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蜻蛉の三題噺

誘い子

作者: 尻切レ蜻蛉


初めてあの子に会ったのは、友達と喧嘩した帰り道。

授業参観に一人だけきた父親の悪口を言われて、殴り合いになった木曜日。

辻に佇む不思議なこども。

ぐるぐると包帯に隠れた左目と、不思議な光を放つ右目に惹かれて。

目が合ったら、逸らせなくなっていた。


「こんにちは」

「こんにちは」


風鈴のような聲が、空気を震わせる。


「誰か、待ってるの?」


尋ねると少しだけ首を傾げて、それから小さく小さく頷く。


「トモダチ?」

「マイゴ」


それが、迷子だと気付くのに随分かかった。


「迷子?」


答えずに手を差し出すから、反射的に手を出せば両手にはカラフルなゼリービーンズ。


「わっ。え?」


顔をあげたら、そこには誰もいなかった。




次に見つけたのは、日曜日。

ペットショップの角だった。

あの子の後をぞろぞろと、5人のこどもがついていく。

年も背格好もばらばらのこども達。

誰も気に留めない奇妙な行列は、路地を曲がって消えてった。




あの子のことを思い出したのは、水曜日。

朝食の支度をしながら、父親のめくる新聞が目に入った時。

そこに載った写真はあの子ではなく、あの子の後をついていったこどもの一人。

現代の神隠し。

そう銘打たれた、社会面の記事だった。

お前も気をつけろよ―そう言った父親の言葉に、苦笑して頷いておく。




そして金曜日の黄昏に、橋の上であの子に出会った。


「こんにちは」

「こんばんは」


変わらず風鈴のような聲が響く。


「ボクを、待っててくれたの?」


尋ねると、あの時と同じように少しだけ首を傾げて、けれど、小さく小さく首を振る。


「オレンジの口紅の女の人が睨むから」


すっと伸びた指が指すのは、何もない背後。

オレンジの口紅は、あの人の好んだもの。

泣きそうなボクの手の中にゼリービーンズを残して、あの子はくるりと踵を返した。


顔をあげれば、橋の上には一人きり。

黄緑のカラービーンズを口に入れて、ボクもくるりと踵を返した。


【三題噺】ゼリービーンズ、口紅、ペットショップ

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