というか、本人の意識が低くなってますからね?薬品の製造は、正規の業者でなければダメですから、実はそこが一番罪が重いですよ?あの薬の使用自体は合法というか、脱法ですから直接には裁けませんけど」
「よくわかりました、ということで、しばらく、くさいご飯を食べていてください、チャーリーさん」
「うわあ、嘘だぁ、僕は信じないぞ!というか弁護士を呼んでくれ!」
「いるんですか、あの国に弁護士?と、いいますかそういう概念もあるんですね、と、魔法を唱えられると困るので、魔法の束縛をさせてもらいますよ?」
「おお勇者様のその魔法の束縛は見事のなものですね、感心します」
「いえいえい、能力値が高いだけですよ、ジョンソンさん、あなたの熟練の技に比べたら、恥ずかしい限りでして」
「シャヨ国までは自力で歩いて行ってもらいたいので、足は自由にしますけども、逃げ出すようなら、森に穴を掘って埋めますからね?チャーリーさん」
「フゴフゴ」
「あ、猿轡は魔法を使われないために、外しませんから?ではジョンソンさん、引っ張っていく役はお願いしますね?道中の怪物は私がどうにかしますので」
「よろしくお願いします勇者さま」
「ゴースト系列はできるだけ避けるようにしますので、と、アバレイノシシですね、これは肉が欲しいので狩らせてくださいね。
と、さっくりですね。傷も負いません」
「お強いですね勇者様」
「まあ、職業的な補正が大きいのと、装備が充実していますから。エルリックさん」
「それにしても、本当に横から手が出せないのですね、勇者さま」
「そのようですね、ジョンソンさん。どうやら、私が中心になって戦うときは、私と一対一になるように、世界に強制力が働くようです。戦闘の前後とかは、結構ちょっかいがかけれそうではありますけれども」
「不思議な現象ですね、勇者様」
「巫女さまがおっしゃられているところでは、テーブルトークRPGの神様の、御技でございましょうとのことです。どんなにマイナーで小さな神様でも、神様は神様ということなのでしょうね」
「なんだか、神様を敬ってないようなお言葉ですね勇者さま?」
「それは、日々のこう信頼の積み重ねのようなものが、神と私の間には存在しますから?ですかね?ジョンソンさん」
「それは信用しているということでしょうか?」
「見切っていると言ってもいいですかね?」
「と、いうわけでして、帰りがけに、アバレイノシシを2匹と、シンリンオオカミを3匹、狩ってきました。で、限界集落へ貴重な青年の再入荷です」
「いやそう言われれると照れますね」
「そうだね」
「だなぁ」
「エルリック、コナン、シンイチロウ、のボンクラーずに加えて、先に戻っていたマックスさんですね、皆さん、東の森で、キノコと一緒にサバイバル生活をしながら、悪の魔法使い、カッコ笑、の手下をしていたそうです」
「うむ、説明を聞いてもよくわからんな。まあ、住人が増えたのは、純粋に嬉しいぞ、それぞれ家族も心配しているであろうから、早くに帰りなさい」
「ううむ、一旗上げるつもりで出て行ったのにのこのこ帰るのは、恥ずかしいなぁ」
「エルリックさん、そもそも次の村にすらたどり着けないような実力で、僻地から飛び出して、生きて帰ってこられただけでも幸運だと思った方がいいですよ、多分」
「うわあ、これはキツイ言い方ですが、正論ですね勇者様、わかりました、みんなして、とりあえず、家に戻ります」
「戻ったら、部屋がなくなっているとかは普通にありそうだけどな」
「コナン、そっただ悲しい事言うなよだ。……まあ、そんな気もするだけどなぁ」
「シンイチロウもそう思いますか?実は私もなんだよなぁ」
「ぐだぐだ言っとらんで、早く戻らんか、青年団。心配せんでも、若い人材は喉から手が出るほど欲しいのだから、邪険には扱われんわい、ほら、行った行った!」
「はい、王様、では失礼します」
「で、まあ、出奔した青年達が無事帰郷したのは良しとして、その、床にロープでぐるぐる巻きにして、転がされているのは、どうしたものかな?」
「は、転がっている本人が言いますところでは、30年前に出奔した、当時の宮廷魔導師の弟子だそうでございまして、名前をチャーリーと言います。後私は、この国で兵士をしていましたジョンソンです。王様」
「いや、ジョンソン、お主はもちろん見覚えがあるぞ、そもそも、リアルに、国民すべて顔見知りじゃからな、出稼ぎに出た後音信不通になっていたので、またか、と諦めておったのじゃが、お主も、森の塔にとらわれていたのじゃな?」
「恥ずかしい話ですが、どうも、このチャーリーの悪ノリからの不測な事態で、トリツキノコに操られていたようでして」
「どういうことなのだな?」
「なるほど、そういうことがあったのじゃなぁ。まあ、逆に考えれば、我が国の人口流出が、東の森の塔で止まっておったとも考えられるわけだな。そうすると、結果からすると、ファインプレーとも言えなくもないわけだが」
「ええと、まあ、トリツキノコの被害も本人たちにしかなかったようですし、健康面とかについては、当初より良くなってはいますけど、王様、それは結果論ではないでしょうかね?」
「まあ、そうなんじゃけどの、勇者さま。貴重な魔法使いをさっくりと刑に処して、使いにくすするよりは、温情を持って取り込んで、いいように使った方が、いいのではないかと言う判断なのじゃよ?」
「いや、それを本人に聞こえるように言ってはいけないと思うのですが?」
「かまわないじゃろ?監視と護衛を兼ねて、ジョンソンをつけておけば、ジョンソンにも明確な仕事ができて一石二鳥だと思うのじゃよ?」
「お、こちらにも飛び火しましたね。まあ、本性は悪人ではなさそうですし、何かあれば、魔法の束縛でどうにかなりますから、引き受けてもいいですよ、王様」
「決まりじゃな、ジョンソンは兵士復帰で、魔法使いのお目付役。魔法使いのチャーリーは、国付きの魔法使いとして、その力をふるってもらうということで、贖罪も兼ねてもらうから、チャーリーには拒否権はないぞ?いいな?」
「チャーリーも頷いていますね、ええと猿轡を外しますね」
「うむ、外は怖いということがわかったので、村に引きこもることにしますぞ、衣食住は保証されるのでありますか?」
「真面目に仕事をすれば、一室あげましょう。給料も出すので、そこからやりくりすると良い、チャーリーよ」
「……先代の宮廷魔法使いもいなくなったと聞いたしな、さすがに国に一人も魔法使いがいないというのは、よろしくないでしょうからね。……そうかぁ、爺さん、もういってしまったのだなぁ」
「寂しいかね、チャーリ」
「いや、うるさいのがいなくなって嬉しいですね、つまり私の天下ということですな、王様」
「微妙に本心か、強がっているのか判りにくいやつじゃなあ」