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フレキシブル・ハート 戦魔災害復興支援局  作者: 竹中 姫路
第二章 ”夢追わぬ少年と野心にまみれし少女”
5/7

001

今回一部日本一の売上を誇る週刊マンガの代表作よりお言葉を拝借しパロディとして載せております……もしも、それアウトやろ!と思われた方は是非メッセージや感想にてご指摘お願い致します。


指摘があった場合は即修正いたしますm(_ _)m

 「てめ、待ちやがれこの野郎!!」

「待てと言われて待つかっつーの!!」


 夕暮れのスゼットを走り抜ける四つの影は大通りをから姿を消し、脇道の暗闇へと消える。

 元村の中心部であった丘の上部分は今だ木製の家が多い中、町として新たに発展した中心街はそのほとんどがレンガ造りの家屋が立ち並んでいる。

 ロイドはそのレンガ造りの壁に挟まれた裏路地を必死に駆け抜けていた。


「てかお前らしつこ過ぎだっての! お陰でさっきご新規さんの金髪っ娘口説けなかったじゃん!!」

「なにがご新規だてめぇなめてっとぶっ殺すぞ!!」


 おそらく東門から入って来たのであろうフロックコートを着て妙に細長いショルダーケースを背負っていた金髪の彼女。

 すこぶる美人。

 近くに妙な身なりをした男がいたが、おそらくは貴族である彼女の護衛だろう、次あった時はなんて声を掛けようかとロイドの顔がわずかにニヤける。


「ん~たぶん観光かなんかだろ、今日はもう宿屋にいくとなると、次会うのは明日だよな~……ここらで一番高い宿って言うとオドゥルピアンだけど、仮にお忍びだとすればペノールかフューレ当たりがサービス面と部屋の綺麗さでは妥当なとこだよなぁ」

「てめ、何ごちゃごちゃ言ってやがる!!」


 迷宮は基本的に一度攻略されてしまうと、その後は廃墟やただの洞窟と化してしまう事が多い。勇者一行によって現存するほとんどの迷宮が攻略済となった今日では、スゼットの様な言わば生きた迷宮は非常に貴重な存在となっている。故にスゼットに訪れるのは何もフーマーだけではなく、迷宮を調査せんと訪れる学者や物見遊山の観光客もそう少なくはないのだ。


「……まぁなんにせよ、あいつらを何とかしてからだよなぁ」


 ロイドの予想では、先ほど呟いた二軒の内一軒にお目当ての彼女が滞在している可能性が非常に高い。しかしそれを確かめるのに後ろの三人はこの上なく邪魔であった。

 ロイドは追いかけてくる三人を一瞥すると、更にその速度を上げる。


「なぁ!? あい、つ……まだ、はぁっくそぉ!!」


 逃げるロイドを見逃すまいと必死に追いかける男達は狭い裏路地を右へ左へ、曲がった先ですぐさまその姿をくらますロイドにやっとの思いで食らいつく。


「はぁ、はぁ……追いついたぞコラァ」

「……もう、逃さねぇからな」

「覚悟しろよ!」


 追いかける内にすっかり日の暮れた裏路地は、夜目の利かぬ者には歩くことすら困難なほどの闇に包まれていた。


「おい、明かりを出せ!」


 このままでは話しにならないとリーダー格の男は後に続く仲間の一人に命じ、鞄から取り出させた魔具で光の球体を生成、周囲を照らし出す。

 明るくなった路地裏で息の上がる三人が目にしたのは、三方を高いレンガの壁に囲まれたロイドの背中があった。


「男のケツなんか追っかけて何が楽しいんだか、俺言っとくけどそっちの趣味マジないからね」


 袋小路、ロイドの背丈の三倍近くもあるレンガの壁のどこにも逃げ場などありはしない。

 まさに絶体絶命の中にありながら、振り返りもせずにそう言い放つロイドの口元は笑みを絶やさない。


「なぁに考えてやがる……」


 訝しむ男達を他所にロイドは続ける。


「あんたらまさか、俺を追い込んだとか思ってる?」


 溢れる程に余裕をかませて、ゆっくりと振り返り始めたロイドを警戒したのか男達はとっさに身構えた。

 

「俺はつい数週間前にやってきたあんたらと違って、もう二年この町で、あの迷宮で生き残ってきたんだよ? こんな迷宮に比べりゃ単純極まりないこの町でどうしてあんたらに追い込まれて上げなきゃなんないんだよ」


 ま、まさか、と三人の男の内の一人が思わず後ずさる。

 確かにこの狭い袋小路は逃げ場のない空間である。しかし、それと同時に狭い路地は男達三人が同時にロイドを攻撃するには狭すぎるのだ。


「っへ、だから何だってんだ、鼻からお前なんぞ俺一人で十分なんだよ! ルゴス二十程度の雑魚に何ができるってんだ」


 しかし、それで数の差は埋められてもルゴスの差は依然として存在する。平均して四十以上ある彼等のルゴスは、二十程度のロイドの実に二倍以上の差がある。

 

「そうだそうだ! 兄貴のルゴスは五十近いんだ! そこらの魔物なら傷一つ付けることもできないんだぜ?」

「おうよ、テメェも一発で楽になっちまいな!」


 ルゴスは一定の値を超えることでスキルという恩恵を獲得することができる。故にルゴスの低いものと高いものとでは当然スキルの保有数が違うのだが、ルゴスによる恩恵は一つではない。

 ルゴスの値が多ければ多いほど、その者の身体能力が上がるのだ。

 人々はそれを加護と呼ぶ。

 腕力、体力、強靭さ、そして動体視力や知力に至るまで、どんな試練を乗り越えて来たかによって与えられる加護は変われど、その差は開けば開くほどに顕著となる。ルゴスの高い者はたとえ裸であってもルゴスの低い者より負ける事はない、それほどまでにこの加護の差は絶対的な物であるのだ。

 

「まぁそういう事だ、乞食はどこまで行っても乞食なんだよ? 残念だったな」

 

 その差が二倍以上となれば尚更戦闘においてロイドに勝ち目はない。


「ったくベラベラベラベラうるせぇなぁ。あんまり強い言葉使うと弱そうに見えるぞってどっかの誰かが言ってたぜ?」

 

 しかしそれでもロイドの余裕は崩れない。あまつさえオサレなセリフで男を挑発する始末である。


「……舐めるのも大概にしろよ小僧?」


 迷宮で惨敗し、酒場では出し抜かれ、絶対的優位に立っているこの状況ですら媚びず怯えず、己のの自尊心を煽り立てるロイドに男の怒りは頂点に達した。


「金さへ寄越せばまぁ許さん事も無いと思ってたがよ。予定変更だ」


 男は言いながら、拳をボキボキ鳴らしゆっくりとロイドに近づいてゆく。


「しばらくぁ医者の世話になるんだなぁ!!」


 左足で地面を蹴り、腰を、肩を、体全体を使い力の限りを尽くして放つ渾身の右ストレート。

 技術もへったくれもないその攻撃は、後ろへ飛び退いたロイドに届かず空を打つ。


「っへ、どうだ俺のパンチは? 当たったらイてぇだろうなぁ?」

 

 しかしそれは当てるための攻撃ではない。

 男の拳は空を貫くも、加護も含んだその攻撃はすさまじい風圧を放ち石畳の埃を舞い上がらせる。もし当たれば肉をも抉り兼ねない拳は体に当てる事叶わずとも、恐怖心を擦り込ませるのには十分過ぎる効果を持っている。

 

「どうした? また避けるか? ああ?」


 加えて三方を壁に囲まれた袋小路にいるロイドは二撃目を避けるスペースはすでに無い。


「……悪趣味だなぁもう」


 ルゴスの絶対的な差が存在し、かつ冷静さを欠く状態でありながら最初の一撃が精神を揺さぶる類の攻撃を選択する男に、ロイドは辟易した様子で呟く。


「っは! 言ってろこのガキ!」


 男は短いステップを踏みながらロイドへ拳を突き出す。先程のストレートとは打って変わったスピード重視のジャブは、初手で植え込んだ恐怖を十全に活かす当たれば間違いなく相手の心を掻き乱す攻撃であった。


「……!?」


 しかしそれは当たればの話である。


「ど、どこに行きやがった!?」


 拳を打ち込んだ先はまたしても空。しかしつい数秒前までロイドは間違いなくこの袋小路におり、逃げ場などない、にも関わらずその姿は男の前から完全に消えていたのだった。


「あ、兄貴!! 上! 上を!!」


 後ろの一人の叫び声で、男はようやく気がつく。


「よっほっ! やっとぉお!!」


 男が攻撃する直前、飛び上がったロイドは壁の僅かな突起を足がかりに、上へ上へと見事な三角跳びを敢行し、やがて頂上へとたどり着く最後の跳躍で見事な宙返りからのY字着地を決めていた。


「っふっふっふ、見たかこの俺の雄姿を!! あんたは確かに強いが、逃げて逃げて逃げまくって来た俺の脚力は二倍位の差なんぞにゃぁ怯みもしねぇぜ!!」


 両手を広げ高らかに笑うロイド。下からの光でキラリと光る白い歯が憎らしい程に決まっている。


「な!? テメェ曲芸師か畜生!! こんなデタラメありえ……」


 しかしありうる、と男は顔をしかめた。

 ルゴスは乗り越えた試練に応じて与えられる恩恵であり、加護はその試練に大きく左右される。一般人が生活に必要最低限必要と言されるルゴス二十と言う数値は、平和とは言え争いの絶えないこの世界における最低限。当然その中の戦闘と言う項目は無くてはならならず、加護にも影響が及ぶ。しかし、生涯ただただ逃げに徹していれば、あるいは腕力や強靭さを犠牲に”逃げ”に適した加護を受ける事も可能性としてはゼロではない。


「……一体どういう生き方すればそんな偏った加護を得られんだテメェは」


 攻撃をしても全くダメージは与えられない、攻撃を受ければあるいは死ぬかもしれない。

 それ故に特化したロイドの能力は、ルゴス二十と言う低い数値にもかかわらず一人で迷宮を探索するに相応しい力にまで昇華していたのだ。

 思い返せば三人の男に追いかけられてなお息も上がらぬその体力はまさに異常であった。


「まだ追いかけっこする? 確かに挑発したのは悪かったけど、俺があんたらを別に騙してないってのはこれでわかったろ?」


 己が危険を感知するユニークスキルと、逃げに徹した加護。

 他にもまだスキルはあろうが、この二つだけでもロイドが一人で迷宮を散策できるのも頷ける。


「……畜生……帰るぞ!」

「兄貴!?」


 フーマー、夢を追いし愚か者。

 しかし引き際は見極められぬほど愚かであれば夢に溺れて死ぬるのみである。

 

「存外物分かりいいんだなぁおっちゃん。実は良い人と見た」

「ったく、一言多いんだよ!」


 文字通り街を縦横無尽に駆け巡り、待ちぶせの通用しない人間を捕縛するなど仮に成功したところで多大な労力を消費することなど目に見えている。そもそも自分の勘違いが原因のこの一件、ロイドの正当性が認められた時点でもはや彼を責める理由が無いのだ。

 それでも捕まえて金をせびるなど、ただの恐喝に他ならない。

 確かにロイドの言動には腹は立ったが、そこまで落ちぶれることは彼のプライドが許さなかった。

 

「いいんですかい? 兄貴?」

「オメェらも見たろうが、だいたい大の大人が寄って集って子供一人追いかけ回して……はぁ、お前ら笑い者になりてぇのか?」


 男の言葉に最初は戸惑う二人だったが、男が二人を置いて立ち去ろうとすると、不承不承にその後を追ってゆく。


「おう、そういや小僧、テメェに言わなきゃならねぇことが二つある」


 と、その時、男は不意に立ち止まり振り返らずにロイドに向かって叫んだ。


「最近、何でもオメェくらいのガキがここいらで襲われてるみてぇだぜ? てめぇも寝首かかれねぇように気をつけるんだな」

「なんだよ、貸しのつもりか?」

「馬鹿野郎、貸しを返したんだよ……それとな……」


 続ける男は、そこで首だけを器用に振り向かせ、壁の上のロイド目掛けて盛大にメンチを切る。


「俺ぁまだ二十八だ! おっちゃん言うなやぁ!!」

 

 それだけ言って満足したのか、男は肩で風を切りながら子分と共に裏路地を去って行った。


「……っぶ、二十八ってほとんどおっちゃんじゃねぇかよ」


 取り残されたロイドは笑いを堪えながら、再び壁を使って袋小路へと降り立った。男達が去ってしまうと同時に消えてしまった魔法に代わって、仄暗い月明かりが彼の影を照らし出す。


「それにしても、寝首をかかれるなって言われてもねぇ」


 男が最後に言い放った警告。

 ロイドはその言葉を反芻する。

 オメェくらいのガキ。

 齢十八、身長百七十弱、短髪、動きやすい町民服を身にまとう多感で女性特有のくびれと膨らみと香りに生きがいを感じる少年などそれこそ腐るほどいる。

 唯一その他多数の少年たちと違う点といえば、


「……顔はまぁいいよなぁ」


 この歳にして誰とも徒党を組まず、一人で迷宮に潜る技術を持っているという点だ。

 スゼットで迷宮探索に勤しむフーマーに年若い人間は決して珍しくはなく、迷宮に潜るフーマーの二組に一つは十代の少年もしくは少女が同行している。

 その理由と言えば後進の育成もあるが、何より夢を見るのは若者の特権である。

 未攻略の迷宮目指してスゼットを訪れる若者は後を絶たず、誰かしらに付いていくのはいいが無茶をして命を散らす者もまた後を絶たない。

 しかしそんな危険な迷宮でおよそ二年、その全ての探索を一人で行い生き残ってきた若人はロイド一人だけである。

 

「他になんか狙われる理由あるか~?」


 暗い袋小路でロイドは近くの木箱に座り額に手を当て考える。悩むロイドの影がわずかに揺れる。


「……あんたはどう思う?」


 そしてロイドは考えぬいた末に何の気なしに言い放った。


「………」


 薄明かりに照らされる二つ目の影に向かって。


「………いつから気がついていた?」


 ロイドの二回りは大きいであろう巨躯を持ちながら、ローブ姿のその人物はまるで始めからそこに居たかの様に、フラリとその姿をあらわした。

 顔はローブに隠れて見えないが、声の質から言って間違いなく男である。


「そんなくだらない事尋ねるためにわざわざ迷宮からついてきたの? だったらこれでもういいだろ、俺はこれでも忙しいんだけど」

 

 ロイドのユニークスキル、危険を察知する、文字に起こせば単純明快なスキル。

 しかしその実態は人に魔物に罠や災害ですら、自身を危険に陥れる可能性が高い事象には全てに反応する。言わば常時発動型の万能危険予知能力。

 気配や予感などという曖昧な言葉で表現されるようなスキルではなく、危険な存在のおおよその正体とその場所を現在進行形でロイドに伝えるこのスキルを持ってすれば、いかにローブ男が尾行の天才であってもそれに気がつくことなど造作も無い。

 このスキル唯一の欠点といえば自分よりルゴスの低い存在は感知できないというものだが、その欠点はそもそものルゴスが低いロイドにとって致命にはなりえないのだ。


「それもそうだな、ちょっとびっくりしてなぁ、別の質問をするしよう」


 聞くまでもない問に納得したローブの男は、そう言うや否や肉の軋む耳障りな音を放ちながらローブを引きちぎり更に巨大化していった。

 引きちぎれたローブからは引き締まった筋肉を覆う青い毛が生えてゆき、肥大化する指の先からは血を欲するが如く怪しい光沢を放つ爪が伸びてゆく。


「……貴様、マッセイヌカ将軍閣下の名に聞き覚えはないか?」


 もはやローブと言えぬ布切れを取り払う人の形をした狼、ワーウルフはロイドに向かってそう問うた。

ちょっと短いですが、区切りがいいので投稿しますm(_ _)m


次回はゴールデンウィーク中に投稿予定です。


次回は本格的に戦闘に入る予定なので、同じくちょっと短めになると思います、どうぞお付き合いお願い致します……



追記


最近お気に入り登録の数が一人減ってしまわれました……なぜだorz


見てくださっている方々、どうか見捨てないでくださいorz

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