第三話 散歩
こんにちは
ブックマークありがとうございます!
アルとの再会の約束と別れを済ませた俺は今、アルの知識を検索しまくっていた。
魔力とかそんな言葉があるのなら魔法なんてものもあっていいだろう、なんて考えてが浮かんでからはもう無我夢中だった。
自分でも、こんなに一つのことに夢中になれるのかって驚くくらい必死だった。
そりゃあね、前世(もう死んじゃってたし同じだよね!)では多少はそういうものが登場する読み物を嗜ませてもらっていましたよ。でもね、それを含めても何かにとり憑かれたかのように魔法というものに執着していたとは思えないんだ。死んでから新しい自分を発見したよ!!なんて笑えない。
いや、多分あれだよ、あれ。きっと世界を越えた反動でどこかおかしくなったのかもしれない。ああ、もうあの時の俺には戻れないんだな......。
っていう冗談とも言えない思考がゴロゴロ浮かんでくるぐらいには、俺のテンションも上昇中だった。
というのもやっぱり
ありました、魔法!!
というのが大きな原因だったりする。
そりゃあね、なんていったって俺の世界にはなかったものなんだぜ?何もないところから火を出したり、水を出したり、雷を出したり、そしてそれらを操ったり。そんな、俺にとってすれば夢のようなファンタジーな技術を前にして、興奮しないわけがないじゃないか。
やっぱあれだよな~、雷とかカッコいいしシビレるよな~。いやでも、火系もアツいし燃えるね。いやいやそれとも、ここはクールに水系か?
なんて思考の渦に再び巻き込まれそうになっていたその時、ふと我に返る。
びちゃっ、びちゃっ
なんだこの音は?
その音の出所が気になって、音のした足元へと目を向ける。
..........。
水浸しだった。
一体何が起きてるんだ?と一瞬思ったがすぐにその原因に気付く。
やべっ、涎垂れてる!!
どうやら、さっきの音は口から垂れた涎が地面に落ちる音だったようだ。
なんか、にやけすぎていて口が半開きになっていたっぽい。
しかし、その時の俺の姿はさぞかし気持ち悪かっただろう。
なにせ、虚ろな瞳でにやにやと笑いながら、半開きの口からは尖った牙が覗き、涎を垂れ流し、その涎でできた水溜まり(いや、既に池か?)の中心で佇んでいたんだから。
その張本人である俺からしても、その様子を想像して色々な意味でぞっとした。周りに誰もいなかったことが不幸中の幸いか...。
いや、誰もいなければいいって問題でもないんだけどね。
そんなわけで、俺はげんなりとしながらも、この惨状をどう解決するかとうんうん悩んでいたが、ふと閃いた。
あれじゃね?たいていの物語だと、竜の素材ってかなりの貴重品じゃん。なら、竜の涎とかも何かの素材になるんじゃね?
そこまで行ってしまえばもう簡単。あとは涎を取っておくだけだ。でも、どうやってしようか?
そういえば、収納系の魔法があったような...。
そう思って、覚えたての知識を漁り目当ての魔法を探し出す。
お、これだこれだ。なるほど、そうやるのね。
そうして、収納魔法の使い方を理解した俺は早速涎に対して使ってみることにした。
この魔法は、術者の精神世界とリンクしていて、収納したいものを術者の精神世界に転移させて保管するというものだ。収納対象の制限は自分より存在の比較的小さいもの、言い換えれば自分より精神が比較的弱いものだけで、精神を持たないものやその命を絶やしているものはその限りではないらしい。容量はやはり、術者の精神強度と存在の大きさに比例するようだ。
だが、ここで重要なのは命有るものも収納できる、という点だろうか。
つまり、竜の俺からすれば同族の竜以外ならこの世界の殆どのものを収納できるということなのだ。それはすごい、なんてチートだなんて思うけども、しかしそれをやる奴は殆どいないらしい。
理由がいくつかあって、まず一つは単純にそれを実行に移せるほどの存在を持つ者が少ないから。次に、生き物を自分の精神世界に入れたとして、その中で暴れられたらひとたまりもないからだ。
それに、精神世界は限り無く緩やかではあるが時間が流れていて、入れっぱなしにしておけば時間はかかっても、生き物は年老いて死んでしまうしその死体とかも腐ってしまう。一応、それぞれの問題に対する解決策はあるが、それをやる労力が勿体無い、なんて理由でこの魔法は専ら腐らないもの(鉱物とか)の保管に使われている、というわけだ。
しかし、その精神世界に生物を入れることの出来るほどの存在に目をつけて、その力を手に入れてどうにか自分の寿命を延ばそうと考えて、俺達竜を狙ってくる輩もいるらしいから、そいつらには注意しないといけない。
とまあ、俺が今から使うのはそんなある意味欠陥魔法とも呼べてしまえるようなものなのだが、今はそれしか使えないのだからしょうがない。
あとこれは慣れてくると、その目に写る範囲のものは自由に出し入れできるようになるらしいが、それには途方もない訓練が必要で、初心者の俺は対象に手を触れなければ発動できない。
だから、自分のとはいえ涎を触らないといけないわけで。
.....きったねぇー。
あんまり涎に触れ続けるのも嫌なので、早速、入れ!と念じてみれば初めて使う魔法は難なく成功し、即行で回収を済ますことが出来た。
そうやってようやく辺りを綺麗にし終えたのだが、なんとなく自分の涎が池を形成していたこの場所にはいたくなかったので、俺は場所を変えようと移動するのだった。
◆ ◆ ◆
「ふぅ......」
洞窟を少し進んで、手頃な場所を発見した俺はそこで一息ついていた。
ちなみに、俺が生まれたのは洞窟の一番奥であったようで、枝分かれとかしていない限りはこのまま道なりに進んでいけば外に出られるのだろう。まあ、迷う前にアルの知識を使えばいいんだけどね。
とまあ、さっきまでのテンションはどこへやら、実に不本意ではあるが先程の一件がほどよく俺の頭を冷やしてくれたようだ。
「これからどうすっかなぁ」
冷静になった頭でこれからのことについて考える。
アルの知識はあれど結局それを使うのは俺であり、頼れるのは己の身一つのみ。この竜体の恩恵は大きいが、アルを救うまでは死ぬことも許されない。いやまあ、死ぬつもりはもともと無いんだけども。
だがしかし、自由に生きろ、と言われたことが思考の停止を招かないでいてくれる。
というわけで、さっきまでのことはさっぱりと忘れて(そんなことは出来る筈がないのだが...)しまって、情報収集に勤しむことにした。
とはいえ、アルの知識を漁るだけなのだが...。
一応ここで補足しておくと、さっきの収納魔法以外にも俺に使える魔法は多々あった。
しかしそのどれもが、灯りをつけたり、物を動かしたり、身体を強化したりなどの単純で簡単なもの(所謂無属性)であり、曲がりなりにも物質を転移させる収納魔法が一番難しいくらいだった。
他にも、火とか出せないのかなー、なんて思いながら探していたのだが、そういう属性持ち(火とか水とか)の魔法は軒並み制限が掛けられていて、知ることすら出来なかった。
だからちょっとショックも受けていたわけだ。
まあそれは多分、俺がまだまだ未熟だからなんだろうけど。
といったこともあったわけだ。
だから、今のところはあまり魔法には期待することが出来ない。
よって今はまずここの周辺の地理と生態系(いきなり襲われたら嫌だしね)について調べていた。
だが、なんとここには俺以外に生物が存在していないようなのだ。しかし、やったね、これで襲われる心配は無いや!!なんて喜んでもいられない理由がちゃんとあった。
俺が今いるここは、ユーシア大陸というこの世界で二番目に大きな大陸の北方に位置する、アレス山脈の最高峰マットエレマ山の中腹にある洞窟なのだが、この山周辺の環境が生物にとって過酷で住むことが出来ないのだ。
ときには大吹雪、ときには大嵐、ときには火山の大噴火、とこの山の環境は自然災害の目白押しだ。
何故こんなことになっているのかというと、ここは魔力が集まりやすくなっていて、その濃すぎる魔力濃度によって、天変地異とも呼べる環境の変化が引き起こされているらしいのだ。
何故こんな危ないところを選んだ!?なんてアルに文句を言いたくなったが、邪魔が入らないという点ではこれ以上最高な環境も無いんではなかろうかと思い直す。それに、結界もあるしね。
ああ、俺の浅慮な考えでアルに文句を言いたくなってしまった。なんて馬鹿なんだ、俺は。なんて反省はすれど、でもまあ、文句を言いたくなるのも一理はある、と言い訳はしておくことにする。
一時の間。
まあ、とりあえずここには危険(生物的な)が無いことが分かったので俺は外に出てみることにした。
◆ ◆ ◆
しばらく歩いて、俺はようやく洞窟の出口付近まで来ていた。もちろん、アルの知識をフル活用して迷うことなどなかった。途中でなんか面白そうなものを見つけて、ちょっと寄り道はしたけどもね。
とまあそんなことよりも、と洞窟の出口へと視線を戻す。
アルナビ(俺命名)の地図によればあそこが出口の筈なのだが.....。
真っ黒だった。なんかもやもや動いている感じもする。
なんだぁ、一体!?と思って、一応地図を再確認するがやはりあそこが出口のようだ。
俺は意を決して近付く。
そのまま、その黒いもやもやに手を伸ばしてみるが、それに届く前にコツンっと音をたてて、俺の手は硬い何かにぶつかった。
「うおっ!?」
驚いて、思わず手を引っ込めてしまった。
しかし、その存在を認識した俺はまた、それに向かって手を伸ばして叩いてみる。
コンッ、コンッ、コンッ
なんなんだろうなあ、と一瞬思ったがすぐにそれの正体が頭に浮かんでくる。
「あ、結界か!!」
どうやらこの結界、入り口を塞ぐようにして張られているようだ。どうやって出るんだろう?またあれか、吸収か?なんて思いながら再び手を伸ばすが、今度はそのまますり抜けてその勢いで体ごと外に転がり出てしまった。
ゴロゴロゴロゴロッ!!
「うおおっ!?」
転がりながらも考える。
どうやらあの結界は任意で出たり入ったり出来るようだな。
ていうか、こんなことにならなくてもアルの知識を使えば一発じゃん、と思ってまた、ああ、まだ制限が掛かっていたな、と思い出す。そんなとりとめのない思考をしているうちにようやく、ゴガツンッ!と結構大きな音をたてて何かにぶつかった俺の体は転がるのを止めた。
「....う~ん」
少し目を回しながらも、酷い音をたてて硬そうな岩にぶつかりながらも、無傷で痛みを感じないこの身体に改めて驚きを覚えた。
おお、これも竜体の恩恵か...。すんばらすぃではないか!!わっはっはっはっはっ!!なんて高笑いをして、すぐに我に返る。
......やっぱり俺、どこかおかしいよな。うん、今頭を思いっきり打ったからそのせいだ。そうだそうだ、そのせいなんだ。......。
とさっきの自分が正気ならちょっと、いやかなり悲しいので現実逃避に向かおうとしたその時、天が割れるかと思うほどの大きな音が辺りに響いた。
ドッガァァァァァアンッ!!!!!
「うっひゃうおん!?」
おっと、思わず変な声を出してしまった。...恥ずかしすぎる。
そんな自分に赤面していたのだが、そんな場合でもなかった。
なんか、熱い?
そう、暑さではなく熱さを感じる。
そもそも、この竜の身体は耐寒耐熱作用を備えていて、多少の暑さ寒さならなんとも思わない。だがその身体が熱さを感じているということは、周りの気温がかなり上がっていることを示している。
.....えっと、やばいのかな、これ?
折角外に出てきたのに、どうしたもんかと思いながらもその原因を探す。
周りには黒い霧のようなもやもやが未だ漂っている。かなり埃っぽい。それにこの熱さにさっきの大きな音。何か引っ掛かるんだよな~、と一通り考えきったところでようやく答えに辿り着いた。
あ!!これって火山灰じゃん!!
あれ?ってことはさっきの音ってまさか.....
そのまさかのまさかだった。
上の方からゴオォォォオオオッ、と音がする。
やばいっ!!と思ったときには、時既に遅し。
「うおおおおおおっ!?」
俺は紫電を散らし荒れ狂う黒いもやもや、つまりは火砕流に呑み込まれてしまったのだった。
こんばんは