第四話 かなしみ
こんにちは!
主人公の情緒が不安定です。
何とか持ち直したい 笑
「……ううっ…」
……意識が徐々に覚醒していく.....
「……….う…ん、う~ん、............はっ!」
そして、俺の意識は完全に覚醒した。
体を起こそうとするが、上手くいかない。どうやら、俺の体は火山灰の中に完全に埋まってしまっているようだ。
なら仕方ない、と少し力を入れて周りの灰を吹き飛ばすことにした。収納魔法を使うという考えも浮かんだが、それだと時間がかかりすぎるので断念した次第だ。
フンッ!!
ボフワァッ、と辺りの灰が舞い上がる。
ガケフッ!ガケフッ!
ちょっとやり過ぎてしまったようだ。浮き上がった灰を吸い込んでしまい、咳が止まらない。ちょっと涙も出てきた。
しかし、このままここにいて、また灰の中に埋もれるのはごめんだし、なんかこのまま外に居続けるのも嫌になったので、とっとと洞窟の方へ向けて移動することにした。
え?何で方向が分かるかだって?そんなの決まってるじゃないか。勘だよ勘。
なんて冗談は置いておいて、ちゃんとアルナビで確認しているから、心配はしなくていいんだぜ?
火山灰に埋まった山道をずんずんと登っていく。
そういえば、まだ灰は散っていて熱く感じるはずなのに、それを感じない。どういうことだろうか?
熱さに慣れてしまったのだろうか?もしかして、もうこのくらいの熱さならへっちゃらなのか?
だとしたら、やっぱり凄いなこの身体。耐えるだけじゃなく、適応までしてしまうなんて半端ねぇっすよ、アル先輩!!
なんて、またもやおかしなテンションで道無き道を進んでいけば、あっという間に洞窟の入口に辿り着いた。
よく見れば、結界はもう無くなっていた。
どうしてだろうか?
まあ、おそらく一度出たら自動的に消えるようになっていたのかもしれないな。
特に気にはならなかったので、そのまま俺は初めての散歩(のわりには結構危険な目に遭ったのだか…)を終え洞窟へと入っていった。
◆ ◆ ◆
この洞窟は、火山が近くにあるくせに氷河が結構ごろごろと存在している。
だから、かなりの寒さな訳だがそこは俺の竜の身体。そんなものなんとも思わずに、普通に過ごすことができている………訳なんだが。
どういうわけか、めちゃくちゃ寒い!!
一体どういうことだ!?
洞窟の気温が急に下がったとは思えない。それに、もし洞窟の温度が下がっていたとしても、ここまで寒さを感じるのは異常だ。外はまだまだかなりの熱さだが、気温差でというのも信じ難い。
熱さの次は、寒さかよ!!
と悪態をつきたくなる気持ちも分かって貰えるだろう。
取り敢えず、外に出たほうがいいのかな?と折角戻ってきてすぐさまのとんぼ返りに、うんざりしながらも、踵を返す俺の視界にチラッと映ったのは、ピンク色の何かだった。
なんだぁ?と思い辺りを見回すが、何も見当たらない。
いや、視界にはしっかりと"それ"が映ってはいるのだが、うまく認識できない、いや寧ろしたくない。
しかし、こんなことをしていても時間の無駄だし、いつかは分かってしまうこと。そんな虚しい時間になるのなら、今ここで決着をつけておいた方がいいのかもしれない、なんて思った俺は、現実と向き合うべく視線を"それ"へと向けた。
"それ"は、俺だった。
氷の鏡に写った俺だった。
そして、PINK色の身体をした俺だったのだ。
なんだその顔は、めっちゃマヌケに見えるぞ、なんてツッコミよりも
「な、な、な、なんじゃこりゃーーーーーーーーーーー!!??」
俺の、魂を込めた絶叫が、洞窟内に響いた。
◆ ◆ ◆
ひととおり叫び終わった俺は、自分の身体を見回していた。
白く輝き、艶々だった俺の身体はまさしくピンク!これぞピンク!!ってくらいにピンク色に染まってしまっていた。
ああ、あの美しかった純白の鱗が、何故こんなことに!!何故なんだ!!
と悲劇の主人公張りに、悲しんでも見せたが状況は変わらない。
何でそんなに嫌がるの?いいじゃんピンク。可愛いよ?
なんて思う奴だっているとは思う。じゃあ、自分の身体が突然ピンク一色になったときのことを想像してみてくれよ。そんなことを、言ってられるか?いいや、俺は言えないね。何が悲しくてこんな体色を喜ばなくっちゃならないんだ。
もう人前には出られない、いや出たくない。どうしよう…シクシクシク…
………ふぅ……。
よし、少し落ち着こう。
こういう困ったときには、頼れるあれがあるじゃないか。
慌てることはないんだ。
きっとこの事についても、簡単に答えが見つかるさ。
大丈夫だ、大丈夫、大丈夫だから。
そう自分に言い聞かせながら、アルの知識で検索する。
んーー、ん?あれ?見つからない?
おかしいなぁ、と思いながらも再検索をする。
が
やはり、俺の求めている答えは存在していなかった。
「う、嘘だろ?
嘘だと言ってくれ、お願いだから!!」
当然、俺の言葉に答える存在はここにはいない。ただ、虚しく響くだけだ。
アルの知識でも分からないとなれば、俺如きの頭ではどうすることも出来ない。つまりは、完全にお手上げ状態ってわけだ。
やべっ、マジで泣きそうになってきた。いや、寧ろ泣ける。
俺はもう、いっそ人目を憚らず(もともと誰もいないんだけども)に声をあげて、思いっきり泣いてしまおうかと思ったが、ふと、視線を感じた。
次の瞬間、俺は警戒心を全開にして辺りの様子を探る。気のせいではないかと言う気もしないではないが、それは竜になったことによって鋭くなった感覚が否定する。つまりは、誰かが今、俺のことをどこかで見ていたということなのだ。
もちろん遠見の魔法を使われたことも一瞬考えたが、それだと魔法を使われた、という感覚が残るはずなので可能性は低い。
..........誰かが、ここにいる…?
警戒しすぎでは、と思わないこともないが、そもそもこんなところにわざわざ来るような奴がまともであるはずがない。いつ襲ってくるかも分からないのだから、これくらいで丁度良いのだ。
……………………いや、俺はマトモだよ?
だが、そうなると入口の結界は消えたのではなくて、消されたという可能性が出てくる。
転生を邪魔されない為にアルが張ったとっておきの結界だ。それを解除できる存在ならば、残念だが今の俺に勝ち目はない。
…こりゃ、逃げることも考えておかないとな…………
そんなわけで、今の俺には初めての自分以外の生命体との邂逅の喜びよりも、得体の知れないものに対する恐怖と警戒心の方が勝っていた。
しばらくじっとしていたが、相手方の動きはまだ感じない。
それなら、と取り敢えずはとっととここから退散したほうが良さそうだ、と思い移動を始めようとしたそのとき
「……プーッ…クスクス…」
と声が聞こえた。
「……ケラケラケラ……」
まただ。一瞬何を言っているんだと考えたが、俺はすぐにそれの意味を理解した。
…………これ、笑ってね?
「…プーッ…ケラケラケラ…」
……いや、絶対に笑ってるよね。
「…プププッ……ププッ……!」
…やっぱこの身体見て笑ってんのかな…。
「…プククッ…ククッ…!」
「…プーッ…クックックッ…ゲラゲラゲラゲラ…!!」
…………。
………もう頭に来た。ムカッと来た。非常にイラっと来ましたわ。
どんな理由で笑っているのかは知らないが、俺のことを馬鹿にしているのは理解できた。
怒りに我を忘れた、ってわけではないが今の俺は警戒心や恐怖心よりも、馬鹿にされたことに対する怒りと羞恥の方が大きくなっていた。
だから、ちょっと脅かしてやろうと体内の魔力を全開で放出してやったのだ。
……しーーーん…………
……笑い声は止まったようだな。…あとは奴がどこに隠れていやがるのかだが……。この魔力放出、魔力がソナーの役割をして索敵など周囲の状況を把握するのに使えるようなのだ。
だから………………ほう、あそこか……。
俺は奴の存在を感知し、奴がいるであろう場所へと向かっていった。
洞窟の奥へと足を進めていく。
魔力感知を続けていたのだが、どうやら奴は俺から離れたがっているらしい。
ゆっくりとではあるが、俺から遠ざかるように移動しているのを感じる。
だがここで、一つ分かったことがある。
奴は俺より弱い。
生まれたてとはいえ、れっきとした竜である俺の魔力に当てられて動けるのは、素直に感心する。普通なら卒倒ものだからな。流石は、結界を解除したかもしれない存在だけはある。
だが、戦うのではなく、逃げようとしているのが問題だ。感知されているのは奴にも伝わっているはず。俺より強いのなら、真っ正面から立ち向かうか、気絶した振りをして、油断を誘ったところで確実に、余裕を持って仕留めようとしてくるはずだ。
とにかく、逃げる必要はないのだ。
まあ、弱い奴でも不意打ちをしてくる可能性はあるが、リスクが高すぎる。攻撃自体が通らない可能性のほうが高いのだから。
玉砕覚悟!!って奴もいるかもしれないけど………。
だが、奴は動いてしまった。それだけで、十分。どこかに誘い込もうとしているのかもしれないが、それも分かってさえいれば意味はない。
油断はしない。
だが、あとは追い詰めるだけだ。
さぁて、どう料理してやろうか……。
にやりと口元を獰猛に歪ませて、目は爛々と妖しく輝く。
涎が滴り、地面に落ちてジュワッと音をたてる。
…………ん?ジュワッ?何が?
…おっと、そんなことを気にしている場合じゃあないんだ。
俺は捕食者、そう俺は捕食者だ。
獲物は逃さない。絶対に仕留める。
逃がしてはならない。仕留めなくちゃいけない。
そう、脳内で繰り返す。
そうしてしばらく歩いていけば、逃げようとしている奴の姿を視界に捉えた。
「…あいつか……」
俺はどんどん近付いていく。一応、警戒は怠らない。
あっ、止まった
俺は奴に追い付いた。
「…なんじゃ、こりゃ?」
そいつは、意外と小さかった。俺の頭ぐらいの大きさだ。
そいつは、ぷるぷると震えていた。そして、液体状の丸い何かだった。スライム的なのを想像してくれると分かりやすいだろう。
えっ?こいつ?こいつなの?こいつが俺のことを笑ったの?えっ?マジで?冗談だよな?
魔力感知で辺りを探るが、反応はただ一つ、目の前のこいつだけだ。しかも、かなり弱ってる。
あまりにも意外すぎるその正体に、俺の怒りはどこかへ飛んでいってしまった。
代わりに、やって来たのは途方もない脱力感。
…はあ、何やってんだろ、俺……
盛大に溜め息を吐く。
冷静になってみれば、俺がやっていたのはただの弱いものイジメじゃないか。誇り高き竜なのに、そんなことをしていたらアルが悲しんでしまう。
いくら怒っていたとは言え、この状況を見てみろよ。なんか、俺が悪者みたいじゃないか。
……はあ、要反省だな、これは…。
そう思いながら、目の前のスライム(仮)を観察した。
ずっと震えているだけだし、危険はなさそうだ。かなり衰弱もしているように見える。
気を取り直して俺は、目の前のスライム(仮)を苛めてしまった謝罪として、元気になるまで保護してやることにした。
取り敢えず、仲良くなるにはスキンシップが大事だよね、と思い立ち、なるべくフレンドリー(スライム(仮)視点からすれば完全に捕食者)な笑顔を浮かべながらスライム(仮)に手を伸ばす。
なんか、ぷるぷる震えているのが可愛らしく思えてきたなぁ。
とそのとき、再びスライム(仮)が俺の手から逃れるように動き出した。
待っておくれよ、俺は怖い人じゃないよ?
とさっきまでのことは棚にあげて追い掛ける。
そうしてようやく手が触れた、かと思ったら
ジュワッ、と音をたててスライム(仮)は消滅してしまった。
…………………
…………………
…………………えっ?
────────── その日、俺は泣いた。
こんばんは!
補足説明です。
主人公(竜)の体長は三メートルくらいで考えています。竜としては小さめです。まあ、生まれたてなのでしょうがないですが。
あと、移動は二足歩行です。人間だったときの名残ですね。自然と出来てしまいました。普通は四足です。
他、違和感等感じる所がありましたら、訂正なり説明なりさせて頂きますので、何かありましたらお知らせください。
では。
これからもよろしくお願いいたします。(*^^*)