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地味スキル“空気読み補助”で人生が快適になりました  作者: 野山みつ


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31/48

「あ」

数日後の朝。

改札を抜けてホームへ向かうと、いつもの場所に豊島さんがいた。

「おはようございます」

「おはようございます」

挨拶を交わし、並んで電車を待つ。


「実は最近、少し寝不足で」

豊島さんが苦笑する。

「え?」

思わず見上げる。


「恐竜の本が面白過ぎて」

少し照れたように後頭部を掻く。

「続きが気になって、気付いたら結構遅い時間になってしまいます」


紗奈は思わず笑った。

「そこまでですか」

「そこまででした」

真面目な顔で返される。


「特に中盤の羽毛恐竜の話が面白くて」

話し始めると、やっぱり少し熱が入る。

その様子がなんだか嬉しい。

何度も相槌をうつのも楽しかった。


電車がホームへ入ってくる。

二人で乗り込み、並んで座った。

豊島さんはさっそく本を開く。

紗奈も鞄から単行本を取り出した。ページをめくる。

静かな時間が流れる。


その時。


豊島さんの手が不意に止まった。

「……あ」

小さな声。

紗奈は顔を上げる。


「どうしました?」

豊島さんは答えず、紗奈の本を見ている。

正確には、本から少しだけ覗いている狸の栞を。


「あ」

思わず反射的に本を閉じそうになる


豊島さんは自分の本を少し持ち上げた。

そこにも。

同じ狸の栞が挟まれている。


紗奈の心臓が跳ねる。

豊島さんは数秒その栞を見比べていた。

それから、ふっと口元を緩める。


「以前、俺が落としかけた栞を拾ってくれましたよね」

「!?」


思わず顔を上げた。

覚えていたんだ。あの一瞬のやり取りを。


豊島さんはどこか確信したような顔になる。

「もしかして」

少し笑う。

「俺の見て買いました?」

直球だった。


恥ずかしさに思わずうつむく。

顔が熱い。

否定しようかと思った。でも無理だった。


「……はい」

小さく認める。

恥ずかしさで消えてしまいたい。


しばらく沈黙。その直後。


「ふはっ」

笑い声が聞こえた。

顔を上げる。

豊島さんが笑っている。からかうような笑いではない。


むしろ、すごく幸せそうだった。

「すみません」

笑いを堪えるように言う。

「なんだか嬉しくて」


「……嬉しい、ですか」

「はい」

即答だった。

豊島さんは栞を指先で揺らした。

「可愛いですよね、これ」

その声は弾んでいた。


「……可愛いです」

すると豊島さんは満足そうに頷いた。

「ですよね」


豊島さんの破顔した破壊力に。

今度は別の意味で心臓が落ち着かなくなるのだった。








紗奈は真っ赤になりながら本へ視線を落とした。


【状況分析】

【対象:豊島遥斗】

(いらないよ)


【感情推定】【喜び:高】

【好意由来反応:検出】

(いいから)


【補足】

【「同じ栞を使っていて嬉しい」ではありません】

【「石村紗奈が自分の私物を見て同じ物を選択した」ことへの満足感です】

(やーめーてー)



【対象の表情解析】

【笑顔:自然】【作為:なし】

【照れ:微量】【機嫌:非常に良好】

(もう、いーから)


【参考情報】

【対象は現在、自分が嬉しい理由を十分理解していない可能性があります】

(それ以上言わなくていい)


【推定翻訳】

【「俺の使っているものを欲しいと思ってくれた」】

【「俺に興味を持ってくれている気がして嬉しい」】

(ああああああ!!)

紗奈は心の中で叫んだ。


本を読む。読めない。

文字が頭に入らない。

隣では豊島さんが何事もなかったかのように本を読んでいる。


しかし。

その口元にはまだ少し笑みが残っていた。


【追加分析】

【豊島遥斗:かなり嬉しかった模様です】

(……)


紗奈は本で顔を隠した。

その耳は、見事なまでに赤くなっていた。



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