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ぼくは委員長になる

 ただただ眠気と疲労感を与えてくれる長い長い入学式が終わりを告げ、担任の先生を教室で待つ新入生はダベリを始めた。

 一度知合いがいないかを確認するため、教室を見回すと、

「ねぇねぇ、君の名前、何て読むの?」

と隣りの席の女子に声をかけられた。机の角には出席番号と、フルネームで名前を書いている紙がセロテープで貼りつけられている。きっと、それを見たのだろう。

周防すおう涼白すずしろ。周防って昔、中国地方にあった國のことだよ」

 ぼくの名前は周防涼白。女の子と楽しい思い出を作りたい!と言う、淡い夢を抱きながら、中学校に入学した。しかし、案外、淡い夢で終わらない気がする。なぜなら、隣りの席の子がとても可愛いからだ。腰の辺りまで伸びた艶やかな髪。先っちょの方を結ぶことによって、全体的にボリュームのある感じに仕上がっている。瞳はぱっちりとしていて、二重な所がキュート。男女分け隔てなく接しているあたりが、好感を持てる。確か名前は…

「あ、僕は笹神ささかみ沙紀さき。沙紀って、呼んでね。これからはなんて呼べばいいのかなぁ、すずしろ君、すず君?」

…そうそう、笹神さんだよ。僕っ娘か~。実際の所、二次元じゃなくても僕っ娘ってかなり高いポイントつくよね~。ちょっと動く度に髪の毛が風になびくのが、ど真ん中ストレート。きれいな長い黒髪が日本人特有の白い肌の色と相性が良く、可愛い顔立ちをより際立たせている。

「どうしたの?にやついて、まさかエッチな事でも考えていたの?」

「べ、別に、そんなこと、ないです!あと、涼白って、呼ばれるのあまり好きじゃないから、スオーでいいよ」

 えっちな妄想ではないものの、思春期男子特有の可愛い人を前にすると、ドキドキしてしまう『へたれ』が発動していたなんて、口が裂けても言える訳がなかろうに!…ちょっぴり苗字ではなく、下の名前で呼んで頂きたい自分がいるけれど、ぐっと堪える。

「スオー、よろしくねスオー!」

 笹神さんが微笑むと、

スパン!! ゴン!

 急に後ろから頭を叩かれ、ぼくは机にあつあつKISSしていたりする。歯が激しくぶつかり、最悪のシチュエーション。本当にキスの場面だったら、まじで萎えるね。誰だよ、せっかくいい感じだったのに、心の中でぶつくさと文句を言いながら振り向くと、よく見知った女の子が手をぷるぷると震わせながら立っていた。

「げ」

 つい、口から漏れてしまった。

「『げ』、とは何だ、『げ』とはっ。ふ、ふん!お前にとって私はそのような存在だったんだな!いいさっ、お前は他の女子と仲良くしていればいいんだ!そうだよ、そうに決まっている!お前はいつも、いつも…」

 ぶつくさと文句を言っているのは、ぼくの幼馴染みにして天敵である天神あまがみてるだ。見ての通り、ぼくが近くにいると不機嫌になったり、文句を言ってきたり、無言で睨んできたりする、起爆スイッチがどこにあるのかわからない爆弾なのだ。

 母さんはぼくを産んだ後、息をひきとった、と聞かされている。元々、体が強い方だった訳ではなく、風邪をこじらせたら数週間も寝込むほどだったらしい。そう、母さんについては何も知らない。父さんに聞こうにも、ぼくが幼稚園に入る頃にはアメリカに行ってしまい、顔さえわからない。通帳には入金されているようなので、一応生きてはいるようだ。

 それがぼくの家族の、両親についての情報。まるで他人事に聞こえてしまうかも知れないけど、実際のところ、他人としか思えない。

 ぼくの家族は天神家なのだから。

「どうしてお前は久し振りなのに…」

 また『お前』って言っている。実際のところ、人に『お前』とか『コイツ』とかと呼ばれるのは、あまり好きではない。確かに名前なんてものは社会的に見るとただの記号にしかすぎないけど、でも友達の間では絶対に違う。

 ぼくはあだ名に愛着が湧く方だし、それに、友達の間ではあだ名で呼び合うのが普通だろう?

「てる~、なんで『お前』って呼ぶの?どうして昔と同じ風に呼んでくれないの?それともなに、ぼくの事嫌いとか……?ぼく、『お前』って呼ばれるの嫌いって知っているよね?もしかして、ずっと家を空けていたから寂しかった?」

 ちょっと質問攻め。

「さ、寂しかった訳があるものか!……べ、別にお前のことが嫌いとかじゃなく、ただ、その、……今さらな気がして、恥ずかしいのだ」

 んー、後半の部分を聞きとることができなかけど、嫌いじゃないって言ってるし、いいか。でも、本当は肩を叩きあって、久しぶりだな!とか言いたいのだけれど、難しいな。

「そ、ならいいんだ。もし照がぼくのこと嫌いなら、距離をとらないといけないと思ったんだ。いらない心配だったね」

 安心して溜め息をもらしていると、今のやりとりを横から見ていた笹神さんは、

「ふ~ん、天神さんってもしかしてスオーと仲が良かったりするの?あ、もしかして付き合ってるとか?」

「「な?!」」

 なんてことを言いだすのかな?! なんでそんなに面白くなさそうな顔をするのかな?! そしてなんでそんなにも視線がとんがっているのかな?!

「ば、バカ言うな笹神っ!私はこいつとそんな関係ではない!なんでこんなヤツと付き合わなければいけないのだ。……幼馴染み、そう!幼馴染みだから、仕方なく、『仕方なく』コイツと一緒に居てやっているのだ!勘違いするなっバカ者!そもそもだな、男子と言うのは……」

「天神さん、天神さ~ん!そろそろやめないと。スオー、なんか凄いダメージを受けているみたいだけど……」

 あー、そうか。照はぼくと仕方なく一緒に居てくれたんだ。それに男子として見られていないのか。そうだよね、ずっと一緒にいたから家族とかにしか見えないよね。いいところ弟とかそんな感じにしかならないんだろうな。はぁー。

 独り意気消沈していると、そんなぼくに気付いたのか、照が必死に弁明するかのように、廊下にまで響き渡る程大きな声で、

「ち、違うぞ!その、私はスオー(すず)のことは大好きだ!」

 と、机に手をバン!といわせながら言った照の顔がどんどん赤く染まる。昔から思っていたけど、照って表情豊だよね。

「ああ、ぼくも照のことが大好きだよ」 良き友人として。

ゴッ!

 突如飛来したぼくの筆箱が、おでこを直撃した後もなお、飛行し続けている。運悪く、何か固い部分が当たり、かなり痛い。はさみかな?

「ば、バカ者!なにを言っておる!」

 と言いながら、全力ダッシュで逃げて行くのはどうかと思う。ヒーロー物に出て来る弱い悪役みたいに脱兎の如く逃げ去る。

「ふ~ん、スオーやるね~」

 笹神さんは目を細めてからかうような、あきれているような目でつついてくる。

「え、何が?」

「…………」

「…………」

ど、どうしたんですか?

「スオーってさ、……やっぱりなんでもない。自分で考えてみなっ」

何か意味深な雰囲気を漂わせつつ結局話さない、次回予告のようなむずがゆい感覚が身体を駆け抜けた。き、気になる~。

「そ、そうか……」

 一度、行方を確認するために顔を上げると、「天神さん、まだ休み時間ではないですよ」と注意を受けている照を発見した。クラスの連中に笑われている。

 あたふたと頭を左右に振る度に揺れるポニーテールがぼくをドキドキさせる。



「先生の名前は諌早いさはやなぎさです。この春、めでたく先生になることが出来ました。担当の教科は社会、誕生日は 月 日で  座。年齢は禁則事項です」

と言いながら片目を閉じ、右手の人差し指を唇に添えた。

「皆さんに色々と迷惑を掛けてしまうこともあると思いますが、その時は温かく見守るか、手助けしてくれたら先生はうれしいです。この一年間よろしくお願いします」

 と両の手をぎゅと握り締めながら自己紹介を締めた担任の先生は、背が百八十を越えている長身だった。印象は『歳上の女性』。新任の先生らしいけど、人前に立つのは慣れているのか余裕な雰囲気を漂わせている。この余裕な感じがまたかっこいい、のだけれど、ジェスチャーを交えながら喋ている仕草はなんだか可愛らしい。なんて言うんだろう、ギャップ萌え?きっとだんしの憧れの的となるだろう。

「何か質問のある生徒はいませんか~?」

 敬礼のように手をおでこに当てながら見回し、尋ねた先生に体育会系の男子が、

「センセーはお付き合いされているんですかっ!」

 と拳を握り締めながらドタドタと席から立ち上がった。やはりか……

「今までに理想の男性が私の前に現われたことがないので、質問の答えはいません。もし皆さんの中にカッコ良い人がいたら、先生はその人に惚れちゃうかもしれません。先生もまだ若いですから」

左手の人差し指を立てながら、ちょっぴりセクシーポーズをとる諌早先生が言うと、

「「「うおおぉー!」」」

だんし陣の雄叫びが上がった。確かに諌早先生は、スタイルも、顔も、雰囲気も良さそうだ。若い力を持て余している中学生男子のDNAがうずくのだろう。

「はい、他に質問はありませんか?無ければ男子から自己紹介してもらおうと思います。いませんか?」

すると、別の体育会系の男子が、

「先生の3サイズはっ!?(低音)」

一際男子の視線がギラギラと鋭くなる。あ、女子が呆れている。自分の胸を見ている人もいる。

「ふふふ、知りたいのであれば放課後に先生の所に来なさい。ただし、先生を満足させる自信がある生徒だけよ!」

 ウインクしながら言う先生は、かなりキマっていた。きっと見た目のことは少なからず自覚があるのではないだろうか。

「「「うおおぉー!」」」

だんし陣はまた雄叫びをあげる。と、ぼくと先生の目が合った。

「………」

「………」

 きっと他のだんし同様に騒いでいないのが気になったのだろう。ええ、驚きませんよぼくは。常に冷静で、客観的に物事を捉えることができるのです。ちょっとしたことでは驚きませんよ?

「じゃあ、男子の一番からよろしく!」

ガタッ!

 窓際の最前列に目をやると、頬づえをつき、外を眺めている照がいる。物思いにふけている感じがなんと言うのか、今までに見たことがなく、ドキリとした。……その隣りには、諌早先生に釘付けになっている、坊主頭一号。

「男子出席番号一番!………」

ああ、コイツ等クラスの女子のことをすっかり忘れていやがる。……いや、クラスの女子全員が可愛い、又はキレイな女子で構成されていた。出席番号一番にしてぼくの幼馴染みの照も実際の所、少し暴力的だけど群を抜いて可愛いと思う。いや、どちらかとカッコ良い方かもしれないな。女子の間では密かに「照様 大好きクラブ」が設立されている話を聞いた気がする。

「次、出席番号四番」

そもそも、この学年の女子ってかなりレベルが高いよな。他の学校と比べると差は歴然だ。なんでなんだろう?寄せつける何かがあるのかな?

「出席番号四番、周防 涼白君!」

「ひゃい!」

突然大きな声で名前を呼ばれ吃驚びっくりして変な返事をしてしまった。ひゃいってなんだよ…案の定、クラスに笑い声が広がる。うう、恥ずかしい。

「スオー、頑張って!」

隣りの席の笹神さんも両手を胸の前で握り締め応援してくれている。なさけない。

「う、ううん!男子四番、周防涼白!趣味は、「良いケツしてる~」ひゃぁ!」

後ろの男子にお尻を揉まれた!普通は女性のオシリを触るものじゃないのか!いやそれも問題があるけど……どっとクラスに笑いが巻き起こる。誰かが、

「趣味は、お尻を揉んでもらうことでぇ~す(裏声)」

と言い、更に笑いが湧き起こる。うわ~、自己紹介失敗した~。……仕切り直しだ!

「え~と趣味は、うわっほい!」

「あ、本当だ。良いお尻してる」

笹神さんっ!何をするだー!またクラスにどゎっと笑いが湧き起こる。渦中にいる方はかなり恥ずかしいのに。

「くすくす、涼白君、もうそろそろいいかな?」

「え、えーと、スオーって呼んでください!」

 自由落下のごとく、勢いよく机に突っ伏したぼくの自己紹介は終わりを告げた。他の人のと比べて、拍手の音はかなり大きかったのは気のせいではないだろう。変なレッテルを貼られないといいんだけどな…


…………


「……趣味は野鳥観察です」

 えらくシブい趣味を持つ男子生徒の自己紹介が終わり、次はお待ちかねの女子の番だ!クラスの皆の視線が前に移動する。

「次は女子です。男子の皆さん、しっかりと聞いて、気になるあの子を落とすのです」

だんしの皆は先生の話に対して反応はするものの、内容は頭の中に入って来ていないようだった。いや、鼻の下、伸び過ぎだろ……

「では女子趣味番号一番、天神照さん」

「………」

「天神照さん!」

「ひゃい!」 ガンッ!「あ、う…」

 勢い良く立ち上がりすぎて、椅子を後ろの人の机にぶつける。女子の間にのみ笑いが広がる。

「今の反応さ、スオーの時と似ていない?」

と、何処からか話し声が聞こえた。そう言われてみれば似てなくもないが、ほっとけ。

「あ、天神っ、照っです!えっ、えっと………好きなものは、風鈴と涼白すずです!よ、よろしくお願いしますっ」

……え?なんかもの凄く気になるセリフを言った気がするんですけど。いや、きっと気のせいだな。そうに決っている!だって照はいつもぼくの事を敵視しているのかわからないけど、でも、でも!どうなのだろう……?

 もやもやとした心にクモリ硝子が掛かったような感じのまま、自己紹介は二番三番と続き、四番の笹神さんまで周ってきた。

「女子出席番号四番、笹神沙紀です。出身小学校はちょっとここから遠いところにあります。父の仕事の都合上、こっちに引っ越してきました。趣味は読書です。どうぞよろしくお願いします」

と言って席に座った笹神さんは、かなり格好良かった。

「女子出席番号五番、     さん」

「はい」

 女子の自己紹介は続く。



「は~い皆さん、委員を決めないといけません。最初は代表委員、つまりクラス委員長です。自薦、他薦は問いませんので誰かやってくれる人いませんか?…いないのなら、この時間と次の時間の間に決めるようにしてください。先生は用事があるので、ちょっと離れますが、副担任の先生を呼んでおきました。では話し合ってください」

諌早先生が教室を出るのと同時に男の先生が入って来た。

(では、よろしくお願いします)

(ええ、まかせてください)

そう口が動いた気がする。

 男の先生が教卓に立つと、

「じゃあ、代表委員から決めるぞ。諌早先生が言っていた通り、代表委員はクラス委員長と考えてもらった方が早い。その次に議長団。議長団は今やっているような話し合いの時に司会進行する係だ。後で詳しく話す。次に規律、保体、学習…」

と言いながら、次々と委員名を黒板に書いていく。字はパソコンで印刷されたのとかわらない程、達筆だった。

「じゃあ、ちょっと時間をとるか」

 腕時計を確認しながら副担任の先生が言うと、クラスはざわついた。

 早く誰かテ~上げないかな。こういうのって最初が肝心だから、諌早先生にカッコ良いところ見せたいのなら、手を上げるのだ男子諸君!

「あ、代表委員は班長もやってもらうからな。班長は席替えの時に班員を決めてもらうぞ」

「それは、好きな人と同じ班になれると言うことですか?」

 女子の一人が声を上げる。女子達の体がピクンと反応する。

「ああ、その通りだ。ん?どうした、顔が恐いぞ」

 そうだそうだ早く委員長やっちまえよ。

 しかし、残念ながら誰も手を上げず硬直情態が続く。じゃあなんのために訊いたんだよ。


………


 副担任の先生は教室をうろうろし始めた。生徒の机の間を通り、教室の後ろの方まで行き、ぼくの横を通り過ぎる、と思ったら止まった。

 突然の事で訳がわからなくなるのは一瞬で、嫌な予感がじわじわと床に零してしまった粘性のある液体のように広がってくる。こう言う嫌な予感は割と的中する方なので、べったりとした汗が頬を伝う。

「どうだスオー、委員長やってみないか?」 突如、ぽんっ。と言う効果音をつけながら、俺の肩へと先生の大きな手は着地をした。

 するとなんと言う事でしょう!刃物より鋭く、人を恐怖に落としめる程の破壊力を持った視線がぼくに降りそそぐではあ~りませんか!血走っただんしの視線が恐い。え、なに?断われない雰囲気ではないですか!

「スオー、頑張って!」

笹神さ~ん、そこで応援しちゃ駄目でしょう!こらっ、そこっ!拍手すんな!え、ちょ、待っっっっ。

「………やります」

「良かった良かった。はい、委員長はスオーに決定っと」

先生はすたすたと歩き、黒板にぼくの名前が書かれる。マジかよ………。

「では自己紹介、」

 手招きされた。

 ゆっくりと立ち上がり教室を見回すと、クラス中の皆が緩んでいる気がした。溜め息をつきながら教壇に立つと、席に座っている時では全く想像することができない世界が広がった。緊張するぞ、これは。

「この度、委員長を務めさせていただく、周防涼白です。迷惑をかけてしまうこともあると思いますが、ご協力よろしくお願いします」

礼をすると、拍手再び。これからは、こんな景色がぼくを待っているのか……。憂鬱にさせるには、十分過ぎる程の材料だった。だって考えてみろ、教壇に立つと嫌でも皆の視線が集まって来るんだぜ?

「ではスオー、次に女子の副委員長を決めてくれ。当然、全部の委員会は男女ペアな」

 女子達の体は、またピクンと反応する。そんなにぼくと一緒になるのが嫌か……。結構、ショック。

「はい。では次に副委員長を決めます。立候補する人はいませんか?」

 教室を見回すと、最初に目があったのは、照だった。そうだ、照に頼もうと思った刹那、目を逸らされた。そんな瞬間的に逸らさなくても……。

 ほとんどの生徒はどこか違う所を見ていて、視線を合わせようとしてくれなかった。

「先生、他薦でも構わないんですよね?」と訊くと、

ピシッ。

 教室の空気が変わった。こ、コエー。

「ああ構わないぞ。なんだ、気になる女の子でもいるのか、いやらしっ」

「なんでそうなるんですか!?もうっ勝手に決めますよ!」

 皆の方を向くと、凄い形相で睨まれた。…大勢に睨まれると、かなり恐いな………。「では………」ズシッ。うう、無言の圧力。

「で、では、あまが………」バンッ!

「な、なんで私が!?」

あう、そんな強く否定しないでよ。それにまだ名前まで達してないよ。

「ま、まぁ『どうしても』とすずが頼むなら、やらない事はないぞ………?」

そう、腕を組み、顔を逸らしながら、片目でぼくの方を窺うように見ながら言ってきた。

「それなら僕がやります」

そう言ったのは笹神さんだった。あら。

「天神さんは嫌そうなので、僕が副委員長をやります。どうぞよろしくお願いします」

「ま、待て笹神っ、勝手に決めるな!だ、誰が嫌だと言った?!私は別に嫌だとは一言も言ってないぞっ。ただ、すずが『どうしても』と頼むならやると言ったのだ」

 あらら。

「まだスオーは天神さんにお願いしていないので、天神さんは副委員長をやることにはなっていないはずですが?」

「べ、別にすずが頼まなくても、やろうとは思っていたのだ。それに誰もやる人がいないから、『仕方なく』立候補しようと思った時に笹神が割り込んで来たのだ」

「えー、ちょっと二人座ってください」

ぼくは声をかけようとすると…

「「うるさいっ!」」

「はっ、はい!」

……黙らされた。

「なんだ、修羅場か?」

のんきにも一部の男子生徒はニタニタと口を歪めている。絶対にこの状況を楽しんでいやがる!


キーンコーンカーン


生命維持活動である呼吸を忘れてしまうのではないか、と思える程息苦しい授業がやっと終わり休憩の時間になった。

「スオー、一体どういう事だ」

椅子に座り、杞憂になっている俺に声をかけたのは、文月雪せっちゃんだった。

「おお、せっちゃんも同じクラスになれたんだな!」

女の子みたいな名前がとても似合うせっちゃんは、齢一二にして背丈が一四0しかなく、女の子の隣りに立っているとせっちゃんが男だという認識を消し去ってしまう程の顔の持ち主なのだ。ただし、ちょっと口が悪い。

「んなこたぁ、どうでもいい」え、ちょっとショック。

「オレが言いたいのは、副委員長になろうとしている女子、二名の事だ!彼女等とはどういう関係だ!」

「え、あ、うん。え~と何が?」

「ぶっ殺すぞ……!」

口元がぴくぴくと震えている。どうやら相当お怒りのようだ。真面目に答えないとな……

「え~っと、女子出席番号一番、天神照は近所の幼馴染み」

「そうかそうか。ぶっ殺すぞ!」

「なんでそうなるんだよ!」

いきなり拳を『はぁー』とかやって、温めているぞ!

「そ、そうだ!笹神さん、こちらは友達の文月雪。 で、こちらは女子出席番号四番にして、隣りの席の笹神沙紀さん」

「よろしく~。沙紀って呼んでね」

「………………」

あれ、固まっている。

「騒々しいが、なにをやっているのだ?」

ここにて照登場。

「こちらが女子出席番号一番の天神照。家が近所にあるから、小さい頃はいっつも遊んでいたぞ」

本当は一緒に住んでたんだけどね……

「あっ、ども。天神照です」

「………………」

どうやらせっちゃんは女の子に対しての免疫が無いんじゃないかな?

「おい!自己紹介されたぞ!どうすればいい!!」

やっぱり。

「せっちゃんも同じように自己紹介すればいいんだよ」

「な、ナルホドー。………文月雪です。「『せっちゃん』って呼んでください」」

ガッ!

「て、テメェ………!」

襟元を掴まれた。だけど身長に差があり過ぎ、一生懸命背伸びしてやっと届いているから、全然凄味が無い。

「冗談だ、冗談。さ、早く続きやれよ」

「くそっ。………セツって呼んでください「趣味は男装です」」

ドッ!(( ´∀`)=○)`ω゜)・;'.、

「オレは男だ!男!」

どこにそんな力を秘めているのか、かなり良いパンチを頂いた。

「ふむ、なかなかいい突きだな」

照め、ナニ冷静にせっちゃんの事見てんだよ。幼馴染みが苦しんでだぞ?『大丈夫………?』とか、それぐらい言ってくれてもいいじゃないか。

「………………」

なんでせっちゃんはそこで赤くなるの?

「おい、ほめられたぞ!どうすればいい!!」

ああ、そゆこと。………ここはからかってみるか?

「ほめられたのだから、照の手の甲にKISSしないといけないなぁ(笑」

「そ、そうか。わかった。………チュッ」

本当にしやがった。

「えっ、はっ?ええっ!?」


キーンコーンカーン


 無情にも鐘は鳴り響く。

 いつのまに入れ替わったのか、諌早先生が

「スオー、先生はあなたならやってくれると信じていました。話したい事があるので、今日の放課後、教室で待っていてくれますか?」

ギロッ!

 だんし達の鋭い視線。耐えろ、耐えるんだ!

「わっかりま、し、た」

 少し声が震えていた気がする。

「それでは、さっきの続きをしますので、スオーよろしくお願いします」

「あっ、はい。では先ほどの続き、副委員長を決めたいと思います。やっぱりやってみたい!っと思った人でも手を上げて大丈夫です。誰か副委員長をやってくれる人はいませんか?」

スッ。手を上げたのは笹神さんだけだった。

「他にいませんか?」

と言いながら窓側を見ると、エサを待つ雛鳥のように、口をぽかーんと開けた放心状態の照がそこにいた。

「天神さん、笹神さんが副委員長を希望していますが、いいですか?」

「うん、別にいい」

なんかいつもと違う雰囲気だけど、早く決めちゃえ。今の照の精神状況なんてしったことか!

「それでは笹神さんに副委員長をやってもらいます。笹神さん、自己紹介をお願いします」

「はい、この度副委員長を務めさせていただく笹神沙紀です。委員長、スオーの負担が少しでも減らせられるよう頑張ります。半年間よろしくお願いします」

「はい!ここで委員長、副委員長に盛大な拍手を贈りましょう」

諌早先生が言うと、だんし達はオーケストラのシンバルを鳴らすかのように、手を思いっきり叩いた。

「では次は議長団を決めます。希望する人はいませんか?」

と尋ねると、元気系の女子が

「はいはーい!やりますやりまーす!私、議長やるねー!」

「他にいませんか?いないのなら      さんに議長をやってもらいます」

いないでーす!と女子集団。自分がやらないからテンションが上がっていやがる。やってる身にもなってみろよ……


………………


司会進行が議長に移り、肩に掛かった重いものがとれた気がした。

「スオー、一年間よろしくね。一緒に色々な思い出を作ろうね!」

そう言った笹神さんは、やけにニコニコとしていた。何か良いことでもあったのかな。

「そうだな。まず最初に宿泊研修があるから、そこでぼく達が頑張っていることをアピールしないとな」

驚くことに宿泊研修は、来週の金曜日から三日間に渡って行なわれるのだ。この間に友達を作れって言うことなのだろう、きっと。学校側の粋な計らいに感謝する。

「ねぇ、宿泊研修ってどこに行くんだっけ?」

宝石店に並んでいる商品のような輝きを帯びた目をした笹神さんが、問いかけて来る。

「昔、炭坑で栄えていたところに行くよ。そこで一度『炭坑の一日』を体験して、学校を改造したようなリフォームしたような感じの民宿で一晩を過ごす。二日目は一日中自由時間で、夕飯までに帰ってくればどこに出掛けてもオーケー。近くの海で泳ぐのがほとんどじゃないかな。で、三日目にはオリエンテーションと言うか、ガイダンスと言うか、そんな感じのこれからについての事を話すはずだよ」

「スオー、もしかして宿泊研修楽しみだったりするの?」

「うん?」

そう言われてみて、確かに興奮気味に話している自分がそこにいた。そうか、楽しみだったんだな。

「ぼくね小学生の頃は風邪とか家の都合で旅行的行事に一切参加したことが無かったんだ。そのせいかも……」

「そうなんだ…、じゃあ遠足とかもないの?」

「うん、ないんだ。だから本当にこの宿泊研修が『初めて』になるのかな」

「じ、じゃあ!僕がスオーの『初めて』の思い出となるわけだね!」

なんか、やけに初めての部分が強調されていたな。確かに初めてって新鮮な感じがいいよね。ゲームとかだって、回数を重ねる毎にだんだんと飽きちゃたりするもんね。

「そうだね。笹神さんがぼくの初めての旅行的行事の思い出になるね。そしたらもう、最高のものにしようね」

「う、うん!スオーの初めての思い出だね!」

微妙に会話が噛み合っていないような気もするが、笹神さんの太陽より輝かしい笑顔を見ていると、どうでもよくなった。



 微かな期待と、それを否定する考え。放課後になり、諌早先生に呼び出された教室の前。高鳴る鼓動を抑えるため、深呼吸を二、三して周囲を確認。よし、誰もいないな!

がらっ 「失礼します」

「呼吸するんじゃねぇ、クソ虫が」

?!

「お前が臭い息垂れ流しにするせいで、地球の空気がどれだけ穢れると思ってんだ」

え?

「だいたいよー、お前生きてる価値あんのか?なんか一つでも有益な事でも出来ているとでも思ってんのかこら?!」

一瞬にして絶対零度まで一直線に低下するぼくの体温。諌早先生(?)から大変恐ろしいお言葉を頂く。やばい、ちょっと涙出てきた。

「………どうやら違うようですね。先生はちょっぴり安心しました」

全く、訳のわからない事を言う。

「どういう、事、ですか?」

気付かれないように涙を拭きながら、声が震えないよう細心の注意をはらういながら、たずねる。

「いや、先生はね、もしかしたらスオーは女性に罵られるのが大好きな変態さんのMさんかと思ったのですよ。でも安心しました。今の反応を見ると、明らかに普通の人ですね。……わかりました。スオーは熟女が好きなのですね?」

「??……じゅく、じょ?なんですかそれは?」

「そうですか、スオーは幼女大好き☆ロリコンさんなのですね?」

「な!なんでそうなるんですか!?一体どういう事ですか!説明をお願いします!」

訳のわからない精神攻撃を避けるため、諌早先生の注意を他に逸らす。

「先生は小中高大学でも、男子にもてもてだったのです。いつも、いつも周りの男性は、先生にアピールしていて、人生のパートナーになろうと必死でした。多分この大きな胸が原因だと思うんですけどね」

先生は自分の豊満なホワイトマシュマロをむんずと揉みしだく。手を動かす度に揺れるふたつの双丘がぼくをドキドキさせる。

「だけどスオーは先生に見向きもしなかったので、異常性癖があるのではないかと思ったわけですよ。わかりました、シブめの男性が好みのタイプですね?」

「違います!なんでそこで男性が出て来るんですか!そもそも見た目だけでその人の事を好きになるのってどうなんですかっ。確かに見た目は重要ですっ、だけど好きになると言うのは、一緒に居て楽しくなる人だったり、優しい人だったりとやっぱり内面を感じとって決まるんじゃないですかっ。一目惚れとか言うのもありますけど、ぼくは好きではありません。どんなにキレイな可愛い人であっても、性格が最悪だったら一緒に居て楽しくないからです!」

自分でもよくわからないけど、何か言わなければ気がすまない。

「一時の感情に流されて付き合ったしても、そんなのすぐに別れてしまいますっ。泣いて、笑って、怒って、悲しんで、ケンカして、そう、一緒にいるだけでいつのまにかその人の事を好きになっちゃうものです!」

なぜこんなに熱く語っているのか、なぜこんなにムキになったのかはわからないけど、終わると、もの凄く恥ずかしいことを言った気がして、もの凄く失礼なことを言った気がした。

「す、すみませんでした!」

「いいえ、どうやら先生の方が子どもだったんですね。今までの先生が間違っていました……スオー、あなたが大変かっこよく見えてきました。それにすごくドキドキしています。そうですか、これが『好き』になると言うことですね」

「えっ?」

諌早先生の頬が夕陽の赤に照らされて、紅潮しているようにも見える。そんなことより!独り言のように言った内容は、男子全員を敵にまわしてしまいそうな大胆発言だった気が……

「出歯亀している三人、出て来たらどうですか?」

「え?」 がらっ

「すずっ!一体どういうことだ!私というものがいながら、笹神や先生まで…… ええいもういい!成敗してくれる!!」

「えっ?ちょっと待って!なんで照やせっちゃん、笹神さんまでいるの!?」

急に現われた三人の内の一人、ぼくの幼馴染みにして天敵である天神照が鋭い手刀を繰り出して来る。

ヒュッ「うわっ!」

文字通り、間一髪のところを照の手刀が通過する。はらりと髪の毛が切れて枯れた葉っぱのように散る。マ・ジ・で・殺・ら・れ・る頭の中で警報が、これでもかっ!という感じで、ガンガンと鳴り響く。

「なにするんだ!」

「ええい、うるさい!大人しく私に殺られろ!」

「絶対にそれ、よくないよね!?もしかしなくても死んじゃうよね!」

必死になって叫ぶが、どうやら照の耳には届かないようだ。せっちゃんと笹神さんに助けを求めようと、視線を向けるが

「照さん、やっちゃいなよ」

「そうだぜ!がつんと一発、帰らぬ人にしちまいな!」

二人とも、ぼくの死がお望みらしい。

「あらあらみなさん、先生に嫉妬の炎、メラメラですか?」

「えっ?!それってどういう……」

「き、聞くなぁ~~~~~~~~~~~~~~」

『ゴガン!』

生物学的にも、医学的にもかなり危ない音を発していたと思う、きっと。

 頭に超強烈な一撃を叩きこまれ、視界がぼやけて平行感覚を失い、とても眠くなった。


***


 いつの間に眠っていたのか、ぼくはベットのふとんの中に入っていた。

 ふと、違和感に気付く。

「ぼくの家じゃない……?」

部屋は、薄いピンクで統一されていて、タンスの上にはクマのぬいぐるみがある。おかしいな、ぼくの部屋はこんなに女の子っぽくないはずなんだけどな……でも、どこか見覚えがあり、不思議に感じる。

 固まった体を伸ばすため立ち上がると、机の上に写真が置いてあることに気がついた。

「あー、懐かしいな」

写真に映っていたのは、小学校低学年ころの照とぼく。照はそっぽ向きながら腕を組んでいて、どこか不機嫌そうな顔をしている。ぼくはピースをしていて笑顔。確かこれは、ぼくの誕生日の時じゃなかったかな?なんて思っていると、「着替え、着替え」とか言いながら、トタトタと階段を上がって来る足音がする。やけに聞き覚えのある声だと思って、はっと気付いた。確認のためもう一度、部屋を見回すと、確信した。

『ここは、照の部屋だ』

無意識のうちに女の子の部屋に忍び込んでしまっている自分は、一体なにをしたいのだろう。それに、ベットの中ってどうよ?

 ドアの前では、呼吸を整えている感じの息使いが聞こえ、

「よし」

と言いながら誰かがドアを開ける。いやべつに、本当に誰かわからないわけではないのだけれど……

「……………」

「……………」

そこにいたのはタオルを一枚しか身にまとっていない、照だった。

 昔から背の高い人だとは思っていたが、中学校に入った今もなお、男子と変わらない程だ。するりと伸びている長い手足。風呂上がりなのか、濡れてまとまっている真っ黒な長い髪。うっすらと上気している柔らかそうな頬。そして引きつっている桃色の唇。

 その時間は、一秒にも感じられたし、一時間にも感じられ、永久に続くようにも思えた。たが、しかし、BUT!ほんの刹那の間だったかもしれない。

 いつの間にか照はドアの前から立ち去っていて、背後から急に『ガッ!」という効果音がつきそうな勢いでキャメルクラッチをいただく。

「お前は、なにも、見ていない。お前は、なにも、見ていない。お前は、なにも、見ていない。わかったか……!」

首をしめられ呼吸ができない。それに背中に当たる、なにか温かいふたつの物体は一体!?押しつけられているせいか、少しつぶれ気味に感じる。 思春期ボーイ特有の妄想力が風船のように、どんどんとふくらんでくる。

「て、照ギブギブ!」

この状況が続いたら、どうにかなってしまいそうだ!照の手を一生懸命叩いてみるが、効果はいまひとつのようだ。

「うるさい、……!」

照はそう言うと、自分の持っている豊なふくらみがぼくに当たっていることに気がついた。

「っう!」

すると照はぼくのことをベットへつきとばし、上にのしかかるようにして口をふさいだ。

かなりHな体制に感じてしまうのはぼくだけなのだろうか・・・?

「…………」

ドアの辺りから視線を感じた。ドアのふちの部分に手をかけ、片目だけをのぞかしている。ちょっと恐い。

「んー!んー!」

照に必死に抗議をしてみるが、

「うるさい、だまれ、消すぞ……!」

と一蹴されてしまった。でも、消すって、消すって一体… もう一度目を動かすと、ユラリ、ホラー映画の白い着物を着ている人のように、こっちにやってくる!

「て~~る~~さ~ん、な~に~し~て~い~る~の~?」

なにやら怒りが込められているような声を放つのは、どうやら笹神さんのようだ。長い髪の毛を顔の前に持ってきていて、表情が全く見えない分、更に恐い。やすっぽいホラー映画より十分恐い。

「ひっ!なんだ、沙紀か。驚いたぞ、なんだその髪型は」

「ふふふ、ちょっと気分で変えてみたんだ! どう、雰囲気出ていた?」

な~んて、パーッと明るくなる笹神さん。髪をバサッと後ろになびかせる様は、とてもかっこよく、キレイだった。

「あっ、でも本当になにしてるの? ぼくからだと無防備なスオーを、タオル一枚しか身にまとっていない、裸同然の照さんがただ一方的に襲っているようにしか見えないんだけど。夜這いだね、夜這い。照さんってすっごく積極的なんだねー、あぁ、本当にびっくりだよー。二人だけで楽しんでいて仲間はずれだなぁー。」

なんだか棒読みな感じと、怒っている雰囲気がひしひしと伝わって来る。悪いことをしていないはずなのに、罪悪感を感じる。

「ば、ばかなことを言うな、なんで私がこんなヤツを襲わなくてはならないのだ!つまづいた、そう!つまずいただけであって、私は別にやましい気持ちなど……それより、いつまで家にいる気だ!もう七時は過ぎているし、外は薄暗いぞ!早く帰った方がいいのではないか!」

つまづいただけで人のことを消すとか言うかな普通……ちなみに生徒の帰宅時間は七時までとなっている。

「そうだよね、二人の愛を邪魔するわけにはいかないよね。それじゃあお邪魔虫はここら辺で帰るとしますよ」

「そ、それじゃあぼくは笹神さんをおくっていくね。琴音さんいる?」

久し振りに顔を出すんだ。ちゃんと挨拶しないといけないよね。

「……下にいる」

どうして急に不機嫌そうな顔をするの?


………


天神家の玄関には、靴をはいたぼくと笹神さん。それと見送る照と、照の母、琴音さん。

「それでは笹神さんをおくってきます」

「はぁい、待ってるねぇー」

子どものような喋り方をするのは、昔から変わっておらず懐かしい気がした。照の母、琴音さんはいつも眠たそうにしていて、おっとりとしている。その隣りにはぶすっとした不機嫌そうな照。母娘でこうも違ってくると、なんかなぁ。

 ドアを開け、勢いよく外に飛び出すと辺りはまっ暗だった。慌てて時刻を確認すると、午後七時半。おかしいな、なんだか三時間ぐらいの記憶がぽっかりと空いているな……確か、最後に夕陽を眺めていたと思うんだけど。

「そういえばスオーはこれからどこに住むの?」

そう訊いてきた笹神さんは、少し探るような目つきをしていた。

「父さんは単身赴任だから、これからは照の家にお邪魔することになるのかな?父さんがぼくを、天神家へ一方的に押しつけるようにしておいていったからね……」

「ちょっと待って、もう一度言って」

えらく真剣な笹神さんがぼくに迫ってくる。

「父さんがぼくを、天神家へ一方的に押しつけるようにしておいていったからね……?」

「違うよ、もう少し前!」

犯人さんを目の前にした、刑事さんのような大きな声。

「父さんは単身赴任だから、これからは天神家にお邪魔することになるのかな……?」

「それだよ!それ!!」

怒鳴られてあふれそうになる涙をぐっとこらえて。

「それがどうしたの?」

「それがどうしたの?…じゃないよ!スオーは分かってるの!?年頃の男女が同じ屋根の下に暮らすんだよ!琴音さんがいるのかもしれないけど、なにかが起こってからじゃ遅いんだよ!絶対に照さんには手を出さないって言えるの!?盛りのついた男の人が!照さんと琴音さんを目の前にして!『なにか』を犯さないって言えるの!!!!」

笹神さんは本気で、本気でぼくがおかしい人と思っているのではないだろうか?

「『なにか』って、なに?」

無意味なことだと分かっていながらも、必死にしぼりだした声は、なさけないほど細く、後が無い感じが出ていた。

「『なにか』って……ほら!男の人と女の人が!部屋に二人きりになった時の!」

「なった時の……?」

すると笹神さんは、「あう、あう」とか言いながら、ゆであがったたこのようにみるみると顔が赤く(周りが暗いからか、LEDのような発光している赤)なっていく。ちなみにぼくはなんの話をしているのか、全くわからない。そんなとぼけたようなぼくの顔を見て、腹をたてたのか、

「もうっ!知らない!!」

と言ってそっぽを向いてしまった笹神さん。

 ぼくが悪いの?

「え~と笹神さん?」

「なに!?」

コンマ数秒という、超高速で反応する。さっきとは違い、大きな瞳にはあふれんばかりの涙がたまっているようにも見える。

「えっとね」

「だからなんなの!?」

敵意ムキダシの笹神さんが、ぼくのことをキッと睨む。それでもめげずに、ぼくは言う。

「ぼく、小さい頃から天神家にお世話になっているんだ。あ、さっきも言った通り、父さんは単身赴任で今もどっかに行っていると思うよ。それでこの町からいなくなる時、琴音さんにぼくをつきだして、育ててくれ、とか言っていたらしい。もともと、二人は長い付き合いがあって、言葉を交わさずとも相手のことが分かるらしいんだ。だから琴音さんも、なにも言わず引きとってくれた。……でも、その二人が結婚していないのって不思議だよね」



天神母 ←幼馴染み→ 周防父


  ↑         ↑

  母         父

  娘         子

  ↓         ↓


  照 ←幼馴染み→ ぼく



「だからなかば、強制的に押しつけたわけだし、小さい頃からずーっとお世話になってきた訳だから、その『なにか』っていうのは起こらないんじゃない?それに琴音さん、照のお母さんって分かってるね、琴音さんはぼくのことを我が子のように接してくれていて、本当のお母さんみたいなんだ。だから二人に危害を加えるようなことはないね、これは言いきれる。それに、もしその『なにか』が起こるようなら、ぼくは二人を守ってみせるよ」

「それって、照さんのことが好きってことだよね?」

「えっ!? いやっ!照はそう言うのじゃないと思うし、それにね、それにね……幼馴染み、そう!幼馴染みであって、そう言った特別な人ではないよ!あ、でも別に照が魅力的な人ではないわけではないし、むしろ可愛いと思うよ。いや!だからと言って好きってわけでもないし……そもそも照はぼくのこと姉弟としか見ていないと思うよ!」

いきなりの笹神さんの言葉に早口になってしまう。

 笹神さんは少し( ゜д゜)ポカーン …となった後、「くすっ」っと笑った。ちょうど街灯の下辺りにさしかかり、満面まではないにしろ、笑顔を確認することが出来た。一時はどうなるのかという不安があったが、今はもうキレイさっぱりとなくなった気がした。

「わかったよー。そう言うことにしといてあげるね。でも、今のことを照さんに言ったらどうなるかなぁー?」

「え!ぼく、なにか変なこと言ったかな?!ちょっと待って、なにを照に言うつもりなの?!」

「別になにも言いませんよー」

そう言うと笹神さんは、おなかを抱えて笑いだした。うう、なんかくやしい。

「笹神さんも人が悪いよ~」と言うと、

「沙紀って呼んで」とぴしゃりと返された。

「………」

「………」

「え~と、笹神さん?」

「もう一度言うよ。沙紀って呼んで。照さんのことを照って呼ぶのに、僕のことは笹神さんって言うのはなんだか不公平だよ。だから沙紀って呼んで」 するとその瞬間、

 まだ肌寒く感じる、春の夜風が優しくぼくをなでる。


 ふたつの光が近づいて消える。

 ドップラー効果が通り過ぎる。

 そのあとに、風が通り過ぎる。

 笹神さんの長い髪が、なびく。



 彼女の瞳にはぼくしかおらず、

 ぼくの瞳には彼女しかいない。


 彼女の世界にはぼくしかおらず、

 ぼくの世界には彼女しかいない。


 彼女にとってぼくが世界になって、

 ぼくにとっての彼女が世界になる。


 彼女にとってのぼくが特別な人で、

 ぼくにとっての彼女が特別な人で、


 彼女がぼくを独占しているようで、

 ぼくが彼女を独占しているようで、


 彼女がぼくに触れているみたいで、

 ぼくが彼女に触れているみたいで、


 そんな妄想にふけていて、

 そんな想像が見えていて、

 そんな空想を抱いていて、



 そんな錯覚が過ぎ去り、現実に引き戻される。

「っは!」

「スオー、大丈夫?急にぼーっとしちゃって、なにかあったの?」

「別になにもないよ。  なぁ、沙紀………」


………


 名前で呼んで!と言っていた笹神さんに、「沙紀」と話しかけると、「いきなりなんてずるいよ!」って怒られてしまうというハプニング(?)があった。しばらくの間、うつむいていた沙紀はふいに、

「琴音さんが本当のお母さんみたいってどういうことなの?」

と、子どものような(子どもか……)無垢な瞳がぼくをまっすぐに捉える。

「どうって、きっとお母さんってこんな感じなんだろうなぁーって言う予想?みたいな」

すると笹神さんはすぐに『しまった』って顔をした。

「別に気にしなくていいよ。それにぼくにとっての母さんは琴音さんだしね。こう言っちゃあれだけど、死んじゃた人は死んじゃた訳だし……」

笹神さんとの間に微妙な空気が流れる。ちょっとウツな話だったな。話題を変えよう。

「そう言えばさ、ぼくってなんで、その、て、照のベットに寝ていたかわかる?全然覚えてないんだけど、二人とも驚いてなかったし……なんかあったっけ?」

「なにも覚えてないの?」

「なにも覚えてないの…」

沙紀は少し考えた後、

「思い出さなくてもいいことじゃない?別に大したことじゃなかったと思うよ」と、言う。

 記憶が少しばかり欠落しているのに、それは大したことではないのだろうか?

「いや、でも本当になにも覚えていないんだ。よかったら放課後のぼくの行動について教えてくれない?ほら、せっかくの青春の一ページがむだになるのも、なんだしさ」

そう簡単に記憶が消されても困るからな……沙紀はもう一度考えた後、

「う~んと……そろそろ僕の家に着くね。それじゃあこの話題は終了!」

と、さっくりと切られてしまった。そんなにも言いにくい内容なのだろうか?ひょっとすると、車にでも跳ねられたのかな……頭、なんだか痛むんだよ。

「うん、また明日ね……ってここ、照の家の近くじゃん!なんで遠回りしたの?」

多分百メートルも離れていないだろう距離に、沙紀の家があるようだ。かなり迂回してから、またこの場に帰ってきた。

「だって、スオーと沢山おしゃべりが、したかったんだもん」

なんてうつむきながら言う沙紀は、なんだか恥ずかしそうだ。小説とかであったら、ここで胸キュンな臭いセリフを言うのがベターなはずだが、あいにくぼくにはそんなことが出来ない。

「え、あ、ありがとぅ」

段々声が小さくなる自分に腹が立つ。

「………」

「………」

 しばしの沈黙。

「じゃ、また明日ね!」

そう切り出した沙紀は、走って行ってしまった。

「また明日ね~!」

小さくなる背中に向かって叫んでみると、肩越しに片手を上げそのまま行ってしまった。

「ぼくも帰るとするか」

一人、淋しそうな雰囲気を出している。雲一つない快晴の上、月が光っていた。



「ただい……」

「遅い!」

 天神家に到着するなり、これだ。

「一体なにをしていたら、こんなにも帰りが遅くなるのだ!沙紀の家はそう遠くないはずだぞ!……まさか、二人きりで変なことをしていたのではないのか!ええい、許さん成敗してくれる!!」

「て……」

発言が許される間もなく、照がぼくの襟元を掴み上げる。玄関の段差の所為で、ちょっと以上に苦しい感じになる。

「て、る、く、るしい」

必死になって照の手をばんばんと叩くが、全く駄目。こうかがないようだ…

「夫婦漫才もー、いい加減にしてー、早くご飯を食べよー?」

琴音さんがひょっこりと顔を出しながら、スプーンを持った手を縦に振る。ううむ、エッチィなー。

「ふ、夫婦ぅ?!な、な、な、な!」

「こ、琴音さん、これが、漫才に見えるんですか?ぼくには、ただいまって言おうとした男の子が、一方的に締め上げられているようにしか、見えないのですが……?照、いい加減、落ろして……」

床から数cm程浮いている状態がずっと展開されていた。

「そんな、夫婦なんて。夫婦、『ドサッ』ふふふ」

急に手を離しやがり、玄関に落下する。頬っぺたを両手で抑え、体をくねくねさせている。恋する乙女ですか……?

「げほっ、うえっ」と、むせるぼく。

「ほらー、早く手を洗ってー、食べるよぉ」と、伸びのある声の琴音さん。

「は、はぁい」と、少しぐらい心配してくれてもいいよなぁ、と思うぼく。

「返事は一回でいいー!」急に大きな声を出す琴音さん。

「はい!……はい?」あまり理解できないぼく。

「ほらぁ、早くしてー」

なんだったのかな、今のやりとり……



「でー、どうだったのー?」

今日の夕飯のキムチとタクアンが入っている「キムタクチャーハン」を頬張りながら、琴音さんはぼくに問いかける。

「………」

照は無言でぼくのことを睨みつけながらスプーンを動かす。ちゃんとグリンピースを避けながら食べているのは凄いと思うが、好き嫌いくらい直しておいてほしい。ぼくが食べることになるのだから……

「今日、役員決めがありまして、ぼくがクラス委員長になりました。一応、クラスの代表ってことになるのかな?頑張って行こうと思います!」

「へぇー、委員長ー、委員長ー。ふーん頑張ってねー。照ちゃんはー?」

「私は副委員長をやりたかった……けど、とられた」

グリンピースをまとめてぼくの皿に持ってくる。

「照、そんなに悔しいのなら委員長、変わらないか?ほら、やりたい人が務めた方がやっぱりいいんじゃない?まだ間に合うんじゃない?」

皿に乗っかったグリンピースを一度に頬張る。おいしいのに。

「私は!……私はすずと一緒に仕事がしたかったのだ」

「照ちゃんは、昔からそうだよねー。シローとーラブラブだよねー」

ぼくの口からグリンピースが一粒発射される。

「ごほっごほっ、なにを言っているんですか!」

そのグリンピースは照の皿に着地。

「ふふん!シロー、気付いていないとは言わせないよー?幼稚園以前からのー、付き合いでしょー?ほら、どうなのよー?おねーさんに言ってごらんなさい?」

「母さん、その歳でお姉さんって言うのやめて」

照の皿からグリンピースを取らうとすると、

キャィン!

「何言ってるのー。大阪のおばあちゃんだってー、39歳までがおじょーさん、40歳以降をおねーさんにー、ばーじょんあっぷするんだよー?私はーまだ33歳だからー、別におじょーさんでも問題ないんだよー?でもー流石におじょーさんは嫌だからー、おねーさん」

そう言っている間にも、スプーンとスプーンが激しくぶつかりあう。もう一度、

キャィン!キャィン!

おかしいな、ぼくのスプーンが照の皿に近づけないだと!?一体、どんな結界魔法が発動しているのだ!?

「照、それぼくが、食べる、から!」

「私も、一つくらい、食べようかと、思うっていたところだ!」

二人の間に火花が散る。これは負けられない勝負だ!ぼくはもう一度スプーンを握り直し、

「や・め・な・さ・い」

琴音さんの一声が、食卓を支配した。


………


「色々と、あいさつが遅れましたが、

 改めまして、周防涼白です。

 またお世話になります」


 ぼくは深く頭を下げた。


「いいよ~、そんな堅っ苦しい挨拶なんて~。

 シローは、いつまでもシローなんだから~。

 それに~、照ちゃんったら、すずが帰って来る!

 って最近ずっとうるさかったから~、これで静かになるよ~?」

「なっ!母さん!」


 照が何か言おうとしたが、琴音さんは軽く手であしらった。


「部屋は前と~同じで~いいよね~?

 照ちゃんが定期的に掃除していたから~、

 多分汚れては~いないと~思うよ~?」

「はい!ありがとうございます!」


 なんだかんだやっていて、やるべき事をしていなかった。

 これからまた、ここがぼくの帰る家になるのだ。

 向こうでの生活も、決して悪いものではなかったが、

 だからといって、良いものでもなかった。

 だけど、また日本に戻ってきて、小さな予感を感じた。

 それは、これからが楽しい日々になりそうだってことだ。


「………」


 照はぼくのことをじーっと見ている。首をかしげながら笑いかけると、


「わ、私は!風呂に入ってくる!」

「あれ、入ったんじゃないの?もう一回入るの?」

「………一緒に入りたいのか?」

「……え?ええっ!?」


 て、て、て、照は一体なにをか考えているのだろうか……?

 やっぱり、大人の階段を昇るってことなのかな……?

 そ、その……やっぱり、意識してしまうよね……?

 やっぱり中学生って、早すぎないかな……?

 わわ、照の顔を直視出来くなっちゃった。

 うわぁ、顔赤くないかな……?


「あらら~?照ちゃん~それって~どういう意味なの~?

 まさか~、お風呂で~『ヘンなコト』をするつも~り~?

 おねーさんも、若いころは~凄かったんだよ~?

 ここで~まさかの~カミングアウトだよ~?

 もうっ!一体だれに~にたのかしら~?」


 琴音さん、くねくねしながら恥ずかしそうに言っても、

 ぼくが困るだけなんですが……


「べ、別に!すずとそんなことを!しようとは………!」

「あれあれ~?照ちゃん、なんで顔を赤くしながら~背けるの~?

 まさか~、まさか~?『そんなこと』って~なんなんだろうね~?

 シローは~、なんのことか~おわかりかな~?」

「っへ!?」


 かなり間の抜けた声だったと思う。いや、だって……

 視線を上げると、自然と照と目が合った。


ボンッ!


 照の顔は、真っ赤に熟れたりんごよりも赤くなった。


「ふ、風呂に入って来る~~~~~~~~~~~~~~~~」


 おもわず照は逃げ出した!


「ふふふ~、ねぇ~シローは~、

 照ちゃんのことを~どう思っているの~?」


 親からの言葉と言うよりは、同級生と恋バナをするように話しかける琴音さんは、

 じりじりとぼくに近づいてくる。


「どうって、なにがですか?」

「またまたっ、分かっているくせに~

 シローはもう少し、素直になった方がいいよ~」


 琴音さんは、照と違って、攻撃的な釣目ではなく、

 寝不足気味のぽわ~っとした感じの目をしているが、

 今は盛大に開かれており、

 獲物に飛びかかりそうな雰囲気さえあった。

 いつもは、眠たそうなのに。


「えっとー、その?」

「ふふん!ま~いいや、とりあえずね」


 そう言いながら、一度瞳を閉じる。


「おかえり」


 ぼくの頬が急速に熱を持ち始める。

 目の辺りもじわっと込み上げてくる。


「た、ただいま……」

「な~にしけた~顔してるの~? ほら~、にもつの~整理とかしてきなさい~。お風呂、照ちゃんが上がったら、すぐに入ってね~」

「了解しました!」


 久しぶりに訪れた、ぼくの部屋。

 ぼくは、父さんの顔を、知らない。

 ぼくにとっての母さんは琴音さん。

 ぼくにとっての家族は天神家。

 別にそれでもいいと思う。


 横になると、自然と眠くなってきた。


ミミミミ☆ ミミミミ☆ ミミミミ☆


 温かい滴が体の上で弾ける。火照ってきた自分の胸元に手を当てみると、凄くドキドキしているのが伝わってきた。

「すず……」

 声に出してみると、頬が熱くなるのを感じた。あぁ、こんなにも………

「べ、別に私は!……私はヘンなことなど、考えて……」

 再び、カァーっと熱が込み上げてきた。

「い、イカン!いかんぞ!しっかりしろ、頭を冷やせ」

 落ちつかせるため、シャワーの温度調整をCコールドにひねる。

「ひゃわゎ!」

 突然、冷水が降り注ぎ鳥肌が立つ。

「これも、すずの所為だ……!」

 冷えてしまった体を温めるため湯船に浸かると、幸せな気持ちになった。お風呂はこうして、全身をゆっくりと温められるところが好きだ。

 視線を落とすと、胸のふくらみが目に入った。

「すずはやっぱり大きい方が好きなのかな……?」

 ふと、沙紀の顔が頭をよぎった。

「アイツには負けていないよな……?」

 両の手で自分のふくらみに触れてみる。

「んっ!………」

「………」

 あれ、誰かいる?そんな違和感を感じ、ゆっくり振り向くとそこには、

「あっれ~?照ちゃん、お風呂場でナニしているのかな~?や~ね~、一人で自分のおっぱいを揉む女子なんて、そうそういないよ~?」

 母さんに見られていた!

「な、な、な!」

 すずではなく、ちょっぴり安心したような、残念だったような……

「残念だったね~、おねーさんはシローじゃないよ~だっ」

「!!!」

 心の声を読まれた!

「わっ!照ちゃん、水かけないでよ~。また、そうやって怒るところが可愛いっ!」

 水鉄砲のように、勢いよく手からお湯を発射させる。ちょうど母さんの顔にかかった。

「水じゃない、これは『お湯』だ!」

 なーんてへ理屈をこねてみる。

「やったな~?仕返しだ~!」

 今日の風呂場はにぎやかだ。


ぼくは委員長を読んでくださった方 本当にありがとうございます!

よろしければ感想orアドバイスをよろしくお願いしますm(_ _)m

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