嫉妬
名門進学校教員の父と国語教員の母との間に一卵性の双子として私たちは生まれた。桜舞う日に生まれたから私が桜、妹が舞、と名付けられた。詩や俳句が好きな国語教員の母親ならではの名前の由来だと思う。
生まれた時から私たち二人は同じ物を与えられ同じ教育を受けて同じように育てられた。小さい頃はとても仲良しで手を繋いで歩く姿が可愛いと近所では有名だったらしい。
教育に携わる両親は大学まで一貫制の学校を私達に受験させた。二人同時に私立に通わせるには相当お金がかかることはだいぶ後になって知った。両親の教育に対しての情熱は相当なものだ。そして小学生になると両親の目が光りだす。
私は勤勉であったため、その結果が100という数字で表れていたが、舞は私とは対照的で集中力に欠けていた。勉強嫌いでままごとをしているよりも外で体を動かして遊んでいたい。そんな舞は一度も100点など取ったことはなかったが、教員免許を持つ母親がマンツーマンで舞に勉強を教えていたこともあり、私と舞の成績の差はごく僅かだった。
でも私は自分自身の努力のみで得た成績。舞はお母さんに無理矢理勉強させられて得た成績。同じような成績でも質がまったく違うと幼心に感じていた。
どうしても手のかかる舞に偏るお母さんに私は振り向いて欲しかった。私がいつも100点をとることが当たり前なのに対し、やっとのことで90点をとるのが精一杯の舞が自分よりたくさん褒められることが不思議で仕方なかった。そして疑問はやがて嫉妬へ変わり、やがてその嫉妬が憎しみへと変貌していった。
私と舞が高学年になるとお母さんは中学校の国語教員に復職した。
私は地道に努力を重ね100点のテストを量産していたのに対し、舞は学力が低下していったのは言うまでもない。
名門進学校教員のお父さんは舞の惨めな点数を見る度にお母さんを怒鳴り散らした。
お母さんはモンスターペアレントや時代の変化と共に様変わりした久しぶりの教育現場に戸惑っていたらしく、職場と家庭でのストレスが同時に溜まり、親としてではなく、ただ口うるさいだけの教師のように舞を必要以上に責め立てるようになった。
対照的に昔から手のかからない私はお母さんから寵愛を受けるようになっていった。私はお母さんが何をすれば喜び、何をすれば怒るのか、それを理解した上で舞への攻撃を開始した。
怒られるのは誰だって嫌なはずで舞も例外ではなかった。お母さんに怒鳴られるようになり、舞は積極的に勉強をするようになっていった。
いくら舞でも、まじめに勉強すれば高得点をとれる可能性は十分にある。だけど私が舞に勉強をさせないのだ。同じ物を与えられていた双子は当然同じ部屋。舞が勉強しようと机に向かうと私はあらゆる手段で妨害した。
そんなある日、自分の部屋で勉強することを断念した舞はリビングに移動して教科書を開いた。
舞は驚いていた。そこには舞の好きなアニメのキャラクターが全てのページに落書きしてあったのだ。でもそれは落書きというよりも、可愛く描かれていたといった方が適切だろう。もちろん、私がこっそりと描いたものだ。
頭にきた舞はお母さんに、私から妨害されていることを必死に告げた。するとお母さんは気が狂ったかのように言い放った。
「これはアナタが好きなキャラクターでしょ! お母さんは教師よ! 誰かに落書きされてるなら、死ね、汚い、臭い、消えろ、とか、もっと汚く落書きされるの! イジメられっ子を演じるなんて最低じゃない! しかも落書きしたのが桜ちゃんなんて! 桜ちゃんは毎日勉強して毎回100点とってるのよ! こんな落書きしてる暇あるわけないじゃないの! 双子なのに中身は全然違うのね! 何でアナタまで生まれてきたのよ! 桜ちゃんだけでよかったのよ!」
ノイローゼ気味のお母さんが私の肩を持つことはわかっていた。何故なら家事の手伝い、つまり炊事洗濯をできるだけサポートしていたからだ。私の地道な努力の結果だ。
舞は涙を出すことすら忘れたのか、まるで、この世の果てに置き去りにされ立ち尽くしているようだ。廊下の片隅で覗き見していた私は階段に腰を下ろしてお腹を抱えた。あまりにも上手く行き過ぎて笑いを堪えるのに必死だったのだ。さすがに気の毒になった私は吹き出してしまわぬよう忍び足で二階に駆け上がった。




