↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/28

馬鹿

「舞さん」


 振り返ると、そこには一人のイケメンが立っていた。少しドキッとした……けれど。


「清野舞さん」


「……そうですけど、何?」


「そんな怖い目で見ないでよ」


「用がないなら行きますね」


「ちょっと、待ってよ」


「困るんですけど。こんなところ誰かに見られたら、めんどくさいことになるし」


「わかった、わかったよ。単刀直入に言うと、頼み事があって来たんだ」


「……何?」


「誕生日プレゼントを、一緒に選んでくれないかな?」


 私は大きく溜息をついた。


「無理です! 絶対無理!」


 踵を返して、そそくさと歩き出した。すると彼は私の前に回り込み、いきなり両手両膝を地面に着いた。


「お願い! お願いします!」


 土下座してる。……嘘でしょ、何この状況。とにかくヤバい。こんなの誰かに見られたら、どんな噂を立てられるか。


 私は咄嗟に彼の脇に手を差し込み、無理やり引き剥がそうとした。


「ちょっと! 立ってよ!」


「僕の頼み、オッケーしてくれるなら」


「わかった、わかったから! わかったから早く立って!」


 そう言うと彼はひょいと立ち上がり、掌と膝の埃を払って笑った。


「はい、これ。僕の連絡先ね」


 押し付けられるようにメモ用紙を受け取ると、「後で連絡してね」と言い残し、彼は意気揚々と立ち去って行った。


 してやられた……。私はもう一度、深く溜息をついた。


 何を隠そう、あの男は柏倉正臣――桜の彼氏だ。生徒会副会長にしてサッカー部キャプテン、成績優秀。さらに実家は病院経営という絵に描いたような金持ち。


 ちなみに桜は生徒会長だ。噂では、彼女に近づくために柏倉が生徒会に入り、副会長の座を射止めたのだとか。


 そして来週は桜の誕生日。まあ、私の誕生日でもあるのだけれど。


 私の誕生日なんて、桜のオマケでしかない。仮面家族の誕生日パーティーは桜のためだけのものだ。その証拠に、用意されるプレゼントは桜のものだけ。私には「これで好きなものでも買いなさい」と言わんばかりに、味気ない商品券が贈呈される。無いよりはマシ、なのだろうか。


 柏倉はきっと、私を桜のマネキンのようにして、服やアクセサリーを試着させるつもりなのだ。やっぱり嫌だ。


 家に入ると、桜がいるのかいないのかが直感でわかる。一卵性の双子ゆえのシンパシーか、それともただの気配か。


 彼女が不在であることに胸を撫で下ろし、柏倉から渡された連絡先を取り出した。


 あれから、ずっと平穏な暮らしをしてきたつもりだった。互いに距離を保ち、二人で使うこの部屋も、本棚や箪笥を間仕切りにして中央に置いている。プライベートは死守していた。イヤホンで耳を塞げば、私は誰にも干渉されず一人になれた。ずっと、一人で生きてきたのだ。


 桜と揉めるような真似はしたくない。『触らぬ神に祟りなし』だ。こんなもの、捨ててしまおう。


 私はトイレに駆け込み、柏倉の連絡先が書かれたメモを投げ入れ、レバーを引いた。くるくると回る紙切れが、渦の中心へ飲み込まれていく。次の瞬間、冷たい水が顔に跳ねた。


 私の右腕は、便器の奥底でびしょ濡れの紙を握りしめていた。


「……何やってんだ……バカ」


 私は自分に吐き捨てるように言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。