9/10
宿泊研修まであと少し7
今回も短いです
走っていると、沙紀はすぐに見つかり目が合った。顔を真っ赤にしながら肩で呼吸しているようだ。最後に見たときの表情とは違い、どこかうれしさを含んでいるような表情。ほっぺたには涙の跡があるけど。
「……沙紀」
ぼくの声に反応するように沙紀の体がピクンとはねた。色々と言いたいことがあったはずなのに、しぼんでしまったゴム風船のように空虚さがぼくの胸の中に残っている。気のきいている一言やハンカチをさしだせるような紳士はこの場にいなかった。
「……帰ろうか」
ぼくがゆっくりと右手をそっとさしのべると、それを優しく包みこむように沙紀が手を重ねた。すごくあたたかかった。心の奥底まで一瞬のうちにあたためてくれるような。