愛の名
いつだったか遠いあの日、この部屋でバケモノに殺された。……殺された? ちゃんと生きているから違うか……。犯された? それも違う気がする。でも、ただひとつ言えることは、あの日あの時に愛が生まれたってこと……。
私のしていることは愛。愛以外のなにものでもない。愛が何なのかって知ってるからこそ今もこうして戦ってんだ。
どんな奴が来ても次に指名をもらえるように努力する。常連なら他の誰よりも過激なサービスをして浮気をさせない。
特に新規は獲物だ。今までに体験したことのないような快楽を与えてやる。次に指名をくれるかは初回のプレイ次第。リピーターになりそうな奴はだいたいわかる。出張でこの辺りに来た清潔感のあるビジネスマンよりも、近場に住む不細工で不潔なオタク気質の方が上客になり得る。
いずれにしろインパクトを残すために普通の恋人達がするセックスではしないようなことをする。すべては愛のため。
イケメンもブサイクも私にとってはどうでもいいから差別はしない。男なんてそこら辺にいるカラスのようにどれも同じようなもの。男というモノに興味はない。あるとすれば財布の中身だけ。私はその見えない財布の中身に踊らされている。いや、踊っている。そう、愛のために。
汚いのも臭うのも不潔な奴も来た場合はなるべく鼻で息をしない。最初から臭わなければ怖いものはない。汚くて臭いならたっぷり唾液を含んでから、それを洗うようにしてくわえ込む。この時ばかりは口が塞がれ臭ってしまうこともあるが、吐き気が込み上げても涙目になっても決して顔にはださない。
生理的に無理なのもうんざりするほど来るけど、これは千載一遇のチャンス。外の世界で出会ったならば表情を歪めてしまうことだろうが、此処にいる限り全てを受け入れる。受け止めてやる。嫌な物事にチャンスは潜んでいるのを私は知っている。
ヤバそうなら事前に教えてもらい対面する前に心の準備をして完璧な笑顔を絶対に崩さない。こちらの心の内を悟られないように必死だ。そして私はそのコンプレックスを愛撫する。『私の虜になれ』と呪いのように念じながら。
他で嫌厭されてきたコンプレックスの塊達は私のサービスに満足している。それはリピート率が証明している。
臭いのでも汚いのでも何でも来やがれ。そんな奴ほど本指名をくれる。これも徹底して愛のため。どれもこれも一緒、やることはだいたい同じ。愛想よくして男と名付けられた肉塊の上を滑りまわり舐めまわし、その後は小刻みに動き回るソレに演技をしてあげる。果てたソレに私は気を抜くことなくアフターケアを怠らない。時間ギリギリまでする。ソレのモノが再び硬くなり「延長」と言われても次の客が待っていることを私は知っている。ソレは肩を落として帰るが、次も絶対予約を入れてくる。ロングタイムでね。そして名刺を渡すんだ。私は『また逢いに来てね』なんて社交辞令な内容は絶対に書かない。いくらかわいこぶったって奴らは所詮ヌきにきてるだけ。だから気持ちよがっていたプレイを思い出すようなフレーズを交えて愛のメッセージを記す。捨てられてしまう名刺なんて渡すだけ無駄。
そうやって少しの可能性にさえ縋り付く。私はこうして金を稼いできた。金のためだけど愛のため。私の愛は真実の愛。




